異世界転移したら……。~色々あって、エルフに転生してしまった~

伊織愁

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第四十九話 『クリストフ対カラトス』

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 首都ユスティティアのツリーハウスの最上階から、悲鳴を上げながら戦士隊たちが落ちて来る。

 ツリーハウスの1段目、戦士隊の詰め所や地下へ続くウロの前で、戦士隊とカラトスの配下になった戦士隊たちが悲鳴に気づき、上空を見上げた。 誰もが、落ちて来る戦士隊が地面へ叩きつけられ、悲惨な最後を遂げる想像を脳裏に浮かべた。

 地面に魔法陣が描かれ、上空から竪琴の音色が落ちて来る。 小さく響く音色は、描かれた魔法陣を発動させた。 

 一瞬の逡巡、魔法陣から稲光を発しながら飛び出していく。

 稲光は、丁度、ツリーハウスの一段目の位置で網目状に広がった。 落ちて来る戦士隊たちは、次に遭うだろう自身の最悪な事態を察し、驚愕の表情を浮かべている。

 戦士隊たちの悲鳴や泣き叫ぶ声が森中に響き渡った。

 上に居た全ての戦士隊が落ち終えたのか、魔法陣が消えていく。 再び、地面へ叩きつけられる惨事に見舞われると思われたが、一陣の風が吹いた後、戦士隊たちは見えない何かに捕らえられ、ゆっくりと地面へ横たえられた。

 戦闘を止め、一部始終を見ていた隊員は、小さい声で呟いた。

 「……っ、こんな事が出来るのは、あの二人しかいないなっ……」

 隊員は本部の小隊長をしていて、クリストフの昔馴染みだ。 そして、ずっと優斗たちに付いて来てくれていた戦士隊だ。

 カラトスの配下たちは戦意喪失したのか、皆は戦闘を再開する様子がない。

 (戦意喪失したか……。 まぁ、無理もない)

 戦士隊たちが悲鳴を上げて感電していく光景は、悲惨で精神に衝撃を与えるものだった。

 「おいっ、カラトスの配下を捕らえろっ! 数名は私に着いて来い。 里長を救出する」
 「はいっ! 小隊長」

 カラトスの配下は全員、おとなしく捕らわれた。 小隊長は、クリストフとは別行動をしていて、ツリーハウスの根本にあるウロへ突撃する所だった。 数名の部下を連れ、小隊長はウロの奥へ進んで行った。

 ◇

 カラトスの黒い水が召喚魔法を描き出し、数匹のミノタウロスが召喚された。

 クリストフの爪が光り、ミノタウロスを切り裂いていく。

 難なく、ミノタウロスをログハウスの床へ沈めたクリストフは、瑠衣と仁奈が行った所業に頬を引き攣らせていた。

 「……あいつらっ、中々、酷い事するなっ」
 「あの所業は、お前の差し金かっ……」
 「んな訳ないだろうっ!! 流石の俺もあそこまで惨い事は出来んわっ!」

 (ルイ坊っ……腹黒過ぎるだろうっ! 何であんな風に育ったのか……幼い頃は可愛かったのにっ)

 幼い頃の瑠衣の顔が浮かんだが、腹黒は横に置いておいて、しかし、後でキッチリと叱らないといけない。 今は、カラトスとの戦闘に集中する。 クリストフは目の前のカラトスを鋭く睨みつけた。

 「……カラトス、悪魔を抜かせてもらうぞっ」
 「ふんっ、黒い心臓も視えないくせに、よく言う」
 
 クリストフはカラトスの言葉を聞くと、口元に薄っすらと笑みを広げる。 音を出さずにクリストフは呟く。

 『それはどうかな』

 呟きはカラトスには聞こえていない。

 訝し気に眉を歪めたカラトスは、次の瞬間、瞳を見開いた。

 一瞬の気が緩んだ隙をついたクリストフは、素早い動きを見せ、カラトスの胸を爪が貫いた。 口から大量の血液を吐き出したカラトスから禍々しい黒いオーラが漂い出す。

 術者と戦士では元々のポテンシャルが違う。 性別だけでも大分違ってくるのだ。

 召喚魔法が得意なカラトスは、特に動きが速いわけではない。 しかし、取り込んだ悪魔の能力なのか、突き刺された傷口が一瞬で塞がれる。

 「無駄だよ。 私の悪魔はどんな傷も塞ぐからね」
 「……っち」

 クリストフは舌打ちを零したが、内心では上手く行ったとほくそ笑んでいた。

 胸に爪を刺した時、華が制作した魔道具を発動させていた。 クリストフの瞳には、カラトスの黒い心臓が視えていた。

 カラトスから黒いオーラが溢れ出し、白銀の瞳が怪しい光を放つ。

 カラトスから言葉にならない音が吐き出される。 カラトスの声で『うるさい、黙れ』と低い声が出された。 カラトスの声しか聞き取れないが、自身の悪魔と会話をしているらしい。

 (カラトス……昔は、あんな低い声は出してなかったのにな……。 いつの間にか、あんな感じに変わったけど、前はもっと笑ってたと記憶してる)

 ティオスに執着してから、カラトスはおかしくなっていった様に思う。 別れるまで、大人しい普通の女性で、可愛げもあったのだ。 目の前のカラトスに視線を向け、相手の出方を見る。

 (今は……昔の事は思うまいっ)

 悪魔との話し合いが終ったのか、カラトスは悪魔に身体を半分明け渡した様だ。

 黒い水の大鎌を作り出し、一瞬で距離を詰めて来た。 大鎌がクリストフの首元を掠める。

 寸前で避けたクリストフは、距離を取ってから六本の爪を構えた。 カラトスは自身の身長よりも大きい大鎌を器用に振り回す。 大鎌が薙ぎ払われ、クリストフへと迫った。

 六本の爪と黒い水の大鎌が打ち合わされ、澄んだ音を鳴らす。 振り下ろされた大鎌を爪で弾き返す。 クリストフは大鎌を弾き飛ばしながら、黒い心臓に意識を集中させる。

 ログハウスの床板に、黒い水で魔法陣が描かれる。 再び複数のミノタウロスが召喚され迫って来る。 デカい斧を振り回し、クリストフへ振り落とされた。

 ギリギリで交わし、直ぐ足元の床板が抉られて、ぽっかりと穴が開く。 穴の底に草地の地面が覗き、一段目だが、結構な高さがある。 先程、戦士隊たちが落ちて行った光景を思い出し、背中に悪寒が走った。 急いで穴から離れた。 

 クリストフの一瞬の隙を狙い、複数のミノタウロスの斧と、カラトスの大鎌が同時にクリストフの足元の床を狙う。

 足元の床板に斧と大鎌が振り下ろされ、もう一つ穴が開いた。 同時にクリストフは壊された床板と一緒に地上へ落ちて行った。 一段目のログハウス、廊下が破壊され、爆発音が響き、大量の木材とクリストフが落ち、地上に居た戦士隊たちからどよめきが起こる。

 地面へ叩きつけられる前に、受け身を取って地面を転がる。 直ぐにカラトスからの攻撃が来る。

 攻撃をかわす為に離れた場所で止まったが、カラトスは素早い動きでクリストフの上へ乗って来た。 口元に歪んだ笑みを浮かべたカラトスからは昔の面影はない。

 大鎌が首の横に突き刺さる。
 
 大気が揺れ、草地に大鎌が突き刺さった時の鈍い音が耳に響く。 大鎌の刃が少しづつ首に入っていく。 クリストフは小さく息を吐いた。

 「やるなら、一気にやった方がいいぞ」

 クリストフの言葉の後、カラトスの瞳が見開かれ、自身の胸に手をやった。

 カラトスの手は、自身の胸に突き刺さったクリストフの爪が握られていた。 

 黒い心臓が貫かれている事に、信じられないと表情を歪めていた。

 クリストフは爪を更に深く差し入れ、黒い心臓から悪魔をゆっくりと抜き出した。 

 ズズっと形の無い悪魔が姿を現す。

 悪魔の囁きとカラトスの叫び声が森の中で響き渡り、地上で配下に縄をかけていた戦士隊たちがざわつく。

 「浄化班っ! タイミングを合わせて悪魔の浄化だっ! 急げっ」
 「は、はいっ!」

 カラトスは悪魔が抜ける衝撃で、悲鳴を上げてのけ反らせた。 浄化班が駆け付け浄化の魔法陣がカラトスを包み込む。

 浄化が始まったと同時に、最上階で何かが噴射した気配を感じた。

 爪をカラトスから完全に抜き去り、爪の先に悪魔が巻き付いている。 直ぐにもう一人の浄化班が駆け付け、悪魔を浄化する。 振り仰いだクリストフは、カラトスに視線を向ける。

 薄っすらと瞳を開けたカラトスは、クリストフを視界に捉えると、何かを呟いた。

 「今更、遅いわっ」

 クリストフもカラトスへの答えなのか、面倒そうに呟き返した。
 
 「副隊長? 今、何か言いました?」
 「いや、何でもない。 里長はどうなった?」
 「はい、小隊長が救出致しました。 今は、あちらでお休みになっています」
 「そうか」

 ◇

 最上階では、ディプスとの戦いがまだ続いていた。 無事に里長が救出された事は、地上の騒ぎや様子で分かった。 

 対峙していたディプスも分かったようだ。

 「ちっ、カラトスはやられたかっ」
 「お前も諦めて投降したらどうだ?」
 「はんっ、何で投降する必要があるんだ?」
 「もう、お前とティオスしか残っていないぞっ!」
 「それがどうした」
 「ちっ……」

 土剣と木製短刀で打ち合いを始める。

 土剣を弾き飛ばしながら、優斗は黒い心臓に狙いを定めていた。 ディプスは時折、土に姿を変えて優斗の短刀をかわして来た。

 脳内のモニター画面には、華とティオスが会話している様子が流れている。 

 ティオスの説得も上手く行っていないようだ。

 (華……)

 『ユウト、次にディプスが土から人の姿へ戻る時に、黒い心臓を狙って。 そっちの方が交わされにくいから』

 (分かったっ!)

 白銀の瞳に魔力を宿し、黒い心臓を見つめる。 深く呼吸をし、ディプスの懐へ飛び込んでいく。

 ディプスは次々とバックステップで短刀の攻撃をかわし、土剣で切りつけて来る。

 ディプスの攻撃をかわし、短刀を下から斜め上へ切りつける。 身体を土に変え、攻撃をかわされたが、次の瞬間、チャンスが訪れた。

 人へ戻る時に、チラリと肉眼で黒い心臓を確認する。

 床板に銀色の足跡が輝き、足跡を踏み込みながら木製短刀を黒い心臓へ突き刺した。

 土から人へ戻る中途半端な姿のディプスは、信じられないという表情を浮かべていた。 悪魔が抜ける衝撃で悲鳴を上げたディプスは、あっけなく終わった。

 黒い心臓から悪魔を抜き出し、浄化をする為、華の方へ視線をやる。

 「華っ、悪魔の浄化をっ!」
 
 しかし、短刀に悪魔を巻き付かせながら、優斗は動けなかった。 華はまだティオスと交渉中だった。

 『ユウト、取り合えず、悪魔を凍らせておこう』

 「あぁ、そうだった、その手があったっ」

 優斗が凍結魔法を放つと、ディプスに取りついていた悪魔は一瞬で凍り付いた。

 しかし、ディプスは早く浄化しないと危険だ。 ディプスは顔を青ざめさせ、呼吸も荒くなっていた。
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