シャイな異形領主様に代わりまして、後家のわたくしが地代を徴収(とりたて)いたします。

見早

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2章 クリスタル族の虹色研究

21話 メタ仮面あらわる【後編】

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『貴方が引きこもっていたせいで資金不足になってしまったのでしょう?』――自分がここで発した心ない言葉に、胸の奥が疼く。
 しかし領主代理として、私情を優先させるわけにはいかない。今は、博士の研究がどうしたら成功するのかを考えなければ。

「でも『ちびドラ』は気になって仕方ないな……ねぇ時渡人わたしもりさん、教えてよ! ここは『シビュラゲーム』と似た世界ってだけで、現実なんでしょ!?」

 なぜここに来て、元の世界を思い出させるような物が登場したのか――「出てこないと崖から飛び降りる」、と片足を宙へ踏み出した、その時。辺りが眩い光に包まれ、鳥のさえずりや風の音が消えた。

「……来た」
『まったく――当分は眠っているつもりだったのですが』

 光を塗りつぶす闇の中、浮かび上がったのは純白のベール――そして薔薇の刺繍のウェディングドレス。顔のない花嫁だが、その声色から不服そうな様子が伝わってくる。

「久しぶり。やっと出てきましたね」
『こうして其方と言の葉を交わすのにも、魔力リソースを食うのです』

 いざという時のために残しているのだから無用に呼び出すな――怒りのにじむ荘厳な声に、思わず首を傾げた。

『あなたって私の中で眠ってるの?」
『……ええ。其方を「真の役割」へ導くため、私の魂は其方と共にあります』

 魂。すると彼女の正体は神様的なものではなく、もしかすると霊的な存在なのだろうか――考える間を与えさせないかのように、時渡人は『真の役割』という言葉をもう一度強調した。

「役割って、私はシオン領を建て直すためにここに呼ばれたのでは?」

 荘厳な鐘の音とともに、時渡人は『いいえ』と低く言い放った。

「えっ? だって最初に『其方がこの地を救うのです――』みたいな話してたのに!」

 では時渡人は、何のために私の魂をこの世界へ運んだのか――答える前に、彼女は両手に持つ黒のダリアのブーケを強く抱きしめた。

『そろそろ対話のために割くリソースが限界です。迷える結晶たちのため、今其方がすべきことは、彼らを正しく導くための「力を見抜く力」を会得すること――』
「えっ? ちょっと待って……なんて?」
『元の世界では疎まれることもあった、他者の才を見抜く力――次は正しく使い時を見極めるのです』

 1番聞きたかったこと――ちびドラの面について聞くことができないまま、辺りが再び光に包まれた。周囲の景色が元の崖へ戻る頃には、顔のない花嫁の姿はどこにもなくなっている。

「ちびドラ……はともかく。「力を見抜く力」って、なに?」

 転生直前の記憶を辿っても、嫌なことしか思い浮かばない。
『「あなたはこれが向いてる」とか言ってくるんだけど、こっちの気持ちはどうでもいいのかって』――誰かの言葉が頭に響いた。
 
「でも『力を見抜く力』があれば、クリスタル族のエネルギー問題は解決できるってこと?」

 いくらこの世界が魔法や幻想種にあふれているといっても、自分は人間に転生した。その事実は変えようがない。今更そんな能力スキルが開花する兆しはないが――頭が混乱してきた。

「ダメだ……いったん全部考えるのやめよう」

 天幕の下、いまだ微動だにしていないパープル博士を横目に、洞窟の入り口へと向かった。

「……お邪魔します」

 震える声を抑え、始祖の洞窟を訪れると。そこにはクリスタルボディの一色も見当たらなかった。
 実験に参加したクリスタルたちは居住窟で休憩しているのか、真昼間だというのに誰もいない。始祖の七色の輝きに照らされているのは、今ひとり――そう実感した途端、涙が流れてきた。
 実験の失敗に続き、監査官の評価に時渡人の言葉と、もう頭がいっぱいいっぱいだ。
 たとえ「押し付け」と蔑まれようと、まだ元の世界の方が「チームメンバーの個性を活かせるリーダー」としてうまくやれていた――焦って空回りしていたも、こんな気持ちだったのだろうか。
「君が一緒にいるから、僕は今やっとこうして外に出られてる」――そう彼は言っていたが、それはこちらも同じだったのだ。知らない世界で1人きりの私に彼が寄り添ってくれたおかげで、自分よりも強い者に立ち向かったり、少しの無茶を押し通したりすることができた。
 なのに、私は――。

「ドラグ……」

 領主代理としてではなく「私」として1番心に引っかかっていたのは、領の評価でも時渡人の言葉でもない。何より、彼が今隣にいないという事実に涙が止まらなくなる。

「……ごめんなさい」

 誰にも届かないつぶやきが、始祖の巨大な身体に反響した直後。

「うん」

 かすかな声を振り返ろうとすると。力の抜けた身体が、そっと引き寄せられた。
 暖かい――ほんのり甘い匂いがする、自分よりもずっと大きな身体に抱きしめられている。状況が飲み込めないまま顔を上げると、今にも泣きそうな笑顔がこちらを照らしていた。

「……ドラグ、様?」
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