我関せずな白蛇の亜人が恋に落ちる

伊織愁

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16話

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 鳥がさえずり、森の奥にも朝日が差し込む。 テントの中まで朝日が差し、アンガスの寝顔を照らしている。 徐々に意識が覚醒し、きつく瞼を閉じた後、瞼を開けた。

 (朝ですね……あまり、眠れませんでした……)

 視界にテントの天井が映り、吊り下げているランプが小さく揺れている様子を眺めながら、昨夜の事を思い出した。 上半身を起こし、片手で頭を抱える。 結局、昨夜は夜空を見上げて話し込んだ後、ローラに押し切られる形でテントの中で一夜を明かした。

 隣で気持ちよさそうに寝息を立てるローラを見やり、アンガスは大きく息を吐き出した。

 そっと、白から灰色へグラデーションしている長い髪を一房掬い上げ、流れ落ちていく綺麗に手入された髪の感触を楽しむ。 アンガスの掌から髪が流れ落ちていた後、呑気な声が届いた。

 声のする方へ視線をやると、補佐官の妖精の伝書がアンガスの名前を呼んでいた。

 『若様、おはようございますっ』
 「……貴方は朝から元気ですね」
 『はい、朝食も美味しく頂きました』
 「そうですか……」

 補佐官の妖精は、じっとアンガスの姿を上から下へ舐める様に眺めて来た。

 『服……着てますね』

 補佐官の言葉に、アンガスは呆れた様に瞳を眇めた。 妖精の伝書は、受け取る相手と送った相手の様子も模写する為、服装や仕草、表情も模写する。 補佐官はローラと一夜を過ごした事に、あらぬ事を想像していてのだろう。

 「当たり前でしょう? こんな状況で、ローラに手は出しませんよ」
 『そうですか……で、そのローラ嬢はどうしてます?』
 
 チラリと隣を見ると、ローラはまだ眠っている。 昨夜はローラも中々、寝付けなかった様だ。 テントに入って寝袋に入ったはいいが、寝付けなくて、ローラと遅くまで話し込んだ。

 横になって寝ているローラの髪をまた一房掬い上げ、気持ちの良い感触を確かめる。

 「まだ、寝てますよ」
 『そうですか。 今、若様たちを迎えに行く準備をしていますので、もう少しだけお待ちください』
 「分かりました」
 『それで?』
 「それでとは?」

 補佐官が言っている事の意味が理解出来ず、わずかに眉間に皺を寄せる。

 『やだなぁ~。 刻印が繋がった後ですし、何か進展があったかなっと思いまして』
 「……だから、こんな所で手は出さないとっ」
 『そうじゃなくてですね。 若様のお気持ちは伝えたのですか?』
 「……っそれは、まぁ、ちゃんと伝えましたよ」
 『そうですか!! では、やっと正式に婚約するんですね?! 良かったです!』
 「ん? 婚約?」
 『えっ、お気持ちを伝えたのでしょう? 勿論、婚約する旨を伝えたんですよね?』

 補佐官の妖精は、上下に小刻みに飛び跳ね、アンガスの事なのに照れくさいのか、頬を染めていた。

 (気持ち悪いっ……)

 しかし、補佐官に言われて気づいた。 アンガスは好きだとローラに伝えただけで、後の事は何も言わなかった。 気持ちが固まったら婚約すると、お互いの両親に伝えてある。

 両親へ報告する前に、ローラの気持ちを確かめて、自身の気持ちも伝えるべきである。

 (そうです、まだ、お互い好きだと言い合っただけです。 ローラは私の事を好きだと言ってくれましたが、婚約する気持ちがあるのか、聞かないといけません。 ちゃんと話し合ってから両親に報告するべきですね)

 「まだ、お互いに好きだと伝え合っただけです」
 『そうなんですかっ! じゃ、プロポーズしてないんですか……』
 「……プロポーズ?」
 『はい、婚約=いずれは結婚、ですから。 プロポーズ要りますよね? それに、何もなかったとしても、二人が同じテントで一夜を過ごしたという事は、両家には伝わってしまいます。 まさか、これで婚約しないなんて……。 ブレイク家は怒り心頭ですよ』

 補佐官の妖精は『何を言っているのか』と、首を傾げる。 補佐官の声だが、三頭身の妖精はとても可愛らしく首を傾げている。 色々な感情が混じった複雑な表情をアンガスは浮かべた。

 隣でまだ、眠っているローラの頭を撫でると、アンガスは覚悟を決めた表情を浮かべる。

 「分かりました。 キャンプから帰ったら、ローラにプロポーズします」

 アンガスの決意表明に、補佐官の妖精が『おおぉ~!!』と歓声を上げた。 アンガスと補佐官は気づいていなかった。 ローラは既に起きていて、話の内容とアンガスが優しく髪を撫でたり、頭をなでたりしてくるので、起きるタイミングを逃していた。 ローラの耳や首筋が真っ赤に染まっている事に、誰も気づいていなかった。

 アンガスの迎えは、なんと王国騎士団でも、王家を護衛する近衛騎士団だった。 また、公務をすっぽかして、ジェレミーがキャンプ場まで来ていた。 アンガスたちがキャンプ場へ遊びに行くと聞いていて、ずっと自身も遊びたいをとてもうるさかったらしい。

 そして、騎士団はアンガスが倒した魔物を解体し、使えそうな沢山の素材をちゃっかりと持ち帰っていた。

 ◇

 無事にキャンプ場から戻って来たアンガスは、いつも通りの日常に戻っていた。 もう直ぐ、学園の入学試験があり、王都のタウンハウスに住居を移す。 タウンハウスへ行く前に、やって置く事が山ほどあり、中々、ローラとの時間が取れなかった。

 アバディ領から届いた報告書に目を通しながら、アンガスは深い溜息を吐いた。

 リーバイとグレンダはキャンプの後、彼らも学園の入学試験の為、カウントリムへ帰る。 暫くは会わないだろうが、きっと縁は切れないだろう。 二人は一緒に帰省する様だ。

 (もしかしたら……もしかするかもしれませんね……)

 アンガスの脳裏に、アンガスとローラがキャンプ場へ戻った時の事が思い出された。

 近衛騎士団に連れられて、アンガスとローラがキャンプ場へ無事に戻って来た。 リーバイとグレンダが二人に駆け寄って来る。 いつも笑顔を浮かべていたグレンダは、涙目になっていて、目が赤くなっていた。 己の侍女がしでかしてしまった事で、ローラが心配で泣いていたのだろう。

 グレンダは駆け寄って来ると、ローラに抱き着き、腕に力が入っているのが見えた。 ローラは頬を染めていて、そっとグレンダを優しく抱きしめ返していた。

 ローラを抱きしめるグレンダの声は震えていた。

 「良かった……無事で。 ごめんなさい、私の侍女がなんて事を……誤っても、誤り切れないわっ」
 「大丈夫です、アンガス様が助けて下さいましたし、この通り、私は無事なのですから。 それより、グレンダ様の侍女たちも遭難したと聞きました。 二人は無事だったのですか?」
 「ええ、あの子たちは河原にいたわ。 帰る方向が分からなくなっていたみたい」
 「そうですか、無事でよかった」

 二人が抱きしめ合いながら話している横で、アンガスは羨ましそうに瞳を細めていた。 自身もローラを抱きしめたいと思っているのが顔に出ていた。 誰かが近づく気配を感じ、アンガスは振り返る。

 振り返った先に、リーバイの姿を捉えた。 無言で見つめ合った後、先に口を開いたのはアンガスだ。

 「私はローラと婚約します」

 小さく身体を震えさせたリーバイだったが、諦めた様に息を吐いた。

 「いとこを助けて頂きありがとうございました。 僕は近日中にカウントリムへ帰ります」
 「私が言うのもなんですが、シュヴァルツ伯爵子息はそれでいいんですか?」

 力強く頷いたリーバイは、すっきりとした笑みを浮かべた。

 「ええ、ローラと君の刻印が繋がったのなら、僕の入る隙間はありませんから。 やっと気持ちに区切りがつきましたよ。 ずっとそれを待っていたのですから、僕は安心して次の恋に進めます」
 「君は……もしかして……」
 「グイベル侯爵子息」

 しっかりとアンガスに力強い眼差しを向けて来た。

 「君が真っ直ぐに魔物が居る場所へ向かった時、『ああ、刻印が繋がったんだ、漸くローラを忘れられる』と思いました。 ローラの事、よろしくお願いします」
 「ええ、必ず守ります」

 二人は初めて友好的な握手を交わした。 アンガスとローラが二人っきりで過ごした夜、リーバイとグレンダも二人で今後の事を話し合ったそうだ。 話し合った結果、二人は婚約しない事にしたと言っていた。 理由はやっぱりローラの事は諦めたが、気持ちはまだあって、無くなるの事が怖いのだと、正直にグレンダに話したそうだ。

 もし、リーバイの中から自然とローラの気持ちがなくなった後、お互いが想い合えるなら、婚約しようという結論になったと。 後日、お互いの親に話した所、両家の当主たちは無理矢理に偽印を刻ませようとしていた事が夫人にバレて、怒られた様で、グレンダからのローラへの手紙に面白おかしく書かれていた。

 「若様、ローラ嬢がお着きになりましたよ」
 「今、行きます」

 回想から現実に意識を戻し、アンガスは自身の部屋を出た。 部屋を出たアンガスは、真っ直ぐにローラが居る中庭へ急いだ。 本日は大切な話があると、呼び出している。

 長い廊下を進み、アンガスの両親が結婚した時に植樹した樹が植えてある中庭を目指す。

 中庭に出たアンガスはローラの姿を探す。 樹のそばに屋根付きのベンチが置いてあり、ローラはベンチに座って植樹した樹を見上げていた。 アンガスが近づくと、ローラは柔らかい笑みを浮かべた。

 アンガスの胸が小さく高鳴り、顔に熱が集中する。

 ごく自然にローラの隣へ腰掛け、視線を合わす。 先に言わないといけない事があると分かっていたが、身体が先に動いてしまった。 ローラが何かを発する前に、ローラの口から紡がれる言葉を遮った。 ローラの身体が一瞬、ビクリと跳ねて固まったが、直ぐにアンガスに身体を委ねて来た。

 暫しの沈黙の後、アンガスが口を開く。

 「ローラ、私と結婚して下さい。 ローラと離れたくありません。 学園に行っている間、一緒にタウンハウスで暮らしませんか? 結婚した後は、暫くはアバディ領で暮らす事になりますが、どうでしょう?」
 
 少しだけ驚いたローラは瞳を見開いていた。 顔が真っ赤になっている事から、先程の口づけの余韻が残っているのだろう。 口元を手で押さえている。

 「はい、私もアンガス様と離れたくありません。 喜んでお受けいたします」
 「受け入れてくれてありがとうございます」

 直ぐに両家に報告すると、両親たちは喜んで婚約証明書を取り出した。 いつでも二人が婚約したいと言い出してもいいように、用意していてあった。 そして、慌ただしく王都にあるグイベル家のタウンハウスへ引っ越し、無事に入学試験に合格し、二人は学園に入学を果たした。

 グイベル家のタウンハウスでの生活も一年が過ぎた頃、リーバイとグレンダから手紙が来た。 中には招待状も入っており、二人の婚約式が行われると書いてあった。

 グイベル家のタウンハウスの居間のソファーで、二人並んで座って届いた手紙を広げる。

 「えぇぇ、本当にリーバイとグレンダ様が婚約するんですねっ……」
 「ええ、招待状も入っています。 どうしますか?」
 「行きたいです。 二人にお祝いを言いたいです」
 「ええ、では、休みを調整しますね」
 「はい」

 リーバイとグレンダは本物の番ではないので、婚約式では偽印を刻む儀式が行われる。 ローラは婚約式に参列するのは、初めてなのだと、楽しそうにして、居間には二人の楽しそうな声が響いていた。
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