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【短編】
緩やかな巣立ち (上)
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アレキサンドラが、王立騎士学校に合格した。
そして彼女は、さっさと荷物をまとめて騎士学校の寮に入ってしまった。
シャルル王子が、アレキサンドラの身の安全に配慮して、寮内でも王族達が使用する部屋を用意させたという。その上で、シャルル王子はアレキサンドラの身の回りの世話をする女官をつけようとしたが、アレキサンドラは、女官の派遣を断った。
シャルル王子の婚約者であるアレキサンドラは、その身分に合わせた扱いを受ける必要はあったが(寮内に特別な部屋を用意してもらったことについてはどうすればいいか、父親達に相談していた)、他から過分に思われることは避けなければならないと、父親達は助言し、アレキサンドラは受け取るべきことは受け取り、断るべきところは断るようにしていた。
とはいえ、護衛騎士はつけさせてもらうと、エドワード王太子から言われ、それは断ることが出来ず、アレキサンドラは女性の護衛騎士をそばに置くことになっていた。
こうして、アレキサンドラはバーナードやフィリップ達の暮らす屋敷から出ていったのだ。
長い休みの時には戻って来るというが、それ以外はずっと王立騎士学校の寮で暮らす。王族たる教育は、騎士学校での授業が終わった後に、教師が派遣されて教えられるという。かなりハードな日常を送ることになるが、アレキサンドラは「自分で望んだことです。頑張ります」とそのことは覚悟の上のようだ。
実際、長い休みともなれば、シャルル王子が王宮にアレキサンドラを呼び寄せようとするだろう。そしてアレキサンドラにとっての義母にあたるセーラ妃も、アレキサンドラがお気に入りのため、しょっちゅう彼女を王宮に泊まらせようとする。
きっと、長い休みの時も、屋敷にはなかなか戻って来られないのではないかと、フィリップは考えていた。
そして、バーナード騎士団長とフィリップ副騎士団長の、双子の息子達、ディヴィットとクリストフ。二人は人狼である。ディヴィットは、マグルの娘ティナを番と認識して以来、朝は屋敷を矢のように飛び出して、マグルの屋敷に脇目も触らずに直行して、帰ってくるのは、ただ寝るためといわんばかりに夕方も遅くの時間であった。バーナードとフィリップが、王立騎士団で仕事を終え、帰宅する時にマグルの屋敷に立ち寄って、ディヴィットの首根っこを掴んで帰ってくることも多かった。
ディヴィットは番のティナに夢中だった。
その有様に、マグルなどは「もうディヴィットは、うちで飼おうか?」などと言って、バーナード騎士団長から本を思い切りぶつけられるのだった。
バーナードは、小さな金色狼のディヴィットに「ティナ嬢と将来、結婚するつもりなら、ちゃんと男として彼女を養えるようにならなければならない」と言い聞かせている。人狼の雄が、雌のために住み家を整えるのは当然のことであったから、ディヴィットもその言葉には大人しく頷く。
「今は、お前も小さいから、マグルの家に好きに遊びに行くがいい。でも、将来の道を決める時期が来たのなら、ちゃんと考えて、決めるんだ」
分かったといわんばかりに、ディヴィットは頷いた。
ディヴィットも、マグルの屋敷に入りびたり、バーナード達の暮らす屋敷には夜しか戻って来なくなった。
残ったクリストフはというと、彼は彼で、妖精の国の扉を開けて、妖精の国に入り浸っている。小さな妖精達は、可愛らしい金色狼のクリストフに夢中で、妖精達とクリストフは毎日のように遊び暮らしていた。でもクリストフは、その妖精の国で、誰かの姿を探すように彷徨うことも多かった。
クリストフの脳裏には、かつて出会った、銀色の髪に青灰色の瞳をした、妖精の国の美しい騎士の男の姿が焼き付いていたのだ。
また会いたいと望みながらも、会うことが叶わず、クリストフは寂しい思いをしていた。
そんなこんなで、バーナード騎士団長とフィリップ副騎士団長の三人の子供達は、いつの間にか、屋敷を空けることが多くなっていたのだった。
そして彼女は、さっさと荷物をまとめて騎士学校の寮に入ってしまった。
シャルル王子が、アレキサンドラの身の安全に配慮して、寮内でも王族達が使用する部屋を用意させたという。その上で、シャルル王子はアレキサンドラの身の回りの世話をする女官をつけようとしたが、アレキサンドラは、女官の派遣を断った。
シャルル王子の婚約者であるアレキサンドラは、その身分に合わせた扱いを受ける必要はあったが(寮内に特別な部屋を用意してもらったことについてはどうすればいいか、父親達に相談していた)、他から過分に思われることは避けなければならないと、父親達は助言し、アレキサンドラは受け取るべきことは受け取り、断るべきところは断るようにしていた。
とはいえ、護衛騎士はつけさせてもらうと、エドワード王太子から言われ、それは断ることが出来ず、アレキサンドラは女性の護衛騎士をそばに置くことになっていた。
こうして、アレキサンドラはバーナードやフィリップ達の暮らす屋敷から出ていったのだ。
長い休みの時には戻って来るというが、それ以外はずっと王立騎士学校の寮で暮らす。王族たる教育は、騎士学校での授業が終わった後に、教師が派遣されて教えられるという。かなりハードな日常を送ることになるが、アレキサンドラは「自分で望んだことです。頑張ります」とそのことは覚悟の上のようだ。
実際、長い休みともなれば、シャルル王子が王宮にアレキサンドラを呼び寄せようとするだろう。そしてアレキサンドラにとっての義母にあたるセーラ妃も、アレキサンドラがお気に入りのため、しょっちゅう彼女を王宮に泊まらせようとする。
きっと、長い休みの時も、屋敷にはなかなか戻って来られないのではないかと、フィリップは考えていた。
そして、バーナード騎士団長とフィリップ副騎士団長の、双子の息子達、ディヴィットとクリストフ。二人は人狼である。ディヴィットは、マグルの娘ティナを番と認識して以来、朝は屋敷を矢のように飛び出して、マグルの屋敷に脇目も触らずに直行して、帰ってくるのは、ただ寝るためといわんばかりに夕方も遅くの時間であった。バーナードとフィリップが、王立騎士団で仕事を終え、帰宅する時にマグルの屋敷に立ち寄って、ディヴィットの首根っこを掴んで帰ってくることも多かった。
ディヴィットは番のティナに夢中だった。
その有様に、マグルなどは「もうディヴィットは、うちで飼おうか?」などと言って、バーナード騎士団長から本を思い切りぶつけられるのだった。
バーナードは、小さな金色狼のディヴィットに「ティナ嬢と将来、結婚するつもりなら、ちゃんと男として彼女を養えるようにならなければならない」と言い聞かせている。人狼の雄が、雌のために住み家を整えるのは当然のことであったから、ディヴィットもその言葉には大人しく頷く。
「今は、お前も小さいから、マグルの家に好きに遊びに行くがいい。でも、将来の道を決める時期が来たのなら、ちゃんと考えて、決めるんだ」
分かったといわんばかりに、ディヴィットは頷いた。
ディヴィットも、マグルの屋敷に入りびたり、バーナード達の暮らす屋敷には夜しか戻って来なくなった。
残ったクリストフはというと、彼は彼で、妖精の国の扉を開けて、妖精の国に入り浸っている。小さな妖精達は、可愛らしい金色狼のクリストフに夢中で、妖精達とクリストフは毎日のように遊び暮らしていた。でもクリストフは、その妖精の国で、誰かの姿を探すように彷徨うことも多かった。
クリストフの脳裏には、かつて出会った、銀色の髪に青灰色の瞳をした、妖精の国の美しい騎士の男の姿が焼き付いていたのだ。
また会いたいと望みながらも、会うことが叶わず、クリストフは寂しい思いをしていた。
そんなこんなで、バーナード騎士団長とフィリップ副騎士団長の三人の子供達は、いつの間にか、屋敷を空けることが多くなっていたのだった。
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