滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢

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10 最終章

28階——前編

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 温かな火が暖炉で燃えている。

 部屋には大量の扉がある。壁の端っこから端っこまで、はしごがあり、さらにその上に通路があって、そこにも扉、さらにその上にも通路と扉。

 扉はそれぞれ、ボロボロの木製、冷たい金属製、高級感のある木製、何でできてるか分からない扉、数えるのも嫌なくらいの数がある。


 けれどそんな扉を除けば、その部屋は普通の部屋だった。いやむしろ、快適な部屋だ。

 床には豪華な絨毯が敷いてあり、中央にはサイドテーブルが置いてある。

 そのサイドテーブルの上には瓶が置いてあり、それぞれに液体が入っている。
 それらの瓶には、ラベルが貼ってある。

『裏切り者には知恵を授けよう』
『臆病者はその命を助けよう』
『卑怯者へ天使の祝福を』

 サイドテーブルの天板には、小さな文字が彫ってある。

『親愛なる勇者たちへ、絶望を』


 ……そういう変なものを除けば、本当にその部屋はただの書斎に見えた。

 扉と反対側の壁には本棚があり、ぎっしりと本が並んでいる。
 左右の壁には戸棚があって、クッキーの入った缶や、清潔な水が入った水差しがある。

「あら、アリスが苦手そうな階層ね」


 周囲に魔物や罠など、脅威は見当たらない。
 シアトルさんは、クッキーを1枚食べた。

「俺が苦手そうって?」
「このタイプの階層は、確実に脱落者が出るのよ」
「……どういう?」

 シアトルさんは、わたしにクッキーをくれた。
 どうやら、食べてもいいよってことらしい。

 わたしはその中から、一枚取り出して頬張る。……チョコチップクッキーだ。


「扉があるでしょ? 正解の扉は常に1枚。正解の扉だけが、次の階層に繋がってるのよ。食べ物と飲み物は無限に出て来るから、悩む時間だけは無限にあるけれど、どんなに悩んでも正解は見つけられないの」

 なんとなく、状況が飲み込めてきた。
 つまりこれは、究極の運ゲー。


「不正解の扉の先に何があるのか、それは誰にも分からないわ。戻って来た人がいないもの。本当に死ぬかどうかすら分からない。ただ確実なのは、不正解を選んだ者は、必ずするということよ」

「そんなの、ドアだけちょっと隙間を開けて、中を見ちゃえばいいんじゃないのー? なんだかいい感じのところを選んで、進んでみよー!」

「ダメよ、レイス。扉に触れた瞬間、開くことなくその先へ飛ばされるらしいから。言うまでもなく、私は不正解に入ったことはないけど」

「それなら壊しちゃえば? そうしたら扉の向こうが見えるよ!」

「この階層は特殊なの。全ての魔術が無効化され、どんな手段を用いても、扉も壁も破壊できない。扉の先を知る方法はただ一つ。中央に置いてある瓶の中身を飲むことよ。そうすれば、正解の扉が分かるの。そして確実に突破できる。……でも、その瓶の中身を飲んだ人と同じ扉に入ることはできない」

 シアトルさんはそう言って、本棚の本を適当に取り、ページを開いた。

「ルールは書いてあるわ。ご丁寧にね」

 そして肩を竦める。

「それで『裏切り者』『臆病者』『卑怯者』ってことか。仲間を騙してそれを飲めば、正解は分かるが、仲間は死ぬと」
「ええ、その通り。本来はことだと思うわ」

「正解を判別する方法は他にないのか? そこに置いてある本を読むとか」

 アリスメードさんは、本棚に手を伸ばす。


「ないわね。一応、定石はあるのよ。誰かに飲ませて正解を当てさせ、その場で殺せば、同じ扉に入る者はいない。一人の犠牲で済むわ」

「そんなことできるか! 何かヒントがあるはずだ。俺が探す」

 そう言ってアリスメードさんは、本棚の本を読み始めた。

 アリスメードさんに「キースに飲ませろ、畜生はここでさよならだ」とか言われたらどうしよう、ロイドさんはどっちの味方かなとかちょっと思ったけど、さすがはわたしたちのアリスメードさん。

 コウモリ一匹も見捨てないでいていくれる。
 どんなときでも、全員生存の道を探ってくれるみたいだ。


「……あの、ロイドさん」
「どうした?」
「えっと……ロイドさんって、戦えたんですね」

 ロイドさんは、絨毯の上に座っていた。
 本を開いていたが、なんかさっきシアトルさんが広げていたのと同じ内容のような気がする。

「俺の知識は、動物を傷つけるんじゃなく、助けるために使いたいんだけどな」

「でも、すっごくかっこよかったです」
「キースとお前が動いたおかげだ。フェンネルもな」

「普段全然戦わないのも、そういう理由があるんですか?」
「ホーンウルフがいるだろ。仮に俺が死んだら、テイムされた魔獣は言うことも聞かないし、野生には戻れず、死ぬしかない」

「シアトル、全部同じ内容なのか?」

 アリスメードさんは、バタバタと本を捲っている。
 既にスードルとシアトルさんも、本を読んでいた。

 フェンネルさんも手伝ってるみたいだったけど、わたしが見る限り、表紙が上下逆さまだ。


「キー、キー」

 驚いたことに、キースまでもが人の姿になり、本を広げて読んでいる。
 フェンネルさんがあの始末なのに、キースに何かできるようには見えないけどな。

「何を読んでるの、キース」
「キー」
「キース、今のキースはコウモリじゃないから、あまりキーキー言わない方がいいよ」
「ハッ!?」

 人の姿に慣れなさすぎるキースは、自分で自分にびっくりしていた。
 なんか、かわいい。


「読めるの?」
「わかんない」
「えっ、なんで眺めてるの?」
「スズ、まもるから」

 キースは真剣な顔をしてそう言った。
 なんか、めっちゃアホだけど、ちょっと嬉しい。


 読めもしない本を眺めるキースの横顔を見つつ、わたしはふと呟いた。

「ねぇキースって、その眼、使えないの?」
「キ……なに?」

 鳴きかけたキースは途中で持ち直し、かわいく首を傾げる。

「キース、精霊さんにもらったじゃん。その眼。魔眼とか言われてなかった?」
「キー?」

 コウモリを人間にする力だし、それだけで十分といえば十分なのだけど、せっかく持っているからには、何か特殊能力があってもいいような気がする。


「なんかないの? 扉の向こうが見えるとか」
「どうやって、やるの?」
「それは分かんないけど……透視だよ、透視って知らない?」
「とーし?」

 キースはキョトンとしている。

「シアトルさん、透視とかできないですか? 魔法とかで」
「とうし……っていうのが何か分からないけれど。もしかして、世界樹の都市で聞いたのかしら?」

 あれ、シアトルさんも知らないなんて。
 もしかして、この世界にはそういうのはないんだろうか。


 そういえば、空を飛ぶ人はいるけど、物を浮かせたりスプーンを曲げたりする人はいないような気がする。

 いや、スプーンくらいは曲げる人がいそうだけど、テレパシーとかテレポートとか、いわゆる超能力者的なものは聞いてない世界樹の都市のエフさんとかはそうだけど、こっちの世界にはいないと思う。

 ……いや、どこかで神と対話できる人とか、未来視ができたりするような人に出会ったような気がしなくもない……けど……


 ただ魔眼をくれた精霊族さん本人は、千里眼的なもので世界樹の都市の様子を眺めていたような風があった。

 でも、あくまで精霊族さんは特殊だし。


「それじゃあキース、やればできるかもしれないじゃん。やってみようよ」
「うん! やる! どうやればいい?」
「えっ……と……」

 いやわたしだって、透視なんかしたことない。

 昔テレビで見たくらいだ。……いや、ちょっと調べたりもしたかもしれないけど。


「えっとね、なんかこう……スピリチュアルって分かる? 霊界と通信する感じというか。こう……自分の中にある第三の魂を解放する感じというか」
「ぜんぜんわかんない」
「ごめん」

 四苦八苦しながら、わたしはキースに透視の方法を教授するのだった。
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