異世界転移したら……。~色々あって、エルフに転生してしまった~

伊織愁

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第四十四話 『……よくある話よ』

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 翌朝、パレストラが目覚めたと華から報告を受け、優斗と瑠衣、クリストフたちは朝食の途中だったが、急いでパレストラの部屋へ向かった。

 大勢のエルフが螺旋階段を駆け上がる足音を鳴らし、大きな音を立ててクリストフが客室の木製の両扉を押し開けた。

 大きな音で驚いたのか、中に居た華と仁奈、パレストラの3人は大きく両肩を跳ねさせていた。

 「起きたかっ! パレストラっ!」

 目覚めたパレストラを見ると、クリストフが大きな声で叫んだ。 突然の大きな声にも華たち3人と、部屋の入り口で立っていた優斗と瑠衣も驚いた。 優斗の足元に隠れて、フィルとフィンが恐る恐る顔を覗かせている。
 
 客室へ入って左側にダブルベッドが置かれ、ベッドで上半身を起こしていたパレストラからは、前に見た戦闘狂の雰囲気はない。 小さく息を吐いて、クリストフに毒舌を言い放ったパレストラからは、気位の高いお嬢様な雰囲気が漂っていた。

 「うるさいわね、クリストフ。 もう少し、静かにしてくれない? 耳が痛いわっ」

 (ん? 何か、雰囲気が違うっ)

 『男前な話し方だったよね?』

 (うん、そうだった。 話し方だけ聞いてれば、男かと思うくらいの……)

 「……悪いっ、つい……興奮してなっ」
 「こ、興奮ってっ……気持ち悪い事言わないでっ!!」

 男嫌いなパレストラは目の色を変えて近づいてい来るクリストフに身体全体で拒絶した。 今のクリストフは、男嫌いじゃなくても性別関係なく、近づきたくない程、気持ち悪い。

 瑠衣がクリストフの肩を後ろへ引いて止めにかかった。
 
 「おいっ、お前っ、それ以上近づくな。 話が聞けなくなるだろっ」
 「いや……ほらっ、悪魔に憑かれた者を浄化できても……悪魔を取り込んだ奴が元に戻る事って、今までになかっただろ? すまない、興奮しすぎた」

 クリストフは素直に頭を下げてパレストラに謝罪した。 皆がクリストフの話に息を呑んだ。

 (あ、そうか……最後は悪魔に負けて、魔王候補になるんだったな)
 
 「……まぁ、そうよね」
 「お前に何があったか、話してもらうぞ」

 鋭くクリストフを睨みつけるパレストラは、病み上がりながら迫力があった。 

 パレストラの睨みにも怯まず、クリストフとパレストラの2人は、お互いに暫し睨み合っていた。

 折れたのはパレストラで、小さく息を吐いた後、重い口を開いた。

 「……よくある話よ。 知っていると思うけど、私は父違いの妹に跡目争いで負けて、本部の戦士隊に入隊したわ。 その時、ティオスから渡されていた魔法陣があって……心の不安や不満を取り除いてくれるって……その魔法陣から声が聞こえたのよ。 その後は、貴方たちが知っている通りよ」

 「もしかしたら、悪魔を召喚する魔法陣なのかも……悪魔は森の中で湧いて出て来るけど、集落は弱いけど結界が張られているものね」

 フィンが大人顔負けの表情を浮かべ、優斗の背後から真剣な声で宣った。

 「じゃ、ティオスはもしかしなくても悪魔を召喚する魔法陣をばらまいてるのかっ……」
 「っていう事になるね」

 軽い調子でフィルが優斗に同意すると、皆の間に重い空気が流れる。

 『その魔法陣、回収しないとね。 ほおっておく事は出来ないよ』

 「うん。 じゃ、それもユスティティアへ行ったら回収しようか」

 皆が優斗に同意して頷くと、パレストラが爆弾を投げて来た。

 「そうだわ」
 
 パレストラはハッとしたように顔を上げて、優斗の方へ視線を向けた。

 「次期里長、ユスティティアへ行くのなら、気を付けた方がよろしいです。 ダークエルフの者が入り込んでいますので」

 パレストラはクリストフに対する話し方とは違い、優斗には丁寧な言葉使いで話した。 そして、思ってもいなかった爆弾を投入したのだ。
 
 「「「「「えっ!!」」」」」
 「ダークエルフって、エルフの親戚のっ?!」

 驚きすぎて瑠衣が頓珍漢な事を叫んだ。

 前世でライトノベルの読みすぎである瑠衣は、自身の発言に気づいていない。

 「はぁ? ダークエルフは親戚じゃないぞ。 種族名にエルフって入っているが、全く違う種族だぞ。 まぁ、お嬢の親戚はいるかもな」

 皆の視線が仁奈に注がれる。 注目の的の仁奈は自身を指さして、『えっ』と驚いている。 仁奈は自身がダークエルフの血を引いている事をすっかり忘れていた様だ。

 「……仁奈っ」
 「ドリュアス代表はダークエルフの血を引いてたからな。 向こうから嫁いで来たダークエルフがいるんだよ。 昔々、疎遠になる前だけど」
 「でも、ティオスはどうやってダークエルフと連絡が出来たの? 今は全く連絡が取れないはずなのにっ」

 華は自身も覚えがないか、考えながら話していたが、思い浮かばなかった様だ。

 パレストラの方へ視線を向け、問いかけるような眼差しで見つめている。

 しかし、パレストラもダークエルフと連絡を取る方法を知らないようで、顔を横へ振った。

 「エレクトラアハナ様、それは私も存じません。 いつの間にか、我らの中に居たという認識です。 もしかしたら、カラトスが何か知っているかもしれません……彼女が一番、ティオスに執着していますから。 本部でもよく一緒にいるのを見かけていました」

 パレストラからカラトスの話が出て、もしかしてカラトスも話し方や雰囲気がガラリと変わったのかと、クリストフの方へ視線をやる。 しかし、クリストフは『知らんっ、あんな奴っ』と顔を横に振っただけだった。

 「……なんか、クリストフ……怒ってない?」

 『うん、なんかそんな感じだよね……』

 「単に仲間だと思っていた人たちが悪魔を取り込んでいて、やるせないのじゃない? カラトスが正体を現した時も、ものすごく怒ってたんでしょ?」
 「ああ、そう言えば、そうだった」

 フィンとフィルの会話を聞いて、優斗も思い出した。 クリストフはものすごく驚いていたし、悔しそうにしていた様な気がする。

 「取り敢えず、準備を整えて計画通りユスティティアへ向かう。 昼過ぎにはエーリスを出るぞ。 分かったな、ユウト」
 「はい、クリストフさん」

 「私も行くぞ」

 パレストラから低くて重い声が飛び出し、また元に戻ったのかと、一斉に皆がパレストラを振り返った。 緊張で張り詰めた空気の中、暖炉で火のはぜる音だけが客室で響いた。

 「エーリスの外へ出たら、きっとマリウスが待っていると思います」

 次にパレストラから出た声は、お嬢様然とした声だったので、皆がホッと胸をなでおろした。 しかし、パレストラの瞳には戦闘狂だった頃の色が混じっている様に感じた。

 『う~ん、悪魔を取り込んでいた時は、内に秘めていた戦闘狂が表に出てたみたいだね』

 監視スキルの声に、優斗は黙って頷いた。 しかし、待っているとはどういう事かと、パレストラに問いかけた。

 「マリウスが待ってるって、どういう事? エーリスは今、風神の幻影魔法とリューさんの結界で何処にあるか分からなくなってるはずだけど……」
 「……マリウスはどれだけ離れていても、結界で遮られていても、私が何処にいるのか、いつも分かるんです。 マリウスだけは、どうしても振り切れないんです」
 「……そう、なんだ」

 (まじでっっ、それは……ちょっと怖いんだけどっ)
 
 「えぇぇ、なんだそれっ! 何処にいるか分かるって、まるで……」

 瑠衣はチラリと優斗の方へ問いかける様な視線を送って来る。 優斗はにっこりと黒い笑みを浮かべた。

 「瑠衣、その先は言わなくていいぞ」
 「……ははっ」

 瑠衣は乾いた笑い声を上げた後、優斗から視線を逸らした。 クリストフがパレストラに確認する。

 「そうか……じゃ、待ち伏せされているのは確実なんだな?」
 「絶対です。 マリウスの取り込んだ悪魔は、私たちの悪魔の中で一番、強いんです。 ダークエルフの方は分かりませんが……」
 「そう。 えっと、ダークエルフも悪魔を取り込んでるの?」
 「はい、確実です」
 
 何故か、クリストフとパレストラが見えない火花を散らし、パレストラははっきりと頷いた。 皆に流れる空気が一気に張り詰め、恐る恐る優斗が訊ねた。

 「えと、ダークエルフの方は何人いるか知ってる?」
 「いいえ、存じません。 ただ、ユスティティアへ来訪しているのは1人だけですが、悪魔の気配を纏っています」
 「そう、分かった。 ありがとう、パレストラはもう休んでくれ。 ここに居れば安全だから」
 「いいえ、そういう訳にはまいりません。 マリウスは、……彼はきっと私を見つけるまで止まりませんから」
 「パレストラ……」

 華がパレストラの手を握りしめた。

 「ユウト」

 クリストフに腕を取られて後ろへ引かれ、瑠衣やフィルとフィンもそばへやって来る。 華と仁奈はパレストラのベッドの傍らで不思議そうに首を傾げて立っていた。

 「気は進まないが、パレストラを囮に使おう」
 「クリストフさんっ?!」
 「おいっ!」

 フィルとフィンは口を開けて驚いていた。 優斗はクリストフにどういう事なのか、詳しく話すように促した。

 「どういう事ですか?」
 「いいか、絶対に見つけるって事は、絶対にエーリスを出た所にマリウスが居るって事だ。 だから、パレストラと一緒に出て、隙を作ってマリウスを捕まえるんだよ」
 「まじかっ?!」
 「マジだ! ってか、マジってなんだ?!」
 「……分からないのに返したのかよっ」

 クリストフの話を要約すると、どうせ待ち伏せされているのなら、策を用意して出ようという事らしい。

 (マリウスも1人で待ってるとは限らないんだけど……。 もう、1人くらい居るかもって考えてた方がいいかもしれないっ)

 『そうだね。 ディプスとか好戦的だったしね』

 (ああ、ディプス……そんなのもいたかっ)

 言い合うクリストフと瑠衣を、瞳を細めて見つめた後、パレストラの方へ視線を向ける。

 「……本当にいいの?」
 「はい、私が出て行かないと……マリウスは、エーリスへどうやっても入ろうとすると思いますので」
 「それは……困るな。 分かった、一緒に出よう。 病み上がりだけど、大丈夫?」
 「はい」
 「じゃ、決まったな。 準備が出来たら広場へ集合だ」

 クリストフは部下に報告する為、直ぐに客室を出て行った。 後に残された優斗たちも仕方なく、出発する準備をするために客室を出て行った。

 ◇

 華と仁奈は最後まで反対したが、パレストラが宥めた。 泣きそうな表情の華の顔が思い浮かび、パレストラから小さく笑みが零れる。 

 客室の窓際から外を覗くと、戦士隊たちが出発の準備を整えている様子が視界に入った。 本部の白銀の隊服に、直ぐにマリウスの顔が思い浮かぶ。

 (……マリウス)

 懐から隠し持っていた魔法陣を取り出す。

 魔法陣は、ティオスから渡された悪魔を召喚する為の魔法陣だ。 ティオスは戦士隊の本部で悪魔が取り憑きそうな隊員に魔法陣を渡していた。

 使用した隊員は少なからずいて、パレストラの様に成功した者もいたが、大半が一生続く悪魔との戦いに精神を病んだ。

 悪魔に負けた魔王候補をパレストラたちは何人も倒して来た。

 (これを使えば……またあの力が手に入る。 でも……)

 パレストラは今朝の華たちとの会話を思い出した。

 意識が戻り、視界には知らない天井が見えた。 気持ちはすっかり落ち着き、パレストラの精神と身体を乗っ取ろうとする悪魔の気配がしない。

 ずっと悪魔の囁きが聞こえていたが、今は静かだった。

 (……っ悪魔を抜かれたのね……心が安定している、悪魔を取り込む前の荒んでいた心もない?)

 「久しぶりだわ……こんなに心が落ち着いているなんて……まさに憑き物が落ちたようだわ」

 上半身を起こし、部屋を見回す。 木製の両扉が開かれ、誰かが入って来る気配がした。

 「あ、パレストラ! 良かった、気が付いたのね」
 「エレクトラアハナ様……」

 今までの事もあるので、若干、身構えたが、パレストラにはもう華を襲う気はない。

 華は目覚めたパレストラに近づき、嬉しそうに笑いかけて来た。
 
 「ここは優斗の故郷で、南の里アウステルのノトス村にあるエーリスっていう名の集落よ」
 「ユウト……では、レアンドロス・ユウト・タルピオス様のツリーハウスなのですね」
 「……うん、そうよ。 フルネームだと長いから、優斗かレアンドロスでいいと思うけど」
 「いえ、恐れ多いので、次期里長と呼ばせてもらいます」
 「そう。 幻影魔法とリューさんの結界を張ってるから、ティオスには見つからないわ。 襲撃は来ないと思う……あ、リューさんっていうのは、優斗の父親で」
 「はい、存じ上げております。 現エーリスの代表をしておられる方ですね」
 「そうよ、流石、勤勉家ね……あの、聞いていい?」

 華の少しだけ緊張したような声に、パレストラは顔を上げた。

 「はい」
 「どうしてこんな事を? 記憶はあるよね?」
 「はい、言い訳は致しません。 私は、どうしても力が欲しかったのです。 我が妹に勝って、跡取りの地位を取り戻す為に……。 しかし、私の身体に取り憑いた悪魔の性格なのか、当初の目的を忘れて力だけを求めるようになってしまい……。 戦闘狂の様になってしまいました。 分かってはいたのですが、止められませんでした」

 布団と一緒に握りしめた拳が震え、シーツにいくつもの皺を作る。
 
 「パレストラ……」
 「私は沢山の同胞を死に追いやりました。 どんな処分を下されても仕方がない事をしました。 どうか、私に死刑を下さいますようお願い申し上げます」
 「パレストラ……」

 パレストラが頭を下げた時、仁奈とクリュトラが客室へ入って来た。

 パレストラは直ぐに顔を上げ、挨拶をしようとして、クリュトラに止められた。

 にっこり笑ったクリュトラはパレストラの肩を抑え、ベッドへ押し倒した。

 存外、力が強くて驚いた。

 (私が弱っているからかしら……。 全く、押し返せないっ)

 クリュトラの意外な一面を垣間見た瞬間だった。 クリュトラの眼差しは、ベッドで大人しくしていなさいと言っていた。

 「……っ分かりましたっ、不作法で申し訳ありませんっ」
 「いいのよ。 それと少し聞こえたのだけど、貴方たちの処分はティオスを捕らえて、全てが片付いたら、レアンドロスから沙汰が下されます。 ティオスの里への襲撃の件は、既に次期里長の2人に一任されています」
 「そうですか……」
 「ええ、先に捕られている襲撃者の処分の時に決めたそうよ。 ね、そうでしょう、エレクトラ」
 「はい、里長。 今後、捕らえるティオスの配下は全て、同じです」

 クリュトラは小さく頷くと、パレストラへ視線を向ける。

 「だそうよ。 ですので、パレストラ、逃げ出す事も、自害する事も許しませんよ。 処分が出るまで大人しくここで待ってもらいます」
 「はい」

 パレストラはクリュトラにしっかりと頷いた。 何故だか分からないが、パレストラの中の悪魔は暴走寸前だったからなのか、悪魔を抜かれて安堵していた。

 (捕まって……ホッとしている……?)

 もう、パレストラには抵抗する気持ちも、妹を負かしたいという気持ちも湧いてこなかった。

 回想から戻って来たパレストラは、懐から取り出した召喚魔法陣に火をつけた。

 魔法陣はパレストラの掌の上で燃え上がり、跡形もなく消えた。 最後の悪魔の叫び声なのか、小さい悲鳴がした。

 ◇

 昼を過ぎ、エーリスの入り口に集まった優斗たちは、幻影魔法と結界魔法で歪んでいる空間を見つめていた。 歪んだ空間を出ると、エルフの里の森へ出る。

 「いいか、皆、もしかしたら大勢のティオスの配下がいるかもしれん。 ニーナ、頼んだぞ」
 「うん、任せといて」

 仁奈が竪琴を取り出すと、防壁を作り出す準備をする。 瑠衣は引き続き、風神をエーリスへ置いて行くので、宥めるのに忙しそうだった。

 「華、絶対に俺から離れないでね」
 「うん、大丈夫よ。 フィンもいるし、今回はちゃんと武器も備えてます」

 華は片目を瞑って片腕を掲げると、手首には懐かしの魔法弾を飛ばす腕輪型の魔道具がつけられていた。

 「分かった、でも、無理するなよ」
 「うん」
 「よし、皆、準備はいいな。 行くぞっ」

 クリストフの号令で優斗たちと戦士隊が返事を返し、目の前の歪んだ空間に優斗たちは足を踏み入れた。
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