色のない虹は透明な空を彩る〜空から降ってきた少年は、まだ『好き』を知らない〜

矢口愛留

文字の大きさ
113 / 154
第六章 赤

第111話 「私は私だよ」

しおりを挟む
 私の中に存在する、他者の心。魂。
 確かに、ずっと、共にあった。今なら分かる。

 私であって、私でない存在。

 遠くて見えなかった。感じなかった。
 けれどずっと、私を導いてくれていたのかもしれない。


 私たちは無言で、火の神殿から戻る。
 セオは私の前を歩いていて、その表情を伺い知ることは出来ない。
 ヒューゴは、私たちに気を遣ってか、何一つ質問することなく、城の廊下を歩いてゆく。

 今までで一番長く感じた道のりを歩ききる。
 客室の扉を開くと、ヒューゴは無言で自分の部屋の方向へと消えていったのだった。


 客室に入って扉を閉めると、セオと二人きりだ。
 セオは、ようやく私と目を合わせた。

 複雑な表情だ――当然だろう、見えた記憶もさることながら、私、パステルの中に自分の母親の魂が存在していると知ったのだから。

「……パステル、気付いてた?」

「……言われてみればそうだったのかも、っていうぐらいだよ」

「そっか。――あの、さ」

 セオの耳が、心なしか赤みを帯びている。
 伏目がちに、おそるおそる、セオは問いかけた。

「パステルと僕のこと、母上はずっと見てたんだよね?」

「……そう、だね」

「どう、思ってるかな。その……僕たちのこと」

「うーん……そこまでは、分からないよ。声が聞こえるとか、お話し出来るとか、そういう訳じゃないから」

「そっか……」

「でも、嫌な感じはしないかな。きっと、私たちが仲良くすることは、ダメなことじゃないんだよ」

「なら、良かった……かな?」

「ふふ、なんで疑問形なの」

「だって……なんだか、恥ずかしくて」

「まあ、分かる気がするけど」

 私は、セオの頬に触れる。
 セオはびくっとするが、いつものような甘やかな熱は鳴りをひそめて、どこか戸惑っているようだ。

「……私は私だよ?」

「そう、だよね。分かってる」

 セオは頬に触れている私の手を優しく掴み、そっと下ろした。
 私は、離れていく温度に、少し寂しさを感じたのだった。


 セオが出て行った部屋で、私は思いを巡らせる。

 私の虹の力は、ソフィアに貰ったもの。
 私のこの命も、セオとの旅も、今の私があるのは全てソフィアのお陰だったのだ。

 けれど――ロイド子爵家で私が幸せを噛み締めていた時、寂しそうな・・・・・視線を感じたのは何故だったのか。

 過去の記憶、ソフィアの『神子』としての力とは何だったのか?
 大精霊がどうとか……魔女と何か関わりがあるのかもしれない。

 最後の色――『紫』を持つ精霊を探すためにも、もう一度魔女と話をしてみたい。
 魔女はまだ城内に滞在しているだろうか。

 ひとまず、魔女の居場所を知っていそうなフレッドの部屋を訪ねてみよう、と心に決めたところで、部屋の扉がノックされたのだった。


「はい、どうぞ」

 私が声をかけると、部屋の扉が開いていく。
 そこに居たのは、フレッドの側にいた青髪の侍女――否。

 侍女の扮装に身を包んだ、帝国の皇女、メーアだった。

「メーア様!」

「パステル、久しぶりね」

 メーアは部屋の扉を後ろ手に閉める。

「やっぱりメーア様だったんですね。どうして隠れていらっしゃったのですか?」

「私の顔は王国では知られてないからね。こっそり動けてちょうど良かったわ」

 メーアの話によると、私たちが城に到着して火の神殿に一度目の訪問をしている間、ノラとの情報共有を済ませ、魔女と接触しに行ったらしい。
 フレッドもメーアも魔女に話があったらしく、滞在中にどうしても会いたかったのだそうだ。

「魔女を迎えに行って戻ってきたら城が燃えてたから、外に出てたのを後悔したわよ。……でも、あなたがいて良かったわ。水の力もしっかり使いこなせたみたいね」

「いえ……私にもうちょっと力があれば、ヒューゴ殿下もカイさんも倒れずに済んだかもしれないと、悔やんでいました」

「それは仕方ないわ。魔女のお陰で結果オーライだし、あなたは充分良くやったわよ」

「……ありがとうございます」

「ところでパステル、セオは一緒じゃなかったの? ヒューゴ殿下が、落ち着いたらでいいから二人で部屋に来てほしいって言ってたわよ」

「セオなら、さっき部屋に戻りましたよ」

「あら? おかしいわね、この部屋に来る前に寄ったけど、いなかったわよ。フレデリック様の所かしら?」

「行ってみましょうか」

「そうね」

 私は、侍女姿のメーアと一緒に部屋を出て、フレッドの部屋へと向かった。


 フレッドの部屋の扉は細く開いていて、その文机の近くでセオは立ち尽くしていた。
 手には何かを持っていて、小さく震えているようだ。

「……セオ?」

 私が声をかけると、セオはハッと目を見開き、手に持っていた物を急いで文机の引き出しに戻して、部屋を飛び出していってしまったのだった。

「ちょっと? セオ、どうしたの!?」

 セオは、私やメーアに目もくれず、そのまま廊下の奥へと走り去っていく。
 私は追いかけるべきか逡巡して、結局動けずに見送ってしまったのだった。

「珍しいわね、あんなに取り乱して」

 メーアはフレッドの部屋に入っていき、セオの立っていた辺りを調べ始めた。
 そして引き出しを開けると、ぐちゃぐちゃに仕舞われていた手紙を取り出す。

「……原因は、これね」

「それは……?」

 メーアは手紙を綺麗にたたみ直して、封筒に仕舞う。
 私が覗き込む暇も与えず、そのまま自分のポケットに入れた。

「全く、フレデリック様も不用心ね。鍵ぐらいかけておきなさいよね」

 私の疑問に答えることなく、メーアは困ったように微笑む。

「セオは、しばらくそっとしておいた方がいいわね。フレデリック様もヒューゴ殿下の所だろうから、先に向かっちゃいましょうか」

「……でも……」

 やっぱり、放っておくなんて出来ない。
 ヒューゴ殿下には申し訳ないが、あんな辛そうなセオ、見たことがなかった。

「ごめんなさい、メーア様。私、やっぱりセオのことが心配なので、探してきますっ」

「……パステル……」

 私は、居ても立ってもいられなくなり、セオの去っていった方向へと走りだしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

いつまでもドアマットと思うなよ

あんど もあ
ファンタジー
二年前に母を亡くしたミレーネは、後妻と妹が家にやって来てからすっかり使用人以下の扱いをされている。王宮で舞踏会が開催されるが、用意されたのは妹のドレスだけ。そんなミレーネに手を差し伸べる人が……。

処理中です...