彼は溺愛という鎖に繋いだ彼女を公私共に囲い込む

花里 美佐

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第一章 入社と出会い

同期ー2

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 空になったグラスへ巧がビールを入れてくれる。

「気にするなよ。ほとんどが妬みだ。お前の能力は突出してる。しかも本部長の秘書もやってる。女どもの妬みだろ」
 
「……それだけじゃないよ。巧のことも言われてる」

「……ほっとけ」

 私はびっくりして彼の顔を見た。知ってたの?
 
「ごめんね。巧の好きな人とか刺激したりしてないかな?」
 
 巧は箸を止めると驚いた顔をして固まった。
 
「どういう意味だそれ?」
 
 私はお刺身を食べる。おいしいこれ。

「え?だからさ、巧がこの会社で好きな女子社員とかいたら、私がひっついているから勘違いされたりして迷惑してないかなーとか……」

 巧はじーっと私を見ると、ため息をついた。
 
「どうしてそういう、斜め上の発想になるかね?お前って本当に他人も自分のことも見えてないんだな。仕事はあんなにできるのに。困った奴だよ」

 ふたりで黙々と食べる。美味しすぎる。私も料理はするけど、これは美味しい。

 何入れてんのかな?すぐ作る方へ頭が傾く。喫茶店気質が抜けないのよね。

 最後に抹茶入り白玉ぜんざいが出た。ううむ。これは喫茶店でも出せる。最近は、和のものも出してるんだよね。

 ひとりでにまにま食べていると巧から声をかけられた。

「菜摘」
 
「なに?」
 
「お前が好きだ。俺と付き合ってくれ」
 
「……え?」

 びっくりして、白玉をかまずに飲み込んでしまう。
 
「けほけほっ」
 
「おい、大丈夫か?」
 
 お茶を差し出してくれた。

 一息入れる。はあ。

「ご、ごめん。今なんて?」
 
 巧がうなだれてる。
 
「あ、ごめん。えっと。好きとか言った、よね?」

「まあ、その反応は予想してた。それでも今日こそ言うと決めたんだ」
 
 巧。噂本当だったんだね。わたしのこと……。
 
「巧。ありがとう。嬉しいけど、えっと。私まだ同期としか、違う、特別仲いい同期としてしか巧のことを見たことなかった」
 
「……そうか。これから違う目で見てくれないか?」
 
 私はどう答えたらいいかわからなくて困った。

 正直、恥ずかしいことに異性関係の経験が皆無だった。
  
 好きな人はいたけど、告白したこともないし、告白されたこともない。

 私、実はまだ二十二歳。二年目だけど、短大卒の人と同じ年。高卒で家の仕事はじめたから、なんだけどね。

「少し。待ってくれる?ち、違う目で見てみるよ」
 
 巧は笑っている。
 
「どのくらい待ってればいいんだよ?」
 
「え、えーと。どのくらいが普通なのかな?」
 
 巧は後ろの畳にひっくり返ってしまった。
 
「はー。お前そういうところまるで小学生だな。想像通りだったわ。しょうがないから少し自覚が出るまで待ってやる。だけど、俺は大人の男だからな。あんまり待てないぞ」

「はい。すみません」
 
 小さくなる私を見て苦笑い。

 巧は席を立つと、トイレに行くといっていなくなった。

 戻ってきたら帰るぞと言う。
 
「うん。あ、お金これで足りる?」
 
 諭吉様を見せると、いらんと言われる。
 
「だめだよ。足りないかも知れないから払ってからまた出すね」
 
 ふたりで下に降りると、ありがとうございましたーと言われ、追い出された。は?
 
「お支払いは?」

「さっき済ませた」

「え?え?」
 
「今日は奢られとけ。その代わり、さっさと考えて俺にいい返事をしろ。いいな」
 
 そう言うと、駅へ歩き出した。いつもなら、二次会って言うのに。
 
「今日は帰ろう。俺もどうしたらいいかわからん。小学生を手込めもまずいしな」 

「……ひどい」
 
「それくらい、言わせろ。俺だって緊張してたんだぞ」
 
「……すみませんでした」

 駅まで来ると、こちらを見る。

「明日からいつも通りでな。返事が決まったらいつでも待ってる。それから、どんな返事でもお前との関係は変わらんから安心しろ。恋人になれば近くなるだけだ」
 
 巧は見たことのないような格好いい笑顔でじゃあと言って帰って行った。
 
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