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06 常闇の同士
ひらけごま
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闇の国には、火というものがないらしい。
熱は光ではなく影を示し、光は逆に冷たいそうだ。
冷蔵庫とか雪とかのイメージに近い。
そう考えると、白って冷たいんだな。
ちなみに拉致監禁されたエリオットさん含む5人は帰って来ず、帰ってきた1匹は怒り心頭だったが、わたしがなんとか落ち着かせた。
わたしは王子様に何もされてない……ただ喋っただけだ。
その王子様はというと、脚が悪いという割に神出鬼没で、不思議と色々なところで出会った。
「……ここは公園だ」
振り返ると、また王子様がいた。
彼は相変わらず死んだ魚のような目で虚空を見つめながら、ゆっくり歩いている。
「公園?」
「先代の王は、植物が好きだった」
「キー!!」
怒れるキースが襲いかかるが、王子様はゆらっと上半身を揺らすだけでその攻撃を避ける。
「こんなに暗いのに、植物が育つんですか?」
「いいや……育たない。魔力を使い、強引に育てている。人間に渡した神具の他に、同じようなものがある。それを使えば、魔力を自在に生み出せる」
「生み出せる? でも、ダンジョンの魔獣は、減ったって……」
「魔獣になるはずだった魔力を、神具が魔力に変換して吐き出している」
王子様は、足を引きずって歩き、公園のベンチに座った。
わたしは彼の隣に座る。まるで兄のようだと思った。
「……お前、やたらと俺に懐くな」
「なんか親近感があるんですよねー、なんでだろ」
王子様は、冷たい指でわたしの頭を撫でた。
かっこいいマントの裾が、頬を擦る。
「……俺には妹がいる」
「わたしくらいの?」
「お前より年上だ」
「……えと、その人がどうしたんですか?」
「見ての通り、俺は純血の古代闇妖精じゃない」
「……え?」
見ての通りと言われても、わたしには違いが分からない。
キョトンとしていると、王子様は目を細めてこれ見よがしに溜め息を吐いた。
「目の色が違うだろ。俺はハーフなんだ。王は純血だが、母は光のエルフだった。かつて父は光を愛し、この峡谷を出て暮らしていた。また父が王でなく、王子だった時のことだ」
「王子様は、そこで生まれたんですか?」
「エルフである母と、森で暮らしていた。質素な生活だったが、穏やかで、幸せな生活だった。……結局母は死んだが。母を失った俺は、この王国へ出向いた。父は俺を覚えていて、王子として迎えた」
「へぇ……王子様、かっこいいですもんね」
「は?」
「それで、それが妹さんとどういう関係があるんですか?」
「……やっぱり、何も関係ない」
「キー!」
キースはわたしと王子様の仲がいいのが気に入らないらしく、王子様に突撃した。
王子様はそれを軽く受け止めて、すぐにわたしに返す。
「お前は随分魔力量に余裕があるな」
「そうですか?」
「ああ……この幻獣は」
「キー!!」
キースは大声で泣き喚き、何度も王子様に攻撃する。
やはり監禁されたのが、よっぽど気に入らなかったのだろう。
「……転生者。お前に1つ、魔術を教えてやる」
王子様は大きな手の平でキースを包み込むようにとっ捕まえてから、唐突にそう言った。
「え、なんですか?」
「解錠の魔術だ。精霊族に見せてやれば、面白がるだろう」
キースは王子様の指を強烈に噛み、脱出した。
悪い人じゃないんだよーと、わたしはキースの頭を撫でる。
「俺の指輪を見ろ」
王子様はその長い指に、3つくらいの指輪を嵌めていた。
黒い肌によく映える、銀色の指輪だ。
「言霊の一種だ。唱えればいい。デュオ・コッド」
銀の指輪が1つ、砕けて落ちた。
それは2つに割れている。
「大抵のものなら、対象を開けることができる。狂気の里は三重の結界に守られているが、1番外側ならお前にも壊せるだろう。すぐに門番が飛んでくる」
「わたしはこれから、その精霊族さんたちに会いに行けばいいんですよね?」
「そうだな」
「怖い人たちですか?」
「そうだな」
「そうだな……そうだな?」
否定してくれると思ったら、王子様は真顔で恐ろしいことを言い始めた。
「かつては、人間の拷問を娯楽にしていたような奴らだ。如何にして長く生き永らえさせるかを試行錯誤するあまり、不死身の人間を生み出して神の世界を追われたと言われている」
「え……」
「ただの伝説だ、気にするな」
王子様は少し笑った。
「いずれにしろ、お前に選択肢はない」
「どうしてですか?」
「お前を送迎していた冒険者パーティの首は、俺の命令で吹き飛ぶからだ」
王子様は親指を自分の首筋に当てて、真一文字に切り裂く。
「どうしてそんなことをするんですか!」
「お前と肉体関係を持つよりマシだと考えたからだ」
「キー!!」
ブチギレたキースが、王子様に向かって電撃を放った。
止める間もなく直撃した電撃を避けることができなかった王子様は、「ウッ」と呻き声を上げて蹲る。
「だ、駄目だよキース! 王子様だよ!
「スズ、ハナレロ! コレヲ、コロス!」
暴れるキースを抱きしめて抑えるわたしに、王子様は奇妙なものを見るような顔をする。
「……お前、本当に精神汚染が効かないのか」
「精神汚染ってなんですか?」
「……別にいい。こんなところで彷徨かず、旅の準備をしろ。雪山に行くのは早い方がいい」
「わたし一人で行けってことですか?」
「そうだ」
「一人では無理です、わたし、全然強くないんですよ。エリオットさんたちを解放してください」
「その乗り物があるだろうが」
王子様は、キースを指差し不思議そうにそう言った。
「乗り物?」
「それは精霊族が使ってる乗り物だろう。吹雪より高く、雪崩より速いという。お前はそれに乗って旅をしてるんじゃないのか?」
「そうなの?」
初耳だ。飛ぶのは苦手だと思ってたのに。
「……キー」
キースはバツが悪そうに小さく鳴いた。
どうやら、その通りみたいだ。
熱は光ではなく影を示し、光は逆に冷たいそうだ。
冷蔵庫とか雪とかのイメージに近い。
そう考えると、白って冷たいんだな。
ちなみに拉致監禁されたエリオットさん含む5人は帰って来ず、帰ってきた1匹は怒り心頭だったが、わたしがなんとか落ち着かせた。
わたしは王子様に何もされてない……ただ喋っただけだ。
その王子様はというと、脚が悪いという割に神出鬼没で、不思議と色々なところで出会った。
「……ここは公園だ」
振り返ると、また王子様がいた。
彼は相変わらず死んだ魚のような目で虚空を見つめながら、ゆっくり歩いている。
「公園?」
「先代の王は、植物が好きだった」
「キー!!」
怒れるキースが襲いかかるが、王子様はゆらっと上半身を揺らすだけでその攻撃を避ける。
「こんなに暗いのに、植物が育つんですか?」
「いいや……育たない。魔力を使い、強引に育てている。人間に渡した神具の他に、同じようなものがある。それを使えば、魔力を自在に生み出せる」
「生み出せる? でも、ダンジョンの魔獣は、減ったって……」
「魔獣になるはずだった魔力を、神具が魔力に変換して吐き出している」
王子様は、足を引きずって歩き、公園のベンチに座った。
わたしは彼の隣に座る。まるで兄のようだと思った。
「……お前、やたらと俺に懐くな」
「なんか親近感があるんですよねー、なんでだろ」
王子様は、冷たい指でわたしの頭を撫でた。
かっこいいマントの裾が、頬を擦る。
「……俺には妹がいる」
「わたしくらいの?」
「お前より年上だ」
「……えと、その人がどうしたんですか?」
「見ての通り、俺は純血の古代闇妖精じゃない」
「……え?」
見ての通りと言われても、わたしには違いが分からない。
キョトンとしていると、王子様は目を細めてこれ見よがしに溜め息を吐いた。
「目の色が違うだろ。俺はハーフなんだ。王は純血だが、母は光のエルフだった。かつて父は光を愛し、この峡谷を出て暮らしていた。また父が王でなく、王子だった時のことだ」
「王子様は、そこで生まれたんですか?」
「エルフである母と、森で暮らしていた。質素な生活だったが、穏やかで、幸せな生活だった。……結局母は死んだが。母を失った俺は、この王国へ出向いた。父は俺を覚えていて、王子として迎えた」
「へぇ……王子様、かっこいいですもんね」
「は?」
「それで、それが妹さんとどういう関係があるんですか?」
「……やっぱり、何も関係ない」
「キー!」
キースはわたしと王子様の仲がいいのが気に入らないらしく、王子様に突撃した。
王子様はそれを軽く受け止めて、すぐにわたしに返す。
「お前は随分魔力量に余裕があるな」
「そうですか?」
「ああ……この幻獣は」
「キー!!」
キースは大声で泣き喚き、何度も王子様に攻撃する。
やはり監禁されたのが、よっぽど気に入らなかったのだろう。
「……転生者。お前に1つ、魔術を教えてやる」
王子様は大きな手の平でキースを包み込むようにとっ捕まえてから、唐突にそう言った。
「え、なんですか?」
「解錠の魔術だ。精霊族に見せてやれば、面白がるだろう」
キースは王子様の指を強烈に噛み、脱出した。
悪い人じゃないんだよーと、わたしはキースの頭を撫でる。
「俺の指輪を見ろ」
王子様はその長い指に、3つくらいの指輪を嵌めていた。
黒い肌によく映える、銀色の指輪だ。
「言霊の一種だ。唱えればいい。デュオ・コッド」
銀の指輪が1つ、砕けて落ちた。
それは2つに割れている。
「大抵のものなら、対象を開けることができる。狂気の里は三重の結界に守られているが、1番外側ならお前にも壊せるだろう。すぐに門番が飛んでくる」
「わたしはこれから、その精霊族さんたちに会いに行けばいいんですよね?」
「そうだな」
「怖い人たちですか?」
「そうだな」
「そうだな……そうだな?」
否定してくれると思ったら、王子様は真顔で恐ろしいことを言い始めた。
「かつては、人間の拷問を娯楽にしていたような奴らだ。如何にして長く生き永らえさせるかを試行錯誤するあまり、不死身の人間を生み出して神の世界を追われたと言われている」
「え……」
「ただの伝説だ、気にするな」
王子様は少し笑った。
「いずれにしろ、お前に選択肢はない」
「どうしてですか?」
「お前を送迎していた冒険者パーティの首は、俺の命令で吹き飛ぶからだ」
王子様は親指を自分の首筋に当てて、真一文字に切り裂く。
「どうしてそんなことをするんですか!」
「お前と肉体関係を持つよりマシだと考えたからだ」
「キー!!」
ブチギレたキースが、王子様に向かって電撃を放った。
止める間もなく直撃した電撃を避けることができなかった王子様は、「ウッ」と呻き声を上げて蹲る。
「だ、駄目だよキース! 王子様だよ!
「スズ、ハナレロ! コレヲ、コロス!」
暴れるキースを抱きしめて抑えるわたしに、王子様は奇妙なものを見るような顔をする。
「……お前、本当に精神汚染が効かないのか」
「精神汚染ってなんですか?」
「……別にいい。こんなところで彷徨かず、旅の準備をしろ。雪山に行くのは早い方がいい」
「わたし一人で行けってことですか?」
「そうだ」
「一人では無理です、わたし、全然強くないんですよ。エリオットさんたちを解放してください」
「その乗り物があるだろうが」
王子様は、キースを指差し不思議そうにそう言った。
「乗り物?」
「それは精霊族が使ってる乗り物だろう。吹雪より高く、雪崩より速いという。お前はそれに乗って旅をしてるんじゃないのか?」
「そうなの?」
初耳だ。飛ぶのは苦手だと思ってたのに。
「……キー」
キースはバツが悪そうに小さく鳴いた。
どうやら、その通りみたいだ。
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