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出会い編
診察
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次にハルが目覚めたのは、豪奢なベッドの上だった。
柔らかいレースの天蓋がかかったベッドは、現実離れしたほどに美しかった。高級なシルクのシーツが身体を包み、ふかふかの枕が首元を支えている。部屋の明かりは控えめに調整され、ムーディな雰囲気が漂う。
「え……? どこだ、ここ……?」
記憶がぼんやりとしている。自分がここに来る前に何をしていたのか、ハルは思い出そうと眉を寄せた。
窓の外には、きらびやかな街の明かりが広がっていた。ここはかなり高層階にあるらしい。空を見上げると、満月がぽつんと寂しそうに浮かんでいる。その光は街の強烈なネオンに押され、かすかに輝くだけだった。
「お目覚めになられましたか?」
声が聞こえ、ハルはそちらに目を向ける。
入って来たのは、ユキの従者である老執事、セバスチャンだった。
「セバスチャンさん……? あの、ここはどこですか?」
「日本国内にある、我が国所有のビジネスホテルです。このフロア全体を貸切にしておりますので、何も心配なさらずに」
ハルはその言葉に一瞬耳を疑った。
(……さらっとすごいこと言ったよな?)
ワーウルフ所有のホテルといえば、世界的に有名な超高級ホテルだ。ここが都内の一等地に位置していることを考えれば、目が飛び出るほどの金額が動いているだろう。
「こちらのお部屋は通常、エグゼクティブスイートとして使用しておりますが、ユキ様の来日に合わせてフロアごと貸し切っております」
「マジっすか……」
老執事はにこりと微笑み、トレーの上に置かれたカップを差し出した。
「温かい白湯をどうぞ。お身体をいたわるために」
ハルはカップを受け取るが、飲もうとした瞬間、頬に僅かな痛みが走った。触れてみると、頬にガーゼや医療用テープが貼られている。
それに、頭にも包帯が巻かれていた。触ると痛む部分がある。
(そうだ……タチバナ……!)
記憶の断片が鮮明に蘇る。
「あ、あの、タチバナは!?」
ハルの突然の問いに、セバスチャンは目を細めて答えた。その表情には、ハルの優しさに対する敬意が滲んでいるようだった。
「あの方は現在、警察に拘束されています」
「そうですか……」
(良かった…生きてた……)
噛み殺されたのではないかと思ったのだ。
そうでは無いと聞いて、ハルは小さく安堵の息を漏らす。
そして、その次の瞬間には別の名前が口をついて出た。
「……ユキは?」
その問いに応じたのは、静かに扉を開けて入ってきたユキ自身だった。
「いるよ」
彼の後ろには、一人の白衣をまとった男性がいた。聴診器を首に掛けたその姿から、医師であることが伺える。
「お加減はいかがですか?」
医師の柔らかい声に、ハルは少し緊張しながら頷いた。
「……まあ、大丈夫です」
「それでは少し診させてください。失礼しますね」
医師がベッドに軽く腰掛け、ハルの寝巻きを静かに開いた。シルクの布地がはらりと落ち、白い肌が露わになる。
医師の聴診器を持った手が近づくと、ハルは反射的に身を硬くした。その動きを見た医師は、すぐに手を止めた。
「あ……すみません……」
「いえ、無理もありませんよ。こんなことがあった後ですから、緊張するのは当然です」
医師の優しい言葉に、ハルはわずかに安心した。
しかし、その言葉から、この場にいる全員が「あの事件」を知っていることが分かり、胸が苦しくなった。
強姦未遂。
自分は、その被害者。
医師が心音を確認している間ーー
ハルは、ユキの視線が自分に向けられていることに気づいた。
その視線はどこまでも鋭く、重く、自分の白い肌にじっと注がれているように感じた。
(……卑しいと思われただろうか?)
(汚れたと思われただろうか?)
(……嫌われただろうか……)
不安が胸を締め付ける。息がしづらい。
(……苦しい……)
「頭を強く打ったようですね。手足に力は入りますか?痺れや吐き気はありませんか?目が見えにくい等の症状は?」
「大丈夫です…」
医師の言葉に、ハルはなんとか答える。
身体に異常はないはずだが、心の中で不安がぐるぐると回り続けていた。
「手足の打撲は、しばらく痛むでしょうが、一週間程度で症状が落ち着いてくると思います」
「はい」
血圧計と体温計を使っての診察が進む間も、ハルの胸元ははだけたままだ。
何度も、何度も、ユキの視線を感じ、無言の圧に耐えられなくなったハルは、そっと寝巻きの前を閉じた。
「…以上になります。もし体調が悪化したり、何かあったらすぐに知らせてください」
医師は診察結果と今後の指示を伝えると、最後に微笑んでそう締めくくった。
「では、私は失礼します」
「ハル様、何かあったらすぐにお呼びくださいね」
医師と老執事は部屋を出て行き、ドアが静かに閉まる音が響いた。
部屋には、ハルとユキだけが残された。
柔らかいレースの天蓋がかかったベッドは、現実離れしたほどに美しかった。高級なシルクのシーツが身体を包み、ふかふかの枕が首元を支えている。部屋の明かりは控えめに調整され、ムーディな雰囲気が漂う。
「え……? どこだ、ここ……?」
記憶がぼんやりとしている。自分がここに来る前に何をしていたのか、ハルは思い出そうと眉を寄せた。
窓の外には、きらびやかな街の明かりが広がっていた。ここはかなり高層階にあるらしい。空を見上げると、満月がぽつんと寂しそうに浮かんでいる。その光は街の強烈なネオンに押され、かすかに輝くだけだった。
「お目覚めになられましたか?」
声が聞こえ、ハルはそちらに目を向ける。
入って来たのは、ユキの従者である老執事、セバスチャンだった。
「セバスチャンさん……? あの、ここはどこですか?」
「日本国内にある、我が国所有のビジネスホテルです。このフロア全体を貸切にしておりますので、何も心配なさらずに」
ハルはその言葉に一瞬耳を疑った。
(……さらっとすごいこと言ったよな?)
ワーウルフ所有のホテルといえば、世界的に有名な超高級ホテルだ。ここが都内の一等地に位置していることを考えれば、目が飛び出るほどの金額が動いているだろう。
「こちらのお部屋は通常、エグゼクティブスイートとして使用しておりますが、ユキ様の来日に合わせてフロアごと貸し切っております」
「マジっすか……」
老執事はにこりと微笑み、トレーの上に置かれたカップを差し出した。
「温かい白湯をどうぞ。お身体をいたわるために」
ハルはカップを受け取るが、飲もうとした瞬間、頬に僅かな痛みが走った。触れてみると、頬にガーゼや医療用テープが貼られている。
それに、頭にも包帯が巻かれていた。触ると痛む部分がある。
(そうだ……タチバナ……!)
記憶の断片が鮮明に蘇る。
「あ、あの、タチバナは!?」
ハルの突然の問いに、セバスチャンは目を細めて答えた。その表情には、ハルの優しさに対する敬意が滲んでいるようだった。
「あの方は現在、警察に拘束されています」
「そうですか……」
(良かった…生きてた……)
噛み殺されたのではないかと思ったのだ。
そうでは無いと聞いて、ハルは小さく安堵の息を漏らす。
そして、その次の瞬間には別の名前が口をついて出た。
「……ユキは?」
その問いに応じたのは、静かに扉を開けて入ってきたユキ自身だった。
「いるよ」
彼の後ろには、一人の白衣をまとった男性がいた。聴診器を首に掛けたその姿から、医師であることが伺える。
「お加減はいかがですか?」
医師の柔らかい声に、ハルは少し緊張しながら頷いた。
「……まあ、大丈夫です」
「それでは少し診させてください。失礼しますね」
医師がベッドに軽く腰掛け、ハルの寝巻きを静かに開いた。シルクの布地がはらりと落ち、白い肌が露わになる。
医師の聴診器を持った手が近づくと、ハルは反射的に身を硬くした。その動きを見た医師は、すぐに手を止めた。
「あ……すみません……」
「いえ、無理もありませんよ。こんなことがあった後ですから、緊張するのは当然です」
医師の優しい言葉に、ハルはわずかに安心した。
しかし、その言葉から、この場にいる全員が「あの事件」を知っていることが分かり、胸が苦しくなった。
強姦未遂。
自分は、その被害者。
医師が心音を確認している間ーー
ハルは、ユキの視線が自分に向けられていることに気づいた。
その視線はどこまでも鋭く、重く、自分の白い肌にじっと注がれているように感じた。
(……卑しいと思われただろうか?)
(汚れたと思われただろうか?)
(……嫌われただろうか……)
不安が胸を締め付ける。息がしづらい。
(……苦しい……)
「頭を強く打ったようですね。手足に力は入りますか?痺れや吐き気はありませんか?目が見えにくい等の症状は?」
「大丈夫です…」
医師の言葉に、ハルはなんとか答える。
身体に異常はないはずだが、心の中で不安がぐるぐると回り続けていた。
「手足の打撲は、しばらく痛むでしょうが、一週間程度で症状が落ち着いてくると思います」
「はい」
血圧計と体温計を使っての診察が進む間も、ハルの胸元ははだけたままだ。
何度も、何度も、ユキの視線を感じ、無言の圧に耐えられなくなったハルは、そっと寝巻きの前を閉じた。
「…以上になります。もし体調が悪化したり、何かあったらすぐに知らせてください」
医師は診察結果と今後の指示を伝えると、最後に微笑んでそう締めくくった。
「では、私は失礼します」
「ハル様、何かあったらすぐにお呼びくださいね」
医師と老執事は部屋を出て行き、ドアが静かに閉まる音が響いた。
部屋には、ハルとユキだけが残された。
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