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09 交流の成果
ヒカリ
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結局、わたしは鉱山に向かうことにした。
鉱山が心配だったし、テウォンとクルルさんに会いたかったし、アリスメードさんたちもいるし。
ディーさんたちが嫌いなわけではないけど、実を言うと、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、価値観の相違というか、音楽性の違いというか、そういうものを感じて居心地が悪い。ことも、なくもない。
……エヌさんが帰って来たのは、ジーさんが去ってからたった3日後のことだった。
その間、エナさんを除くみんなでギルドに登録し、ギルドの依頼を受けた。
エフさんのミュータント能力は上手く使えないみたいだったけど、エルさんの能力は上手くいっているようだった。
彼の能力の詳細は何度聞いても分からない。
とにかく「好きなものを好きなだけぶっ壊せる。僕は芸術家だから」と。
破壊は芸術かもしれないけど、芸術は破壊だけじゃない。
エルさんを見て、わたしは強くそう感じた。
エルさんを含め、みんな最初はこの世界で戦うのにも苦労してたみたいだけど、危険な魔獣の討伐なんかにも、すぐに慣れてしまって、簡単に仕留めていた。
エナさんの言う通り、戦闘はビーさんとエルさんが担当していたけど、他のメンバーも戦えないわけではないみたいだ。
銃は弾数に限りがあるから、あんまり使えないみたいだったけど、エナさんたちはわたしの見たことないような武器や装備を、たくさん持って来ていた。
それらはジーさんによって改造され、こちらの世界でもちゃんと機能するようにされていたらしい。
どれもこれも、魔石つまりマナ・ストーンなしでは動かないのが難点だけど、ディーさんたちは、連日の依頼のクリアで溜まったお金をほとんど注ぎ込み、大量の魔石を手に入れていた。
わたしも、一部の装備を分けてもらったりして、キースと遊んだりしていた。
エヌさんが言うには、話はまとまって、機械は撤去しても良いということになったらしい。
けれど、せっかく闇の峡谷の王子様からもらったものだし、一応連絡くらいはしておかないと、誤解を生んではいけないということになったみたいだ。
異世界から来たエナさんたちの話でそういうことになったみたいだし、自分たちで事情を説明することを条件にされたらしい。
そういう話を聞いたエナさんが、わたしにとっては意外だったのだけど、「僕が行って来るよ」とその説明役を引き受けてくれたのだ。
「どうせ、その闇の峡谷ってやつも遠いんでしょ? スズネちゃんの話を聞くと、王子様って奴は直接の手下っぽいし、十中八九邪魔して来ると思う。先制攻撃を仕掛けなきゃ。でも、エヌなんか送り込んだら確実に帰って来ないと思うよ。かといって、いくら十分なマナがあっても、全員でのんびり移動してる時間はない。ダンジョンにおける機械の撤去と峡谷の遠征、同時に行いたい。エーチの能力がちゃんと使えるか分からない以上、みんなが峡谷へ行っても無駄な犠牲になりかねない。だから僕が行く」
「でもエナさん、バスの運転、できるんですか? それに、火山もあるし、峡谷なんて真っ暗で、歩いて行くのは大変ですよ。一人では無理だし……エナさん、冒険者さんと仲良くできますか?」
「スズネちゃんってさ、見た目も声もめちゃくちゃ可愛い幼女なのに、しっかり毒を吐くよね。まあいいけどさ。ちゃんと移動手段は考えてあるよ。僕としてはかなり嫌な方法だけど、熱も闇も炎も、僕にとっては意味をなさない。……むしろ得意な分野だよ。だから心配しないで大丈夫。安心してね」
「エナさんの心配はしてないです。一人で行くなら、嫌な思いをする人はいないんですね。安心しました!」
「忘れてると思うけど、僕がこっちの世界に来た以上、自力で醤油を探すことは十分に可能なんだからね? 君、僕の気分次第でいつでも殺せるんだからね?」
そういう話があって、エナさんは一人で王子様のところへ行った。
残ったみんなは、怖い総督がいなくなったので、伸び伸びしながらダンジョンへ向かうことになったのだった。
「スズネちゃん、一人で大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。わたし、ほとんど一人だったんです」
「キー!」
「あ、キースは一緒だったけど」
わたしは、ディーさんたちにはついていかないことにした。
砂漠のダンジョンには興味はあったけど、わたしはダンジョンには詳しくないし、力にはなれない。
「……スズネちゃん。教えてほしいことがあるんだ」
すっかり精神状態が回復したエーチさんは、屈んでわたしと視線を合わせた。
「僕らの世界に入って来たとき、使った魔法を教えてくれないかな」
「世界樹の都市に?」
「うん。あの長い通路の蓋を開けるときに、使った魔法だよ。……魔術っていうんだっけ。向こうでちょっと、教えてくれない?」
「私たち、バスにいますよ。準備ができたら乗ってくださいね」
エーチさん以外は、バスに乗り込んだ。
やっぱり運転はエヌさんがするみたいだ。
「スードルに聞かなかったんですか?」
「あの、スードルくんとかいう子は知らなかったから」
ああ、そういえばあの魔法は、闇の峡谷の王子様に教えてもらったものだった。
普通の魔術とは、違うのかもしれない。
「どうして知りたいんですか?」
「……ちょっと気になることがあるんだ。スズネちゃんが一緒に来てくれるなら、スズネちゃんに頼んでも良かったんだけど、お友達を助けに……行きたいんだよね?」
勝手に教えていいのかなとはちょっと思ったけど、基本的に何かの蓋を開けるだけの呪文だ。
わたしは世界を救うよりも、鉱山に行きたかったし、何かの役に立つかもしれない。
「分かりました。でも、悪いことに使っちゃダメですよ。蓋を開けるだけだから、そんなに使い所もないだろうけど……」
わたしは、カバンの中から瓶詰めのピクルスを取り出した。
ベーカリーで分けてもらったものだ。
サンドウィッチの具にするらしいけど、酸っぱいからあんまり好きじゃない。
「デュオ・コッド」
パカッと音がして、瓶の蓋が外れた。
「これだけです。他の魔術とは違って、呪文を始点にして使うから、呪文を唱えないと使えないんですよ」
わたしは、もう一度ピクルスの蓋を自分で閉めて、エーチさんに渡した。
「デュオ・コッド」
エーチさんはそれを受け取り、呟く。
パカッとまた蓋が外れた。
「……できた」
「そんなに難しくないですよ。呪文が大事なんだって、言ってました。これで、大丈夫ですか?」
「……うん。ありがとう」
エーチさんはピクルスの瓶をわたしに渡そうとした。
でも、わたしは首を振る。
「それ、あんまり好きじゃないから、あげます」
「……ありがとう」
エーチさんは、わたしの頭を撫でて言った。
「本当に、ありがとう」
「ピクルス、好きなんですか?」
「……そう、だね。嬉しかった」
エーチさんは、ヒュッと小さく息を吸い込む。
それから決心したように、声を落として、わたしに囁いた。
「色々、ごめんね。スズネちゃんには、すごく……色々……悪いことをしたと思うよ。総督の分も、みんなの分も……僕から、謝る。みんな……本当は良い人たちなんだ。ただ、精一杯で。僕らは、自分たちの世界を守らなきゃいけなかった。……何もかも終わったら、また、都市に遊びに来てくれる?」
「エーチ! いつまで話しているんだ? 日が暮れてしまうぞ!」
バスの窓を開けて、アイさんが手を振った。
エーチさんはそれを一瞥し、またわたしの頭を撫でた。
「……スズネちゃんのお陰で、スズネちゃんを犠牲にしない道ができた。本当に感謝してる。ありがとう。僕らに未来を見せてくれて。僕らの光ある未来を、君が教えてくれたんだ」
「そんなこと、ないですよ。わたしは何もしてないです」
「キー」
「キースは本当に何もしてないじゃん」
「キー!?」
「……君の存在は、僕らにとってイズミなんかじゃなくて、……光、そのものだったんだ」
エーチさんは立ち上がり、わたしに笑いかけた。
疲れたような感じだったけど、まだ元気さもある。
「君の前途に、光ある未来を。……君が見せてくれた未来を、僕らが手に入れてみせるよ」
バスの窓から、エフさんとかディーさんとかアイさんとか、みんなが顔を出して手を振っていた。
わたしも手を振りかえした。
バスは、ジーさんの運転の時とは裏腹に、ゆっくり出発したので、窓から出した首を激しくぶつけるような人はいなかった。
「気をつけてくださいね!」
「キー!」
わたしは、そのバスが小さくなるまで手を振った。
みんなの世界にも、この世界にも、両方にとって光ある未来が、訪れるはずだと確信して。
鉱山が心配だったし、テウォンとクルルさんに会いたかったし、アリスメードさんたちもいるし。
ディーさんたちが嫌いなわけではないけど、実を言うと、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、価値観の相違というか、音楽性の違いというか、そういうものを感じて居心地が悪い。ことも、なくもない。
……エヌさんが帰って来たのは、ジーさんが去ってからたった3日後のことだった。
その間、エナさんを除くみんなでギルドに登録し、ギルドの依頼を受けた。
エフさんのミュータント能力は上手く使えないみたいだったけど、エルさんの能力は上手くいっているようだった。
彼の能力の詳細は何度聞いても分からない。
とにかく「好きなものを好きなだけぶっ壊せる。僕は芸術家だから」と。
破壊は芸術かもしれないけど、芸術は破壊だけじゃない。
エルさんを見て、わたしは強くそう感じた。
エルさんを含め、みんな最初はこの世界で戦うのにも苦労してたみたいだけど、危険な魔獣の討伐なんかにも、すぐに慣れてしまって、簡単に仕留めていた。
エナさんの言う通り、戦闘はビーさんとエルさんが担当していたけど、他のメンバーも戦えないわけではないみたいだ。
銃は弾数に限りがあるから、あんまり使えないみたいだったけど、エナさんたちはわたしの見たことないような武器や装備を、たくさん持って来ていた。
それらはジーさんによって改造され、こちらの世界でもちゃんと機能するようにされていたらしい。
どれもこれも、魔石つまりマナ・ストーンなしでは動かないのが難点だけど、ディーさんたちは、連日の依頼のクリアで溜まったお金をほとんど注ぎ込み、大量の魔石を手に入れていた。
わたしも、一部の装備を分けてもらったりして、キースと遊んだりしていた。
エヌさんが言うには、話はまとまって、機械は撤去しても良いということになったらしい。
けれど、せっかく闇の峡谷の王子様からもらったものだし、一応連絡くらいはしておかないと、誤解を生んではいけないということになったみたいだ。
異世界から来たエナさんたちの話でそういうことになったみたいだし、自分たちで事情を説明することを条件にされたらしい。
そういう話を聞いたエナさんが、わたしにとっては意外だったのだけど、「僕が行って来るよ」とその説明役を引き受けてくれたのだ。
「どうせ、その闇の峡谷ってやつも遠いんでしょ? スズネちゃんの話を聞くと、王子様って奴は直接の手下っぽいし、十中八九邪魔して来ると思う。先制攻撃を仕掛けなきゃ。でも、エヌなんか送り込んだら確実に帰って来ないと思うよ。かといって、いくら十分なマナがあっても、全員でのんびり移動してる時間はない。ダンジョンにおける機械の撤去と峡谷の遠征、同時に行いたい。エーチの能力がちゃんと使えるか分からない以上、みんなが峡谷へ行っても無駄な犠牲になりかねない。だから僕が行く」
「でもエナさん、バスの運転、できるんですか? それに、火山もあるし、峡谷なんて真っ暗で、歩いて行くのは大変ですよ。一人では無理だし……エナさん、冒険者さんと仲良くできますか?」
「スズネちゃんってさ、見た目も声もめちゃくちゃ可愛い幼女なのに、しっかり毒を吐くよね。まあいいけどさ。ちゃんと移動手段は考えてあるよ。僕としてはかなり嫌な方法だけど、熱も闇も炎も、僕にとっては意味をなさない。……むしろ得意な分野だよ。だから心配しないで大丈夫。安心してね」
「エナさんの心配はしてないです。一人で行くなら、嫌な思いをする人はいないんですね。安心しました!」
「忘れてると思うけど、僕がこっちの世界に来た以上、自力で醤油を探すことは十分に可能なんだからね? 君、僕の気分次第でいつでも殺せるんだからね?」
そういう話があって、エナさんは一人で王子様のところへ行った。
残ったみんなは、怖い総督がいなくなったので、伸び伸びしながらダンジョンへ向かうことになったのだった。
「スズネちゃん、一人で大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。わたし、ほとんど一人だったんです」
「キー!」
「あ、キースは一緒だったけど」
わたしは、ディーさんたちにはついていかないことにした。
砂漠のダンジョンには興味はあったけど、わたしはダンジョンには詳しくないし、力にはなれない。
「……スズネちゃん。教えてほしいことがあるんだ」
すっかり精神状態が回復したエーチさんは、屈んでわたしと視線を合わせた。
「僕らの世界に入って来たとき、使った魔法を教えてくれないかな」
「世界樹の都市に?」
「うん。あの長い通路の蓋を開けるときに、使った魔法だよ。……魔術っていうんだっけ。向こうでちょっと、教えてくれない?」
「私たち、バスにいますよ。準備ができたら乗ってくださいね」
エーチさん以外は、バスに乗り込んだ。
やっぱり運転はエヌさんがするみたいだ。
「スードルに聞かなかったんですか?」
「あの、スードルくんとかいう子は知らなかったから」
ああ、そういえばあの魔法は、闇の峡谷の王子様に教えてもらったものだった。
普通の魔術とは、違うのかもしれない。
「どうして知りたいんですか?」
「……ちょっと気になることがあるんだ。スズネちゃんが一緒に来てくれるなら、スズネちゃんに頼んでも良かったんだけど、お友達を助けに……行きたいんだよね?」
勝手に教えていいのかなとはちょっと思ったけど、基本的に何かの蓋を開けるだけの呪文だ。
わたしは世界を救うよりも、鉱山に行きたかったし、何かの役に立つかもしれない。
「分かりました。でも、悪いことに使っちゃダメですよ。蓋を開けるだけだから、そんなに使い所もないだろうけど……」
わたしは、カバンの中から瓶詰めのピクルスを取り出した。
ベーカリーで分けてもらったものだ。
サンドウィッチの具にするらしいけど、酸っぱいからあんまり好きじゃない。
「デュオ・コッド」
パカッと音がして、瓶の蓋が外れた。
「これだけです。他の魔術とは違って、呪文を始点にして使うから、呪文を唱えないと使えないんですよ」
わたしは、もう一度ピクルスの蓋を自分で閉めて、エーチさんに渡した。
「デュオ・コッド」
エーチさんはそれを受け取り、呟く。
パカッとまた蓋が外れた。
「……できた」
「そんなに難しくないですよ。呪文が大事なんだって、言ってました。これで、大丈夫ですか?」
「……うん。ありがとう」
エーチさんはピクルスの瓶をわたしに渡そうとした。
でも、わたしは首を振る。
「それ、あんまり好きじゃないから、あげます」
「……ありがとう」
エーチさんは、わたしの頭を撫でて言った。
「本当に、ありがとう」
「ピクルス、好きなんですか?」
「……そう、だね。嬉しかった」
エーチさんは、ヒュッと小さく息を吸い込む。
それから決心したように、声を落として、わたしに囁いた。
「色々、ごめんね。スズネちゃんには、すごく……色々……悪いことをしたと思うよ。総督の分も、みんなの分も……僕から、謝る。みんな……本当は良い人たちなんだ。ただ、精一杯で。僕らは、自分たちの世界を守らなきゃいけなかった。……何もかも終わったら、また、都市に遊びに来てくれる?」
「エーチ! いつまで話しているんだ? 日が暮れてしまうぞ!」
バスの窓を開けて、アイさんが手を振った。
エーチさんはそれを一瞥し、またわたしの頭を撫でた。
「……スズネちゃんのお陰で、スズネちゃんを犠牲にしない道ができた。本当に感謝してる。ありがとう。僕らに未来を見せてくれて。僕らの光ある未来を、君が教えてくれたんだ」
「そんなこと、ないですよ。わたしは何もしてないです」
「キー」
「キースは本当に何もしてないじゃん」
「キー!?」
「……君の存在は、僕らにとってイズミなんかじゃなくて、……光、そのものだったんだ」
エーチさんは立ち上がり、わたしに笑いかけた。
疲れたような感じだったけど、まだ元気さもある。
「君の前途に、光ある未来を。……君が見せてくれた未来を、僕らが手に入れてみせるよ」
バスの窓から、エフさんとかディーさんとかアイさんとか、みんなが顔を出して手を振っていた。
わたしも手を振りかえした。
バスは、ジーさんの運転の時とは裏腹に、ゆっくり出発したので、窓から出した首を激しくぶつけるような人はいなかった。
「気をつけてくださいね!」
「キー!」
わたしは、そのバスが小さくなるまで手を振った。
みんなの世界にも、この世界にも、両方にとって光ある未来が、訪れるはずだと確信して。
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