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しおりを挟む強い日差しが差し、うんざりする熱気で身体中から汗が吹き出してくる。
張り付いた服は温く湿っていて、不快で気持ち悪い。
私達が歩き始めて、十分程が経った頃、汗が頭から顔へ伝うことを気にもとめず、ケインに尋ねた。
「ねえ……目的地って海だったりする?」
波の音が段々と大きくなり、潮の香りも強くなってきた。
危険だから、一人で海に行く事は母さんに禁止されている。
まあ、ケインがいるから一人ではないのだが。
けれど、もし目的地が海ならばと考えると、母さんとの約束を破った気がして、後ろめたい気分になった。
「あ?海だとなんか問題あんのか?」
「大ありよ!海は危険なんだから、たとえ一人じゃなくても子供だけで行くのはよくないわ」
「けっ、マリーも大人の戯言信じてんのか。大人が良く言ってる人攫いなんて出ねえよ。俺はよく海に行くけど、出会うのは知ってる奴らばかり、怪しい奴なんて只の一度も見たことねー」
「あのねえ……今までは遭遇しなかっただけで、今日遭遇する可能性だってあるでしょう。それに、村の大人達がこぞって人攫いが出ると言うなんて、子供を海に近づけさせない為の嘘にしては大掛かり過ぎる気がするの。きっと、過去に攫われた人がいるのよ」
「そうかあ~?ま、昔は知らねえけどな」
「はあーっ、全く呑気なんだから……。もし私が攫われたらどうするのよ」
「へっ、俺がみすみす指咥えてお前が連れ去られるのを見てっかよ!青タン作って返り討ちにしてやるよ!」
握り拳を前に突き出すケインは、誘拐犯が現れると仮定しても負ける事など微塵も考えていないのが伝わってきた。
実際ケインは腕っ節が強く、喧嘩では負けなしと、噂が好きなお婆ちゃんが村に広めていた。
あの自信満々ぷりを見るに、負けたことがないと言うのも、あながち嘘ではないのかもしれない。
『負けなしじゃ~』と騒ぐお婆ちゃんが一瞬、頭の中に浮かんで、ケインをジッと見た。
「あ?なんだよ」
無神経で横暴だけど、仲間思いだし案外いい奴なんだよね。
見捨てて、置いていかれることは、まずないと思う。
しかも、隠してるみたいだけど、かなりの動物好きだし……。
お婆ちゃんとケインを信じてみるか。
まあ、人攫いが出る確率なんて、ケインが鞭で動物をビシバシと虐待している確率ぐらい低いと思うけど。
心の整理をつけて、私はケインに向き合った。
「だから!何だっつーんだよ!!文句があんならさっさと言え!薄気味悪りいな」
ほんと、口が悪いのって、人生損するよね。
喧嘩腰のケインにイラッとするも、いつの日か目撃した、動物と嬉しそうに戯れるケインを意図的に思い出して、怒りを鎮める。
「海に行く事は決定なのね」
「もしかして怖くて行かねえ気か?ちえっ、つまんねえ」
「誰も行かないとは言ってないでしょ。ほら、早く行くわよ!」
「お、おいっ!俺を置いていきなり走り出すなよ!……訳分かんねえ」
茹だるような暑さの中、私達は海へと走り出した。
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