17 / 151
17
しおりを挟む今日は快晴だ。雲一つない空に気分よく家の扉を開いて、力の限り勢いよく閉めた。
扉が壊れるんじゃないかっていう音をたててしまったが、後悔はしていない。
扉を開いた先には、なぜか王子に拝謁したときにいた、こちらを睨んでくる騎士が立っていた。王子が家に来たときは、その睨みが悪化して射殺しそうな視線に変化していたあの騎士Dだ。おかしい。なぜ奴がいる。この前の一見は、あれで終了したんじゃなかったのか。
それともあれは王子が、謝罪にきたいからいかせただけで最初から俺を捕まえるつもりだったのか。いや書簡までよこして、そんな訳ないか。
奴が着ていたのはどう見ても私服だった。個人的に俺の態度が気に食わないから締めに来たのだろうか。面倒くさい。裏口から出ることにしよう。
「まってくれ! 私は礼を言いに来たんだ!」
「身に覚えがありません。人違いです。お帰り下さい」
扉を開けようとして来る騎士Dに、俺は必死に抵抗する。
「城の闘技場で、騎士を一人助けてくれただろう! 私の弟なんだ!」
「弟さんですか……かけらも似ていませんが」
あの時の青ざめた顔のモブ騎士を思い出しながら、目の前の騎士と見比べる。血縁関係など、ミジンコほども感じられないくらい顔が似ていない。
なんだこの前のサイジェスといい、似てない家族がこの世界のセオリーなのか。
「正直だな」
苦笑された。自覚はあるのだろう。その表情に見覚えがある気がして、眉根を寄せる。
「どうした?」
俺は今重大な事に気づいた。こいつはモブじゃない。攻略キャラだ。そう、こいついた。無骨で不器用な騎士が確かに攻略キャラにいた。
見た目は違うが、サイジェスとキャラが被るか?
でもサイジェスは無愛想ではあるけど、不器用じゃないな。それにサイジェスは、親しくなるとよく軟らかい表情をするイベント多かったな。人がいないとき限定だけど。
まあそれはこの際、どうでもいい。
問題はなぜこいつが単体で俺の目の前にいるんだ。攻略キャラらは主人公と絡んでこそだろう。
私服ということは休日なはずだ。なら俺に礼など言いに来ないで、主人公と出会いイベントの一つでもおこせばいいのに。
ああそれ以前に、主人公はいつ現れるんだ。
そうえいばなんでこいつ、俺に礼を言いたかったのならものすごい形相で俺を見ていたんだ。俺の家に来たあとに、弟が巻き込まれたことを知ったんだろうか。
「伺いたいことが、あるのですが」
「なんだ?」
数回瞬きしたあとに、首をかしげる様はまるで熊のようだ。そう思うとかわいく……ならないな。熊はこちらを食い殺せる生き物だ。可愛いいわけがない。
「王子が家にいらっしゃった時に、俺……私を射殺しそうな殺気のこもった目でみていたのは、もしかして弟さんの件で礼を言いたかったからですか?」
「射殺しそう目!? そんな目で見てはいない」
ショックを受けたように、口をあけて固まっている。どうやら自覚がなかったようだ。
あんな恐ろしい形相をしておいて、自覚ないなど迷惑すぎる。
「自覚がないなら自覚をして頂きたいんですが、見られている方はいつ首を切られるか分からない気分にさせられるような、凶悪な目をしていらっしゃいましたよ」
「……」
言葉がないというのは、こういう事をいうのだろう。呆然と立っている。だがこれで次もまた犠牲者がでるのを防げるんだ。我慢してもらおう。
そのとき近くから、噴き出した声が聞こえた。周りに視線を向けると、隣の家と俺の家との壁の隙間にもたれかかるように男が体を震わせて立っていた。
「貴方は……」
こいつも見覚えがある。頸動脈野郎だ、俺の頸動脈にナイフを当てた騎士Aだ。
なんでこいつまで、ここにいるんだ。
「はははははっは、俺そいつにそこまで、はっきり言う奴初めて見た。あははは……駄目だ腹がいたい、腹筋がつる!」
「用がすんだなら、まとめて帰っていただけませんか」
今は腹を抱えて、大笑いしているだけの変な奴にしか見えない。
けれど俺は、あの日の事を鮮明に覚えている。手も足も出なかったうえに、止めに頸動脈にナイフだ。そんな奴と、和やかに会話ができるわけがない。いますぐ逃げ出したい衝動にかられるが、こいつがその気になれば俺なんてすぐに捕まえられる。
「いや、ごめんって。そいつが弟の礼にいくって、緊張した顔でいうもんだからさ心配になってね。ほら顔がこわばると何時もの5割増しで顔が怖くなるろう?」
「普段を知っているわけではないので、なんとも申しあげられませんが」
笑いすぎたんだろう、目尻にたまった涙をぬぐいながら騎士Aが俺の方に近づいてくる。
恐怖で足が地面に縫い付けられたように、動かない。
いま近くにいるのは、俺を殺そうと思えば簡単に出来る奴だ。怖がらない方がおかしい。
「あっそうか、会うの3度目だもんね。それにしても君凄いね。だいたいの奴はこいつの顔の怖さにビビって怯えたような顔するのに。君はあくまでいつも通りだ……ね」
なぜ会うのが3度目だとしっているのか。この男は1度目に合った時には。その場にいなかったはずだ。そしてなんで、俺のいつも通りをしっているんだ。お前にあったのは、今日で2回目だろう。
色々と、突っ込みたいことがある。だがいまはそんなことは、どうでもいい。それよりこいつはモブたる俺にはどうしようもできない事を言いやがった。
俺はビビってないわけじゃない。十分に怖がっている。だがそれを表す表情差分がないだけだ。
そう、俺は恐怖を表す表情差分を持っていないだけだ。なので今の俺は眉間に皺が寄っているだけだ。
騎士Aは一見、ただの軽い奴という風貌のキャラだ。だがやはり攻略キャラなのか、が分からない。陽も明るいから顔もはっきりと見えるが、覚えがなかった。でも隠れキャラとかだったら知らないかもしれないから、攻略キャラじゃないとも断言できない。
まあいいか頸動脈野郎とは、関わり合いになりたくない。考えてもみろ、自分の頸動脈にぴったりとナイフを当てていた奴と、普通に会話するなんて無理だ。心臓に悪すぎる。さっさと騎士Dと一緒に帰ってほしい。
「うん、やっぱりすごいな。ほしいな」
一瞬、騎士Aの目が細くなった。そして訳の分からないことを、言ってくる。今の会話の流れで、何が欲しくなるんだ。
やはりこいつは、覚えがないが攻略キャラなのかもしれない。表情が豊かすぎる。
こんなに表情差分が用意されているのは、主人公か攻略キャラくらいだ。よしこいつは攻略キャラだと思っておこう、でも危険な奴だから、王族ともども、関わりたくない。
目の前で騎士Aがと騎士Dがまた会話を始めてしまった。
こいつらは、いつ帰るんだろうか。もう放っておいて出かけてもいいだろうか。
騎士Aがふとこっちを見て、微笑む。ほほえ……なにか強烈な既視感に襲われる。俺はこいつの胡散臭い笑みを知っている気がする。最近、どこかでみたそんな気がしてならない。
だが引っ掛かるものの、それがどこだったか分からなかった。
366
あなたにおすすめの小説
流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆4月19日18時から、この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」を1話ずつ公開予定です。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います
転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが
松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。
ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。
あの日までは。
気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。
(無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!)
その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。
元日本人女性の異世界生活は如何に?
※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。
5月23日から毎日、昼12時更新します。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
美形×平凡のBLゲームに転生した平凡騎士の俺?!
元森
BL
「嘘…俺、平凡受け…?!」
ある日、ソーシード王国の騎士であるアレク・シールド 28歳は、前世の記憶を思い出す。それはここがBLゲーム『ナイトオブナイト』で美形×平凡しか存在しない世界であること―――。そして自分は主人公の友人であるモブであるということを。そしてゲームのマスコットキャラクター:セーブたんが出てきて『キミを最強の受けにする』と言い出して―――?!
隠し攻略キャラ(俺様ヤンデレ美形攻め)×気高い平凡騎士受けのハチャメチャ転生騎士ライフ!
最可愛天使は儚げ美少年を演じる@勘違いってマジ??
雨霧れいん
BL
《 男子校の華 》と呼ばれるほどにかわいく、美しい少年"依織のぞ"は社会に出てから厳しさを知る。
いままでかわいいと言われていた特徴も社会に出れば女々しいだとか、非力だとか、色々な言葉で貶された。いつまでもかわいいだけの僕でいたい!いつしか依織はネットにのめり込んだ。男の主人公がイケメンに言い寄られるゲーム、通称BLゲーム。こんな世界に生まれたかった、と悲しみに暮れ眠りについたが朝起きたらそこは大好きなBLゲームのなかに!?
可愛い可愛い僕でいるために儚げ男子(笑)を演じていたら色々勘違いされて...!?!?
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる