75 / 151
75話(ジルベール 視点)
しおりを挟む―― 強引すぎたかな……
手を握り歩き出してから、レイザードの眉間に皺が寄ったままだ。
少し様子をうかがっていると、一度頭を振って下がっていた視線が上がる。眉間に寄った皺が、なくなっていて安堵した。
―― 好きな子と手をつなげるって、こんなに嬉しいものなのか
今までそんな相手が、いなかったから知らなかった。拍動の音が、やたらと大きい。
―― 顔に出てないよな
顔は赤くなってないだろうか。気になって繋がっている手とは、逆の手で頬に触れる。少し熱い。赤くなっているかも知れないけれど、それをレイザードに問う気にはなれなかった。
そのまま口元に手をずらすと、すこし緩んでいて慌てて引き結ぶ。
顔が赤くなり、口元が緩んでいた。格好良い理想の姿とは、随分とほど遠い。
「花屋に行くのは、この道しかないのか」
「ここしかない訳じゃないけど、一番近いのはこの道なんだ」
進んでも減らない人波みに、辟易したように小さく溜息をついている。問われて返すと、消えた眉間の皺がまた寄ったのが見えた。
「……そうか」
―― ごめん
心の中で、謝る。
ここが、一番近いなんて嘘だ。大通りじゃない路地を通れば、もっと早く着く道がある。けれど近いとその分、レイザートと過ごす時間が短くなる。
人通りが、少ない道も他にあった。でも人通りが少ないと、手をつなぐ理由もなくなってしまう。だからあえて、この大通りを選んだ。
下心だらけだ。本当のことを知れば眉間の皺が、深くなるのは容易に想像できる。
気づかれないように視線を向けると、少し機嫌が悪いように見えた。人が多いところは、あまり好きじゃないみたいだから当たり前だろう。
―― ごめん
続けて心の中で、謝罪を口にする。ついた嘘は、もう一つあった。
友達どうして、手をつなぐことなんてない。けど問われた言葉を否定したら、握った手を払われてしまうかもしれない。だから友達同士で手をつなぐのが当たり前かと、問うた君の言葉に肯定を返す。
本当のことを言えれば、良かったのかも知れない。友達どうして手を握ることはないって。絶対にないわけではない。けれど俺は君が好きだから、人が多いことを理由にして手を握りたかっただけだなんだと言えれば良かった。
けどここで拒絶されたら、きっと立ち直れない。
―― レイザード、俺は弱くなったよ。臆病にもなった。君に恋してからだ
でもいやではないんだ。格好悪いとも、情けないとも思う。けれど君と出会えて、君を好きになって幸せだから出会う前に戻りたいとは思わない。
「どうかしたか」
「うん、なんでもないよ。ちょっと幸せだなって思っただけ」
見つめすぎていたせいで、気づいたレイザードが訝しげな表情をした。
少しでも気持ちが、伝われば良い。口に出す勇気もない代わりに、少し手に力を込める。
「おかしな奴だ」
向けられていた視線が、逸れて前を向く。そっけない印象を受ける態度だけれど、声は穏やかでそれだけで心が温かくなる。
「レイザード」
「なんだ」
名を呼ぶと答えてくれるのが、嬉しい。
出会ってしばらくは、俺の態度が悪かったせいで今とは違った。
―― 少しずつ、変わってるのか
なにも変化がないと、思い込んでいたけれど考えてみれば前とは違う。本当に僅かだけと、少しずつレイザードとの関係は変化している。
いつから名前を呼んでも、眉間に皺が寄らなくなったかな。声を返してくれるようになったかな。
正確に覚えていない自分に、腹立たしさを覚える。少しいやな気分になって、それなのにレイザードが答えてくれる声に胸が満たされていく。
―― 君のことが、好きだよ
「昨日のサイジェス先生の講義のことなんだけど……」
「ああ、あれか」
今はまだ伝える勇気のない言葉を、飲み込んでレイザードの興味を引けそうな話題を口にする。上級者でも難しい講義だったから、勉強熱心なレイザードならきっと関心があると思って振って正解だった。
「あの内容を、術に活かせるじゃないかって思ってさ。今度、闘技場を貸し切って、試そうかと思っているんだけどよければ協力してくれないかな」
「ああ、構わない」
迷うそぶりをみじんも見せずに、すぐに了承してくれた。嬉しいけれどお茶に誘うときには、必ず存在する間がなくて少し複雑な気分になる。
―― しょうがないか
俺に対する関心より、術に対する興味の方が高い。だから俺と過ごす時間の誘いには、考える時間が存在して後者にはない。
―― でも、それでもいい
関係性が、少しでも変化しているから誘いに乗ってくれるんだ。出会った頃なら、術に関することでも頷いてくれなかっただろう。
これが諦めずに、動いてきた結果なら悔しいがあいつの言う通りなっている。
『ほらな、俺の言うとおりになっただろう?』
礼の一つでもしたためるべきかと、考えたときあいつの得意げな顔が浮かぶ。妙に苛立ちを覚えたので、止めることにした。
「おい、ジルベール」
「あっごめん。えっとじゃあ明日、俺が闘技場の申請に行ってくるよ。都合が悪い日はあるかな」
「遅くならなければ、いつもでかまわない」
逸れていた意識が、レイザードの声で戻る。
なんて失態だろうか。レイザードと話をしているときに、あいつのことを考えるなんて最悪なことをしてしまった。
「じゃあ、早い日にいれるよ。明日でどうかな」
「別に明日、空いてるのならかまわないが……もう闘技場の空きを、確認していたのか?」
まるで明日空いていると、知っているような物言いになったせいでレイザードの口から疑問がでる。
俺の顔と二種類の適性もちであることにしか興味がない連中が、俺が頼めば譲ってくれると言ったら軽蔑される気がして―― 曖昧にごまかして、愛おしい人に笑みを返した。
174
あなたにおすすめの小説
流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆4月19日18時から、この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」を1話ずつ公開予定です。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います
転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが
松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。
ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。
あの日までは。
気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。
(無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!)
その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。
元日本人女性の異世界生活は如何に?
※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。
5月23日から毎日、昼12時更新します。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
美形×平凡のBLゲームに転生した平凡騎士の俺?!
元森
BL
「嘘…俺、平凡受け…?!」
ある日、ソーシード王国の騎士であるアレク・シールド 28歳は、前世の記憶を思い出す。それはここがBLゲーム『ナイトオブナイト』で美形×平凡しか存在しない世界であること―――。そして自分は主人公の友人であるモブであるということを。そしてゲームのマスコットキャラクター:セーブたんが出てきて『キミを最強の受けにする』と言い出して―――?!
隠し攻略キャラ(俺様ヤンデレ美形攻め)×気高い平凡騎士受けのハチャメチャ転生騎士ライフ!
最可愛天使は儚げ美少年を演じる@勘違いってマジ??
雨霧れいん
BL
《 男子校の華 》と呼ばれるほどにかわいく、美しい少年"依織のぞ"は社会に出てから厳しさを知る。
いままでかわいいと言われていた特徴も社会に出れば女々しいだとか、非力だとか、色々な言葉で貶された。いつまでもかわいいだけの僕でいたい!いつしか依織はネットにのめり込んだ。男の主人公がイケメンに言い寄られるゲーム、通称BLゲーム。こんな世界に生まれたかった、と悲しみに暮れ眠りについたが朝起きたらそこは大好きなBLゲームのなかに!?
可愛い可愛い僕でいるために儚げ男子(笑)を演じていたら色々勘違いされて...!?!?
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる