ルーデンス改革

あかさたな

文字の大きさ
2 / 24

2

しおりを挟む
 



 強い日差しが差し、うんざりする熱気で身体中から汗が吹き出してくる。
 張り付いた服は温く湿っていて、不快で気持ち悪い。
 私達が歩き始めて、十分程が経った頃、汗が頭から顔へ伝うことを気にもとめず、ケインに尋ねた。


「ねえ……目的地って海だったりする?」


 波の音が段々と大きくなり、潮の香りも強くなってきた。
 危険だから、一人で海に行く事は母さんに禁止されている。
 まあ、ケインがいるから一人ではないのだが。
 けれど、もし目的地が海ならばと考えると、母さんとの約束を破った気がして、後ろめたい気分になった。


「あ?海だとなんか問題あんのか?」

「大ありよ!海は危険なんだから、たとえ一人じゃなくても子供だけで行くのはよくないわ」

「けっ、マリーも大人の戯言信じてんのか。大人が良く言ってる人攫いなんて出ねえよ。俺はよく海に行くけど、出会うのは知ってる奴らばかり、怪しい奴なんて只の一度も見たことねー」

「あのねえ……今までは遭遇しなかっただけで、今日遭遇する可能性だってあるでしょう。それに、村の大人達がこぞって人攫いが出ると言うなんて、子供を海に近づけさせない為の嘘にしては大掛かり過ぎる気がするの。きっと、過去に攫われた人がいるのよ」

「そうかあ~?ま、昔は知らねえけどな」

「はあーっ、全く呑気なんだから……。もし私が攫われたらどうするのよ」

「へっ、俺がみすみす指咥えてお前が連れ去られるのを見てっかよ!青タン作って返り討ちにしてやるよ!」


 握り拳を前に突き出すケインは、誘拐犯が現れると仮定しても負ける事など微塵も考えていないのが伝わってきた。
 実際ケインは腕っ節が強く、喧嘩では負けなしと、噂が好きなお婆ちゃんが村に広めていた。
 あの自信満々ぷりを見るに、負けたことがないと言うのも、あながち嘘ではないのかもしれない。
『負けなしじゃ~』と騒ぐお婆ちゃんが一瞬、頭の中に浮かんで、ケインをジッと見た。


「あ?なんだよ」


 無神経で横暴だけど、仲間思いだし案外いい奴なんだよね。
 見捨てて、置いていかれることは、まずないと思う。
 しかも、隠してるみたいだけど、かなりの動物好きだし……。
 お婆ちゃんとケインを信じてみるか。
 まあ、人攫いが出る確率なんて、ケインが鞭で動物をビシバシと虐待している確率ぐらい低いと思うけど。

 心の整理をつけて、私はケインに向き合った。


「だから!何だっつーんだよ!!文句があんならさっさと言え!薄気味悪りいな」


 ほんと、口が悪いのって、人生損するよね。

 喧嘩腰のケインにイラッとするも、いつの日か目撃した、動物と嬉しそうに戯れるケインを意図的に思い出して、怒りを鎮める。


「海に行く事は決定なのね」

「もしかして怖くて行かねえ気か?ちえっ、つまんねえ」

「誰も行かないとは言ってないでしょ。ほら、早く行くわよ!」

「お、おいっ!俺を置いていきなり走り出すなよ!……訳分かんねえ」


 茹だるような暑さの中、私達は海へと走り出した。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。 婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。 これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。 愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。 毎日20時30分に投稿

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる

えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。 一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。 しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。 皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...