132 / 143
10 最終章
28階——後編
しおりを挟む
本を読むのに飽きたレイスさんとシアトルさん、そして全てを諦めたフェンネルさんと共に、キースは扉を凝視する。
「どうかなキース、見える?」
「……」
「……」
「……」
「……」
結果的に、部屋の中には真面目に本を読む男性陣と無表情で扉を睨む女性陣に分かれている。
ただ、アリスメードさんたちが読んでいる本は全部同じ内容らしいので、意味があるかどうかは定かではないけど。
別にキース以外の人はやる必要はないのだけど、レイスさんとフェンネルさんはもとより、シアトルさんまで本を読むのは好きではないらしい。
「ナンカ……ミエル、キガスル……」
「えっ本当!? すごい!」
キースはムムムと顔を歪ませ、扉を睨む。
見えてるかどうかは外側からは定かではないけど、キースが見えるというなら見えているのだと思う。
「ねえキース、これ見て、見てみて」
わたしは、散らかった本を一冊取って広げて立てて持ち、その後ろに自分の手を隠し、キースに向き合った。
「指、何本?」
「キ、キー」
「これは?」
「キー」
「じゃあこれは?」
「キーキー」
「……これは?」
「キー!」
「すごい、全部当たってるよ!」
どうやら、本当に透視能力を獲得してしまったらしい。
いや、もともとあっただろうから、ただ覚醒しただけだろうけど。
「キー!」
キースは嬉しそうに宙返りし、扉の方に向き直った。
自信がついたらしい。
どうやら、本番を始めるみたいだ。
「何が見えるの?」
「ナニモ……ナイ」
「何もない?」
「ウン、ハズレ」
「どれが当たりなの?」
尋ねると、キースはパタパタと飛んでいき、3段目の右の方へ近寄った。
「ココ」
通路の手すりにぶら下がり、キースはキーと小さく鳴く。
それなりに自信はあるみたいだ。
「待て、キース。入るなよ」
アリスメードさんは本を置き、飛ぶように梯子を上った。
「何が見えるんだ?」
「ヒカリ。スズ、コワシタノ、オナジ」
「間違いないわ。正解の扉の先はタワーよ」
シアトルさんが言う。
「……シアトル、不正解に入ったらどうなるんだ?」
「死ぬわ」
「そうじゃない。俺が聞いてるのは残った方のことだ」
「何も起こらないわよ。逆に、正解に入れば全員次の階に行く。だから、正解と不正解の違いは分かるわよ」
「分かった。なら俺が入る」
「キー!?」
キースが大きな声を上げた。
わたしにしてみれば、なんか、なんとなくアリスメードさんならそう言うだろうな、とは思っていたのであまり大きな驚きはない。
「……私が行くわよ、アリス。あなたはこのパーティのリーダーなんだから。役割からして、私が行くべきだわ」
「駄目だ。ダンジョンの攻略経験があるのはシアトルだけなんだ。ここで失うわけにはいかない」
「でも、それを言ったらアリスメードさんだって……遠距離の物理攻撃が使えるのは、アリスメードさんしかいないんですよ。キースに責任を取らせた方がいいと思います」
「キー!?」
「キースは貴重な空中戦力だ。現状、一番汎用性が高いスズネが、空を失うのは痛すぎる」
「シショー!」
イケメンのアリスメードさんに、キースがすっかりメロメロだ。
アリスメードさんは、やっぱりみんなに優しい。
「僕が開けます、アリスさん」
名乗り出たのは、スードルだった。
「いや、でも」
「僕なら、欠けても一番ダメージが少ないです。僕、レイスさんとスズネの補助はできるけど、決定力に欠けるし」
と、スードルは淡々と言った。
「二人が言うように、アリスさんとシアトルさん、それにキースが抜けるのはあり得ません。最大範囲攻撃のレイスさんを失うわけにもいかないし。そうなると、スズネは耐久がないから、レイスさんを守るための前衛を任せられるフェンネルさんも必要で。どんな敵が出て来るか分からない以上、魔獣に詳しくて、ポーションの調合ができるロイドさんも失いたくない。それならもう、僕しかないじゃないですか」
スードルははしごに手をかける。
けれど、わたしはそれを追い越して、はしごを上った。
「スズネ……」
「なんでそんなに深刻になってるの? キースが正解を当ててくれたんだから、開けるのなんて誰でもいいのに。どうせみんな、一緒に行くんだし」
「キー、キー!」
実際、わたしはそう思っていた。
スードルの自己犠牲の精神とか、アリスメードさんのリーダーシップとかどうでもよくて、さっさと次に進めばいいのにと、そのくらいしか思わなかった。
「ちなみにスードル、次の階ってどんな感じなの?」
「えっ、あ……えっと、同じような、室内、かな。魔物は少ないよ。さっき調べてたんだけど」
「じゃあ、もう大丈夫だよね」
だってキースが「見える」って言ったんだから見えたんだろうし、それを疑う理由なんてわたしにはなかった。
だからわたしはそのドアノブに触れた。
周りの個性的なドアに比べて、このドアには個性がない。どこにでもありそうな、一般的な量産品の、玄関ドアにはなり得ないくらいに無個性で没個性な木製ドア。
その金属製のノブに触れた。
その瞬間、頭の中に声が響いた。
『オマエの足りない魔術の腕で、せいぜい大きな泡を作れ。死にたくなければな』
誰、とか、なんで、とか、色々考えようはあったと思う。
けれどわたしは、そんなこと考えるより先に、その声に従った。
「どうかなキース、見える?」
「……」
「……」
「……」
「……」
結果的に、部屋の中には真面目に本を読む男性陣と無表情で扉を睨む女性陣に分かれている。
ただ、アリスメードさんたちが読んでいる本は全部同じ内容らしいので、意味があるかどうかは定かではないけど。
別にキース以外の人はやる必要はないのだけど、レイスさんとフェンネルさんはもとより、シアトルさんまで本を読むのは好きではないらしい。
「ナンカ……ミエル、キガスル……」
「えっ本当!? すごい!」
キースはムムムと顔を歪ませ、扉を睨む。
見えてるかどうかは外側からは定かではないけど、キースが見えるというなら見えているのだと思う。
「ねえキース、これ見て、見てみて」
わたしは、散らかった本を一冊取って広げて立てて持ち、その後ろに自分の手を隠し、キースに向き合った。
「指、何本?」
「キ、キー」
「これは?」
「キー」
「じゃあこれは?」
「キーキー」
「……これは?」
「キー!」
「すごい、全部当たってるよ!」
どうやら、本当に透視能力を獲得してしまったらしい。
いや、もともとあっただろうから、ただ覚醒しただけだろうけど。
「キー!」
キースは嬉しそうに宙返りし、扉の方に向き直った。
自信がついたらしい。
どうやら、本番を始めるみたいだ。
「何が見えるの?」
「ナニモ……ナイ」
「何もない?」
「ウン、ハズレ」
「どれが当たりなの?」
尋ねると、キースはパタパタと飛んでいき、3段目の右の方へ近寄った。
「ココ」
通路の手すりにぶら下がり、キースはキーと小さく鳴く。
それなりに自信はあるみたいだ。
「待て、キース。入るなよ」
アリスメードさんは本を置き、飛ぶように梯子を上った。
「何が見えるんだ?」
「ヒカリ。スズ、コワシタノ、オナジ」
「間違いないわ。正解の扉の先はタワーよ」
シアトルさんが言う。
「……シアトル、不正解に入ったらどうなるんだ?」
「死ぬわ」
「そうじゃない。俺が聞いてるのは残った方のことだ」
「何も起こらないわよ。逆に、正解に入れば全員次の階に行く。だから、正解と不正解の違いは分かるわよ」
「分かった。なら俺が入る」
「キー!?」
キースが大きな声を上げた。
わたしにしてみれば、なんか、なんとなくアリスメードさんならそう言うだろうな、とは思っていたのであまり大きな驚きはない。
「……私が行くわよ、アリス。あなたはこのパーティのリーダーなんだから。役割からして、私が行くべきだわ」
「駄目だ。ダンジョンの攻略経験があるのはシアトルだけなんだ。ここで失うわけにはいかない」
「でも、それを言ったらアリスメードさんだって……遠距離の物理攻撃が使えるのは、アリスメードさんしかいないんですよ。キースに責任を取らせた方がいいと思います」
「キー!?」
「キースは貴重な空中戦力だ。現状、一番汎用性が高いスズネが、空を失うのは痛すぎる」
「シショー!」
イケメンのアリスメードさんに、キースがすっかりメロメロだ。
アリスメードさんは、やっぱりみんなに優しい。
「僕が開けます、アリスさん」
名乗り出たのは、スードルだった。
「いや、でも」
「僕なら、欠けても一番ダメージが少ないです。僕、レイスさんとスズネの補助はできるけど、決定力に欠けるし」
と、スードルは淡々と言った。
「二人が言うように、アリスさんとシアトルさん、それにキースが抜けるのはあり得ません。最大範囲攻撃のレイスさんを失うわけにもいかないし。そうなると、スズネは耐久がないから、レイスさんを守るための前衛を任せられるフェンネルさんも必要で。どんな敵が出て来るか分からない以上、魔獣に詳しくて、ポーションの調合ができるロイドさんも失いたくない。それならもう、僕しかないじゃないですか」
スードルははしごに手をかける。
けれど、わたしはそれを追い越して、はしごを上った。
「スズネ……」
「なんでそんなに深刻になってるの? キースが正解を当ててくれたんだから、開けるのなんて誰でもいいのに。どうせみんな、一緒に行くんだし」
「キー、キー!」
実際、わたしはそう思っていた。
スードルの自己犠牲の精神とか、アリスメードさんのリーダーシップとかどうでもよくて、さっさと次に進めばいいのにと、そのくらいしか思わなかった。
「ちなみにスードル、次の階ってどんな感じなの?」
「えっ、あ……えっと、同じような、室内、かな。魔物は少ないよ。さっき調べてたんだけど」
「じゃあ、もう大丈夫だよね」
だってキースが「見える」って言ったんだから見えたんだろうし、それを疑う理由なんてわたしにはなかった。
だからわたしはそのドアノブに触れた。
周りの個性的なドアに比べて、このドアには個性がない。どこにでもありそうな、一般的な量産品の、玄関ドアにはなり得ないくらいに無個性で没個性な木製ドア。
その金属製のノブに触れた。
その瞬間、頭の中に声が響いた。
『オマエの足りない魔術の腕で、せいぜい大きな泡を作れ。死にたくなければな』
誰、とか、なんで、とか、色々考えようはあったと思う。
けれどわたしは、そんなこと考えるより先に、その声に従った。
14
お気に入りに追加
884
あなたにおすすめの小説
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる