僕は冷徹な先輩に告白された

隻瞳

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22話 ゲームセンター②×カラオケ

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「負けた方は罰ゲーム!?」

賢人がミルクココアを飲み切り、いざ対戦!と思った矢先、コインの投入口に100円を入れようとした時、蘭子からこんな条件を出された。

「うん、ゲーセンに来た時には罰ゲームがあった方が盛り上がるんじゃないかと思って・・・」

「・・・たまにはそういうのも面白いですね!分かりました、その条件乗ります」

「いいねいいね、対戦っていうのはそうでなくっちゃ!」

「あとちなみに罰ゲームって言っても、具体的にはどんなことするんですか?」

「う~ん・・・それは勝敗が決まってからのお楽しみ♪」

「・・・」

罰ゲームの内容は何も言わずにただ笑ってコイン投入口に100円を入れる蘭子を変に感じながらも、賢人は気にせず蘭子に続いて100円を入れてICカードをスキャンさせた。
画面が変わって二人とも対戦モードを選択し、先程と同じように賢人が曲を選ぼうとしたが、再び蘭子が話を切り出す。

「あっちょっと待って!今度はあたしが曲を全部選んでいいかな?」

「え?なんでですか?」

「だってさー、あたしの方が負けてるし、少しはハンデが欲しいかなーって・・・」

「まぁ良いですけど・・・」

またまた蘭子から条件、ではなくハンデを要求して賢人を困惑させたが、賢人はこれも承諾した。

「え~っとね、何にしようかな~?」

「そんなに悩まないで下さいよ?ほら、タイムリミットが0になったら、強制的にランダムに曲が選ばれちゃうんですから」

「分かってるってばー・・・あっ!これが良いかも!」

時間に余裕を持ちたい賢人は早く曲を選ぶよう促し、蘭子が軽く受け流したタイミングで演奏する曲を見つけ、すぐさま賢人にも通信で曲が提示された。

「えっとなになに?・・・『Popポップ toトゥ the DiscerSディスカーズ』?」

いかにも昔の映画で良くありそうなタイトルだったが、KーPoPの芸術とアニソンのリズムを併せ持った音響で、まさにこのゲームの雰囲気にぴったりの曲だった。

「なんかすごく良い曲だと思います・・・」

「そりゃそうだよ、だってこのゲームのメインテーマソングで、
しかもLoveラブColorSカラーズTRUESトゥルースがコラボして歌ってるんだから」

「えっ!?Love♡ColorSとTRUESが!?」

Love♡ColorS。
その言葉を耳にした途端、賢人は目を丸くして驚いた。
何と言っても転校してきた初日、家に帰ってきてすぐに聴いていた曲の歌い手で、賢人にとって小学生の頃からの大ファンである。

一方のTURESというのは双子の姉妹で構成されたLove♡CollarSとは違って、元々はKーPOPを中心に活動している韓国出身の20代の女性5人で構成されたアイドルユニットのこと。
去年の12月より日本人女性が3人加わり、初メンバーである日本人とコラボした新曲が話題となり、今や10代の若者を中心に携帯の音楽アプリではたった2週間でランキング1位を取るなど、歌を知る者なら知らない者はいない大人気の女性ユニットとなっている。

そんな賢人にとって、近年になって世間から注目を浴びるTURESと、同じくアニメとゲームを愛する者達が認めるLove♡ColorSがコラボするといった摩訶不思議で絶対に叶わないと思っていた事が実現した事をどうして今まで気づかなかったのだろうと、賢人は自粛した。

「嘘、ちょっとマジで信じられないんですけど!!」

信じられない事実に賢人は興奮が収まらなかった。
まさか自分が大好きなアイドルグループがこんな所にまで手が伸びているとはこのゲームを始めてから3年、思いもしなかったからだ。

しかし賢人は相当やり込んでいることからこのゲームに収録されている曲は全て知り尽くしているはずだが、蘭子に一緒に来た今日初めて知った曲で、賢人は知らず蘭子は知っていた。
一体どういうことだろう?賢人は不思議に思って蘭子に質問した。

「いやでも、僕はこの曲初めてすけど、なんで蘭子さんは知ってるんですか?」

「多分賢人くんがテストが近いからってテスト勉強ばっかやってるし、
だから情報を知る暇が無かったからじゃない?」

「い、言われてみれば確かに・・・」

おそらく事前に里奈から自身のことを聞かされていたであろう僅かな情報でありながら蘭子は鋭い洞察力で、賢人のテスト期間中でのプライペートを指摘した。

皮肉にもそれは間違ってはおらず一瞬で見抜かれた賢人は思わず身をすくめた。

「そんな事よりさ、早く始めちゃおうよ!」

「あ、はい!」

無駄話をしている間に選曲の残り時間が10秒前になり、二人はそれぞれのゲーム画面に視点を切り替えてすぐにゲーマーとしての姿勢を取った。

「次は負けないからね?」

「何を言いますか、次も勝たせてもらいますよ」

二人は互いに決して笑っていない笑みを浮かべながら睨み合った。

「それじゃあいくよ?」

「はい!」


「「GAMEゲーム STARTスタート!!」」


二人は互いに掛け声をして、ほぼ同時に決定ボタンを押してゲームでありがちな読み込みがしばらく続いた後、無音が続いていたが音楽は一変.冒頭だけでもボカロならではのテンポとKーPOPさながらのリズム感が溢れる『Popポップ toトゥ the DiscerSディスカーズ』の演奏が始まった。


◇◇◇◇


「ま、負けた・・・」

5分弱という通常の時間からすると短いが、このようなハイレベルな演奏ゲームになると、ものすごく長い演奏がようやく終わった。
勝ったのは・・・・・

「よっしゃあ!逆転勝利~!!」

「そ、んな・・・」

そう、この勝負に勝ったのは賢人ではなくまさかの蘭子だった。
勝利した蘭子はぴょんぴょんと跳ね回って喜んでいたが、負けた賢人は足を崩して放心状態になっていた。
前半までは賢人が今までで一番のゲーマー魂をたぎらせ、
圧倒的な実力で蘭子に差をつけたが、やはり大好きなLove♡ColorSに加え、TURESのコラボした想像以上に煌めきの如き歌声に見惚れるあまり歌声をもっと聴いていたいと思いがために気を緩めた結果、後半から蘭子に追い抜かれて一気に逆転されてしまったのだ。

ゲーマーとしてはなんとも屈辱的な羞恥を晒した上での敗北となったが、賢人はすぐに立ち直って負けを認め、その場から立ち上がった。

「・・・僕の負けです。罰ゲームを受けてやりましょうではありませんか!」

「キャハ♡いい度胸じゃない、だからこそ賢人くんと勝負したかったの♪」

「・・・え?」

蘭子の思いがけない発言に、賢人は目を丸くした。

「罰ゲームは・・・・・″勝った方のどんな言うことでも聞いて成し遂げる″♡」

「・・・え!?」


◇◇◇◇


『あなたといられた時間~は~、一番大切な思い出になれ~るよ~♪』

(どうしてこんなことに・・・)

賢人はカラオケでVIPルームのソファーの上で正座して、
隣でマイクを握って切ない恋の歌を熱唱する蘭子の歌を聴きながら、先程の勝負を罰ゲーム付きで乗った上に負けた事を後悔しながらさっきまでの経緯を振り返ることにした。

あの後、賢人は再び蘭子に一緒に行きたい所があると無理矢理連れていかれ、ゲームセンターがある3階から途中までエスカーレターからエレベーターで地下の1階まで降りていったが、駐車場しかないはずだと思っていたはずが、そこは地下に広がるスラム街だった。
先程のゲームセンターとは違い、二人の他にも男女共に柄の悪い連中など、あちこちの店で集まっていることからゲームセンターよりも人気があることが窺えた。

ただ賢人にはこの光景を見て、すぐに分かったことがあった。
地下街ここは賢人のような悪の要素が全く感じられない優等生が軽い気持ちで来る場所ではないということを。
何故そう思うかというと、今いるカラオケまで来る道中で賢人のような優等生が自分たちと同じ雰囲気を持つ蘭子と歩いている様子が珍しいのか、歩く度に見かける不良達全員から睨んでいるに違いない視線を浴びていたからだ。

不良だけではない、
あちこちの店の中から店員からも快くないような目で見つめてくる。そんな中、ついに雑貨屋の前で集まっていた不良達が近づいてきて、その中の一人が

「おい蘭子、お前なんでこんな優等生と一緒にいるんだ?」

賢人を不思議そうな目で見ながら蘭子に質問したが、それに対して蘭子は、

「あたしの友達の彼氏ちゃんで、この間友達になったの。ね?」

蘭子がそう言うと、何故かその不良や遠くから様子を見ていた彼の仲間も納得して二人から離れていった。
もちろん蘭子の言葉は事実ではあるが、あの状況で賢人は首を縦に振る以外の行動は取れなかったと思う。

そんな危うくトラブルに巻き込まれそうな遭遇しそうになりながらも二人は地下街を歩いていき、行く場所を知る蘭子の足が止まり行き着いたのは、『カラオケのよろこび』というなんとも胡散臭いネーミングの店だった。

入る以前から店の周りを照らす灯りがより不気味さを感じさせられるが、蘭子はこの店はおろかこの地下街に行き慣れているのか、躊躇ためらう事無く店に入っていくと、店の前で見たのが嘘のようで店内は天井に吊らされたシャンデリアに照らされて、屋敷というよりホテルといった方が相応しかった。
賢人はあまりの輝きに思わず見惚れていたが、蘭子が受付に行くのを見て、すぐさま後を追いかけた。

「ちわーっす、府菜子ふなこのばっちゃん!今日も宜しくねー」

「あら蘭子ちゃん、いらっしゃい!ってあら?一緒にいるその男の子は?この地下街辺りじゃ珍しいけど、まさか蘭子ちゃんったらこの子をもう・・・!?」

賢人を見て早とちりしている府菜子という受付にいたおばさんは年相応の素朴な私服の上に、青いエプロンを腰に巻いているその姿は、まるで昔ながらの駄菓子屋で見かけるおばさんのようだった。

「まっさか~(笑)この子は里奈に出来た彼氏で、あたしの友達の賢人くん!」

「里奈?・・・あ~里奈ちゃん!思い出したわ。蘭子ちゃんと他のお友達といつも来てくれるイケてる子ね?でも最近はあんまり姿を見ないわね~・・・」

「まぁ、あの娘もあの娘で最近忙しいからね~」

この店の常連客なのか、蘭子は府菜子に対して馴れ馴れしい態度だった。けれども府菜子さんはこのやり取りがお約束なのか怒る事は無く、ニコニコと丸い態度で返した。

「それで、今日はどの部屋にする?」

「・・・」

「?」

府菜子が部屋の一覧を出してどの部屋を選ぶのか聞くと、何故か蘭子は黙って賢人をチラッと見て賢人は何だろうと思い首を傾げて蘭子を見つめ返し、それを見て蘭子は舌でペロっと自分の唇を舐めるのを賢人に見せつけたが次の瞬間、何も無かったかのように視線を府菜子に戻した。

「・・・じゃあ一番いい部屋で・・・・・・・

 VIPルーム・・・・・・だね?この部屋を指定する客は滅多にいないだけど・・・まぁいいわ、これが部屋の鍵ね。あと何かあったら電話寄こしてちょうだい」

「ありがとね」

「ごゆっくり~賢人くんも」

「は、はい・・・」

鍵を渡して笑顔で手を振って見送る府菜子に賢人は戸惑いながらも笑顔で返し、すぐに蘭子の後をついていった。
意外に部屋は多く、まるで迷宮かと思わせるいくつものカラオケルームがある廊下の奥へと進んでいくと、他の部屋とは違いドアには番号ではなく、アルファベットで『VIP』と書かれたドアを見つけ、目の前で止まった。
おそらくここが先程二人が言っていたVIPルームだろう。

「ちょっと持ってて」

 そう言って蘭子は手に持っていたポーチを賢人に持たせると、部屋の鍵をドアノブの差し込み口に入れて捻った。
すると、ガチャリと鍵が開く音がしてドアは開いた。

「ありがと」

ドアが開くと蘭子はポーチを持たせていた賢人にお礼を言って返してもらった。
暗くてよく見えない部屋に蘭子は入り、壁に付けられている電気のスイッチを入れると、パッと一瞬にして部屋は光に包まれ、メニューとマイクスタンドが置かれたテーブルと座り心地の良いソファー、大型テレビの左右と部屋のあちこちに設置されたスピーカーといった、賢人が行くカラオケとは桁違いとなるVIPルームが今露わになった。

「どう?あたしらの行きつけのカラオケは?」

「す、すげぇ・・・です」

「良かった♡」

蘭子はそう喜ぶと、部屋の前で思わず立ち尽くしている賢人の手を掴んで、賢人はそのまま部屋の中に連れて行かれ、ドアは忘れずにきちんと閉めた。
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