色のない虹は透明な空を彩る〜空から降ってきた少年は、まだ『好き』を知らない〜

矢口愛留

文字の大きさ
47 / 154
第三章 黄

第46話 「聖霊からの祝福」

しおりを挟む

 コンテストが終わり、手紙によってもたらされた興奮と熱も落ち着いた後。

 メインステージには数人のパティシエが残り、テーブルや椅子が追加で並べられていた。
 そこでは、子どもたちがパティシエに教わりながら、簡易的なカップデザートやアイシングクッキーを作っている。
 どうやら、これがポールの考えた企画だったようだ。

 子どもたちは、憧れのパティシエに指南してもらえるとあって、目を輝かせている。
 パティシエたちも、先ほどコンテストで見せていた真剣な表情とは打って変わって、優しい眼差しで子どもたちを見守っていた。

 メインステージの周辺に並んでいるパティスリーの屋台では、コンテストに出品されていたケーキを通常サイズで販売し始め、どの店舗も売上を伸ばしていた。
 店員もお客さんも笑顔である。

 エレナにもポールにも、この調子なら夜には降聖霊祭を無事迎えることが出来るだろうというお墨付きをもらい、私たちはお祭りを楽しみながら、夜まで待つことにしたのだった。


 そして、ついに迎えた降聖霊祭の夜。
 色とりどりに光る聖樹のてっぺんには、大きな星のオブジェがしっかりと輝いていた。
 昼間は綺麗な青空が広がっていたのだが、今は雪がちらついているからか、聖樹広場には人の姿がほとんどなかった。

「静かな夜だね」

「そうだね……みんな、家で聖霊様を待つのが習わしなんだって、エレナは言ってたわ。良い子のところに祝福プレゼントを授けてくれるんですって」

 エレナは、宿で休んでいる。
 私たちだけで夜に出かけるなんてと心配していたが、私が説得して残ってもらった。聖霊に会うならセオと二人でいた方がいいと、なんとなく直感したからだ。
 その考えはセオも同じだったようで、エレナは渋々引き下がった。

「ねえ、パステル」

「ん?」

 セオは、聖樹から目を離さないまま、私に話しかけた。目を見ずに話しかけてくるなんて、珍しい。
 聖樹の明かりに照らされたセオの横顔は、不思議な色気をはらんでいて、私はまたドキドキしてしまう。

「悩んでいたことの答えは、出たの?」

「え……?」

「パステル、ずっと悩んでたでしょ?」

「あ……それは」

 私は、セオを見ていられなくて、俯いてしまう。

「僕、やっぱりいくら考えてもわからないんだ。それに、僕、パステルの力になりたい。だから、悩みがあるなら教えてほしい」

「セオ……」

 セオはいつの間にかこちらを向いていた。私とセオの視線が交錯する。
 吸い込まれそうな、澄んだその瞳を見ていると、もうこれ以上誤魔化すことが出来ないと悟った。
 セオはきっと、私が何も言わなくても悲しむ。だから私も、覚悟を決めた。

「あのね、セオ。私ね、セオのことが――」


 ――その時だった。
 突然、高らかな笑い声と鈴の音が静かな夜に響き渡ったのは。


「ほーっほっほっほーーーぅ!!!」

「「……え?」」

「みんなぁああ!! 良い子にしてるかねぇえぇ!!?」

 私とセオは、驚いて辺りを見回す。声の出所は、広場の中央、聖樹の上空だった。
 聖樹の周りを八頭のトナカイと、大きなソリが滑空している。
 大きなソリは様々な色の電飾でデコレーションされていて、直視するとかなり眩しい。

 ソリの上には、電飾もつけていないのに何故かソリと同じくらい眩い輝きを放つ老人と、雪だるまのような姿の妖精たちが乗っていた。
 老人はナイトキャップをかぶり、長い白髭をたくわえた、恰幅の良い男性である。彼が聖霊だろう。

 聖霊の周りに乗っている雪だるまたちは、枝のような細い腕を上手に動かして、鈴やミニシロフォン、ハンドベルなどで軽快な音楽を奏でていた。
 それぞれ表情も大きさも異なっていて、バケツの帽子や布切れのマフラーも、ひとりひとり違っているのが面白い。
 その肌は、みな一様に真っ白。まるで本当に雪でできているかのように、氷の粒が光を反射してキラキラと煌めいている。

「悪い子はいねぇかぁぁあ!? うっし、野郎ども、祝福プレゼントを配るぞ!」

 聖霊が手をスッと振ると、空中で小さなソリが七つ現れた。七つの小さなソリは、形こそそれぞれ違うが、電飾はついてデコられてはいない。

 それぞれのソリにトナカイが一頭ずつ近づいていき、どこからともなく現れた光の手綱が装着される。
 ソリに乗っているのは、聖霊をミニチュアにしたような小人トムテたちだ。
 七人の小人トムテたちは、大きな袋を抱えて七頭のトナカイと共に各方向に飛び去って行った。


「ほっほっほ、行ったか」

 突然現れたハイテンションの聖霊に驚いて固まっていた私たちは、その笑い声を聞いて我に返った。
 聖霊はトナカイを繰り、ゆっくりと私たちの方へと降りてきたのだった。

「さて、と。ここにも祝福プレゼントを待つ良い子がいるな。二人とも、神殿に案内すっから、後ろに乗りな」

 聖霊は、親指をぐいっと立てて自分の後ろを指し示す。想像していたのとキャラが大分違うが、優しく面倒見の良い親分、といった印象だ。

 私がセオの方を見ると、セオは私に手を差し出し、ソリに乗れるようエスコートしてくれた。
 セオも続いてソリに乗り込むと、聖霊はトナカイの手綱を引く。
 トナカイは、まるで空に道があるかのように、ゆっくりと空を歩き始め、徐々にスピードを上げて駆けだしたのだった。

 トナカイは、聖樹のてっぺんを飾る星のオブジェに向かって駆ける。ぶつかるかと思ったその刹那、星のオブジェは眩い光を放ち、私は目を閉じたのだった。


 目を開くと、そこには別世界が広がっていた。
 辺り一面に雪が積もっていて、光り輝くオーナメントに彩られたモミの木がたくさん生えている。

 その中央部には、これまたチカチカした電飾イルミネーションに彩られたささやかな家と、大きな煙突の付いた平屋建ての建物があった。
 平屋建ての、工場のような建物の煙突からは、もくもくと不思議な形の煙が次々と吐き出されている。ドーナツの形、魔女の帽子の形、馬車の形、鳥の形……ずっと見ていても飽きなそうだ。

「ここが光の神殿だ。あっちの工場で子どもたちに渡す祝福プレゼントを作ってる。んで、そっちの小屋が俺ん家だ」

「光の神殿……」

「おう、神殿っぽくなくてわりぃな。さ、入んな」

 トナカイのソリを家の前に停めて、聖霊はサッと家の扉を開けた。

 リビングには暖炉と小さなモミの木、大きなロッキングチェアがある。
 聖霊はロッキングチェアに腰掛けると、その口の悪さが嘘のように、人好きのする笑みを浮かべた。
 長い白ひげと髪の毛で口元は見えにくいが、目が笑っていて優しい風貌だ。

「椅子、これしかねえんだ。すまねぇな。改めて、俺は光の精霊、クロースだ。ノエルタウンでは聖霊と呼ばれてるな」

 クロースは、屈んで足元をごそごそ探している。
 そして、おもむろに黄金色・・・のプレゼントボックスを取り出した。

「セオ、パステル、これが何か分かるな。二人はずっと良い子だったから早く渡したかったんだけどよ、二人が一緒にいる時じゃないとダメだったんだよな。
 さ、聖霊サンタからの祝福プレゼント、受け取ってくれ」

 私とセオは顔を見合わせ、頷きあう。
 プレゼントボックスをクロースから受け取ると、二人で一緒にリボンに手をかける。
 しゅるしゅるとリボンが解けると、プレゼントボックスの中から黄色い・・・光が溢れ出した――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

いつまでもドアマットと思うなよ

あんど もあ
ファンタジー
二年前に母を亡くしたミレーネは、後妻と妹が家にやって来てからすっかり使用人以下の扱いをされている。王宮で舞踏会が開催されるが、用意されたのは妹のドレスだけ。そんなミレーネに手を差し伸べる人が……。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

精霊に愛される(呪いにもにた愛)少女~全属性の加護を貰う~

如月花恋
ファンタジー
今この世界にはたくさんの精霊がいる その精霊達から生まれた瞬間に加護を貰う 稀に2つ以上の属性の2体の精霊から加護を貰うことがある まぁ大体は親の属性を受け継ぐのだが… だが…全属性の加護を貰うなど不可能とされてきた… そんな時に生まれたシャルロッテ 全属性の加護を持つ少女 いったいこれからどうなるのか…

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

処理中です...