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第一章 入社と出会い

看病ー1

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 翌週。

 とりあえず、巧のことを考えて土日を過ごしたが、考えてもどうしようもない。

 要するに、そういう対象として考えていなかったので、急に好きになれ、付き合えと言っても無理だとわかった。

 しばらく考えながら生活しよう、そうすれば変化があるかもなどと勝手に想像しながら、本部長室へ入った。

 はー……なんなのこれ?ため息がでた。すごい書類の山が私を出迎えた。そうでした。今日からこれと格闘するんでしたね。

「おはようございます」

「はよ……ふー」

「大丈夫ですか?」
 
「大丈夫じゃない。早く何とかしてくれ」

 声がかすれてるけど、書類で顔が見えない。

 とりあえず、頑張りますと言って、腕まくりして片付け開始。

 会議の時間ですよーと言えば、うんといって、いなくなる。

 そして、いつの間にか戻ってくる。

 夕方近くなり、ようやく本部長の肩が見えてきた。頑張ったな、私。

 それにしても静かだ。本部長らしくないなと思い、前に回って話しかけた。

「本部長、お茶でもいれましょうか?」
 
「……うん」

 お茶を入れて持ってきた。
 
「本部長?どうぞ、お茶です」
 
 返事がない。え?寝てる?机に突っ伏している。
 
 それにしても、良くないような気がした。いつもと違うとピンと来た。
 
「本部長、風邪引きますよ」
 
 身体を揺する。え?何か熱くない?びっくりして、おでこに触ってみる。
 
「ちょっと、失礼します」
 
 熱い。間違いない、熱あるでしょ、これ!

 急いで秘書室へ行き、秘書室長に話して来てもらった。こういうときにどうしたらいいか全くわからなかったのだ。

「永峰本部長、大丈夫ですか?うわ、熱っ」
 
 秘書室長が抱き起こして驚いている。

「ああ。すまん。帰るわ」

「お車回しますね」
 
 私は急いで電話した。

「森川さん。ついて行ける?ご自宅まで……」
 
「え?」
 
「俺ね、社長のこと頼まれてるから、この後一緒に行けないからさ。頼むよ」
 
 秘書室長に頼まれて、本部長のコートとかばんを手に下まで降りた。

 室長が本部長に肩を貸している。

「……水」
 
 本部長が言うので、急いで水を調達してきた。すると、タクシーの中でかばんからピルケースを出す。
 
「森川さん、これ二錠出して。水キャップ開けて」
 
 言われたとおりにして、本部長の口に錠剤を放り込み、水を投入する。ゴクンと飲み込むとばったり私の肩に持たれて寝てしまう。

 運転手はいつもの人なので、何も言わずにマンションへまっしぐらで向かってくれた。
 
 すごいマンション。セレブ一族は伊達じゃ無かったんだと再認識した。

 指紋認証で入っていく。

 部屋へ入ると、三LDKくらい。部屋数はないが、広い。

 ベッドルームへ彼を運び、とりあえず冷蔵庫を拝見。むむ……何もないじゃないの。
 
 しょうがないから、鍵を下さいと言って、外に出ようとしたら指紋認証だといわれてしまった。

 コンシェルジュに連絡して買ってもらえというのでしょうがないからそのようにした。

 おかゆやスープ。水に冷却シート。氷枕など。今必要なものだけとりあえず運んでもらう。

 スーツを脱がせて着替えさせる。

 きれいにかたづけてある部屋。どうして部屋は綺麗なのに、あの執務室なの?よくわからない。

 そう思いながら片付けて食事をさせた。帰りますねと言うと、コクコク頷いている。

 私はふと笑ってしまったがその日はそれで帰った。

 翌日。

 出社前に秘書室長へ連絡するとやはり具合が悪くて本部長はダウンしているという。

 仕事の前に買い物をしてマンションへ行くので本部長に伝えてくださいと頼んだ。スーパーで調達した食料品を手に本部長の部屋へ行く。
 
 ピンポーン。

 すると、なぜか自動で開いた。ようするに本部長がきっと開けてくれたのね、良かった。寝てたらどうしようかと思った。

「おはようございます」
 
 玄関を開けると、寝起きの髪のはねた本部長が開けてくれた。
 
「おい。どうして来た?」
 
「それはですね、昨日の悲しい冷蔵庫を見たからです」
 
「別に、なんでもコンシェルジュに頼めば持ってきてくれる」
 
「……具合悪いときにコンシェルジュ?それもどうでしょう。そういうときは知り人のほうがいいと思いますよ。家の中物色されても具合悪いとわかんないでしょ」
 
「……お前。物色するような奴はコンシェルジュにはなれないんだよ」
 
「そうですか。じゃ、私は会社へ行きましょうかね」
 
 すると、私の腕をつかむ。
 
「誰が帰れと言った。その袋の中身は俺のものだろう?金だしてやるから入れ」
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