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ざまぁされちゃった王子の回想録

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 今でもときどき思い出す。自分がすべてを失った日のことを。
 愛する二人の子どもに続いて、最愛の妻まで失ってしまった、あの日の絶望を。


 □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □


 私ことジョルジュは、この国の王の長子として生まれた。
 母は隣国の王女だったそうだ。母は父と幼い頃に婚約し、婚約したときからこの国の城で暮らし、父と一緒に育った。二人は幼少の頃からずっと仲がよく、結婚後も睦まじかったと聞く。だがその母は、私を産んだ後すぐに儚くなった。

 若くして国王という立場にあった父には、母の死を嘆く暇も与えられない。
 今度は国内の貴族の娘の中から、次の妻を迎えることになった。国内の勢力バランスを考えた上で、宛がわれた妃だったらしい。完全なる政略結婚だ。

 新しい妃、つまり私にとっての継母は、健康で丈夫な人だった。私のひとつ下の弟を始めとして、さらに弟と妹を産んだ。

 父は再婚した後も、私の母のことを忘れず大事に思っている、と使用人からは聞かされた。でも正直なところ、私は「かわいそうな幼いあるじ」に対するただのリップサービスにすぎないと思っていた。

 確かに父は、毎年、母の命日に墓参りを欠かさない。墓参りには私を連れて行き、その日だけは朝から晩まで私の暮らす離宮で過ごした。逆に言うと、父である国王という存在は私にとって、一年に一度、母の命日にだけ顔を合わせる遠い存在でしかなかった。

 いくら使用人たちから「陛下は殿下をとても大事に思っていらっしゃいます」と口を酸っぱくして言い聞かせられても、子どもの私に実感が持てなかったのは、無理もなかったと今でも思う。

 物心ついた頃からずっと、私は王宮の敷地内にある小さな離宮で暮らしていた。
 その離宮は、父が母のために建てたものだと言う。父や継母たちが暮らす宮殿とは、広大な庭園をはさんで、敷地の反対側にある。

 寝室が二部屋、あとはダイニングとリビングがあるだけの、実に質素な農家風の離宮だ。母の愛した離宮とのことで、母が生前にそろえた家具や食器類がそのまま残されている。外からの見た目は、まさに田舎の農家そのもの。もちろん中身も農家風。まあ、本物の農家にしては小ぎれいであろうが、およそ貴族、それも王族の住むような場所ではない。

 王宮の敷地内に、このような離宮を建てることは大変に贅沢なことなのだ、と子どもの頃からよく言い聞かされていた。だが、私に言わせれば、この離宮で暮らすことのどこが贅沢なのかさっぱりわからない。

 普段、宮殿で暮らしていて、遊びのためだけにこの離宮を維持するのが贅沢だと言う話なら、まあわかる。

 しかし、私はずっとこの離宮で暮らしていたのだ。普通に農家で暮らすのと、何が違うと言うのか。身につける衣服も農家風、食事も農家風。本物の農家の子とは違うのは、私は労働に従事させられることがなかったという点だけだ。そこは確かに、大きな違いだと思う。その代わりに、私には何人もの家庭教師が付けられた。
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