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第31話 試食
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「お待たせしてしまって申し訳ありません、ヘンリエッタ様」
ヘンリエッタの作ったお菓子の味見をするという、オリエンテーションの時に交わした約束を果たすために来ていた。
「ルーカスさん、急な呼び出しにも関わらず、お越し頂きありがとうございます」
ヘンリエッタは相変わらず丁寧だな。
そんな神対応なヘンリエッタと違い、「全く、十分前に待機しておくのが常識であろう」と言わんばかりのオーラをビシビシ飛ばしてくる赤髪を高い位置で一つに結んでいる女が怖ぇ。
名前は確かフレイヤ。目があった瞬間、不機嫌オーラを消したフレイヤに微笑まれ、「こちらの席へどうぞ」と俺は席へと案内された。
声には出さないが、オーラには出すか。まぁ、それくらい警戒してもらった方がヘンリエッタのためではあるな。
俺が席についた所で、青髪をきれいに結い上げた女、確かミカエラと言ったか? が、見た目は美味そうなザッハトルテを綺麗にカッティングして皿につぎわけてくれた。
紫髪をハーフアップにした女。名前は確かエリザベスがコーヒーを淹れてくれた。
テーブルに並ぶのは、甘くない菓子に、ブラックコーヒー。レオンハルトの好みなのだろうが、正直俺が苦手な組み合わせだ。しかし泣き言は言ってられねぇ。
「どうぞ、召し上がって下さい」
「はい。いただきます」
四つの視線が注がれる中、少し緊張しつつ、俺はヘンリエッタの作ったザッハトルテを食べた。
「いかがでしょうか。正直に感想を仰って下さい」
「この前食べたものより、生地の食感はふわっとしていてかなりよくなっています。ただやはり、甘味の後に来る強烈な苦味で少し舌が痺れそうです」
「やはり、そうですか……」
甘いのが苦手な奴にチョコレートだらけのザッハトルテを食べさせようとするのが、そもそも間違いなんじゃないかと思えてならない。
このチョコ生地の甘いスポンジに、甘酸っぱいアプリコットジャムを挟み、甘ったるいチョコレートでさらにコーティングするという三重苦。甘いのが苦手な奴にとっては正直拷問ケーキだと思う。
「どうして、ザッハトルテにしようと思われたのですか?」
「ザッハトルテはガルシア公国の伝統菓子です。婚姻の儀式の際に新郎は、新婦の作ったザッハトルテをホール一つ分、全て食べきらなければ結婚を認めてもらえないのです」
独自の文化、ここに来て強烈にレオンハルトを排除にかかってるな。
「ハル様は甘いものを克復しようと、何度もチャレンジされています。しかしどうしても胸焼けが止まらないそうで、戻してしまわれるのです」
もうそれって体質的に無理なんじゃ……二人を大きく隔てているのはガルシア公国独自の文化というわけか。
「私は、ハル様にこれ以上無理をさせたくないのです。ザッハトルテさえ食べれるようになれば、ハル様がこれ以上無理して体調を崩すこともなくなります。なので私はどうしても、ハル様に美味しく召し上がって頂けるザッハトルテを作りたいのです」
そんな想いを聞かされちまったら、協力しないわけにもいかないな。レオンハルトもヘンリエッタを喜ばせるために頑張ってる所だし、互いを想い合って努力するとか、青春だな!
これが嫌味な貴族なら絶対協力しねぇが、人がいい二人はなんか応援したくなるんだよな。
「ヘンリエッタ様のお気持ちはよく分かりました。一緒に頑張りましょう!」
「はい、ありがとうございます!」
見た目は完璧なんだよな。ケーキ自体も苦味さえ強くなければ普通に美味いものだと思う。
レオンハルトの甘いものが苦手レベルがどれくらいかは分からないが、ヘンリエッタのザッハトルテは甘さを無理にカカオ本来の苦味で抑えようとしすぎて、後味にかなり残ってしまっている。
俺はそれがかなりマイナス点だと思ったが、甘いのが苦手な奴等にとっては、それがいいのかもしれないと思わない事はない。これは、試してみるか。
「ヘンリエッタ様。俺は正直、どちらかと言えば甘党なので、この苦味が少し強く感じてしまうだけなのかもしれません。俺の知り合いに、レオンハルト様みたいに甘いのが苦手な方が居ます。もしこのケーキをわけて頂けるなら、その方に食べて頂いて、率直な感想をもらってきてもよろしいでしょうか? 勿論、ヘンリエッタ様がお作りになったものだという事は一切話しません」
「よろしいのですか?」
「はい、任せて下さい!」
品質保持効果のある保存容器に、残ったザッハトルテを入れてもらって持ち帰る。便利だな、この魔道具。金に余裕が出来たら俺も一つくらいは欲しいぜ。そうすれば、ティアナにもらったお菓子を永久保存出来る!
なんて考えながら俺は、コーヒーはブラック派の格好いい男の元へ向かった。
ヘンリエッタの作ったお菓子の味見をするという、オリエンテーションの時に交わした約束を果たすために来ていた。
「ルーカスさん、急な呼び出しにも関わらず、お越し頂きありがとうございます」
ヘンリエッタは相変わらず丁寧だな。
そんな神対応なヘンリエッタと違い、「全く、十分前に待機しておくのが常識であろう」と言わんばかりのオーラをビシビシ飛ばしてくる赤髪を高い位置で一つに結んでいる女が怖ぇ。
名前は確かフレイヤ。目があった瞬間、不機嫌オーラを消したフレイヤに微笑まれ、「こちらの席へどうぞ」と俺は席へと案内された。
声には出さないが、オーラには出すか。まぁ、それくらい警戒してもらった方がヘンリエッタのためではあるな。
俺が席についた所で、青髪をきれいに結い上げた女、確かミカエラと言ったか? が、見た目は美味そうなザッハトルテを綺麗にカッティングして皿につぎわけてくれた。
紫髪をハーフアップにした女。名前は確かエリザベスがコーヒーを淹れてくれた。
テーブルに並ぶのは、甘くない菓子に、ブラックコーヒー。レオンハルトの好みなのだろうが、正直俺が苦手な組み合わせだ。しかし泣き言は言ってられねぇ。
「どうぞ、召し上がって下さい」
「はい。いただきます」
四つの視線が注がれる中、少し緊張しつつ、俺はヘンリエッタの作ったザッハトルテを食べた。
「いかがでしょうか。正直に感想を仰って下さい」
「この前食べたものより、生地の食感はふわっとしていてかなりよくなっています。ただやはり、甘味の後に来る強烈な苦味で少し舌が痺れそうです」
「やはり、そうですか……」
甘いのが苦手な奴にチョコレートだらけのザッハトルテを食べさせようとするのが、そもそも間違いなんじゃないかと思えてならない。
このチョコ生地の甘いスポンジに、甘酸っぱいアプリコットジャムを挟み、甘ったるいチョコレートでさらにコーティングするという三重苦。甘いのが苦手な奴にとっては正直拷問ケーキだと思う。
「どうして、ザッハトルテにしようと思われたのですか?」
「ザッハトルテはガルシア公国の伝統菓子です。婚姻の儀式の際に新郎は、新婦の作ったザッハトルテをホール一つ分、全て食べきらなければ結婚を認めてもらえないのです」
独自の文化、ここに来て強烈にレオンハルトを排除にかかってるな。
「ハル様は甘いものを克復しようと、何度もチャレンジされています。しかしどうしても胸焼けが止まらないそうで、戻してしまわれるのです」
もうそれって体質的に無理なんじゃ……二人を大きく隔てているのはガルシア公国独自の文化というわけか。
「私は、ハル様にこれ以上無理をさせたくないのです。ザッハトルテさえ食べれるようになれば、ハル様がこれ以上無理して体調を崩すこともなくなります。なので私はどうしても、ハル様に美味しく召し上がって頂けるザッハトルテを作りたいのです」
そんな想いを聞かされちまったら、協力しないわけにもいかないな。レオンハルトもヘンリエッタを喜ばせるために頑張ってる所だし、互いを想い合って努力するとか、青春だな!
これが嫌味な貴族なら絶対協力しねぇが、人がいい二人はなんか応援したくなるんだよな。
「ヘンリエッタ様のお気持ちはよく分かりました。一緒に頑張りましょう!」
「はい、ありがとうございます!」
見た目は完璧なんだよな。ケーキ自体も苦味さえ強くなければ普通に美味いものだと思う。
レオンハルトの甘いものが苦手レベルがどれくらいかは分からないが、ヘンリエッタのザッハトルテは甘さを無理にカカオ本来の苦味で抑えようとしすぎて、後味にかなり残ってしまっている。
俺はそれがかなりマイナス点だと思ったが、甘いのが苦手な奴等にとっては、それがいいのかもしれないと思わない事はない。これは、試してみるか。
「ヘンリエッタ様。俺は正直、どちらかと言えば甘党なので、この苦味が少し強く感じてしまうだけなのかもしれません。俺の知り合いに、レオンハルト様みたいに甘いのが苦手な方が居ます。もしこのケーキをわけて頂けるなら、その方に食べて頂いて、率直な感想をもらってきてもよろしいでしょうか? 勿論、ヘンリエッタ様がお作りになったものだという事は一切話しません」
「よろしいのですか?」
「はい、任せて下さい!」
品質保持効果のある保存容器に、残ったザッハトルテを入れてもらって持ち帰る。便利だな、この魔道具。金に余裕が出来たら俺も一つくらいは欲しいぜ。そうすれば、ティアナにもらったお菓子を永久保存出来る!
なんて考えながら俺は、コーヒーはブラック派の格好いい男の元へ向かった。
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