逃げないで、先輩

Neu(ノイ)

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一章:好きです、先輩

先輩の危険と後輩の噂 06

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這って逃げ出すことも出来なくなった。
結局のところ、彰治はこの後輩が可愛くて仕方がないのだ。
本気で嫌がることも抵抗することも何処かでセーブしてしまう。

「ったく、ずりぃぞ、三田村」
「ズルいのは府末さんの方ですよ。俺、ホント死にそう」

我慢辛いっす、と真面目な顔で告げる男に「ばーか」と返し、彼の身体を押しやろうと向かい合う。
間髪入れずに顔を近付けてくる後輩の頭に軽く拳を入れ、離れろとばかりに胸板を押した。

「ねえ、先輩。明日、俺いないんで。阿形には本当に気を付けて下さいよ。何かあっても助けに来れない」

押しても押してもビクともしない無駄に厚い安月の胸部を悔し紛れに叩いて口を尖らせる。
同じ男として面白くなかった。
彰治も決してひょろい訳ではないのだが、だからこそ余計に自分よりガタイのいい男に妬みが湧いたのだ。

「だから、俺は何を気を付けたら良いんだよ? 具体的に言えって」

どうしていいのか解らずに安月の髪を引っ張った。
彼は首を傾けて考え込んだ末に「わかんねぇすわ」という投げ遣りな解答を彰治に示す。

「わかんねぇすけど。でも警戒はして下さい。先輩、お人好しだから心配なんすよ。頼まれたら断れないじゃないすか。後輩に甘いし。そりゃ、津樽先輩も村笠先輩も府末さんが教育係で面倒見たって言うし、愛着があるのはわかるっすよ。けど、俺以外の奴に優しくしてんの、すげぇ妬ける」

ぐりぐり、と下半身を擦り付けながら熱い視線で見詰められ、変な悲鳴を上げていた。
先程よりは落ち着いたのか硬さは半減しているものの、半勃ち状態の男性器を主張されると恐怖が体中を駆け巡る。
息を詰め体を固くする彰治を薄く笑い、安月の無駄にデカイ巨躯が離れていく。

「帰りましょうか、先輩。明日、頑張って来ます」

立てますか、と差し出された手に恐る恐る掌を重ねる。
力強い腕に引き上げられ上体が持ち上がった。

「お、う。まああれだ。俺も一応、なんか良く解んねぇけど、気を付けるわ。どうせ定時で帰るんだろうし、イジメられたりはしないと思うけど」

がしがし、と自身の髪を掻き立ち上がる彰治に安月の眉根が吊り上がる。

「は? 今の状況がイジメだって認識していないなら、アンタ本当に底抜けのお人好しっすね。明日、すんげぇ不安なんすけど」

念の為に手は打っとくか、とぶつくさと呟き背中を向け歩き始める安月を慌てて追い掛けた。

「手を打つ、って何の話だ?」
「此方の話っすよ。下の躾不足が上の責任なのは、何処の世界でも同じでしょ?」

引っ掴んだ鞄を脇に抱え、安月の隣に並ぶ。
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