【R18】100日お試し婚〜堅物常務はバツイチアラサーを溺愛したい〜

にしのムラサキ

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エピローグ

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 ひとひらひとひら、桜の花弁はなびらが降り積むように──そうやって、日々は過ぎていく。
 桜が散って、新緑が眩しくなり、長い雨が降り、その緑が濃くなって──そして。
 例年通りの梅雨明けを気象台が宣言した、ちょうどその日。
 私はすっかり住み慣れた、……セキュリティがきっちりとしたマンション(掲示板には「ピンときたら110番!」のポスター……なんとリンカさんも載っている)のエントランスをでて、手をかざして空を見上げた。

「……今日から夏」

 何気なく呟いたその言葉に、謙一さんが「暑くなりそうだな」と眩しい白い雲を見上げた。

「ですねぇ」
「帰りにかき氷でも食おうか」
「いいですね」

 見上げると、ばちりと目が合った。幸せそうに細められた目と、目尻に寄った優しい笑い皺。

「好き」

 なんだか漏れてしまった言葉に、謙一さんが咳き込む。

「……っ、急すぎる!」
「す、すみません!?」
「いや、」

 謙一さんは笑って、私の手を取った。

「俺もだ」
「『俺も』──なんですか?」
「君、ずいぶん余裕になってきたな」

 どこか呆れたように、でも幸せたっぷりって声で謙一さんが肩を揺らす。

「愛してる、に決まってる」
「私も、ですよ」
「全く」

 謙一さんはぐい、と私の手を引く。マンションの植え込みの影、夏の日差しを遮るそこで重なる唇。

「年甲斐もないよなぁ。三十路と不惑でいちゃついて」

 唇は離したくせに、まだ触っていたいって気持ちがだだ漏れの謙一さんが言う。なんか不満そうだし、で私は笑ってしまう。

「人前じゃなきゃよくないですか、だって」

 くい、と謙一さんの服の裾を引っ張って、耳元でささやく。

「──今日から私たち、新婚さんなんですから」

 謙一さんは目を少しだけ丸くして、それから微笑んだ。

「そうだな」

 もう一度、唇が重なった。
 遠くで蝉が鳴きだす。
 お互いの指が触れる。ゆっくり撫でて、撫でられて、そのまま絡んだ。
 唇が離れる。

「──行くか」
「ですね」

 手は繋いだまま、歩きだす。足元にはふたつの濃い影が重なって、ひとつになって。

 これで、私たちの「100日」はおしまい。
 それでも、人生は続いていく。
 ひとひらひとひら、積み重なって、101、102、続いていく。
 そのひとひらを、大切な人と重ねていける幸せを──私はなんと呼べばいいんだろう。
 いつか言葉にできるといいなと思いながら、愛しいひとの手を強く握った。

 夏が、始まる。
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