BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月

文字の大きさ
上 下
75 / 127

75話(ジルベール 視点)

しおりを挟む


  ―― 強引すぎたかな……

 手を握り歩き出してから、レイザードの眉間に皺が寄ったままだ。
 少し様子をうかがっていると、一度頭を振って下がっていた視線が上がる。眉間に寄った皺が、なくなっていて安堵した。

 ―― 好きな子と手をつなげるって、こんなに嬉しいものなのか

 今までそんな相手が、いなかったから知らなかった。拍動の音が、やたらと大きい。

 ―― 顔に出てないよな

 顔は赤くなってないだろうか。気になって繋がっている手とは、逆の手で頬に触れる。少し熱い。赤くなっているかも知れないけれど、それをレイザードに問う気にはなれなかった。
 そのまま口元に手をずらすと、すこし緩んでいて慌てて引き結ぶ。
 顔が赤くなり、口元が緩んでいた。格好良い理想の姿とは、随分とほど遠い。

「花屋に行くのは、この道しかないのか」
「ここしかない訳じゃないけど、一番近いのはこの道なんだ」

 進んでも減らない人波みに、辟易したように小さく溜息をついている。問われて返すと、消えた眉間の皺がまた寄ったのが見えた。

「……そうか」

 ―― ごめん

 心の中で、謝る。
 ここが、一番近いなんて嘘だ。大通りじゃない路地を通れば、もっと早く着く道がある。けれど近いとその分、レイザートと過ごす時間が短くなる。
 人通りが、少ない道も他にあった。でも人通りが少ないと、手をつなぐ理由もなくなってしまう。だからあえて、この大通りを選んだ。

 下心だらけだ。本当のことを知れば眉間の皺が、深くなるのは容易に想像できる。
 気づかれないように視線を向けると、少し機嫌が悪いように見えた。人が多いところは、あまり好きじゃないみたいだから当たり前だろう。

 ―― ごめん

 続けて心の中で、謝罪を口にする。ついた嘘は、もう一つあった。
 友達どうして、手をつなぐことなんてない。けど問われた言葉を否定したら、握った手を払われてしまうかもしれない。だから友達同士で手をつなぐのが当たり前かと、問うた君の言葉に肯定を返す。

 本当のことを言えれば、良かったのかも知れない。友達どうして手を握ることはないって。絶対にないわけではない。けれど俺は君が好きだから、人が多いことを理由にして手を握りたかっただけだなんだと言えれば良かった。
 けどここで拒絶されたら、きっと立ち直れない。

 ―― レイザード、俺は弱くなったよ。臆病にもなった。君に恋してからだ

 でもいやではないんだ。格好悪いとも、情けないとも思う。けれど君と出会えて、君を好きになって幸せだから出会う前に戻りたいとは思わない。

「どうかしたか」
「うん、なんでもないよ。ちょっと幸せだなって思っただけ」

 見つめすぎていたせいで、気づいたレイザードが訝しげな表情をした。
 少しでも気持ちが、伝われば良い。口に出す勇気もない代わりに、少し手に力を込める。

「おかしな奴だ」

 向けられていた視線が、逸れて前を向く。そっけない印象を受ける態度だけれど、声は穏やかでそれだけで心が温かくなる。

「レイザード」
「なんだ」

 名を呼ぶと答えてくれるのが、嬉しい。
 出会ってしばらくは、俺の態度が悪かったせいで今とは違った。

 ―― 少しずつ、変わってるのか

 なにも変化がないと、思い込んでいたけれど考えてみれば前とは違う。本当に僅かだけと、少しずつレイザードとの関係は変化している。
 いつから名前を呼んでも、眉間に皺が寄らなくなったかな。声を返してくれるようになったかな。
 正確に覚えていない自分に、腹立たしさを覚える。少しいやな気分になって、それなのにレイザードが答えてくれる声に胸が満たされていく。

 ―― 君のことが、好きだよ

「昨日のサイジェス先生の講義のことなんだけど……」
「ああ、あれか」

 今はまだ伝える勇気のない言葉を、飲み込んでレイザードの興味を引けそうな話題を口にする。上級者でも難しい講義だったから、勉強熱心なレイザードならきっと関心があると思って振って正解だった。

「あの内容を、術に活かせるじゃないかって思ってさ。今度、闘技場を貸し切って、試そうかと思っているんだけどよければ協力してくれないかな」
「ああ、構わない」

 迷うそぶりをみじんも見せずに、すぐに了承してくれた。嬉しいけれどお茶に誘うときには、必ず存在する間がなくて少し複雑な気分になる。 

 ―― しょうがないか

 俺に対する関心より、術に対する興味の方が高い。だから俺と過ごす時間の誘いには、考える時間が存在して後者にはない。

 ―― でも、それでもいい

 関係性が、少しでも変化しているから誘いに乗ってくれるんだ。出会った頃なら、術に関することでも頷いてくれなかっただろう。
 これが諦めずに、動いてきた結果なら悔しいがあいつの言う通りなっている。

『ほらな、俺の言うとおりになっただろう?』

 礼の一つでもしたためるべきかと、考えたときあいつの得意げな顔が浮かぶ。妙に苛立ちを覚えたので、止めることにした。

「おい、ジルベール」
「あっごめん。えっとじゃあ明日、俺が闘技場の申請に行ってくるよ。都合が悪い日はあるかな」
「遅くならなければ、いつもでかまわない」

 逸れていた意識が、レイザードの声で戻る。
 なんて失態だろうか。レイザードと話をしているときに、あいつのことを考えるなんて最悪なことをしてしまった。

「じゃあ、早い日にいれるよ。明日でどうかな」
「別に明日、空いてるのならかまわないが……もう闘技場の空きを、確認していたのか?」

 まるで明日空いていると、知っているような物言いになったせいでレイザードの口から疑問がでる。
 俺の顔と二種類の適性もちであることにしか興味がない連中が、俺が頼めば譲ってくれると言ったら軽蔑される気がして―― 曖昧にごまかして、愛おしい人に笑みを返した。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

時間を戻した後に~妹に全てを奪われたので諦めて無表情伯爵に嫁ぎました~

なりた
BL
悪女リリア・エルレルトには秘密がある。 一つは男であること。 そして、ある一定の未来を知っていること。 エルレルト家の人形として生きてきたアルバートは義妹リリアの策略によって火炙りの刑に処された。 意識を失い目を開けると自称魔女(男)に膝枕されていて…? 魔女はアルバートに『時間を戻す』提案をし、彼はそれを受け入れるが…。 なんと目覚めたのは断罪される2か月前!? 引くに引けない時期に戻されたことを嘆くも、あの忌まわしきイベントを回避するために奔走する。 でも回避した先は変態おじ伯爵と婚姻⁉ まぁどうせ出ていくからいっか! 北方の堅物伯爵×行動力の塊系主人公(途中まで女性)

流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆4月19日18時から、この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」を1話ずつ公開予定です。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。

薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。 アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。 そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!! え? 僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!? ※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。  色んな国の言葉をMIXさせています。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

処理中です...