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二章:大学生アリスと社会人兎の擦れ違い
アリスの学生ライフ 01
しおりを挟む1.新生活
【アリスの学生ライフ】
暖かな陽射しが降り注ぐ中、有住 架(アリス カケル)はスーツ姿で歩いていた。
桜並木のその道は、桃色の花弁(はなびら)がひらひらと舞い落ちて、灰色のアスファルトを魅惑的に飾っている。
隣を歩くのは、スーツ姿の母親、愛架(アイカ)である。
高校を卒業してから数週間。
今日は大学の入学式だ。
卒業式とは異なり、入学式に参加するのは母だけだった。
父の幸綯(ヨシナ)と、義弟の翔(ショウ)は残念ながら仕事で出席出来ない。
忙しい父と、彼の秘書として働き始めたばかりの翔が、とても多忙な毎日を過ごしていることは、重々承知していた。
架とて、もう19歳になる年だ。
出席して貰えたら嬉しいが、だからと言って、必ずしも出て欲しいと言う訳でもない。
それでも、家族と擦れ違っていた時間が長かった架としては、寂しいと思う気持ちも少しは抱いてしまうのだ。
義弟とは言え、恋人でもある翔に関しては、なかなか二人の時間を取れないこともあってか、頭では解っていても、鬱屈するのを止められない自分がいた。
桜並木を通り過ぎ、愛架と受付を通過する。
其処で一旦彼女とは別れ、架は一人で体育館に向かう。
高校とは違い、そこまで煩くクラスに縛られることはないようだ。
二階建てのその建物は、一階に柔道場や剣道場などがあり、二階はバスケやバレーが出来るようになっていた。
壇上は二階にあるため、式典は二階で執り行うようだった。
二階に案内され上がって行けば、広がる視界にはパイプ椅子がズラリと並んでいた。
後方入口側に保護者席、前方ステージ側が生徒席となっている。
座る順番は決まっていないようで、好き勝手に皆座っていた。
架も適当に後ろ側の席に腰を下ろす。
同じ高校の人間が何人かいたが、特に連むこともなく、架は一人でぼんやりと式を待つ。
一匹狼だった架にとって、高校で仲良くなったのは、翔だけだった。
無理に連む必要性も感じない。
彼等にしても、不良に見える架とは距離を置きたいのが本心だ。
話し掛けられても仲良くする自信などないだろう。
架も一人でいることに何ら苦痛を感じない人間である。
気にすることもなく、マイペースに欠伸を零したりしていた。
式は一時間程で終わり、この日は解散となった。
架は人の波が退くのを待ってから立ち上がる。
母親とは外の門で待ち合わせしていた。
体育館には彼女の姿は既にない。
急ぐこともなく、緩慢な動きで体育館から出た。
正門に向かおうとした時だ。
微かに物音が聞こえてきた。
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