上 下
103 / 143
10 最終章

湖上のギルド

しおりを挟む
 鉱山は様変わりしていた。

 アリスメードさんたちがいくらAランクの冒険者パーティだといっても、どうしようもないくらいに様変わりしていた。


「……ねえキース、ここって……湖じゃなかったよね?」


 ちょうどクレーターみたいに凹んでいた街のほとんどは半分ほど水没していた。
 ギルド本部も半分以上が水没し、往来する人々はボートの上。

 魔獣がたくさん出て来たとかならまだ、どうにかしようもあっただろうけど、巻き込まれたらアリスメードさんたちも無事では済まなかっただろう。


 わたしは、街の入り口から出ている定期船に乗り、ギルドに向かった。

「お嬢ちゃん、この街は初めてかい?」
「違います。ダンジョンがどうとかって、大変だって聞いて……わたし、友達が心配で来たんです。宿をしてたんですけど、きっと……どこかに避難したのかな」

「宿屋の子か、そうだなぁ。俺たちも大変だったが、宿屋なんてもっと大変だったろうな」


 陽気な船乗りのおじさんは、どうやらもともと鉱夫をしていたらしい。
 
 しかし街と同時に坑道もほとんどが水没し、無事な部分はダンジョンへと変貌し、彼らは職を失ってしまった。
 

「だが、こうして船渡しの仕事は残ってる。この水のせいで俺らは鉱山を奪われたが、新しい仕事をもらったってわけだ。ま、鉱夫ほど稼げるわけじゃねーが、鉱夫ほどキツい仕事でもない。こっちの方が安心だって、俺の娘は喜んでるくらいだよ」

「生活の拠点はどこなんですか? お家も沈んじゃってそうですけど……」

「高原の方に移った奴もいるが、街の周りに避難所がある。多分、嬢ちゃんの友達もそこにいるんじゃねーかな。ギルドが作った簡易キャンプがあって、場所によってはすっかり元の街みたいになってるらしい」

「そのキャンプはどこに?」

「ギルドの方で聞いてみてくれよ。街の周囲の、できるだけ平らなところを縫うように作ったから、色んなところにあるんだ」


 水は不思議と透き通っていて、生活そのままに沈んでしまった街が見える。

 まるで水中都市だ。
 もし人魚さんなんかがこの世界にいたのなら、こういう街に住んでたりするんだろうか。

 街を間近から見下ろすことなんて滅多にないので、不謹慎かもしれないけど、その光景には惹きつけられるような魅力があった。


「こんにちはー……」

 やっつけというか突貫というか、とにかくそういう雑さがところどころに見受けられるエントランスを抜けて、わたしはカウンターに辿り着く。

 何故かあんまり人がいない。ダンジョン近くのギルドだから、たくさん人がいると思ってたんだけど。
 

 受付をやっていたのは、いつか、わたしにスポナーの説明とかをしてくれたお兄さんだ。
 向こうはわたしのこと、覚えてないだろうけど……

「お、もしかして、嬢ちゃん、スズネじゃないか?」
「え、わたし、そうです……けど」

「嬢ちゃん、立派になったなぁ、見違えたよ。覚えてるか? この前、ここに来てくれたときに案内したんだけど」

 お兄さんの方も、わたしのことを覚えていてくれたようだ。
 ちょっと嬉しい。

「わたしのこと、覚えててくれたんですね」
「幻獣連れた女の子なんて、そんな珍しいもの、なかなか忘れないだろ」


 そういえばわたしには、この白いもふもふがいたんだった。これは確かに目立つか。

「キー?」
「わたし、クルルさんっていうドワーフさんを探してるんです。知りませんか? 工房をしてたと思うんですけど」

「工房がどの辺りにあったか分かるか? 避難所は、もともと住んでた場所で分けられてるんだよ」


 ちょっと記憶が曖昧だったけど、大体の場所は覚えていた。

 わたしはお兄さんにキャンプの場所とか船の乗り場を教えてもらって、お礼を言う。
 

「あ、ちょっと待ってくれ。嬢ちゃん、ここのダンジョンの攻略には行かないのか?」

「わたし、ダンジョンの経験がないんです。だから一人では行かないかなって。……そういえば、アリスメードさんってここにいますか? もし、アリスメードさんに誘われたら、行こうと思うんですけど」

「アリスメード……って、Aランクパーティのワンダーランドか? そういえば、最近子供と仲良くなったとか、言ってたような。嬢ちゃんのことだったのか。帰還の予定、調べてみるよ」
「お願いします」

 お兄さんは一旦裏に引っ込んで、それから何か書いてある紙束みたいなのを持って戻って来た。

「10日間の調査の予定だそうだ。ついこの間行ったらしくて、帰還は8日後」
「分かりました。ありがとうございます」


 やっぱりアリスメードさんたちも、ダンジョンの攻略をしていたらしい。

 どのくらい大きいか分からないけど、やっぱり一筋縄ではいかないんだろうか。


「……ところで、また話は変わるんですけど」
「なんだ、まだあるのか?」

「ここ、すごく人が少ないですけど……どうしてですか? ダンジョンもできたし、冒険者の人がいっぱいいるのかと思ってました」

「ああ、キャンプの方に、ダンジョン前支部が別にあるからな。ダンジョンの関係はそっちで請け負ってるんだ。船とか、街のこととか、そういう生活のことは今まで通りこっちでやってるんだけどな。ほら、あんまりたくさん入ったら、こっちのギルドじゃ沈みそうだろ?」

「あ、あー、確かに……そうかも、ですね」

 そんな笑っていいのか分からないような冗談を聞き流しながら、わたしはふと依頼がたくさん貼ってある掲示板に目をやった。
 
 いつも通りというか、そこにはたくさんの依頼があった。
 いつも通りというか、いつも以上に。
 

「依頼もたくさんあるんですね。これ全部、ダンジョン以外の依頼なんですか?」

「そうだよ。なかなか片付かないんだ。難易度は高くないはずなんだけどな、冒険者が来ないから」
「どんな依頼ですか?」

「あぁ……何かを探してほしいって依頼がほとんどだよ。大切な思い出の品、形見を探してくれって依頼や、遺体を探してほしいってのもある」

「……遺体……」

「みんながみんな、避難が間に合ったわけじゃないからな。怪我人や病人の中には、動けないまま逃げ場を失ったって人も多い。何しろ水中だ。呼吸ができる冒険者は少ないし、今は海の方で魔獣が異常発生してて、騎士団も忙しい。守れなかった命より、守れる命が優先なんだ……仕方ないことだけどな」


 突然街全体が沈んだわけだし、そりゃあ、犠牲者は多かったはずだ。

 その日から長い時間が経ったはずなのに、まだ遺体が……


「……あの、わたし、依頼受けますよ。潜るのは得意なんです。久しぶりだけど」
「キー……?」
「受けてくれるのか? そりゃ、依頼者も喜ぶよ」

「キー、キーキー……」
「もちろんです」

 キースはちょっと嫌そうだった。けど、わたしはその抗議を無視することにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生 勝手やらせていただきます

仏白目
ファンタジー
天使の様な顔をしたアンジェラ  前世私は40歳の日本人主婦だった、そんな記憶がある 3歳の時 高熱を出して3日間寝込んだ時 夢うつつの中 物語をみるように思いだした。 熱が冷めて現実の世界が魔法ありのファンタジーな世界だとわかり ワクワクした。 よっしゃ!人生勝ったも同然! と思ってたら・・・公爵家の次女ってポジションを舐めていたわ、行儀作法だけでも息が詰まるほどなのに、英才教育?ギフテッド?えっ? 公爵家は出来て当たり前なの?・・・ なーんだ、じゃあ 落ちこぼれでいいやー この国は16歳で成人らしい それまでは親の庇護の下に置かれる。  じゃ16歳で家を出る為には魔法の腕と、世の中生きるには金だよねーって事で、勝手やらせていただきます! * R18表現の時 *マーク付けてます *ジャンル恋愛からファンタジーに変更しています 

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

転生することになりました。~神様が色々教えてくれます~

柴ちゃん
ファンタジー
突然、神様に転生する?と、聞かれた私が異世界でほのぼのすごす予定だった物語。 想像と、違ったんだけど?神様! 寿命で亡くなった長島深雪は、神様のサーヤにより、異世界に行く事になった。 神様がくれた、フェンリルのスズナとともに、異世界で妖精と契約をしたり、王子に保護されたりしています。そんななか、誘拐されるなどの危険があったりもしますが、大変なことも多いなか学校にも行き始めました❗ もふもふキュートな仲間も増え、毎日楽しく過ごしてます。 とにかくのんびりほのぼのを目指して頑張ります❗ いくぞ、「【【オー❗】】」 誤字脱字がある場合は教えてもらえるとありがたいです。 「~紹介」は、更新中ですので、たまに確認してみてください。 コメントをくれた方にはお返事します。 こんな内容をいれて欲しいなどのコメントでもOKです。 2日に1回更新しています。(予定によって変更あり) 小説家になろうの方にもこの作品を投稿しています。進みはこちらの方がはやめです。 少しでも良いと思ってくださった方、エールよろしくお願いします。_(._.)_

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

異世界でゆるゆる生活を満喫す 

葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。 もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。 家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。 ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...