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7話
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アバディ領の代官が変わり、引継ぎに時間を取られたが、以前よりはローラとの時間が取れるようになった。 定期的に会うという約束も守れるようになり、連絡も取れるようになった。
アンガスとローラは一見、上手くいっているように見えていた。
◇
定期的に2人が会う日、グイベル侯爵が婚姻の記念に植樹した大きく育った大樹、近くで観賞できるように、大樹が良く見える位置に木製のテーブルと、屋根付きのベンチが置かれ、アンガスとローラは2人並んで腰かけていた。 2人の間には微妙な空気が流れている。
雨風に耐えられる木製のテーブルには、女子の好きそうなスィーツが沢山並べられている。
赤い壁に囲まれて大樹は、グイベル侯爵が想像できなかったくらい育った。 見上げれば青い空とゆっくり流れる白い雲、大樹には小さな桃色の花が咲き乱れている。 花が咲く季節ならば。
幼い頃は、大樹の根元のそばにシートを敷いて、幼い弟妹と花が咲く季節には、よく花見をした。
ベンチには両親が座って楽しそうにアンガスたちを眺めていたな、と思い出してチラリと隣で座るローラを盗み見た。 屋根がついているので、顔に影が落ちて表情が分かりにくい。
視界の先の赤い壁にある丸い窓や、坪庭に出る為の出入り口のガラス扉の影に使用人が数人いた。
2人を盗み見している使用人たちに呆れ、アンガスは溜息を吐いた。 いつもは小動物の様に口いっぱいに食べ物を頬張り、美味しそうに咀嚼しているローラだが、今日は一つも口をつけていない。
緊張しているのか、握りしめた拳を膝へ置いている。 お互いに意識をしすぎて、いつも通りにふるまえないでいた。 2人の手の甲の刻印が虹色に煌めいていた。
まだつぼみもつけていない大樹の枝を眺めていると、自然と視界に入る赤い壁と丸い窓。 丸い窓には格子状の障子がつけられている。 そっと障子が引かれ、補佐官の顔が覗く。
(何をやっているんですっ……貴方はっ)
そっと顔の右側だけが覗く補佐官と視線があった。 補佐官の瞳が鋭く細められた。
(あの眼差しは……私に謝れって言っているんですね)
色街騒動の後、屋敷へ戻ってきたアンガスは補佐官に責められていた。 何も聞かされず、知らずに着いて行ったローラには非がないと、『呆れますね』ときつい事を言い放ったアンガスが悪いと言われ、次に会った時に謝罪しておくようにと言われている。
(何故、そのことを知っているんでしょう。 あの場に両家の使用人はいなかったはずです)
補佐官の突き刺さるような視線を受け、アンガスはローラの方へ視線を向けた。
(……まぁ、少しだけ言い過ぎたとは思っていましたしね……)
「あの、ローラ」
「は、はいっ」
そっと声を掛けたはずだが、ローラは大げさに驚き、肩を跳ねさせていた。 ローラの反応に謝罪を忘れ、少しだけ意地悪な気持ちが湧いて来た。
(そんなに怯えなくてもいいでしょう……)
「ローラ、菓子は食べないのですか?」
「えっ」
「いつもは口いっぱいに頬張って食べているじゃないですか」
「……あの、今日はお腹いっぱいで……」
目の前にあるローラが好きな饅頭に手を伸ばし、一つ摘まむと、ローラの口元へ近づけた。
「ほら、ローラの好きな満月宴の饅頭です。 美味しいですよ」
にっこりと微笑むと、ローラは真っ赤になって身体ごと饅頭から引いた。
「アンガス様っ、じ、自分で食べられますのでっ……」
ローラは両手でアンガスの胸を押してくるが、全く押し返せるような強さではなかった。 慌てふためくローラの姿はとても可愛らしく、アンガスの口元が自然と緩んだ。
前合わせの上衣の裾から出ている柔らかい手の感触と番の刻印、レースの裾が視界に入る。
無理矢理に口を開けさせて、ローラの口に饅頭を咥えさせる。 ローラはふごふごと言葉にならなり声を出して、真っ赤になりながらも饅頭を咀嚼した。
ふっと吹き出しそうになったアンガスへ補佐官の鋭い視線が突き刺さり、忘れていた事を思い出した。 必死に饅頭を咀嚼しているローラは涙目になっていた。
目を合わせて謝罪するのは、何処か気恥ずかしく、ローラから視線を逸らして口を開いた。
「……この間はすみませんでした」
「へっ?」
まだ、饅頭が口にあるローラからこもった声が飛び出して、ローラの反応を見る為に盗み見る。
変な声が飛び出た事に恥ずかしかったのか、ローラは急いで饅頭を飲み込んだ。 大きく動くローラの喉元を見つめる。 ローラは真っ赤になりながらも、アンガスの謝罪される事に覚えがなく、首を傾げていた。
「アンガス様? この間とは?」
首を傾げるローラから再び視線を外し、もう一度、最初から話した。
「花街での事です。 呆れますねなんて、きつい言い方をしてしまいました。 すみませんでした」
「あ、いえ、あの時は世間知らずで、知らずに着いて行った私も悪いのです」
(私もっていう事は……多少なりとも私の言った事に傷ついたのでしょうね……)
「いや、全面的に私が悪いでしょう。 あの時は込み上げて来る怒りが上手く抑えられませんでした」
「アンガス様っ」
視線が絡み合い、2人の間に何と言えない空気が流れだす。 自然と2人の距離が近づいていく。
お互いの瞳に熱がこもった時、可愛らしい声に邪魔をされた。
「仲睦まじい所をお邪魔して申し訳ありません。 しかし、いつまで待っていても、私が入っていく隙がありませんでしたから……」
アンガスとローラは慌てて近づいていた距離を開ける。 隠れていた補佐官の方へ視線を向けると、丸い窓から顔を出して左右に振って、関知していない事を訴えて来た。
(じゃ、父か……執事が案内したのでしょう)
期せずして、お邪魔虫になってしまった令嬢は、出入り口のガラス扉が開いた事にも気づかなかった2人を生暖かい瞳で見つめて来た。 長い黒髪が艶やかに揺れ、令嬢はカウントリム調の衣装を身に纏い、優雅に扇子で口元を隠していた。 容姿を見るからに黒へび族と思われる。
客人ならば、本宅ではなくて、客人を持て成すために建てられた客人専用の屋敷の応接間へ通すことになっている。
立ち上がり、令嬢のそばへ近づいき、紳士の礼をする。 直ぐ後ろにローラも着いて来た。
「ようこそ、ご令嬢。 客人が着ている事に気づかず、挨拶もせずに失礼しました。 私はこの屋敷の主の長男でアンガス・グイベルと申します。 以後お見知り置きを」
続いてローラも挨拶をした。 令嬢はにこやかなに微笑み、淑女の礼をして自己紹介をしてきた。
「いいえ、こちらこそお邪魔をしてしまい、申し訳ありませんでした。 私はカウントリム国の伯爵家、シュランゲ伯爵の一人娘で、グレンダ・シュランゲ申します。 勿論、アンガス様がアバディ伯だという事も、ローラ様が珍しい白へびだという事も存じておりますわ」
グレンダの思惑は分からないが、アンガスは彼女を本宅でなく、客人用の屋敷の応接間へ通した。
◇
客人用の屋敷の応接間は1階にある。 客人用の屋敷だけ2階建てになっていて、屋敷はブリティニア調の内装で出来ている。 応接間も大きなソファセットが置いてあり、家具や装飾品も良い物を置いている。
グレンだはブリティニア調の内装や装飾品、家具が物珍しいのか、興味深そうに応接間を見回している。
「で、シュランゲ伯爵令嬢はどのような要件で私に会い来られたんです?」
(まかか……ここへ来て、私の婚約者候補だったとか言わないでしょうね……)
ローラもアンガスと同じ想像をしているのか、アンガスの隣で不安そうな表情をしていた。 ローラの手の甲に刻まれた番の刻印が虹色に煌めいた。 ローラの気持ちに反応して刻印が光を帯びている様だった。
紅茶カップを手の上のソーサーにそっと置かれると、グレンダは口を開いた。
「貴方方が思っている様な理由ではないですわ。 まぁ、遠からずって所ですけれど」
アンガスとローラの眉が歪む。
「私は、リーバイ様の婚約者候補ですの。 あくまで候補ですけれど……、あの方の心を射止めた令嬢が正式な婚約者になれるのですわ」
「えっ?!」
「……ほう」
(なら、既にシュバルツ伯爵子息の心を射止めているローラはどうなるんでしょう)
応接間の塀の向こう側は馬車止めになっている。 豪奢な馬車が止まっている所を見ると、伯爵家にしてはお金を持っているのだろう。 塀から少しだけ出ている馬車の天井がとても豪奢な飾り付けをされていた。
「ローラ様は除外ですわ。 アンガス様の番だと判明していますし、リーバイ様の片思いですものね」
グレンダの言葉を聞き、隣でアンガスと同じように安堵しているローラの気配を感じて、心が勝手に歓喜している事に気づく。
「私がこちらに参ったのは、リーバイ様がローラ様を花街へ連れて行った為ですわ」
「それは、ジェレミー殿下がローラとシュバルツ伯爵子息を含む我々を花街へ連れて行ってくれたんですよ。 グイベル領の花街は異国情緒がありますし、花街のお茶屋の饅頭はとても美味しいと有名ですから、殿下が我々に食べさせたいと言いましてね」
「ええ、存じておりますわ」
アンガス、グレンダがお互いに笑顔を張り付ける。 ローラは2人の笑顔を交互に見つめ、狼狽えていた。 小さく溜息を吐いたグレンダが話を続ける。
「もしやと不安を募らせたリーバイ様のお義母さまが私にブリティニアへと名を下されたのですわ。 私はしばらく、こちらに学園が始まる少し前まで滞在して、リーバイ様の御心を射止めようと思います」
「「……」」
「それは……長期戦を想定しているのですね……」
「ええ。 お二人とも、どうぞ、私の応援をしてくださいませね」
グレンダは可愛らしく微笑んだ。 彼女が本当にリーバイの事が好きなのか分からないが、本気の様だ。 グレンダはしばらく、グイベル邸の客人用の屋敷へ住まう事になった。
グレンダがリーバイ狙いだと分かっていても、アンガスが暮らす屋敷で、若い女性が暮らすことに、ローラの胸は激しく動揺していた。 隣でローラが動揺している事に気づいてたが、既に家同士で話がついている様で、アンガスが口を挟む余地はなさそうだ。
「仕方ありませんね。 既に家同士で話がついているのでしょう?」
グレンダは微笑むことで返事を返して来た。 溜息を吐いたアンガスはローラに視線をやる。
「大丈夫ですよ。 ローラが心配している様な事は起こりませんよ」
「そ、そんな事は……想像してませんっ!」
慌てふためくローラを揶揄ってみる。
「へぇ~、そんな事とは何です? 何を想像してたんです?」
楽しそうにじゃれ合う2人に、先程の気まずさはなくなっている。 少しだけアンガスとローラの関係が前進したと喜んでいるのは覗き見している使用人たちだった。
◇
「えっ、グレンダがグイベル邸に?! しかも、こちらでしばらく滞在するのかっ?! 学校の準備どかあるだろうっ」
「それは坊ちゃんも同じだと思いますが」
「……っ」
リーバイはブリティニアあるシュヴァルツ伯爵家の別邸でグレンダがブリティニアへ来た報告を受けた。 リーバイが使っているの部屋の居間に衝撃が降りる。 理由は分かっているつもりだ。
ローラを花街へ連れて行くという馬鹿な事をやらかしてしまい、両親を怒らせたのだろう。
(正直、グイベル家から何も言って来なかった事に驚きだけど……、番とはいえ、正式な婚約者じゃないし……ジェレミー殿下が居た事が大きいか……)
「近々、グイベル邸でグレンダ嬢を交えた会食が行われるそうです。 坊ちゃんも招待されていますので……ローラ様にご迷惑を掛けたお詫びの謝罪をなさってくださいね」
「……分かっているよっ」
グレンダの事を思い浮かべると、リーバイの眉間に深く皺が寄った。 カウントリム調のソファに深く腰掛け、ついでに深いため息も飛び出した。 顔を両手で覆い、どんな顔をしてローラと会ったらいいのか、リーバイは思いあぐねていた。
(ローラなら、笑って許してくれるだろうか……)
ローラの心は、既にアンガスにあると分かっていても、リーバイはどうしても許せなかった。
(僕はローラに嫌いって言われるまで諦めないからね、絶対にっ)
諦めの悪いリーバイは拳を天井に突き上げ、全く反省していない様子を見せていた。 そばでリーバイの様子を見ていた執事は、自身の主を窘める事を諦めた様に溜息を吐いた。
アンガスとローラは一見、上手くいっているように見えていた。
◇
定期的に2人が会う日、グイベル侯爵が婚姻の記念に植樹した大きく育った大樹、近くで観賞できるように、大樹が良く見える位置に木製のテーブルと、屋根付きのベンチが置かれ、アンガスとローラは2人並んで腰かけていた。 2人の間には微妙な空気が流れている。
雨風に耐えられる木製のテーブルには、女子の好きそうなスィーツが沢山並べられている。
赤い壁に囲まれて大樹は、グイベル侯爵が想像できなかったくらい育った。 見上げれば青い空とゆっくり流れる白い雲、大樹には小さな桃色の花が咲き乱れている。 花が咲く季節ならば。
幼い頃は、大樹の根元のそばにシートを敷いて、幼い弟妹と花が咲く季節には、よく花見をした。
ベンチには両親が座って楽しそうにアンガスたちを眺めていたな、と思い出してチラリと隣で座るローラを盗み見た。 屋根がついているので、顔に影が落ちて表情が分かりにくい。
視界の先の赤い壁にある丸い窓や、坪庭に出る為の出入り口のガラス扉の影に使用人が数人いた。
2人を盗み見している使用人たちに呆れ、アンガスは溜息を吐いた。 いつもは小動物の様に口いっぱいに食べ物を頬張り、美味しそうに咀嚼しているローラだが、今日は一つも口をつけていない。
緊張しているのか、握りしめた拳を膝へ置いている。 お互いに意識をしすぎて、いつも通りにふるまえないでいた。 2人の手の甲の刻印が虹色に煌めいていた。
まだつぼみもつけていない大樹の枝を眺めていると、自然と視界に入る赤い壁と丸い窓。 丸い窓には格子状の障子がつけられている。 そっと障子が引かれ、補佐官の顔が覗く。
(何をやっているんですっ……貴方はっ)
そっと顔の右側だけが覗く補佐官と視線があった。 補佐官の瞳が鋭く細められた。
(あの眼差しは……私に謝れって言っているんですね)
色街騒動の後、屋敷へ戻ってきたアンガスは補佐官に責められていた。 何も聞かされず、知らずに着いて行ったローラには非がないと、『呆れますね』ときつい事を言い放ったアンガスが悪いと言われ、次に会った時に謝罪しておくようにと言われている。
(何故、そのことを知っているんでしょう。 あの場に両家の使用人はいなかったはずです)
補佐官の突き刺さるような視線を受け、アンガスはローラの方へ視線を向けた。
(……まぁ、少しだけ言い過ぎたとは思っていましたしね……)
「あの、ローラ」
「は、はいっ」
そっと声を掛けたはずだが、ローラは大げさに驚き、肩を跳ねさせていた。 ローラの反応に謝罪を忘れ、少しだけ意地悪な気持ちが湧いて来た。
(そんなに怯えなくてもいいでしょう……)
「ローラ、菓子は食べないのですか?」
「えっ」
「いつもは口いっぱいに頬張って食べているじゃないですか」
「……あの、今日はお腹いっぱいで……」
目の前にあるローラが好きな饅頭に手を伸ばし、一つ摘まむと、ローラの口元へ近づけた。
「ほら、ローラの好きな満月宴の饅頭です。 美味しいですよ」
にっこりと微笑むと、ローラは真っ赤になって身体ごと饅頭から引いた。
「アンガス様っ、じ、自分で食べられますのでっ……」
ローラは両手でアンガスの胸を押してくるが、全く押し返せるような強さではなかった。 慌てふためくローラの姿はとても可愛らしく、アンガスの口元が自然と緩んだ。
前合わせの上衣の裾から出ている柔らかい手の感触と番の刻印、レースの裾が視界に入る。
無理矢理に口を開けさせて、ローラの口に饅頭を咥えさせる。 ローラはふごふごと言葉にならなり声を出して、真っ赤になりながらも饅頭を咀嚼した。
ふっと吹き出しそうになったアンガスへ補佐官の鋭い視線が突き刺さり、忘れていた事を思い出した。 必死に饅頭を咀嚼しているローラは涙目になっていた。
目を合わせて謝罪するのは、何処か気恥ずかしく、ローラから視線を逸らして口を開いた。
「……この間はすみませんでした」
「へっ?」
まだ、饅頭が口にあるローラからこもった声が飛び出して、ローラの反応を見る為に盗み見る。
変な声が飛び出た事に恥ずかしかったのか、ローラは急いで饅頭を飲み込んだ。 大きく動くローラの喉元を見つめる。 ローラは真っ赤になりながらも、アンガスの謝罪される事に覚えがなく、首を傾げていた。
「アンガス様? この間とは?」
首を傾げるローラから再び視線を外し、もう一度、最初から話した。
「花街での事です。 呆れますねなんて、きつい言い方をしてしまいました。 すみませんでした」
「あ、いえ、あの時は世間知らずで、知らずに着いて行った私も悪いのです」
(私もっていう事は……多少なりとも私の言った事に傷ついたのでしょうね……)
「いや、全面的に私が悪いでしょう。 あの時は込み上げて来る怒りが上手く抑えられませんでした」
「アンガス様っ」
視線が絡み合い、2人の間に何と言えない空気が流れだす。 自然と2人の距離が近づいていく。
お互いの瞳に熱がこもった時、可愛らしい声に邪魔をされた。
「仲睦まじい所をお邪魔して申し訳ありません。 しかし、いつまで待っていても、私が入っていく隙がありませんでしたから……」
アンガスとローラは慌てて近づいていた距離を開ける。 隠れていた補佐官の方へ視線を向けると、丸い窓から顔を出して左右に振って、関知していない事を訴えて来た。
(じゃ、父か……執事が案内したのでしょう)
期せずして、お邪魔虫になってしまった令嬢は、出入り口のガラス扉が開いた事にも気づかなかった2人を生暖かい瞳で見つめて来た。 長い黒髪が艶やかに揺れ、令嬢はカウントリム調の衣装を身に纏い、優雅に扇子で口元を隠していた。 容姿を見るからに黒へび族と思われる。
客人ならば、本宅ではなくて、客人を持て成すために建てられた客人専用の屋敷の応接間へ通すことになっている。
立ち上がり、令嬢のそばへ近づいき、紳士の礼をする。 直ぐ後ろにローラも着いて来た。
「ようこそ、ご令嬢。 客人が着ている事に気づかず、挨拶もせずに失礼しました。 私はこの屋敷の主の長男でアンガス・グイベルと申します。 以後お見知り置きを」
続いてローラも挨拶をした。 令嬢はにこやかなに微笑み、淑女の礼をして自己紹介をしてきた。
「いいえ、こちらこそお邪魔をしてしまい、申し訳ありませんでした。 私はカウントリム国の伯爵家、シュランゲ伯爵の一人娘で、グレンダ・シュランゲ申します。 勿論、アンガス様がアバディ伯だという事も、ローラ様が珍しい白へびだという事も存じておりますわ」
グレンダの思惑は分からないが、アンガスは彼女を本宅でなく、客人用の屋敷の応接間へ通した。
◇
客人用の屋敷の応接間は1階にある。 客人用の屋敷だけ2階建てになっていて、屋敷はブリティニア調の内装で出来ている。 応接間も大きなソファセットが置いてあり、家具や装飾品も良い物を置いている。
グレンだはブリティニア調の内装や装飾品、家具が物珍しいのか、興味深そうに応接間を見回している。
「で、シュランゲ伯爵令嬢はどのような要件で私に会い来られたんです?」
(まかか……ここへ来て、私の婚約者候補だったとか言わないでしょうね……)
ローラもアンガスと同じ想像をしているのか、アンガスの隣で不安そうな表情をしていた。 ローラの手の甲に刻まれた番の刻印が虹色に煌めいた。 ローラの気持ちに反応して刻印が光を帯びている様だった。
紅茶カップを手の上のソーサーにそっと置かれると、グレンダは口を開いた。
「貴方方が思っている様な理由ではないですわ。 まぁ、遠からずって所ですけれど」
アンガスとローラの眉が歪む。
「私は、リーバイ様の婚約者候補ですの。 あくまで候補ですけれど……、あの方の心を射止めた令嬢が正式な婚約者になれるのですわ」
「えっ?!」
「……ほう」
(なら、既にシュバルツ伯爵子息の心を射止めているローラはどうなるんでしょう)
応接間の塀の向こう側は馬車止めになっている。 豪奢な馬車が止まっている所を見ると、伯爵家にしてはお金を持っているのだろう。 塀から少しだけ出ている馬車の天井がとても豪奢な飾り付けをされていた。
「ローラ様は除外ですわ。 アンガス様の番だと判明していますし、リーバイ様の片思いですものね」
グレンダの言葉を聞き、隣でアンガスと同じように安堵しているローラの気配を感じて、心が勝手に歓喜している事に気づく。
「私がこちらに参ったのは、リーバイ様がローラ様を花街へ連れて行った為ですわ」
「それは、ジェレミー殿下がローラとシュバルツ伯爵子息を含む我々を花街へ連れて行ってくれたんですよ。 グイベル領の花街は異国情緒がありますし、花街のお茶屋の饅頭はとても美味しいと有名ですから、殿下が我々に食べさせたいと言いましてね」
「ええ、存じておりますわ」
アンガス、グレンダがお互いに笑顔を張り付ける。 ローラは2人の笑顔を交互に見つめ、狼狽えていた。 小さく溜息を吐いたグレンダが話を続ける。
「もしやと不安を募らせたリーバイ様のお義母さまが私にブリティニアへと名を下されたのですわ。 私はしばらく、こちらに学園が始まる少し前まで滞在して、リーバイ様の御心を射止めようと思います」
「「……」」
「それは……長期戦を想定しているのですね……」
「ええ。 お二人とも、どうぞ、私の応援をしてくださいませね」
グレンダは可愛らしく微笑んだ。 彼女が本当にリーバイの事が好きなのか分からないが、本気の様だ。 グレンダはしばらく、グイベル邸の客人用の屋敷へ住まう事になった。
グレンダがリーバイ狙いだと分かっていても、アンガスが暮らす屋敷で、若い女性が暮らすことに、ローラの胸は激しく動揺していた。 隣でローラが動揺している事に気づいてたが、既に家同士で話がついている様で、アンガスが口を挟む余地はなさそうだ。
「仕方ありませんね。 既に家同士で話がついているのでしょう?」
グレンダは微笑むことで返事を返して来た。 溜息を吐いたアンガスはローラに視線をやる。
「大丈夫ですよ。 ローラが心配している様な事は起こりませんよ」
「そ、そんな事は……想像してませんっ!」
慌てふためくローラを揶揄ってみる。
「へぇ~、そんな事とは何です? 何を想像してたんです?」
楽しそうにじゃれ合う2人に、先程の気まずさはなくなっている。 少しだけアンガスとローラの関係が前進したと喜んでいるのは覗き見している使用人たちだった。
◇
「えっ、グレンダがグイベル邸に?! しかも、こちらでしばらく滞在するのかっ?! 学校の準備どかあるだろうっ」
「それは坊ちゃんも同じだと思いますが」
「……っ」
リーバイはブリティニアあるシュヴァルツ伯爵家の別邸でグレンダがブリティニアへ来た報告を受けた。 リーバイが使っているの部屋の居間に衝撃が降りる。 理由は分かっているつもりだ。
ローラを花街へ連れて行くという馬鹿な事をやらかしてしまい、両親を怒らせたのだろう。
(正直、グイベル家から何も言って来なかった事に驚きだけど……、番とはいえ、正式な婚約者じゃないし……ジェレミー殿下が居た事が大きいか……)
「近々、グイベル邸でグレンダ嬢を交えた会食が行われるそうです。 坊ちゃんも招待されていますので……ローラ様にご迷惑を掛けたお詫びの謝罪をなさってくださいね」
「……分かっているよっ」
グレンダの事を思い浮かべると、リーバイの眉間に深く皺が寄った。 カウントリム調のソファに深く腰掛け、ついでに深いため息も飛び出した。 顔を両手で覆い、どんな顔をしてローラと会ったらいいのか、リーバイは思いあぐねていた。
(ローラなら、笑って許してくれるだろうか……)
ローラの心は、既にアンガスにあると分かっていても、リーバイはどうしても許せなかった。
(僕はローラに嫌いって言われるまで諦めないからね、絶対にっ)
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ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
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