【R18】酒蔵御曹司は意地っ張りちゃんを溺愛したいし、なんならもはや孕ませたい【本編完結】

にしのムラサキ

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(昴成視点)

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 絶対
 俺
 なんかしでかしとる

 半ば絶望的な気分になりながら、それでも絶対に諦めたくなくてただスマホを見つめた。

(なんて送ればいいんや……)

 初デートから二週間。俺からアプリにメッセージを送れば、瀬奈はかろうじて返信をくれる。くれるものの、頑なに会ってくれようとしない。

(何や? 何した、俺……っ)

 焦りばかりが増していく。
 やっぱ瀬奈が怖いの苦手やのにあんなイベント連れて行ったからか? ……いや、選んだのは瀬奈や。

(……ん?)

 ふと疑問に思う。
 瀬奈は怖いのが嫌い。
 せやったら、なんで瀬奈はあれを選んだ……?
 ──って、やっとそこで気がついた。
 瀬奈は。
 瀬奈は、俺がああいうの好きやから──

(うわ)

 頬に熱が集まる。同時に頭の芯は冷えていく。

(瀬奈は、知ってくれとるのに──)

 やのに、俺は瀬奈の好きなものを知らない。何が好きなんやろう。どうやって育ってきたんやろ。

(──嫌いなものは、知っとる)

 美味しくないブラックコーヒーと、高いところ、怖いもの。──それから怒鳴り声。
 なんだか泣きそうな気分になりながら、他に何も思いつかなくて『おやすみ』とだけメッセージを送る。
 ほどなくして返ってきた可愛らしいスタンプに、俺はほんまに、瀬奈が愛おしくて仕方ないと──そう思う。

 瀬奈が2回目の取材でウチに来たあと、駅まで送りながらぐるぐると考える。──やってもた。

(余裕なさすぎた……)

 もし瀬奈が「別れる」とか言い出したら、とか想像して(まあ言われても逃がす気ないけど)気がついたらオカンの前で交際宣言しとった。その上結婚するとまで──

(……怒っては、なさそうやけど)

 駅の階段を登りながら、ちらりと瀬奈の表情を窺う。ばちりと目が合った。慌ててしまって、つい言葉が口をつく。

「──っ、瀬奈。好きな食べ物、なん
「へ?」

 瀬奈はぽかんと俺を見上げる。
 ──あかん。……いやずっと聞きたかったんやけど、せやけど、なんなんこのタイミング。なんで今聞いたん俺。

「えっ、と……甘いもの?」
「……そか」

 あかん俺ほんまクソやん。そっから何も話膨らまんやん。瀬奈は戸惑ったカオのまま続ける。

「さ、最近だとかき氷とか」

 暑いもんな。
 かき氷、かき氷か……と、ふとポスターが目に入る。神戸の港で開催される、花火大会……

(……これや!)

 俺はできるだけ余裕ぶった声色で続けた。

「花火行かへん?」
「は、花火?」
「かき氷、おごったるから」

 瀬奈はほんの少し首を傾げた。いや瀬奈のためならかき氷どころか屋台全部買い占めたってもええんやけど……

「い、いいけど」

 瀬奈が頬を赤くして、そっぽを向きながら答えた。

「そ、その、かき氷! かき氷食べたくて行くんだから! デートってわけじゃないんだからね!」

 ツンデレのお手本のような返答に、心臓がほくほく温まってくる。なんて可愛らしいお返事なんやろ。

「分かっとる」
「そ、それじゃ、帰るね……っ」

 振り向いた瀬奈の鞄の外側のポケットから、ひらりと一枚、葉書が落ちる。

「あ」

 まだ頬が赤い瀬奈の足元に落ちたそれを、先に拾う──絵葉書?

「ごめん」
「いや──大鴉やな」
「オオガラス?」

 きょとん、と俺を見る瀬奈。小さく頷いた。

「エドガー・アラン・ポーの詩。それの挿絵の絵葉書ちゃうかな」
「詩? あの人、詩も書いてたんだ? 黒猫の人だよね」

 瀬奈は──それから慌てたように「たまたま! たまたま知ってて!」と上目遣い(無意識やろうなあ……)で俺を見る。
 俺は信じたふりで、頷いた。

「恋人を失った男の詩で」
「え、そんなやつなの?」

 瀬奈は絵葉書を受け取って、まじまじと見つめる。まあ大方、どっかの美術館の売店とかで買うたやつちゃうかな……趣味が合いそうや。
 俺はふと、違和感を覚える。こちらに向いた住所を書いた面を見つめて──

「……消印がなくないか、それ」
「え?」

 瀬奈はくるりとひっくり返して、それから首を傾げた。

「ほんとだ……押し忘れかな」
「かもな」

 瀬奈はなんでもないように、その絵葉書を鞄にしまう。それからまた、俺を見上げた。

「……お」
「? なん?」
「送ってくれて、ありがとっ……」

 言い捨てるように真っ赤な顔でそう言って、改札の向こうに消えていく瀬奈の後ろ姿を見つめる。
 俺は叫びたい。
 俺の彼女、ほんまに、めちゃくちゃに、死にそうなくらい──可愛い!

「そんな訳で花火行ってくるわ」
「なんでわざわざオレに報告してくるんや」

 エリはベッドから熱で潤んだブルーグレーの瞳を俺に向ける。その瞳をなんの気なしに眺めながら、ほんま親父さんにそっくりやな、なんて思う。
 そんなフランス人とのハーフたる母方の従弟、エリは、無駄にデカい(ムカつくことに俺より背が高い)身体を窮屈そうに寝返りさせながら、ベッド脇で立っている俺を見上げた。

「せやから瀬奈は俺のやし手ぇ出すなよ」
「出さんわ、いくらなんでもイトコの嫁に」
「いや、分からん。このスケコマシ」

 別居はするけど会う機会はあるやろからな、釘さしとかんと……

「コーセー、スケコマシって何? 初めて聞いた」

 一昨年、フランスから来日したエリにはまだ聴き慣れない言葉だったらしい。

「お前みたいなヤツのことや」
「ああ。イケメンで完璧 parfait?」
「お前ほんま幸せなヤツやな」
「まぁね」

 くつくつと喉を鳴らしてエリは笑う。あー、こういう余裕ありそうな男の仕草がモテる要因なんやろか、腹立つわほんま……年下のくせに……

「でもセナちゃん? やっけ、たしかに可愛いなあ。オレいってみようかな」
「二度とお前の視界に瀬奈入れんなやボケぶち殺すぞ」

 一気に言い切って睨みつける。エリはやっぱり余裕っぽく笑った。ほんっまにムカつく……

「つうかいつ瀬奈見かけてんこのクソダボ」
「あー怖。そういうとこやでモテへん原因」
「瀬奈以外にモテてどないすんねん」
「いっちずう~」
「ちゃかすなや」

 軽く舌打ちしてエリを見下ろした。

「ていうかコーセー、かき氷なんやけど」
「なんや」
「多分、それお祭りのかき氷ちゃうで」

 俺は目を瞬く。祭り以外でかき氷なんか食う?

「台湾スイーツとかのやない? ほらフルーツたくさん乗っかっとるヤツ」
「……なんやそれ」
「お前は……ほんっまそういうトコやでモテへん原因」
「せやから、瀬奈以外にモテたくないわ」
「勿体な。せっかく顔は良いのに」
「お前に言われるとサブイボ立つんやけど」

 俺の返答に、エリは楽しげに笑った。

「まあとりあえず、成功祈っとくわ──こないだみたいに失敗せんようにな」
「……!?」

 俺はぐっと唇を引き結ぶ。バレとったんか……!

「コーセー、無表情なくせに態度はバレバレなんやもん」
「……無表情?」

 眉を顰めた。言うに事欠いて、無表情ってなんやねん。俺ほど顔に感情出る男はそうはおらんやろ。

「ん? コーセー、気がついてないん」
「だから何がや」
「……あれ、もしかして原因オレ?」
「なんの話やって」
「ちゃうよな、いくらなんでも二十年そんなん続けとる訳ないもんな……」
「……」

 やから、なんの話やねん。
 熱でポワポワしてるらしいエリの枕元にスポドリだけ置いて、ヤツの部屋から出た。せっかく来週デートやのに、風邪なんかうつされたらたまったもんやない。
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