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06 常闇の同士
時間稼ぎのお散歩
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王国の人のうち多くの人は、既に国を去ってしまったそうだ。
由緒正しき古代より続くこの王国は、元々は大きくて栄えた国だったのだけど、少しずつ光に憧れる者が増えてしまった。
それは時代の流れであって、避けられないことではあった。
郊外の街に人通りはない。
僅かに残っている人々は、皆城下町で身を寄せ合って暮らしている。
空き家だらけの建物を、わたしは無理矢理連れてきた王子様と一緒に探検していた。
「王子様王子様、立派なお家ですね!」
「俺の家は王城なんだが?」
半ギレ状態ながらもついてきてくれる王子様。絶対良い人だと思う。
王子様は足を引きずりながら歩いているのだけど、実は吸血鬼みたいに影の中を移動することができる。
「変わった形のお屋敷ですね」
四角形ではなく、正多角形の形をしている。
多角柱の柱もち、本体は正多面体。
機能性よりデザインに凝っているように見えるけど、意外と機能性もあるらしい。
「表面積を増やすことで、魔力を取り込みやすくなる……魔力の不足は、光の不足を意味するからな」
「そうなんですか。それでこんないろんな形があるんですね」
家の素材も見たことがない。石のような金属のような、そんな感じだ。
「王子様はずっとお城にいるんですか?」
「そうだが?」
誰もいない街には明かりがなく、暗い。
高原にも空き家はあったけど、あれは廃墟というより遺跡という感じだった。
ここの家は、あまり崩れていないけれど完全に廃墟だ。
「お散歩とかしないんですか」
「しない」
「運動不足になるんじゃないですか?」
「ベッドの上で事足りる」
「王子様、ムキムキですもんね。筋トレが趣味なんですか?」
「は?」
なんか怒ってるなぁ、なんでだろう。
「有酸素運動もした方がいいですよ」
「有酸素だって言ってんだろうが。前世の記憶はどうした」
「前世の記憶、ないんですよね。あんまり」
「転生者なのに?」
「そうなんですよー」
「じゃあ見た目通りのガキなのか、お前は」
「そうです」
王子様は大きな溜め息をついた。
「それより王子様、お腹減りました。レストラン行きたいです」
「俺は王位継承権第一位の王子だって言ってんだろうが。なんで街中のレストランに行くんだ」
「でもでも、お腹空いたんです!」
「はぁぁ……帰ればいいだろそんなの……」
「疲れたからおんぶしてください」
「俺は足が悪いって言ってるよな?」
「じゃあおてて繋ぎたいです」
「戴冠式が終わったら、不敬罪でその首消し飛ばすからな」
とかなんとか言いながらも、一応手は繋いでくれる王子様。
面白いなー、この人。
「王子様、実はいい人でしょー?」
「俺は早く帰りたいだけだ。王たる者が下々の街を闊歩するなんてあってはならない」
「でも楽しんでたじゃないですか」
「盲目か?」
眠らない街という表現があるけれど、この街はまさに永久の眠りについている。
未だ風化こそしていないものの、それは時間の問題だろう。
植物の一つすら、人の手なしには光なきこの国では生きられない。何もかも壊れていくだけだ。
「お前を見てると疲れる」
「わたしは王子様と一緒だと楽しいですよ!」
「黙れ」
静かに余生を過ごすつもりだったのに、とかブツブツ言う王子様。
それでも手はつないでくれるし、歩幅を合わせて歩いてくれる。
年の離れた兄のような、あまり会えない従兄みたいな。
ずっと前から知っているみたいだ。
たぶん、彼が昔のわたしに似ているから。
「王子様、わたしが世界樹の都市に行って帰ってきたら、一緒に旅しませんか?」
「嫌に決まってるだろうが」
「でも、絶対楽しいですよ。キースと王子様と、わたしで行きたいです。わたし、ダンジョンって行ったことないんですよ。一緒に行きたいです」
「俺のことが好きならそう言え。俺が嫌になるまでは城で暮らさせてやるから」
「いやそういうわけじゃないです」
「は?」
王子様は舌打ちをする。
「そんなに連れて行きたいなら、王女を連れて行け」
「王女様? お姉さんですか?」
「妹」
「仲良しなんですか?」
「害のない女だから生かしただけだ。お前が連れて行くならそうしろ」
とかなんとか言いながら、絶対仲良しなんだろうな。
この王子様はツンデレだ。絶対そうだと思う。
「王子様も一緒ですか?」
「お前はどうしてそんなに俺に執着する?」
「なんかわたしと似てるなぁって思って。親近感です」
「どこが?」
「目が死んでるところとか?」
「お前の目のどこが死んでる?」
「前はそうだったんです」
「今は違うらしいな」
「だから、王子様と一緒がいいんです」
王子様はわたしを見下ろし、手をふりほどいた。
「わ」
わたしは思いっきり乱暴に頭を撫でられる。
「意味もなく俺を郊外に連れ出しておいて、バカみたいなことばかり言ってるからだ」
「ひえー」
王子様をお城から連れ出したのは、別に意味もなくそうしたわけではないのだけど。
わたしの真意に気づいているのかいないのか、王子様はわたしの頭を杖みたいにして歩くのだった。
由緒正しき古代より続くこの王国は、元々は大きくて栄えた国だったのだけど、少しずつ光に憧れる者が増えてしまった。
それは時代の流れであって、避けられないことではあった。
郊外の街に人通りはない。
僅かに残っている人々は、皆城下町で身を寄せ合って暮らしている。
空き家だらけの建物を、わたしは無理矢理連れてきた王子様と一緒に探検していた。
「王子様王子様、立派なお家ですね!」
「俺の家は王城なんだが?」
半ギレ状態ながらもついてきてくれる王子様。絶対良い人だと思う。
王子様は足を引きずりながら歩いているのだけど、実は吸血鬼みたいに影の中を移動することができる。
「変わった形のお屋敷ですね」
四角形ではなく、正多角形の形をしている。
多角柱の柱もち、本体は正多面体。
機能性よりデザインに凝っているように見えるけど、意外と機能性もあるらしい。
「表面積を増やすことで、魔力を取り込みやすくなる……魔力の不足は、光の不足を意味するからな」
「そうなんですか。それでこんないろんな形があるんですね」
家の素材も見たことがない。石のような金属のような、そんな感じだ。
「王子様はずっとお城にいるんですか?」
「そうだが?」
誰もいない街には明かりがなく、暗い。
高原にも空き家はあったけど、あれは廃墟というより遺跡という感じだった。
ここの家は、あまり崩れていないけれど完全に廃墟だ。
「お散歩とかしないんですか」
「しない」
「運動不足になるんじゃないですか?」
「ベッドの上で事足りる」
「王子様、ムキムキですもんね。筋トレが趣味なんですか?」
「は?」
なんか怒ってるなぁ、なんでだろう。
「有酸素運動もした方がいいですよ」
「有酸素だって言ってんだろうが。前世の記憶はどうした」
「前世の記憶、ないんですよね。あんまり」
「転生者なのに?」
「そうなんですよー」
「じゃあ見た目通りのガキなのか、お前は」
「そうです」
王子様は大きな溜め息をついた。
「それより王子様、お腹減りました。レストラン行きたいです」
「俺は王位継承権第一位の王子だって言ってんだろうが。なんで街中のレストランに行くんだ」
「でもでも、お腹空いたんです!」
「はぁぁ……帰ればいいだろそんなの……」
「疲れたからおんぶしてください」
「俺は足が悪いって言ってるよな?」
「じゃあおてて繋ぎたいです」
「戴冠式が終わったら、不敬罪でその首消し飛ばすからな」
とかなんとか言いながらも、一応手は繋いでくれる王子様。
面白いなー、この人。
「王子様、実はいい人でしょー?」
「俺は早く帰りたいだけだ。王たる者が下々の街を闊歩するなんてあってはならない」
「でも楽しんでたじゃないですか」
「盲目か?」
眠らない街という表現があるけれど、この街はまさに永久の眠りについている。
未だ風化こそしていないものの、それは時間の問題だろう。
植物の一つすら、人の手なしには光なきこの国では生きられない。何もかも壊れていくだけだ。
「お前を見てると疲れる」
「わたしは王子様と一緒だと楽しいですよ!」
「黙れ」
静かに余生を過ごすつもりだったのに、とかブツブツ言う王子様。
それでも手はつないでくれるし、歩幅を合わせて歩いてくれる。
年の離れた兄のような、あまり会えない従兄みたいな。
ずっと前から知っているみたいだ。
たぶん、彼が昔のわたしに似ているから。
「王子様、わたしが世界樹の都市に行って帰ってきたら、一緒に旅しませんか?」
「嫌に決まってるだろうが」
「でも、絶対楽しいですよ。キースと王子様と、わたしで行きたいです。わたし、ダンジョンって行ったことないんですよ。一緒に行きたいです」
「俺のことが好きならそう言え。俺が嫌になるまでは城で暮らさせてやるから」
「いやそういうわけじゃないです」
「は?」
王子様は舌打ちをする。
「そんなに連れて行きたいなら、王女を連れて行け」
「王女様? お姉さんですか?」
「妹」
「仲良しなんですか?」
「害のない女だから生かしただけだ。お前が連れて行くならそうしろ」
とかなんとか言いながら、絶対仲良しなんだろうな。
この王子様はツンデレだ。絶対そうだと思う。
「王子様も一緒ですか?」
「お前はどうしてそんなに俺に執着する?」
「なんかわたしと似てるなぁって思って。親近感です」
「どこが?」
「目が死んでるところとか?」
「お前の目のどこが死んでる?」
「前はそうだったんです」
「今は違うらしいな」
「だから、王子様と一緒がいいんです」
王子様はわたしを見下ろし、手をふりほどいた。
「わ」
わたしは思いっきり乱暴に頭を撫でられる。
「意味もなく俺を郊外に連れ出しておいて、バカみたいなことばかり言ってるからだ」
「ひえー」
王子様をお城から連れ出したのは、別に意味もなくそうしたわけではないのだけど。
わたしの真意に気づいているのかいないのか、王子様はわたしの頭を杖みたいにして歩くのだった。
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