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「ずるいおとこ」
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「狡いだろう? 俺は」
謙一さんが、冷えた手で私の目尻を拭う。
「こんな話をしたら、きみが──俺に同情してくれると、そう分かっていて話した」
目を開く。謙一さんは眉を下げた。私は──小さく、首を振る。お湯が小さくちゃぷりと音を立てた。
「違うの、分かってます」
「なにが」
「謙一さん……寂しかった、ですか」
きゅ、とその身体に抱きついた。また、どこかでトサリと雪が落ちる音。
「──どうだろう」
戸惑ったように言うその声は、ひどく幼くて。
私は彼のこめかみに、そうっと唇を寄せた。胸がつきん、と痛んだ。
謙一さんはウチの会社の社長の甥っ子だってことだから、別に天涯孤独ってわけじゃないんだろうと思う。
(でも──)
家族を、一度に喪って。
想像も──したくない。けれど、頭に浮かんだ。喪服の、今より若い謙一さんがぽつんと座っている。眼前には白い絹で包まれた骨壺、2つ。
よくわからない感情で頭どころか身体がいっぱいになる。
「……悪かった」
謙一さんが呟く。
「忘れて、くれないか」
「金沢へ」
私は謙一さんの身体に、もう一度抱きつき直しながら言った。
「金沢へ行ってみたいです」
「──麻衣?」
「謙一さんが生まれ育った街を、見てみたい」
そうっと、首筋に唇を寄せた。ちゅ、と吸い付く。跡が残るといいなと、頭のどこかでそう思う。
(いま、だから)
自分がいま、特殊な環境下にいることは分かっている。人里離れた、現実味のない──雪に閉ざされた世界。
だから、いま、だから……こんな感情に突き動かされているのかもしれない、と思う。
名前が付けられない、こんな感情に。衝動に──。
「麻衣」
謙一さんがどこか呆然と、私の名前を呼んだ。きっともうお互いに、何がなんだかよく分かっていない。
唇が重なる。ひんやりしていた。きっと私の唇も、冷たいのだと思う。
お互いを貪るようにキスを重ねる。何度も、何度でも、舌を絡めて唾液を飲んで──お互いを甘噛みして、狂おしいほどにお互いを味わう。
「麻衣」
時折唇が離れれば、降ってくる低い声。私を呼ぶ声。謙一さんの、声。
ぐっと抱きしめられて、そのまま抱き上げられた。ざばりとお湯の音。謙一さんは私を脱衣所まで連れて行って、バスタオルで乱雑に拭いた。
その間も、私たちはキスを重ねる。
離れることが厭だった。必要としていると思った──必要と、されているのではなくて。
寝室のベッドに2人で倒れ込む。
謙一さんの大きな手が、身体の輪郭を確かめるように動いて──ほとんど性急に、足の付け根に指を這わせた。
「……っ、!」
腰が揺れる。キスが落ちてきた。重ねるだけのそれ。
離れて──といっても、鼻の先と先がぶつかりそうな距離で──目が合う。
どこか特徴的な虹彩。飲み込まれそうになってしまう、その視線の熱さ。
「謙一さん」
零れるように、彼の名前を呼ぶ。同時にくちゅくちゅと謙一さんの中指が肉襞に侵入してくる。
上がる息と、動き出す指の感覚。
「っ、ぁ、はあっ、あ……」
一本だけ入って、お腹側の……肉芽の裏あたりを刺激される。指でされて、気持ちがいい……トコロ。
「きもち、い……」
気がつけば、自分から膝をたてて足を開いて、強請るように腰を揺らしていた。
多分とんでもなくハシタナイ顔をしているだろう私の顔を真剣に見つめて、謙一さんは掠れた声で言う。
「君が欲しい」
はっきりと、きっぱりと──そう、告げて。
その間も、器用に指先は私のナカを弄り続ける。増えた指に、きゅんきゅんとナカが締まるのを覚えた。
上擦った声だけが唇から漏れる。
「麻衣──、例え何があろうとも、どんな手段を使おうとも……必ず君を手に入れてみせる」
火傷しそうなくらい、熱い視線。思わず「もう貴方のものです」と言いそうになって、口を噤んだ。
(だって──もし、違ったら)
こんな風に閉じ込められた、謙一さんのことだけしか考えられないような世界で。
(違ったら──謙一さんを、傷つけてしまう)
それとも、もう手遅れなのだろうか?
謙一さんの言う通り、私は「何があっても」謙一さんのものに、……なってしまうのだろうか?
(わから、ない……)
ナカがぴくんと震えた。絶頂を目前にして、期待で蕩けて、解けて、なのにキュウって締まっていくナカ。
混乱する頭と、熱さが増す身体。
曖昧な私に謙一さんは怒るでもなく、ただ優しく指を抜いてしまう。
「は、……っ」
息が漏れた。ナカが抗議するようにヒクヒク痙攣する。
「けんいち、さ……」
「そんな……可愛い顔をされると本当に困る」
謙一さんは苦笑して、ベッド脇においてあった鞄から箱をとりだした。コンドームの箱。
そうしてコンドームを取り出しながら、ぽそりと言った。
「……足りるだろうか」
とりあえず、……聞かなかったことにしたい。つい、と目を逸らした。なんだか頬が熱い。
謙一さんは手早くそれをつけ終わると、さらりと私の髪を撫でた。
「麻衣」
色んな感情がこもったその声に、思わず身動ぎした瞬間に──クチュン、と謙一さんのが私のナカに埋まっていく。
謙一さんが、冷えた手で私の目尻を拭う。
「こんな話をしたら、きみが──俺に同情してくれると、そう分かっていて話した」
目を開く。謙一さんは眉を下げた。私は──小さく、首を振る。お湯が小さくちゃぷりと音を立てた。
「違うの、分かってます」
「なにが」
「謙一さん……寂しかった、ですか」
きゅ、とその身体に抱きついた。また、どこかでトサリと雪が落ちる音。
「──どうだろう」
戸惑ったように言うその声は、ひどく幼くて。
私は彼のこめかみに、そうっと唇を寄せた。胸がつきん、と痛んだ。
謙一さんはウチの会社の社長の甥っ子だってことだから、別に天涯孤独ってわけじゃないんだろうと思う。
(でも──)
家族を、一度に喪って。
想像も──したくない。けれど、頭に浮かんだ。喪服の、今より若い謙一さんがぽつんと座っている。眼前には白い絹で包まれた骨壺、2つ。
よくわからない感情で頭どころか身体がいっぱいになる。
「……悪かった」
謙一さんが呟く。
「忘れて、くれないか」
「金沢へ」
私は謙一さんの身体に、もう一度抱きつき直しながら言った。
「金沢へ行ってみたいです」
「──麻衣?」
「謙一さんが生まれ育った街を、見てみたい」
そうっと、首筋に唇を寄せた。ちゅ、と吸い付く。跡が残るといいなと、頭のどこかでそう思う。
(いま、だから)
自分がいま、特殊な環境下にいることは分かっている。人里離れた、現実味のない──雪に閉ざされた世界。
だから、いま、だから……こんな感情に突き動かされているのかもしれない、と思う。
名前が付けられない、こんな感情に。衝動に──。
「麻衣」
謙一さんがどこか呆然と、私の名前を呼んだ。きっともうお互いに、何がなんだかよく分かっていない。
唇が重なる。ひんやりしていた。きっと私の唇も、冷たいのだと思う。
お互いを貪るようにキスを重ねる。何度も、何度でも、舌を絡めて唾液を飲んで──お互いを甘噛みして、狂おしいほどにお互いを味わう。
「麻衣」
時折唇が離れれば、降ってくる低い声。私を呼ぶ声。謙一さんの、声。
ぐっと抱きしめられて、そのまま抱き上げられた。ざばりとお湯の音。謙一さんは私を脱衣所まで連れて行って、バスタオルで乱雑に拭いた。
その間も、私たちはキスを重ねる。
離れることが厭だった。必要としていると思った──必要と、されているのではなくて。
寝室のベッドに2人で倒れ込む。
謙一さんの大きな手が、身体の輪郭を確かめるように動いて──ほとんど性急に、足の付け根に指を這わせた。
「……っ、!」
腰が揺れる。キスが落ちてきた。重ねるだけのそれ。
離れて──といっても、鼻の先と先がぶつかりそうな距離で──目が合う。
どこか特徴的な虹彩。飲み込まれそうになってしまう、その視線の熱さ。
「謙一さん」
零れるように、彼の名前を呼ぶ。同時にくちゅくちゅと謙一さんの中指が肉襞に侵入してくる。
上がる息と、動き出す指の感覚。
「っ、ぁ、はあっ、あ……」
一本だけ入って、お腹側の……肉芽の裏あたりを刺激される。指でされて、気持ちがいい……トコロ。
「きもち、い……」
気がつけば、自分から膝をたてて足を開いて、強請るように腰を揺らしていた。
多分とんでもなくハシタナイ顔をしているだろう私の顔を真剣に見つめて、謙一さんは掠れた声で言う。
「君が欲しい」
はっきりと、きっぱりと──そう、告げて。
その間も、器用に指先は私のナカを弄り続ける。増えた指に、きゅんきゅんとナカが締まるのを覚えた。
上擦った声だけが唇から漏れる。
「麻衣──、例え何があろうとも、どんな手段を使おうとも……必ず君を手に入れてみせる」
火傷しそうなくらい、熱い視線。思わず「もう貴方のものです」と言いそうになって、口を噤んだ。
(だって──もし、違ったら)
こんな風に閉じ込められた、謙一さんのことだけしか考えられないような世界で。
(違ったら──謙一さんを、傷つけてしまう)
それとも、もう手遅れなのだろうか?
謙一さんの言う通り、私は「何があっても」謙一さんのものに、……なってしまうのだろうか?
(わから、ない……)
ナカがぴくんと震えた。絶頂を目前にして、期待で蕩けて、解けて、なのにキュウって締まっていくナカ。
混乱する頭と、熱さが増す身体。
曖昧な私に謙一さんは怒るでもなく、ただ優しく指を抜いてしまう。
「は、……っ」
息が漏れた。ナカが抗議するようにヒクヒク痙攣する。
「けんいち、さ……」
「そんな……可愛い顔をされると本当に困る」
謙一さんは苦笑して、ベッド脇においてあった鞄から箱をとりだした。コンドームの箱。
そうしてコンドームを取り出しながら、ぽそりと言った。
「……足りるだろうか」
とりあえず、……聞かなかったことにしたい。つい、と目を逸らした。なんだか頬が熱い。
謙一さんは手早くそれをつけ終わると、さらりと私の髪を撫でた。
「麻衣」
色んな感情がこもったその声に、思わず身動ぎした瞬間に──クチュン、と謙一さんのが私のナカに埋まっていく。
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