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第五章 橙
第82話 「『見当違い』の復讐」◆
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森の中、唯一残されていた細い道。
『私』とセオは、しっかりと手を繋いで、歩いていく。
道の先には藍色の靄がかかっていて、出口が見えず、不安になる。
ふと振り返ると、通ってきた道も靄に覆われて、見えなくなっていた。
「ねえ、セオ、こっちで大丈夫なんだよね……?」
「だ、大丈夫だと思うんだけど……」
「そう、だよね……?」
『私』もセオも不安になり始めたその時。
「ほっほっほ、大丈夫、合ってるぜ」
「えっ!? 誰!?」
突然聞こえてきた男性の声に、『私』は飛び上がってセオに抱きつく。
声のした方を向くと、派手な洋服に、同色のナイトキャップをかぶった老人が立っていた。
老人は立派な髭を蓄えた優しい風貌だが、何故かキラキラ輝いている。
「ほっほっほう、俺はクロース。セオ、お前の母親に頼まれて迎えに来たぞ」
「お母様に? お母様は今どこにいるの?」
「うーん、今はちょっと取り込み中でな。俺の仕事は、お前ら二人を森の外まで連れてって、奴に気付かれないよう、無事に国に帰すことだ」
「『奴』って……?」
「ああ、火の魔法を使う奴でな。見当違いのことを吹き込まれ、復讐に身を焦がしてる哀れな奴よ。今は地の精霊が手を貸してるが、相性が悪そうだ。防戦一方だな」
「まさか、お母様たちが戦ってるの?」
「ああ。水と風はここを死守するために使っちまったし、闇は森自体に認識阻害をかけるために使ってる。光の俺はここにいるし、火は呼び出せない。ソフィアに残るカードは少ないな」
「そんな……!」
「助けなきゃ! お母様たちはどこにいるの!?」
「駄目だ。教えねぇ」
「どうして!? 教えてよ!」
「そうだよ! せめて、助けを呼ばないと――」
「駄目だ!」
クロースは、大きな声で遮った。
ピリピリと、辺りの空気が震える。
『私』は、クロースも悔しそうに顔を歪めていることに気が付いた。
「いいか。ソフィアたちの望みは、お前らを生かすことだ。お前らが今すべきことは、とにかく安全な所に逃げて隠れることなんだよ。わかったらさっさと進め」
クロースの気迫に、『私』とセオはすっかり縮み上がってしまった。
身体は震えているし、涙は今にも落ちてきてしまいそうだ。
それでも『私』たちはクロースの先導に、ただ黙ってついて行くしかなかったのだった。
長い長い一本道を抜けると、視界がパッと開けた。
振り返ると、藍色の靄が森全体を包み込み、森ごと消え去ってしまったのだった。
「森が、消えた……」
「闇の精霊の力で、見えなくなってるだけだ。魔法が解けたら、また森が見えるようになる。その前に馬車まで逃げろ」
クロースが手を一振りすると、『私』たちの目の前にキラキラと輝く光の道が現れた。
薄く輝く光の道は、花咲く野原を横切って、遥か遠くまで真っ直ぐに伸びていく。
「いいか、この道を真っ直ぐ行け。ただし、光の標が続くのはソフィアの力が保つ間だけだ。迷子になる前に、急いで行けよ」
「……はい」
「あの……ありがとう、クロースさん」
「いいってことよ。良い子にしてろよ。そしたらいつかお前らにも祝福を届けに行ってやる」
「うん。じゃあね、クロースさん」
「またね」
「おう」
『私』たちは、クロースに背を向けて走り出した。
『私』とセオが走り出して、しばらく経った頃。
「はぁっ、はぁ……えっ!?」
突然立ち止まったセオにつられるように、『私』は立ち止まる。
「み、道が消える……?」
光の道標が、足元からすうっと静かに消えていく。
セオは後ろを振り返った。
「ね、ねえ、森が……!」
『私』はセオの視線を追う。
今まで何もなかった場所に、突然小さな森が姿を現したのだった。
「魔法が、解けたんだ……」
「急がなきゃ……!」
『私』と目を合わせて頷いたセオの顔には、恐怖の表情が色濃く現れていた。
しかし、立ち止まる訳にはいかない。
『私』は再びセオの手を取り、先程まで光の道が続いていた方向に、走り出したのだった。
***
私たちは、過去の世界から戻ってきた。
この後は、水の神殿で見た記憶に繋がっていくのだろう。
走って、空を飛ぼうと試みて、必死に逃げて、エレナの元に辿り着いたその時――空から虹の橋が降りてきたのである。
そしてソフィアは私とセオに最後の時間を与えて、私に『虹の巫女』を継承させ、『色』と記憶を封じた。
さらに心の繋がり、魔力の繋がりを介して、私の『色』と共にセオの感情を封じたのだ。
「火の魔法……復讐……?」
セオの震える声に、私は意識を引き戻した。
「火の精霊……? 『見当違い』の復讐……もしかして、それが原因で魔物化……?」
「うん、流石に気付いたよね~。光の精霊、話しすぎなんだよ~」
「――僕たちの両親を手にかけたのは、ファブロ王国の王族なんですね?」
「…………そうだよ~」
「僕、犯人はマクシミリアン陛下か、ジェイコブ前陛下だと思ってた」
「……まあ、関わってないとは言えないよ~」
「――どういうことですか?」
「実行犯は確かに火の精霊の神子だけど……原因を作ったのは、聖王国の王族だよ~」
「それってつまり――」
ガシャァァアン!
『――動くな!!』
その時。
突如大きな金属音と、複数の人間の足音、そして怒号が辺りに響き渡ったのだった。
『私』とセオは、しっかりと手を繋いで、歩いていく。
道の先には藍色の靄がかかっていて、出口が見えず、不安になる。
ふと振り返ると、通ってきた道も靄に覆われて、見えなくなっていた。
「ねえ、セオ、こっちで大丈夫なんだよね……?」
「だ、大丈夫だと思うんだけど……」
「そう、だよね……?」
『私』もセオも不安になり始めたその時。
「ほっほっほ、大丈夫、合ってるぜ」
「えっ!? 誰!?」
突然聞こえてきた男性の声に、『私』は飛び上がってセオに抱きつく。
声のした方を向くと、派手な洋服に、同色のナイトキャップをかぶった老人が立っていた。
老人は立派な髭を蓄えた優しい風貌だが、何故かキラキラ輝いている。
「ほっほっほう、俺はクロース。セオ、お前の母親に頼まれて迎えに来たぞ」
「お母様に? お母様は今どこにいるの?」
「うーん、今はちょっと取り込み中でな。俺の仕事は、お前ら二人を森の外まで連れてって、奴に気付かれないよう、無事に国に帰すことだ」
「『奴』って……?」
「ああ、火の魔法を使う奴でな。見当違いのことを吹き込まれ、復讐に身を焦がしてる哀れな奴よ。今は地の精霊が手を貸してるが、相性が悪そうだ。防戦一方だな」
「まさか、お母様たちが戦ってるの?」
「ああ。水と風はここを死守するために使っちまったし、闇は森自体に認識阻害をかけるために使ってる。光の俺はここにいるし、火は呼び出せない。ソフィアに残るカードは少ないな」
「そんな……!」
「助けなきゃ! お母様たちはどこにいるの!?」
「駄目だ。教えねぇ」
「どうして!? 教えてよ!」
「そうだよ! せめて、助けを呼ばないと――」
「駄目だ!」
クロースは、大きな声で遮った。
ピリピリと、辺りの空気が震える。
『私』は、クロースも悔しそうに顔を歪めていることに気が付いた。
「いいか。ソフィアたちの望みは、お前らを生かすことだ。お前らが今すべきことは、とにかく安全な所に逃げて隠れることなんだよ。わかったらさっさと進め」
クロースの気迫に、『私』とセオはすっかり縮み上がってしまった。
身体は震えているし、涙は今にも落ちてきてしまいそうだ。
それでも『私』たちはクロースの先導に、ただ黙ってついて行くしかなかったのだった。
長い長い一本道を抜けると、視界がパッと開けた。
振り返ると、藍色の靄が森全体を包み込み、森ごと消え去ってしまったのだった。
「森が、消えた……」
「闇の精霊の力で、見えなくなってるだけだ。魔法が解けたら、また森が見えるようになる。その前に馬車まで逃げろ」
クロースが手を一振りすると、『私』たちの目の前にキラキラと輝く光の道が現れた。
薄く輝く光の道は、花咲く野原を横切って、遥か遠くまで真っ直ぐに伸びていく。
「いいか、この道を真っ直ぐ行け。ただし、光の標が続くのはソフィアの力が保つ間だけだ。迷子になる前に、急いで行けよ」
「……はい」
「あの……ありがとう、クロースさん」
「いいってことよ。良い子にしてろよ。そしたらいつかお前らにも祝福を届けに行ってやる」
「うん。じゃあね、クロースさん」
「またね」
「おう」
『私』たちは、クロースに背を向けて走り出した。
『私』とセオが走り出して、しばらく経った頃。
「はぁっ、はぁ……えっ!?」
突然立ち止まったセオにつられるように、『私』は立ち止まる。
「み、道が消える……?」
光の道標が、足元からすうっと静かに消えていく。
セオは後ろを振り返った。
「ね、ねえ、森が……!」
『私』はセオの視線を追う。
今まで何もなかった場所に、突然小さな森が姿を現したのだった。
「魔法が、解けたんだ……」
「急がなきゃ……!」
『私』と目を合わせて頷いたセオの顔には、恐怖の表情が色濃く現れていた。
しかし、立ち止まる訳にはいかない。
『私』は再びセオの手を取り、先程まで光の道が続いていた方向に、走り出したのだった。
***
私たちは、過去の世界から戻ってきた。
この後は、水の神殿で見た記憶に繋がっていくのだろう。
走って、空を飛ぼうと試みて、必死に逃げて、エレナの元に辿り着いたその時――空から虹の橋が降りてきたのである。
そしてソフィアは私とセオに最後の時間を与えて、私に『虹の巫女』を継承させ、『色』と記憶を封じた。
さらに心の繋がり、魔力の繋がりを介して、私の『色』と共にセオの感情を封じたのだ。
「火の魔法……復讐……?」
セオの震える声に、私は意識を引き戻した。
「火の精霊……? 『見当違い』の復讐……もしかして、それが原因で魔物化……?」
「うん、流石に気付いたよね~。光の精霊、話しすぎなんだよ~」
「――僕たちの両親を手にかけたのは、ファブロ王国の王族なんですね?」
「…………そうだよ~」
「僕、犯人はマクシミリアン陛下か、ジェイコブ前陛下だと思ってた」
「……まあ、関わってないとは言えないよ~」
「――どういうことですか?」
「実行犯は確かに火の精霊の神子だけど……原因を作ったのは、聖王国の王族だよ~」
「それってつまり――」
ガシャァァアン!
『――動くな!!』
その時。
突如大きな金属音と、複数の人間の足音、そして怒号が辺りに響き渡ったのだった。
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