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10 最終章

28階——後編

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 本を読むのに飽きたレイスさんとシアトルさん、そして全てを諦めたフェンネルさんと共に、キースは扉を凝視する。

「どうかなキース、見える?」

「……」
「……」
「……」
「……」

 結果的に、部屋の中には真面目に本を読む男性陣と無表情で扉を睨む女性陣に分かれている。

 ただ、アリスメードさんたちが読んでいる本は全部同じ内容らしいので、意味があるかどうかは定かではないけど。


 別にキース以外の人はやる必要はないのだけど、レイスさんとフェンネルさんはもとより、シアトルさんまで本を読むのは好きではないらしい。


「ナンカ……ミエル、キガスル……」
「えっ本当!? すごい!」

 キースはムムムと顔を歪ませ、扉を睨む。
 見えてるかどうかは外側からは定かではないけど、キースが見えるというなら見えているのだと思う。


「ねえキース、これ見て、見てみて」

 わたしは、散らかった本を一冊取って広げて立てて持ち、その後ろに自分の手を隠し、キースに向き合った。

「指、何本?」
「キ、キー」
「これは?」
「キー」
「じゃあこれは?」
「キーキー」
「……これは?」
「キー!」
「すごい、全部当たってるよ!」

 どうやら、本当に透視能力を獲得してしまったらしい。
 いや、もともとあっただろうから、ただ覚醒しただけだろうけど。

「キー!」


 キースは嬉しそうに宙返りし、扉の方に向き直った。
 自信がついたらしい。
 どうやら、本番を始めるみたいだ。

「何が見えるの?」
「ナニモ……ナイ」
「何もない?」
「ウン、ハズレ」

「どれが当たりなの?」

 尋ねると、キースはパタパタと飛んでいき、3段目の右の方へ近寄った。

「ココ」

 通路の手すりにぶら下がり、キースはキーと小さく鳴く。
 それなりに自信はあるみたいだ。


「待て、キース。入るなよ」

 アリスメードさんは本を置き、飛ぶように梯子を上った。

「何が見えるんだ?」
「ヒカリ。スズ、コワシタノ、オナジ」

「間違いないわ。正解の扉の先はタワーよ」

 シアトルさんが言う。


「……シアトル、不正解に入ったらどうなるんだ?」
「死ぬわ」
「そうじゃない。俺が聞いてるのはのことだ」

「何も起こらないわよ。逆に、正解に入れば全員次の階に行く。だから、正解と不正解の違いは分かるわよ」

「分かった。なら俺が入る」
「キー!?」

 キースが大きな声を上げた。
 わたしにしてみれば、なんか、なんとなくアリスメードさんならそう言うだろうな、とは思っていたのであまり大きな驚きはない。


「……私が行くわよ、アリス。あなたはこのパーティのリーダーなんだから。役割からして、私が行くべきだわ」

「駄目だ。ダンジョンの攻略経験があるのはシアトルだけなんだ。ここで失うわけにはいかない」


「でも、それを言ったらアリスメードさんだって……遠距離の物理攻撃が使えるのは、アリスメードさんしかいないんですよ。キースに責任を取らせた方がいいと思います」

「キー!?」

「キースは貴重な空中戦力だ。現状、一番汎用性が高いスズネが、空を失うのは痛すぎる」

「シショー!」

 イケメンのアリスメードさんに、キースがすっかりメロメロだ。
 アリスメードさんは、やっぱりみんなに優しい。


「僕が開けます、アリスさん」

 名乗り出たのは、スードルだった。

「いや、でも」
「僕なら、欠けても一番ダメージが少ないです。僕、レイスさんとスズネの補助はできるけど、決定力に欠けるし」

 と、スードルは淡々と言った。

「二人が言うように、アリスさんとシアトルさん、それにキースが抜けるのはあり得ません。最大範囲攻撃のレイスさんを失うわけにもいかないし。そうなると、スズネは耐久がないから、レイスさんを守るための前衛を任せられるフェンネルさんも必要で。どんな敵が出て来るか分からない以上、魔獣に詳しくて、ポーションの調合ができるロイドさんも失いたくない。それならもう、僕しかないじゃないですか」


 スードルははしごに手をかける。
 けれど、わたしはそれを追い越して、はしごを上った。

「スズネ……」
「なんでそんなに深刻になってるの? キースが正解を当ててくれたんだから、開けるのなんて誰でもいいのに。どうせみんな、一緒に行くんだし」

「キー、キー!」

 実際、わたしはそう思っていた。

 スードルの自己犠牲の精神とか、アリスメードさんのリーダーシップとかどうでもよくて、さっさと次に進めばいいのにと、そのくらいしか思わなかった。


「ちなみにスードル、次の階ってどんな感じなの?」

「えっ、あ……えっと、同じような、室内、かな。魔物は少ないよ。さっき調べてたんだけど」

「じゃあ、もう大丈夫だよね」

 だってキースが「見える」って言ったんだから見えたんだろうし、それを疑う理由なんてわたしにはなかった。


 だからわたしはそのドアノブに触れた。

 周りの個性的なドアに比べて、このドアには個性がない。どこにでもありそうな、一般的な量産品の、玄関ドアにはなり得ないくらいに無個性で没個性な木製ドア。

 その金属製のノブに触れた。


 その瞬間、頭の中に声が響いた。

『オマエの足りない魔術の腕で、せいぜい大きな泡を作れ。死にたくなければな』

 誰、とか、なんで、とか、色々考えようはあったと思う。
 けれどわたしは、そんなこと考えるより先に、その声に従った。
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