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一章:援交とタローさん
性交はイコールで愛になるか 14*
しおりを挟む少しだけ彼との距離が空いた。
離されて見えたお兄さんの瞳は、怖いぐらいに真剣で、彼の問い掛けは、思いの外に僕を傷付けた。
呼吸が止まった。
まるで物かのように抱かれてきた。
それでも良かった。
彼に出会うまでは、それで良かったのだ。
気付けば視界が歪んでいた。
お兄さんの表情が見えない。
ブンブン勢い良く首が否定の形に動いていく。
嫌だと思ったのが何故かなんてことは解らない。
だけれど、彼に物みたいに扱われたらと考えたら、もうせき止めることが出来なかった。
腕を伸ばして必死でお兄さんの腕にしがみ着いた。
額を胸に押し付けて、嫌だ、と呟く。
少しの沈黙が流れる。
怖くて体が震えた。
涙も止まらない。
しゃっくりが口を出て、ひっく、と子供みたいに泣いていた。
どのぐらい経ったか解らない程に時間が過ぎる。
実際には其処までの時間は経っていなかったようだが、僕にはとても長く感じられたのだ。
「うん。俺もそんな風には抱きたくないから、意見が合って良かった。泣かせて、ゴメンね」
安堵したのだろうか、細く長い息が吐き出された。
顔は未だに視界が歪んでいて読み取れないが、また強い力に包まれたことで、不思議と不安は消えていく。
「タローさん、僕。今まで色んな人に抱かれてきたけど。こんなに怖いの、初めてなんだ。何でかな? 初めてセックスするみたいな気持ち」
泣いている僕を宥めるように、彼の掌が背中を辿る。
落ち着いたのか、正直な気持ちを伝えることが出来た。
「じゃあ、これが初めてってことにしようか? 俺はキィ君の初めての男になりたかったよ」
どうしてお兄さんは、こんなにも優しいのだろうか。
僕はコクコクと頷いて、止まらない涙を止めるみたいに、ぎゅうっ、と目蓋を綴じた。
未だに胸は痛んで苦しい。
それでも、この痛みが愛なのだ。
単なる触れ合い、性行為だけでは、愛は得られないのかもしれない。
「タロー、さん。僕に……愛をくれる? 愛して、欲しいよ」
ずっと押し込めていた想いがある。
誰に言って良いのかも解らずに、押し殺していた気持ちがある。
甘える自分を肯定して貰いたい。
自分の存在を認めて欲しい。
僕のそんな願いは、いつだって叶わずに踏み滲られてきた。
けれども、彼になら甘えても良いような、そんな気持ちになったのだ。
どちらからとも言わず、唇を合わせる。
そっ、と首に腕を巻き付かせた。
口唇の隙間から舌が差し込まれる。
舌先で肉厚な其れに触れれば、ざらりとした感触と共に、胸がキュンと熱くなった。
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