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EXTRA FILM 3rd ※三章の幕間
意外過ぎた真実 ★☆☆
しおりを挟むとある会社の清掃員として、燈火とディフィートが設備の清掃していた。
「肩車お願いできますか?」
「あいよ。……んしょっと。……んで?トレードの奴に頼んだら断られて頭殴られたって?」
「そうなんですよ……はい。あのヤロー、脳みそまで筋肉だからいいですけど、私の貴重な脳細胞がどれほど犠牲になったことか……ブツブツ…………」
怪異調査を終えた二人であったが、清掃員としての仕事を最後までこなしていた。そんななか、燈火が別件で調査依頼が着ていたため、噂観測課極地第1課に出向いたところトレードとしか居らず、他のメンバーが不在であったことから、代わりに行ってきてくれないかと頼んだ。すると、二つ返事の代わりに燈火の頭頂部に向かって、剛腕から伸びた鉄の拳で作られた拳骨が飛んできたのであった。
「まぁ、アイツもあたしも。ラットとアブノーマル───、新入りの分も働き詰めだから、気がたってたんだろうさ」
「それでもあんまりですよ。一緒に行ってくれなんて言わなかったのに、声も発さずに拳骨って……、思い出しただけで古傷のように傷みますよ……イテテテ」
小ボケを挟みつつも、棚の上の埃を取り終える燈火。肩車から降りて、今度は床の拭き掃除に入った。合同任務だったディフィートが、モップを水浸しのまま床にベチャッと置いた瞬間、燈火の目が光った。
幾度となく、潜入捜査のようにあらゆる職業関係者に偽装。つまりは、なりすましてきた燈火にとって、本職顔負けのレベルまで仕事を熟すことは至極当たり前であった。そんな情熱を持ち合わせているところに、ながら作業のようにモップを雑に扱うディフィートを見て、ケツを思いっきり引っぱたいて怒りを込めて言葉を発した。
「それじゃ、モップと廊下。双方に失礼でしょうがっっ!!このバカチンがァ!!!!」
「あたっ!?な、なんだよ急に怒り出して?」
「ディフィートさんはですね?そういうガサツでいい加減なところが、女の子有るまじき印象を持たせているんですよっ!そんなんだから、総司さんと離婚することになるんです!はい!!」
(掃除と総司さんをかけたわけではありませんけど)
「────。」
据わった目で燈火の方を見るディフィート。身長差もあって、燈火のことを見下ろしているようにも見えるが、徐々に姿勢を落としてその場に膝籠を作って、床に人差し指を円を書くようにいじけ始めた。
まさか、ここまでディフィートが落ち込むとは思わず、「やっぱそうなのかな……?」などと小言呟きながら、その場から動かないディフィート。燈火は背中をポンと叩き、謝罪をするがテンションを取り戻してくれない。このままでは、清掃が終わらないだけでなく、近くを通っている社員達にあらぬ誤解を招いてしまうと、溜め息を深くついてとっておきの情報を口にした。
「その総司さんなんですけど、ついこないだ今お付き合いしている方と別れたそうですよ」
「ッ!?」
「元気になってくれたら、総司さんが別れた理由を教えてやるですよ?」
「────ッ!!次いでに、今まで付き合った女性の数も教えてくれない?」
「うぉっ!!??」
ガッシリと握られた両手。
眼前にいる紫髪の女性が、屈託のない笑顔で燈火を見つめる。鼻息まで荒くさせるほどに、動悸まで上がっていたディフィートの様子を見て、燈火はふと湧いてきた疑問をぶつける。
「ディフィートさんって……処女だったりしますか?」
「───へ?」
キョトンと目を点にさせて、硬直しているディフィート。
しばらくして、立ち上がると明らかに動揺した様子でそんなわけないと、全力で否定をする様を見て、燈火は冷ややかな目を向けていた。別に、そのあからさま過ぎる態度にではなく、もっと単純な疑問からくる冷めた目であった。
(この人……結婚して3年間────、エッチもしてねぇんですか?というか、高校時代に付き合っていたとか言ってましたよね?)
そんな疑問が聞こえていたのか、ディフィートは勝手に白状し始めるのであった。
ディフィートが怪異使いとなる前、幼馴染の総司と麗由の二人が転校した後、高校へ進級した際に付き合っていた彼氏とラブホテルに行ったことがあった。しかし、前戯を済ませて本番へ向かおうとした時、身体が急な嫌悪感と総司以外の男を受け付けたくないと反応を起こし、挿入までに至らずに終わったのだとか。しかも、それを四人もの男子生徒で発作させている重症ぶり。
「でも、どうして総司さんと夫婦になってヤッてないんですか?同じ職場で仕事もしていたし、バディも組んでいた訳だからいくらでも出来ましたよね?今の麗由さんと後輩みたく、ところ構わず発情っ!!していてもおかしくないのでは…………はい?」
「それが───、総司きゅんが……総司きゅんが……」
「は、はい?」
「寝室は別じゃなきゃ嫌だって言うからぁぁ!!いつか夜這いしに来てくれんのかと、全裸で寝てたことだって何回もあった!!それなのに───、く……ぅぅ……」
これでは女のプライドもズタズタ。いくら、怪異を相手に百戦錬磨であるディフィートであっても、心にくるダメージは計り知れないであろう。
しかし、それ以外の話を聞くからに、ディフィートの方に非があることが徐々に明らかになっていたことで、燈火も最初こそ同情の眼差しで話を聞いていたが、やがて相槌すら適当になるくらいになるほどであった。
「怪異をぶっ倒す時の服装をスケベビスチェにもした。遠征から帰ってきた総司きゅんを全裸で首輪つけたイヌの状態でお出迎えだってした。なのにだぜ?あたしのこと、1回も抱いてくれなかったんだぞ?」
「あの……ですね。分相応と言いますか……、普通にムード作り下手と言いますか。拗らせ過ぎといいますか……、え~~っと───、はい……」
こんな話を、それも怪異調査で潜入していただけの会社。その廊下のど真ん中で続けるようなものでもないと、燈火はディフィートの口を塞いだ。そして、提案をすることでその場をやり過ごそうとした。
とりあえず、清掃を終えること。そして、トレードに断られた怪異調査に協力することを条件に、総司のこれまでの交際履歴とどうすれば、総司に振り向いてもらえるのか教えることを約束した。すると、ディフィートは涙を貯めている漫画の小動物のような顔を、一瞬にしてもとの凛とした表情に戻して手を差し出した。握手を求めるその手を取り、燈火とディフィートの交渉が成立したのであった。
✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳
「はい!もっと腰を低くして、床に自分の目が着いているようにモップを押し込むんですっ!はい、はい、はいぃぃ!!」
「はぁ、はぁ、はぁ……。こりゃあ、確定で筋肉痛だぜ……」
「口を動かす前にモップを動かせです。あ、こら!水が多いっ!!」
「は、はいょ……」
熱心な燈火の指導に、辛うじてついていっていたディフィートであったが、流石にやり慣れていない作業は応えたのか、とうとうその場に背をつけて倒れてしまう。しかし、そんな甘えを許す燈火のはずもなく、どこから持ち出してきたのかメガホンを手に取り、ディフィートを鼓舞していた。
自分の清掃区域の掃除を終えた燈火の応援もあり、定時退社の時間までには、間に合った床掃除。そして、二人はまだタイムカードを押さずに、玄関に来ていた。そう、社員全員の定時退社後の床と玄関マットの掃除。ここまで終えてはじめて、真の清掃の完了となることを燈火はドヤ顔で説明していると、インフェクターに単身乗り込んでいったときよりも、息を切らして体力の限界を訴えるディフィートの姿があった。
「お願い……、少し……休、ませて……」
「そんなエロゲのヒロインが、絶倫主人公に負かされた時に出る弱音吐いたって、ダメなものはダメです!はいっ!!いいですか?職員玄関は全部で、7箇所もあるんですよ?ディフィートさんには、4箇所やってもらうです」
「そ、しょん……らぁぁ……もう、無理ぃぃ…………っ!!!!」
「愛で声も撫で声も、この清掃員長の燈火には通じません。ほら、さっさと行けですっ!!行って綺麗にお掃除もするんですよっ!!」
最早、意味が違って聞こえるとディフィートは泣き言を言いながら、四箇所の職員玄関を掃除するのであった。息切れを起こしながら、時に喘ぎ声にも取れる声遣いになりながらも、清掃を終えたディフィートは退勤後に近くの公園で腕と脚、それぞれをひし形に曲げた状態で倒れていた。
半泣き状態でピクピクと、使ったことのない筋肉への負担から痙攣している。口呼吸で酸素を取り込みながら、情けなく開く口元。その光景は、事後であるかのようであった。
「ひぃ……、ふぅー、ふぅー、あ、ぁぁ……、ぁぁぁぁ…………」
「────。」
(いや、そうはならねぇです……はい。一体、どんな体の使い方すればこうなるのか、教えて欲しいものですよ……はい…………)
スパルタな教育ではあったが、そんな如何わしいことをやった後みたく、全身が疲れるとは思っていない燈火。流石に大袈裟過ぎると、ディフィートの顔を覗き込む。しかし、激しい運動をした後の人間と変わらないくらいに汗をかいていたのを見て、本当に満身創痍であることを確認した。
「まぁ、とりあえず。今度の怪異調査は、協力お願いします……はい」
「にゃ……にゃんれも、言うこと……聞きまふ。だから、もう……許ひて……」
「ディフィートさん。エロゲの見すぎですよ?私、さっきはああ言いましたけど、旦那の業界仲間さんのおうち行った際にチラッと作業風景見せてもらっただけなので、詳しくないのですが……」
「はぁ、はぁ、はぁ……てか、あちぃ……」
「って、アァァァ!!!???こんなとこで脱ぐなですぅぅ」
発汗が収まらないからと、服を脱ぎ出すディフィートが下着に手をかけたところで、燈火に取り押さえられた。
後日、ディフィートが筋肉痛から回復するまでに三日程かかったことは、誰にも知られない。仮にその事を知っていたとしても、それもまた────意味のないお話なのである。
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