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10 気がついたら誰かの推しになってた
しおりを挟む「オーダー入ります。唐揚げ1、生姜焼き1、日替わり1」
「あいよー!」
「あ、お会計ですね! 少々お待ちください」
「あ……はい……いつまでも待ちます。いつまでも、いつまでも、いつまでも」
「あ、そんな待たせないんで大丈夫です。お次のお客様、2名さまですね。空いているお席どうぞ。あ、オーダーですね! 少々お待ちください」
「ほわっ、笑顔……永遠に待ちます、永遠に、永遠に」
「あ、そんなに待たせないんで大丈夫です。お会計、900円になります。1万円お預かりします。え、おつりはいらない? いや、困ります、もらってください。あ、お客様! お客さまー!」
「あの、お忙しいところ申し訳ありません。お時間があるときでいいのですが、あの、その、注文を聞いていただくことは可能でしょうか」
「あ、お客さん、行っちゃった……はい、少々お待ちください。あの、そんなに丁寧に話さなくても大丈夫なので」
い、忙しい。めちゃくちゃ忙しい。目が回りそう。
しかも店の前にはまだまだ長蛇の列。
「芽衣、唐揚げ定食運んで」
「喜んで―!」
しまった、忙しすぎて居酒屋ムーブがまじってしまった。
***
「お、終わった……」
「あー、しんどい……終わったっつうか、閉店時間が来たから無理やり閉めた感じだけどな」
最後のお客さんが退店し、お店を閉めた後、店主さんとふたりでテーブルに突っ伏す。
ひたすら調理をしていた店主さんも、ぐったりしていて、タバコを吸う気力もないようだ。
ここ数日、お客さんがとにかく来る、ひたすら来る。開店時にはすでに列ができているし、そのあとも途絶えることがない。
一日中ピークタイムで、私も店主さんも、疲弊が半端なかった。
「なんなんです、この店。雑誌にでも載ったんですか? 雇われ始めた3日間と全然客の入りが違うじゃないですか」
ぼやくと、店主さんがガバッと顔を上げ、信じられないようなものを見るような目を向けてきた。
「――あ、マジで気づいてないんだ」
「え? なにがです?」
「うちの店、今、大人気なの。可愛い女の子が、ブサイクににこにこ接客してくれる店として」
「は?」
思わず真顔になった。
「そりゃぁさ、俺らブサイクがマスク外して飯食っても吐かずに、あげく笑顔を向けてくれる店なんて、大金払ってでも入りてえよな。なんだよその店、天国か? あ、俺の店だったわ」
「微妙なノリ突っ込みですね」
「冷静! でもブサイクの俺にそんな言葉をかけてくれるところも素敵!」
最初は私が見るたびに、びくびくおどおどしつつ、嘔吐用バケツを押し付けてきた店主さんだけど、いつまでもたっても私が嘔吐も嫌悪もしないので、ようやく普通に対応してくれるようになってきた。
ただ、ちょっとノリが古いというか、寒い。
「別に私の存在は関係ないんじゃないですか? だって、お客さんから個人的に声をかけられたこととか、ないですよ」
「バッカ、ブサイクがそんなことしたら、殺されるわ! ほかの誰かが殺さなくても、俺が殺す」
「なんで」
「うちの看板娘だから。こんな天使、誰かにやれるかよ! うちで永遠に働いてくれ」
「おおう……」
プロポーズかな?
「そして、俺に課金をさせてくれ!」
違う、ただ推し活だった。
店主さんのテンションにため息を一つついて、話を切り替える。
「繁盛するのはいいですけど、このまま行くと、私たち過労死しますよ」
「そうなんだよなぁ……」
「しかも、お客さん、なんか必要以上にお金を押し付けていくし」
「お布施だな。あるいは推しへの課金」
「どっちも生身の一般人相手にすることじゃないんだよなぁ……」
「おかげでレジの金が全然合わん。今年の確定申告、どうしよ…」
「「はぁ……」」
ため息がかぶる。
「……とりあえず、整理券配るか。で、一日の客数決めようぜ。あと、滞在可能時間。おさわりは禁止な」
「なんかのイベントかな?」
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