追放勇者はヒューマノイドと空で生きたい

白夢

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血の勇者

ep03 過剰な照明のレセプション

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 フォロワーは、僕を船に招待してくれるようだった。
 彼女はトコトコと足早に船に近づき、壁を小さくノックした。

「わたしだよ、マネージャー。お客さんを連れてきたの」

 すると柱に、垂直の亀裂が入り、そこからちょうど自動ドアのように、壁が開く。
 異世界ファンタジーらしからぬ、近未来的な質感。ファンタジーはファンタジーでもSFだ。


「どうぞ、アイトさん」
「お邪魔します」

 僕はフォロワーに導かれるままに、その扉から船中に入った。


「えふん、おほん」

 どこからか咳払いが聞こえた。
 恐らく天井のスピーカーからだろう。

「う」

 眩しい光に、僕は思わず目を覆った。


「ようこそいらっしゃいました、あなたは……記念すべき、1人目のゲストです! おめでとうございます!」

 スピーカーを通した、独特の振動。前世でよく聞いた合成音声だ。


 目が慣れてくると、僕は、そこがホテルのロビーのような場所だと分かった。

 エントランスにしては簡素で飾り気がないけれど、かなり広い。
 中央に柱が立っていて、その周りにカウンターが設えられている。

 上の天井も高いが、その照明の強度がやたらと強くて、部屋全体が真っ白だ。

 デスゲームにありがちな巨大なモニターが、そのカウンターの奥の柱にあったけれど、部屋の光が強すぎてほとんど見えない。


 だんだん頭が痛くなってきて、僕は瞼を閉じたけど、瞼が透けて赤く見えるくらいだ。


「あ、あの、マネージャー? なんか照明が……すごく明るくない?」

 フォロワーも違和感を感じたらしく、恐る恐る尋ねる。

「はい! 人間は日光を見ると心安らぐそうですからね。なるべく日光に近づけるべく、照明の明るさを限界値に設定しました」

 と、マネージャーの自信に満ちた声が聞こえる。

「あっ、私としたことが、緑にするのを忘れていました!」
「ひっ」

 フォロワーがびっくりして小さな悲鳴を上げる。
 うっすらと目を開けると、視界が蛍光グリーンRed0 Green255 Bule0に染まった。

 照明の色を弄ったみたいだけど、センスがない。


「どうです? 癒されますか?」

 マネージャーは自慢げに言った。
 しかしいくら緑でも、癒されるには蛍光すぎる。


「……僕は普通の照明の方がいいですよ、マネージャーさん。明るさも、色も。目が疲れます」
「そうですか? ゲストがそう言うなら、設定をリセットします。ご要望があれば、またいつでもお申し付けくださいね! 私は『マネージャー』ですから!」

 マネージャーは気を悪くするでもなく明るくそう言って、照明を適切な明るさに戻してくれた。

 やっぱりこの人、いい人だな……人じゃないのかもしれないけど。


「申し訳ありません、ゲスト。何しろ、高精度人工知能を搭載されたのが、つい最近のことなのです。私なりに『こころづかい』を再現してみたのですが」

 正面には大きなモニターがあり、そこには少女が映し出されている。彼女は、なぜかナース服を着ていた。

 正直、申し訳ないけどあまり似合っていない。マネージャーなのに、どうしてナース服なんだろうと思った矢先、フォロワーが困惑して「あ、あの」と遠慮がちに尋ねた。

「マネージャー? その、アバターを変えたの?」

 フォロワーは、かなり困惑している。
 どうやら、いつもナース服というわけではないらしい。

「ゲストは異世界出身だと聞きましたので、異世界の服装を再現しました。どうですか? 癒されますか?」


 もしかしたら、このナース服は、『異世界のヒーラー』のイメージなのかもしれない。
 なんか知識が偏っているような気がしなくもないけど。


「マネージャーはすごく可愛いと思いますよ、どんな姿だとしても。いつもの服も見てみたいです」
「ゲスト・アイトこそ、事前登録の情報よりもずっと素敵な人ですね! 私の衣装スキンは自由に着せ替え可能ですので、お好きなものをお申し付けください!」

 そう言うとマネージャーは、くるっと回って服を着替えた。
 可愛らしいワンピースだ。うん、この方がいい。

「歓迎してくれてありがとうございます。とても嬉しいです」

「よろしければ、私のことは友達だと思って下さいね、ゲスト。私はあなたのマネージャーですから!」

「違うよマネージャー、アイトさんはゲストなんだから……」

 フォロワーが、またおずおずと進言している。
 もしかして、彼女はこの船の中でも、立場が弱い方なのだろうか。リソーサーにも怒られてたし。


「ありがとう、マネージャー。僕はアイトだよ、知ってるみたいだけど」
「はい、もちろんです! 私はゲストを、ずっと前から知っています。フォロワー、彼をユーザーに追加しても構いませんよね?」

「えっ……う、うん……マネージャーがそうしたいなら……でも、リソーサーに聞いてからの方が、それにエンジニアも、何て言うか分からないし……」

 フォロワーはもごもごと口ごもるが、マネージャーは勢いよく「いいってことですね!」と都合よく解釈した。

「では、ユーザーリストを更新します。よろしくお願いしますね、ユーザー・アイト。うん、ゲスト・アイトよりも素敵です! さらに、おすすめの個人設定を適用します。ユーザー・アイトも悪くありませんが、マスター・アイトはそれよりもさらに素敵です! マスター、私のことはマネージャーとお呼びください。お望みとあらば、『僕のマイ』マネージャーとお呼び頂いても構いませんよ!」

 フォロワーの心配をよそに、マネージャーは嬉しそうに画面の中で飛び跳ねながらまくし立てる。


「ありがとう、マネージャー」

 なんていうか、すごく、嬉しい。
 帝都を追われてからというもの、こんな風に好意的な歓迎を受けたのは初めてだった。

 覚悟していたとはいえ、帝国にいる間はずっと白い目で見られて、冷遇されていたし。
 こんな風に温かく迎え入れらえたのは、本当に、もうずっとなかった。

 多分僕は『血の勇者』だということはリソーサーから聞いているはずだけど、それでもこんなに好意的に接してくれる。

 例えそれがプログラムのせいだとしても、それでも嬉しかった。

(僕、自分が思ってるより参ってたのかもしれないな)


「どうしたしまして、マスター」

 マネージャーはモニターの中で両手を後ろに組み、にっこりと可愛い笑顔を浮かべて笑った。


「……あの、マネージャー。私、マネージャーのためにパーツを持って来たんだけど……」
「ありがとうございます、フォロワー」

 フォロワーはカウンターに近づいていって、そこに手に持っていたトランクを置いた。
 するとカウンターの天板が開き、中にトランクが収納される。

「納品を確認しました。責任をもってエンジニアにお渡しします。お疲れさまでした」
「それで足りそうかな……?」

「私には判断しかねます。リクエストは達成していますし、エンジニアは上手くやってくれると思います。根拠ソースはありませんが」

「うん……そっか。あの、ガーディナーの様子はどうかな。あと、クリーナーも。メンテナンスルームにいるの?」

「ガーディナーは既に修理を終えています。今はガーデンです。クリーナーはメンテナンスルームで、整備を受けています。リソーサーが、マスター・アイトを『汚染じゃないホワイトリスト』に追加することを要請したからです」

「そっか。私はどうすればいいかな? アイトさんとお話しして……」

「フォロワーに対するリクエストはありません。マスター・アイトとのコミュニケーションは、私にお任せください」

 マネージャーは、少し硬い声で言った。
 モニターの中のアバターも仏頂面だ。さっきまであんなにニコニコしてたのに。


「あっ、うん、そ、そうだね、私……あっ、アイトさんが悪いんじゃないんですよ! ただその、私、あんまり喋るの得意じゃなくて……マネージャーの方が、色々分かってるし」

 フォロワーは申し訳なさそうに、僕を上目遣いで見ながら言う。


 確かに、リソーサーにも泣かされていたし、フォロワーは、そもそも人と関わるのが得意なタイプではないのかもしれない。

 そういえば、フォロワーはどこで仕事をしてたんだろう。
 あまり人と関わらないような仕事をしてたのかな。なんとなく、総務部のイメージがあるけど。


「でも、その……どうしようかな……? 何か、することがあればいいんだけど……」
「フォロワーのボディには、軽度の損傷が見られます。念のため、ケアラーに検査を依頼されてはいかがですか?」
「あっ、うん。そ、そうしよかな」

 マネージャーは、先ほどとは打って変わって、淡々と提案する。


 しかしフォロワーは嬉しそうに頷いた。

「えっと、マネージャーの言う通りにするよ、ケアラーが暇ならだけど……」
「暇じゃないなら、リクエストを拒否しますよ。フォロワー以外は」
「ご、ごめん……」

 フォロワーはしゅんとなって謝罪した。
 叱られた子供のようだ。叱られてるわけじゃないのに。


「……ケアラーは、リクエストを承認しました。メディカルセンターで検査と治療を行うそうです。移動しますか?」
「えっ……と、うん、そうした方がいいよね。えっと……」

 フォロワーはあたふたしながら、困ったように口ごもる。

「移動をリクエストした方がいいですか?」

 マネージャーは、少しイラっとしているらしく、早口で言う。


「う、ううん。大丈夫。今から行く」
「分かりました」

 マネージャーがそう言うと、フォロワーは逃げるように歩き出し、思い出したように僕を振り向く。

「それじゃあその、アイトさん。助けてくれて、本当にありがとうございました。何かあれば、マネージャーに言ってください。マネージャーは良くしてくれると思うから……」

 それだけ言うと、フォロワーは、そのまま逃げるように走り去った。
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