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二章:大学生アリスと社会人兎の擦れ違い
アリスの学生ライフ 02
しおりを挟む高校時代、殴り合いに巻き込まれることもあった架である。
誰もが気にも留めないような小さな物音ではあったが、人を殴る音に似ていたためか、酷く気になった。
踵を返して体育館の裏手に回る。
人気(ひとけ)のない其処は、フェンス際に背の低い木が植えられており、人の目につかない場所だった。
髪を茶色に染め今風に整えている背の高いチャラい男が、中肉中背よりも少し痩せ気味の黒髪で真面目そうな男を見下ろしている。
黒髪の男は地面に尻を着き、茶髪の男を見上げていた。
痩せた体は、目に見えて解る程に震えている。
「宮田くっ、ん!」
か細く茶髪の男を呼ぶ黒髪の腹に蹴りを入れて、宮田(ミヤタ)と呼ばれた男は嗤った。
しゃがみ込んでお腹を押さえる黒髪の男に顔を寄せると、耳元で宮田が囁く。
「明峰、あんま俺のこと怒らせんなよ」
「ごめっ、ん、なさい」
黒髪の男は明峰(アカミネ)と呼ばれた。
明峰は必死で謝り、その瞳には涙が浮かんでいる。
「俺の面子潰すようなこと、二度とすんな。黙って足開いてりゃいいんだよ!」
宮田の拳が明峰の腹にめり込み、ぐはっ、と呻く明峰が地面に転がった。
宮田の台詞も気になったが、流石に黙って放置も出来ず、架は一歩踏み出した。
「そのぐらいにしておけよ」
いきなりの乱入者に驚いたのだろう、二人の顔が架に向けられる。
宮田に睨まれながら、明峰に近付き彼の腕を掴んで引き上げた。
「部外者が口挟んでんじゃねぇぞ。ああ、それともソイツ買ってくれんの? 一発3万でどう?」
イヤらしく宣う宮田を無視し、架は明峰を引っ張り歩き始める。
明峰は戸惑いつつも、逆らうことも出来ないのか、引かれるままに足を動かした。
「おい、無視すんな」
「お前等がどんな関係でナニをヤラせていようが、俺には関係ないが。そういう行為は間に合ってる」
後を追ってくる宮田に肩を掴まれ、仕方無く振り返ると睨み付ける。
暴力を振るう男に嫌悪感しかわかない。
いつからだったか、翔の生い立ちを聞いてからか、架は暴力に対して嫌な気持ちを抱くようになった。
それまでも好きこのんで殴り合いをしていた訳ではないが、それでも喧嘩を売られれば応戦していた。
しかし、それ以来、架は暴力をふるうのをやめた。
翔を苦しませた行為を、したくはなかったのだ。
「ヤラねぇならソイツ返せ」
宮田が明峰に腕を伸ばす。
架は明峰を引き寄せて後ろに隠すと宮田にメンチを切った。
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