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番外編(アズリエル視点)
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その日は朝からそわそわしていた。
昼からレイと約束をしているわけだが、フィオラ嬢も一緒に来るという連絡を受けていたからだ。
公式の行事以外で彼女に会える事がこんなにも嬉しく感じるとは……私の心は思っていた以上にフィオラ嬢の虜になっていたようだ。
うるさくなり続けるこの心臓の音が彼女に聞こえてしまったらどうしようと、不安になった。
彼女は弟の婚約者だ。
私がそのような邪な気持ちを抱いていい相手ではない。
分かっているはずなのに、そうしないようにすればするほど、彼女の事が気になって仕方なかった。
身だしなみはきちんとしているだろうかと無駄に何回もチェックして、持ち合わせの場所である王城のプライベートサロンへ向かった。
「よっ、エル。早かったな」
軽く手をあげて挨拶してくるレイの前には美しい銀髪の女性の後ろ姿が見える。
「アズリエル様、ご無沙汰しております。本日はお時間をとって頂きありがとうございます」
こちらに気付くなり、立ち上がって丁寧なカーテシーをしてくれるフィオラ嬢。その流れるような所作の一つ一つが優雅で気品がある。
いつ見ても、やはり美しいな……
「どうしたんだ、エル……ボーッとして」
「いや、何でもない」
指摘され、慌てて視線をそらした。
「さてはお前、フィオに見惚れてたんだな!」
「そんな事あるはずないでしょう! お兄様、アズリエル様に失礼ですよ!」
「いやいや、フィオは世界一可愛いぞ! 俺の妹だからな!」
「もう、またそうやって誤魔化して!」
「本当さ、兄ちゃんはお前に嘘ついた事はないだろう?」
「それはそうだけど……っ!」
恥ずかしそうに赤面しているフィオラ嬢をなだめるように、頭を撫でているレイ。正直、かなり羨ましい……
レイの前ではあのように年相応の幼い顔も見せるのだな。そんな姿も可愛らしく思える。
「いいんだよ、今は友人として来たんだ。堅苦しくしても息詰まるだけだ。そうだろ? エル」
「レイの言うとおり。フィオラ嬢も楽にしてくれて構いませんよ」
願うなら、少しだけでもいいから私もその輪の中に入れほしい。
「それに、貴方が美しいのは本当の事ですから。思わず見惚れてしまって申し訳ありません」
「いえ、そんな! アズリエル様にまで気をつかわせてしまい本当に申し訳ありません!」
恐縮しきったフィオラ嬢の姿から、私の本心は社交辞令ととられたようで、全く伝わらなかったのだけはよくわかった。
「それで、私に相談したい事とは何だろうか?」
席について、本題に入る。
「これを見てもらえるか?」
レイから差し出されたのは書類の束。目を通すとそこには被害報告書と書かれており、ジルベールに受けた被害の詳細が書かれていた。しかも、一つや二つではない。十数件にものぼる貴族から、寄せられていたのだ。
暴言、暴力、器物損壊、婦女暴行未遂と、目を覆いたくなるような内容がつらつらと書かれている。
「王家に直接言えないから、婚約者であるフィオに何とかしてもらえないかって、くるんだよ。被害を受けてるのはこっちも一緒だっていうのに。最初のうちはフォローしてやってたけど、さすがにもう限界だ」
「申し訳ありません、アズリエル様。特に最近では貴族派にも被害が出ておりまして、私の力ではもう抑えることが難しく……」
「フィオラ嬢。弟が多大なるご迷惑をかけて、誠に申し訳ありません。これも全て兄として、私の指導不足が招いた結果です」
事態は私が思っていたよりも深刻で、何よりもフィオラ嬢に多大な負担がかかっていた事実を目の当たりにし、自分の不甲斐なさでいっぱいだった。
「アズリエル様のせいではございません! どうか頭をおあげください」
「弟の目に余る行為を、何度も注意してきました。けれど信頼を築けてないが故に、弟は私の言葉に耳を傾けてもくれません。全ては私の不徳の致す所なのです。誠に申し訳ありませんでした」
「お前が弟を改心させようと頑張ってたのは俺がよく知ってるよ、エル。だけど、あの糞王子はもう子供じゃないんだ。自分のやった事の責任を、きっちりと自分で取らせるべきだと思うぜ」
「レイ……確かにそうだな」
このままジルベールを野放しにしておけば、さらなる被害が出るだろう。それに何より、これ以上レイやフィオラ嬢に負担をかけたくなかった。
「これはもう、王家としても見過ごせない問題です。余罪がないかをきちんと確認して、父上に報告したいと思います」
「はい、よろしくお願い致します。あの、アズリエル様……どうかあまり、気をおとされませんように……」
自分が一番の被害者で大変だったであろうにも関わらず、フィオラ嬢は心配そうに私を気遣ってくれた。その優しさが、とても心に染みる。
その後、二人からさらに詳しく話を聞き、ロバーツ公爵家やフィオラ嬢自身が受けた被害も新たに報告書としてまとめあげた。
そして受け取った報告書を元に、被害を受けた貴族に事実確認をして謝罪をしながら、余罪がないかを徹底的に調べあげた。そうして出てきた新たな問題を報告書に追加して、私は父上にジルベールの件を報告した。
昼からレイと約束をしているわけだが、フィオラ嬢も一緒に来るという連絡を受けていたからだ。
公式の行事以外で彼女に会える事がこんなにも嬉しく感じるとは……私の心は思っていた以上にフィオラ嬢の虜になっていたようだ。
うるさくなり続けるこの心臓の音が彼女に聞こえてしまったらどうしようと、不安になった。
彼女は弟の婚約者だ。
私がそのような邪な気持ちを抱いていい相手ではない。
分かっているはずなのに、そうしないようにすればするほど、彼女の事が気になって仕方なかった。
身だしなみはきちんとしているだろうかと無駄に何回もチェックして、持ち合わせの場所である王城のプライベートサロンへ向かった。
「よっ、エル。早かったな」
軽く手をあげて挨拶してくるレイの前には美しい銀髪の女性の後ろ姿が見える。
「アズリエル様、ご無沙汰しております。本日はお時間をとって頂きありがとうございます」
こちらに気付くなり、立ち上がって丁寧なカーテシーをしてくれるフィオラ嬢。その流れるような所作の一つ一つが優雅で気品がある。
いつ見ても、やはり美しいな……
「どうしたんだ、エル……ボーッとして」
「いや、何でもない」
指摘され、慌てて視線をそらした。
「さてはお前、フィオに見惚れてたんだな!」
「そんな事あるはずないでしょう! お兄様、アズリエル様に失礼ですよ!」
「いやいや、フィオは世界一可愛いぞ! 俺の妹だからな!」
「もう、またそうやって誤魔化して!」
「本当さ、兄ちゃんはお前に嘘ついた事はないだろう?」
「それはそうだけど……っ!」
恥ずかしそうに赤面しているフィオラ嬢をなだめるように、頭を撫でているレイ。正直、かなり羨ましい……
レイの前ではあのように年相応の幼い顔も見せるのだな。そんな姿も可愛らしく思える。
「いいんだよ、今は友人として来たんだ。堅苦しくしても息詰まるだけだ。そうだろ? エル」
「レイの言うとおり。フィオラ嬢も楽にしてくれて構いませんよ」
願うなら、少しだけでもいいから私もその輪の中に入れほしい。
「それに、貴方が美しいのは本当の事ですから。思わず見惚れてしまって申し訳ありません」
「いえ、そんな! アズリエル様にまで気をつかわせてしまい本当に申し訳ありません!」
恐縮しきったフィオラ嬢の姿から、私の本心は社交辞令ととられたようで、全く伝わらなかったのだけはよくわかった。
「それで、私に相談したい事とは何だろうか?」
席について、本題に入る。
「これを見てもらえるか?」
レイから差し出されたのは書類の束。目を通すとそこには被害報告書と書かれており、ジルベールに受けた被害の詳細が書かれていた。しかも、一つや二つではない。十数件にものぼる貴族から、寄せられていたのだ。
暴言、暴力、器物損壊、婦女暴行未遂と、目を覆いたくなるような内容がつらつらと書かれている。
「王家に直接言えないから、婚約者であるフィオに何とかしてもらえないかって、くるんだよ。被害を受けてるのはこっちも一緒だっていうのに。最初のうちはフォローしてやってたけど、さすがにもう限界だ」
「申し訳ありません、アズリエル様。特に最近では貴族派にも被害が出ておりまして、私の力ではもう抑えることが難しく……」
「フィオラ嬢。弟が多大なるご迷惑をかけて、誠に申し訳ありません。これも全て兄として、私の指導不足が招いた結果です」
事態は私が思っていたよりも深刻で、何よりもフィオラ嬢に多大な負担がかかっていた事実を目の当たりにし、自分の不甲斐なさでいっぱいだった。
「アズリエル様のせいではございません! どうか頭をおあげください」
「弟の目に余る行為を、何度も注意してきました。けれど信頼を築けてないが故に、弟は私の言葉に耳を傾けてもくれません。全ては私の不徳の致す所なのです。誠に申し訳ありませんでした」
「お前が弟を改心させようと頑張ってたのは俺がよく知ってるよ、エル。だけど、あの糞王子はもう子供じゃないんだ。自分のやった事の責任を、きっちりと自分で取らせるべきだと思うぜ」
「レイ……確かにそうだな」
このままジルベールを野放しにしておけば、さらなる被害が出るだろう。それに何より、これ以上レイやフィオラ嬢に負担をかけたくなかった。
「これはもう、王家としても見過ごせない問題です。余罪がないかをきちんと確認して、父上に報告したいと思います」
「はい、よろしくお願い致します。あの、アズリエル様……どうかあまり、気をおとされませんように……」
自分が一番の被害者で大変だったであろうにも関わらず、フィオラ嬢は心配そうに私を気遣ってくれた。その優しさが、とても心に染みる。
その後、二人からさらに詳しく話を聞き、ロバーツ公爵家やフィオラ嬢自身が受けた被害も新たに報告書としてまとめあげた。
そして受け取った報告書を元に、被害を受けた貴族に事実確認をして謝罪をしながら、余罪がないかを徹底的に調べあげた。そうして出てきた新たな問題を報告書に追加して、私は父上にジルベールの件を報告した。
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