脱獄賢者~魔法を封じられた懲役1000年の賢者は体を鍛えて拳で全てを制圧する~

榊与一

文字の大きさ
50 / 67

50話 手合わせ

しおりを挟む
戦況は膠着状態だった。
圧倒的に数で勝る連合軍ではあったが、魔族側は個の力に優れていた為、連日の猛攻を凌ぎきる。
俺も仮面をつけて前線で体を張り続けていた。

とは言え、俺の目的は戦争の勝利ではなくブレイブの首だ。
消耗している所に奴と出くわすのは宜しくない。

まあ一国の王である奴が戦場に現れれば、事前に情報が入って来るだろう。
その為、不意の遭遇を警戒する必要は余り無いのだが、万一奴が素性を隠して戦場に現れないとも限らない。

だから体を張ってると言っても、いつ奴と遭遇しても問題ない様、しっかり温存しつつ調整はしていた。

「よう、こんな所にいたのかい」

鬼人であるイナバに声を掛けられる。
近づいてくる気配には気づいていたが、どうやら偶然ではなく、俺を探してここに来たようだ。

「何か用か?」

「手合わせ願おうと思ってね」

そう言うと彼女は背中に背負っていた巨大な斧を頭上で旋回させ、力強く振り下ろして構えを取る。
その手にある斧はデビルアクス。
戦士イナバが俺との戦いに使用した武器だ。

「扱えるようになったのか?」

「ああ、ばっちりさ……と言いたい所だけど、流石にこれを真面に扱うのは無理があるね」

「だろうな」

強靭な精神力を誇るイナバだからこそ、正気を失わず扱う事が出来た。
彼女には少々荷が重い武器だ。

「だから呪術を使える奴に頼んで封印した」

彼女は持ち手の辺りにある赤い布を指で指す。
冥界の瞳で確認すると、その布には強力な呪術が掛かっているのが分かる。
それが斧の魔性を抑え込んでいるのだろう。

「だがそれでも強力な武器である事には合わらない」

「その様だな」

見た所、完全に力が封じられている訳ではない様だ。
当然その分精神への負担はかかる。
流石に簡単に狂戦士化する事は無いだろうが……長期戦には向かないだろう。

「あんたと手合わせして、少しでも慣らしておきたいのさ。付き合ってくれるかい?」

夕刻のぶつかり合いの後、報告では、連合が大きく後退したと言う知らせが入ってきている。
恐らく一端引いて、大規模な作戦に移る積もりなのだろう。

「いいだろう」

数日程度だとは思うが、時間的余裕が出来た事になる。
やる事が他にない訳ではないが、俺にとって最も重要なのは戦争に勝つ事ではなく、ブレイブに勝つ事だ。
此処は俺自身の訓練もかねて、実戦形式で彼女の肩慣らしを手伝ってやるのも悪くは無いだろう。

「感謝する」

「おやおや。こんな月夜に二人でデートとは、焼けるわねぇ」

「王子様ー!」

レイラとリピがやって来る。

「折角だし、あたしもデートに混ぜて貰うとしようかしら」

「人間如きに私の相手が務まるかな?」

「舐めてると火傷するよ」

レイラは初めて会った時とは比べ物にならない程腕を上げている。
イナバはかなり強いが、今の彼女ならかなりいい勝負がでるだろう。

「じゃあまずはあたしとイナバで勝負デートだ」

「勝った方がガルガーノとやる訳か……いいだろう掛かってこい」

睨み合う二人の間に火花が飛び散る。
実戦形式ではなく、冗談抜きで実践が始まってしまいそうな雰囲気だ。
俺はリピの方をチラリと見る。

「どうしたの?王子様?」

「ああ、けが人が出そうだから。その時は頼む」

「うん!リピにお任せだよ!」

リピがくるりと月夜に舞い。
元気よく返事する。
それが合図となって、レイラとイナバの真剣勝負が始まった。

手持無沙汰なので筋トレでもしようかと思ったが、それだと二人に文句を言われそうなので、黙って勝負の成り行きを見守る事にしておく。

「ふむ……」

2人の勝負を見ながら考える、2対1で戦うのも悪くないと。

訓練で冥界の力を使うつもりはない。
だが今の俺には神炎が宿っている。
十全には程遠い未だ不慣れな力ではあるが、強力な事には変わりない。
1対1なら俺の圧勝に終わるのは目に見えていた。

「2対1ぐらいが、実践訓練としては丁度いいか」

とは言え、始まった真剣勝負に水を差すわけにも行かない。
最初はまあ勝ち抜きでやって、その先は俺が2人を相手取って戦う形をとるとしよう。

俺は二人の動きを脳裏に焼き付ける。
と、同時に脳内で二人との戦いをシミュレートしておく。

訓練とはいえ、負けるのは気分がいい物では無い。
勝負するからには勝たしてもらう。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...