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留学生
第50話 グーパン
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7月頭。
日差しが強さを増し、夏の始まりを体感できる様になってきた頃に海外からの留学生達はやって来た。
「はい!皆さん静かに!」
桜先生が声を張ると、教室の喧騒は一瞬で納まる。
彼女に連れられて入って来た留学生は三人だった。
一クラスに三人は多い気もするが、遠い異国で全員バラバラというのもあれなので、一か所に纏められているそうだ。
異世界に裸一貫で放り出された身としては、そんな物は只の甘えにしか見えない。
まあ俺の環境が特殊だっただけとも言えるが。
留学生の内訳は、男子一人に女子二人だ。
一番目立つのが、二メートル近い身長を持つ金髪の大男だった。
その肉体はまるで筋肉の塊と言っていい程に鍛え上げられ、身に着けている制服は今にもはちきれてしまいそうな程だ。
顔立ちは濃く、少々おっさん臭く見える。
次に目を引いたのが、ウェーブのかかった長いブロンド髪をした女だ。
気の強そうな顔立ちの美女で、スタイルはボンキュッボンのお手本の様な体つきをしている。
化粧が濃い目で大人びて見えるが、このクラスに来たと言う事は同い年なのだろう。
そして最後が黒髪黒目の少女。
彼女はおさげ頭に、愛嬌のある顔立ちをしていた。
見た目のタイプとしては宇佐田に近い。
他の二人が少々老けているせいか、逆にこの子は幼く見えた。
「初めまして、日本の皆さん」
ブロンドの美人が一歩前に出て、流暢な日本語で挨拶する。
俺はあまり好みでは無かったが、泰三の方を見ると鼻を伸ばしていやらしい顔をしていた。
きっとアイツの頭の中では、あり得ないシチュエーションのラブロマンスが繰り広げられている事だろう。
「私の名前はエヴァ・デュカス。人は私の事を、美の女神アフロディーテと称えるわ。皆も私の事をアフロディーテと呼んでいいわ」
自己紹介で自分の事を美の女神とか……
しかも俺達にそう呼べとか、痛すぎだろ。
凄い美人だと言うのは認めるが、流石に自意識過剰すぎ。
しかし周囲を見ると、女子達は彼女に羨望の眼差しを送っていた。
男子の俺でも引くぐらいの発言だ。
てっきり女子連中は強い反感を抱くとばかり思っていたから、それは意外だった。
「ひょっとして、有名人なのか?」
違和感を感じて理沙に小声で訪ねてみる。
「なんだ?竜也は知らないのか?エヴァ・デュカスって言えば、有名な恋愛映画のヒロインをした女優だぞ?」
恋愛映画には一切興味ないので、勿論俺は知らない。
まあ有名女優なら彼女の高慢な物言いに、女子が反感を抱かないのも納得だ。
しかし能力者にして女優ねぇ……
ギフテッド学園は出入りに強い制限が設けられている。
その為、この学園では学生兼女優業などまず考えられない事だった。
どうやら彼女達の通うギリシアの学校は、その辺は緩い様だ。
「後ろの大きいのが私の双子の弟、ゲオルギオス・デュカス。二つ名はポセイドンよ」
弟の方は日本語が喋れないのか、姉のエヴァが代わりに紹介を行う。
双子らしいが全然似ていない。
まあ目立つという意味では、そっくりではあるが。
「そして彼女がアメル・メルクーリ。弟の恋人だから、余計な手出しは厳禁よ」
エヴァの言葉に、アメルと紹介された少女が頬を染めて俯く。
まあいきなり大勢の前で弟の恋人よと紹介されれば、照れるのも仕方がない事だろう。
「私達は全員日本語を完璧にマスターしているから、下手なギリシア語で無理に話す必要はないわ」
エヴァが馬鹿にした様な目で桜先生を見た。
きっと下手なギリシア語で話しかけて大恥かかされたのだろう。
先生の頬が引き攣っている。
しかし全員日本語が話せるのに、なんで彼女が全員分の紹介をしたのだろうか?
「聞く所によると、このクラスにはキングがいるそうね?」
彼女は腕組みをして、値踏みする様に視線をゆっくりとクラス全体に這わす。
「今一な男子ばかりね。本当にこの中に学園のキングなんているのかしら?」
「勿論いますよ」
エヴァの問いに桜先生が答える。
その顔は見てわかんないの?と言わんばかりに満面の笑顔だ。
馬鹿にされた事に腹を立てているのだろう。
その顔を見て、今度はエヴァがムッとした表情になる。
教師が何やってんだって気もしなくはないが、桜先生もまだ23歳の新任教師だ。
ベテラン教師の様に、生徒の嫌味を軽く受け流す度量を求めるのは酷という物だろう。
しかし――弟の方は、誰がキングかというのに気づいている様だ。
さっきからずっと俺の事を見ている。
まさか俺がイケメンでカッコいいから見てるわけじゃないよな?
それはそれで怖いぞ。
まあ彼女いるから、お尻狙いではないと思うが。
「成程。彼ね」
弟の視線に気づき、エヴァが俺の方を見る。
彼女はそのままカツカツと足音を立てて、俺の席に向かって歩いて来た。
よく見ると彼女はハイヒールを履いている。
この学園も基本的に制服は自由だが、流石にヒール付きの靴を履いてる奴は見た事がない。
ギリシアの学園、自由過ぎだろ。
「自己紹介して頂けるかしら?」
微笑むエヴァの目が青く光った。
瞬間、背筋がぞわっとする。
俺はそれを攻撃と判断し、迷わずその顔面に拳を叩き込んだ。
日差しが強さを増し、夏の始まりを体感できる様になってきた頃に海外からの留学生達はやって来た。
「はい!皆さん静かに!」
桜先生が声を張ると、教室の喧騒は一瞬で納まる。
彼女に連れられて入って来た留学生は三人だった。
一クラスに三人は多い気もするが、遠い異国で全員バラバラというのもあれなので、一か所に纏められているそうだ。
異世界に裸一貫で放り出された身としては、そんな物は只の甘えにしか見えない。
まあ俺の環境が特殊だっただけとも言えるが。
留学生の内訳は、男子一人に女子二人だ。
一番目立つのが、二メートル近い身長を持つ金髪の大男だった。
その肉体はまるで筋肉の塊と言っていい程に鍛え上げられ、身に着けている制服は今にもはちきれてしまいそうな程だ。
顔立ちは濃く、少々おっさん臭く見える。
次に目を引いたのが、ウェーブのかかった長いブロンド髪をした女だ。
気の強そうな顔立ちの美女で、スタイルはボンキュッボンのお手本の様な体つきをしている。
化粧が濃い目で大人びて見えるが、このクラスに来たと言う事は同い年なのだろう。
そして最後が黒髪黒目の少女。
彼女はおさげ頭に、愛嬌のある顔立ちをしていた。
見た目のタイプとしては宇佐田に近い。
他の二人が少々老けているせいか、逆にこの子は幼く見えた。
「初めまして、日本の皆さん」
ブロンドの美人が一歩前に出て、流暢な日本語で挨拶する。
俺はあまり好みでは無かったが、泰三の方を見ると鼻を伸ばしていやらしい顔をしていた。
きっとアイツの頭の中では、あり得ないシチュエーションのラブロマンスが繰り広げられている事だろう。
「私の名前はエヴァ・デュカス。人は私の事を、美の女神アフロディーテと称えるわ。皆も私の事をアフロディーテと呼んでいいわ」
自己紹介で自分の事を美の女神とか……
しかも俺達にそう呼べとか、痛すぎだろ。
凄い美人だと言うのは認めるが、流石に自意識過剰すぎ。
しかし周囲を見ると、女子達は彼女に羨望の眼差しを送っていた。
男子の俺でも引くぐらいの発言だ。
てっきり女子連中は強い反感を抱くとばかり思っていたから、それは意外だった。
「ひょっとして、有名人なのか?」
違和感を感じて理沙に小声で訪ねてみる。
「なんだ?竜也は知らないのか?エヴァ・デュカスって言えば、有名な恋愛映画のヒロインをした女優だぞ?」
恋愛映画には一切興味ないので、勿論俺は知らない。
まあ有名女優なら彼女の高慢な物言いに、女子が反感を抱かないのも納得だ。
しかし能力者にして女優ねぇ……
ギフテッド学園は出入りに強い制限が設けられている。
その為、この学園では学生兼女優業などまず考えられない事だった。
どうやら彼女達の通うギリシアの学校は、その辺は緩い様だ。
「後ろの大きいのが私の双子の弟、ゲオルギオス・デュカス。二つ名はポセイドンよ」
弟の方は日本語が喋れないのか、姉のエヴァが代わりに紹介を行う。
双子らしいが全然似ていない。
まあ目立つという意味では、そっくりではあるが。
「そして彼女がアメル・メルクーリ。弟の恋人だから、余計な手出しは厳禁よ」
エヴァの言葉に、アメルと紹介された少女が頬を染めて俯く。
まあいきなり大勢の前で弟の恋人よと紹介されれば、照れるのも仕方がない事だろう。
「私達は全員日本語を完璧にマスターしているから、下手なギリシア語で無理に話す必要はないわ」
エヴァが馬鹿にした様な目で桜先生を見た。
きっと下手なギリシア語で話しかけて大恥かかされたのだろう。
先生の頬が引き攣っている。
しかし全員日本語が話せるのに、なんで彼女が全員分の紹介をしたのだろうか?
「聞く所によると、このクラスにはキングがいるそうね?」
彼女は腕組みをして、値踏みする様に視線をゆっくりとクラス全体に這わす。
「今一な男子ばかりね。本当にこの中に学園のキングなんているのかしら?」
「勿論いますよ」
エヴァの問いに桜先生が答える。
その顔は見てわかんないの?と言わんばかりに満面の笑顔だ。
馬鹿にされた事に腹を立てているのだろう。
その顔を見て、今度はエヴァがムッとした表情になる。
教師が何やってんだって気もしなくはないが、桜先生もまだ23歳の新任教師だ。
ベテラン教師の様に、生徒の嫌味を軽く受け流す度量を求めるのは酷という物だろう。
しかし――弟の方は、誰がキングかというのに気づいている様だ。
さっきからずっと俺の事を見ている。
まさか俺がイケメンでカッコいいから見てるわけじゃないよな?
それはそれで怖いぞ。
まあ彼女いるから、お尻狙いではないと思うが。
「成程。彼ね」
弟の視線に気づき、エヴァが俺の方を見る。
彼女はそのままカツカツと足音を立てて、俺の席に向かって歩いて来た。
よく見ると彼女はハイヒールを履いている。
この学園も基本的に制服は自由だが、流石にヒール付きの靴を履いてる奴は見た事がない。
ギリシアの学園、自由過ぎだろ。
「自己紹介して頂けるかしら?」
微笑むエヴァの目が青く光った。
瞬間、背筋がぞわっとする。
俺はそれを攻撃と判断し、迷わずその顔面に拳を叩き込んだ。
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