ブラック労働死した俺は転生先でスローライフを望む~だが幼馴染の勇者が転生チートを見抜いてしまう。え?一緒に魔王を倒そう?マジ勘弁してくれ~黒

榊与一

文字の大きさ
3 / 68

第3話 勇者

しおりを挟む
「アドル!訓練しよ!!」

アンニュイな日差しの午後。
庭にあるハンモックで昼寝していると、ソアラが護衛の騎士達を引き連れて家にやって来た。

ソアラと出会ってから1年半程経つ。
お互いもう4歳だ。

最初は週2ペースで家に遊びにやって来ては、二人で母の書斎にある本を読みふけっていただけだった。
だが半年もして読む本が無くなり出したころ、ソアラは急に剣術をしようとかとち狂った事を言いだす。

ソアラ曰く。
二人で魔王を倒すために強くなろう、と。

勿論『そんなのは御免だ』と、そうはっきり断ったのだが、ソアラは全く人の話を聞きやしねぇ。
頻繁に護衛の騎士を引き連れて家にやって来ては、無理やり俺に剣術の訓練を強制してきやがる。

相手は勇者の資質を持つ天才だ。
非戦闘員クラスの市民――偽装・ソアラにはお菓子で口封じしている――である俺には、普通に考えればその相手が務まる訳がない。
にも拘らず、両親はそれを止める所か逆に乗り気だった。

仲良くさせれば、将来自分の息子に勇者が嫁いで来るかもしれないとか言って。

どうやらお隣さんに勇者が生まれたのが、二人は内心羨ましかった様だ。
だからあわよくば息子の嫁にとか、全くふざけた話である。
優しかった両親が欲を出して、毒親になってしまって俺はショックだ。

「はぁ……」

大きく溜息を吐いて、ハンモックからゆっくりと降りる。
そんな俺に、ソアラは手にした特別製の木剣を投げ渡して来た。

「じゃあ行くよ!」

矢の様に突っ込んで来たソアラの一撃を、俺は受け取った木剣で受け止める。
受けた手が衝撃で軽く痺れる程に、その一撃は重い。
それはとても4歳児の放つ一撃ではなかった。

実は、彼女のレベルはもう既に20を超えていた。

伝説級である勇者は、1レベルにつき全ステータスが4ずつ上がる。
更にソアラはマスタリー系のスキルを集中して取得しており、スキルによって200%近いボーナスが付いたそのステータスは、現在250近くまで上がっていた。

村の警備にあたっている戦士クラスの駐在さんは、高いステータスで200ちょっと――ソアラの鑑定眼調べ――らしいので、彼女は齢4歳にしてそれを超える身体能力を手に入れている事になる。
これが4歳児の強さだと考えると、勇者の強さの異常さが良く分かるだろう。
流石伝説級である。

まあ流石に国から派遣されている護衛の騎士達は全員得意ステータスが400以上だそうなので、そちらには届かないが。

因みに、1年半前の初対面時の時点で彼女のレベルは既に5まで上がっていた。
生まれた時から持っている鑑定眼で、全ての物を鑑定しまくったためあがったそうだ。

ただ鑑定していただけでそんなにレベルが上がるのか?

そう思うかもしれないが、勇者には鑑定眼の他にも、最初から習得済みのチートスキルがあった。
経験値倍加と言うスキルだ。

その名の示す通り、経験値が二倍になる効果を持ち、劇的な成長速度を誇る勇者の特性を現すスキルとなっている。

更にそれとは別に、取得出来るスキルの中に経験値ブースト――取得経験値に50%ボーナスがつく――があり、ソアラは最初のレベルアップ時に真っ先にこれを習得しているため、この二つの効果が合わさって彼女は通常の3倍の速度で成長していた。

「もうちょっと手加減を頼むよ」

ソアラの二発目を、手にした木剣でいなす様に受ける。
パワーに差があるので、彼女の強烈な攻撃を真面に受け続けたら、直ぐに腕がダメになってしまう。

「あんまり手加減すると練習にならないよ!」

そう言って、彼女は容赦なく剣を突き込んで来た。

……まったく、練習なら自分の家で騎士達とだけすればいいのに。

俺の家に来ない間は、彼女は護衛の騎士達の手ほどきを受けていた。
練習熱心なのは感心だが、俺を巻き込むのは本当にやめてほしい。

「うりゃ!」

「うぉっと!」

ソアラの剣を捌き切れず、手から俺の剣が弾かれてしまった。
これが実戦なら、俺は確実に死んでいた事だろう。

……まあもし実戦だったなら、そもそも戦わず逃げ出してるだろうけど。

「もうアドル!まじめにやってよ!」

真面目にやってはいるんだが……如何せんステータスの暴力が酷すぎる。

現在、俺のレベルは15だ。
案外ソアラと差が無いのは、勇者のスキルである経験値ブースト(50%アップ)を俺も習得している為だった。
それも彼女がまだ取得できないLv2を取得しているので、経験値は常に2倍入っている状態だ。

ん?
何で勇者のスキルを習得できるか?だって。

それは簡単な話である。
俺のクラス、スキルマスターはありとあらゆるクラスのスキルを習得できるクラスだからだ。

そのため、俺は魔法使いや勇者なんかのスキルを好きな様に選んで取得する事が出来た。
まあ勇者の様なクラス自体に付属する、鑑定眼や経験値倍加なんかは手に入らないが。

それと、スキルマスターはスキルツリーを無視してスキルを習得する事が可能だ。
通常、勇者が経験値ブーストのレベル2を取得するには多くの前提スキルを取った後になるのだが、俺ならそれを無視できる。
それでソアラにはまだ取れないスキルを、先に習得する事が出来ているという訳だ。

因みに、スキルツリーとはゲーム用語である。
前提となるスキルを取る事で取得できるスキル群――その上に広がっていくようなさまが、木の枝の様に見える事からつけられた呼称だ。

「無茶言うなよ」

俺は飛ばされた木剣をゆっくりと拾いあげる。
死ぬ程もたついて可能な限り遅延行為をしたい所だが、それをやると250ある筋力でソアラに蹴り飛ばされてしまう。
困った話だ。

「どんだけステータス差があると思ってんだよ」

「大丈夫!アドルはやればできる子だから!根性だよ!」

そう言うレベルの問題ではないんだが……
世の中、根性でどうにでもなるなら誰も苦労しない。

やれやれと心の中で溜息を吐き、俺は手にした木剣を構えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜

黒城白爵
ファンタジー
 異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。  魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。  そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。  自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。  後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。  そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。  自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...