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一章:援交とタローさん

性交はイコールで愛になるか 05

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きょとん、とした顔の彼を上目遣いで窺う。

「いっ、一緒には、入ってくれないの?」

いつも行為の前は一人でシャワーを浴びる。
人によっては、洗わないで行為に突入することもあった。
今までは一人でも構わなかった。
寧ろ、一緒に入りたいとも思わなかったのだ。
どうして今日は、一緒に入らないだけでこんなにも寂しく感じるのだろうか。
自分でも解らない。

「あーー、ああ、うん。狭いけど、それでもイイなら」

少し照れたように笑って、お兄さんが頷いてくれただけで、胸の奥が暖かくなって満たされるのは、何でだろうか。

「タオルと着替え、持ってくるからちょっと待ってて」

考える暇もなく、彼はそう言うと一旦部屋に戻った。
僕の分だろう、シャツと半ズボン、それに二人分のタオルを抱えて、彼は扉を閉めた。
便座の蓋の上に、落ちないように置いていく。

「脱いだの、其処の籠に入れて。学ランは貸して」

トイレと浴槽の間にある洗面台の下に籠があり、お兄さんの指はそれを指していた。
学ランの釦を外して脱ぐと、彼に奪い取られる。
着替えと一緒に持ってきたのだろう。
手にはハンガーがあった。
扉に一つだけ付いているフックに掛けてくれた。
どこまでも気の利く人だ。
ありがと、とぼそりと呟くしか出来ない己は、本当にちっぽけな子供だと認識して、自己嫌悪に陥る。

「ほら、早く脱いで」

胸の中でぐるぐるぐるぐる、訳の解らない感情が渦巻いて、シャツのボタンを外す手がもたついていた。
お兄さんは手早くさっき着たばかりの服を脱いで、既に全裸だ。
そんな彼は、僕がもたもたしているのに苦笑を浮かべつつも、僕の胸元に手を伸ばしてきた。
ぷつん、ぷつん、とボタンを外してくれる。

「じっ、自分で出来るよっ!」

ヤケに恥ずかしくて、上にある彼の顔を睨んだ。
意地悪な顔でニヤニヤしている。

「そう? 怖くなって怖じ気付いたのかと思って」
「そんなんじゃないし。ちょっと考え事してただけ」

ぷい、と横を向けば、ごめんごめん、と胸元にあったお兄さんの手が頭に移動して、髪をくしゃくしゃにされる。
なんてことのない戯れだ。
そんな些細なことで、僕の心は満たされていた。
本来ならば、裸で抱き合って始めて得られるものを、この人は難なく僕に与えていく。
無意識に顔が綻んだ。

「キィ君の笑顔は、天使みたいだね。俺、ドキドキするよ。まあ、あんま笑ってくんないけど」

お兄さんは恥ずかしいことも平気で口に出来るようだった。
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