212 / 237
Case204.死者への祈り①
しおりを挟む
「歩行等には問題ありませんが、激しい運動は控えてください。しばらく通院はして頂きますので、異常があればその都度申し出てください。」
「分かりました。ありがとうございます、大和さん。」
海里は、予定より1週間早い回復を果たし、退院の日を迎えていた。
「兄さん、これから無茶はしないでね?」
「確約できませんよ。そもそも、今回は無茶をした結果ではありませんから・・・。」
「また狙われるってこと?」
「恐らく。」
真衣は不安げな表情でそっか、と言った。海里は申し訳なく思いながら歩く。
「ん?ねえ兄さん。あそこって月山神社だよね?」
「ええ。何だか騒がしいですね。少し行ってみましょうか。」
2人は駆け足で神社の前にできている人盛りへ走った。
「何かあったんですか?」
「おうよ。あれ、見てみな兄ちゃん。」
海里は男性が指し示した方向を見て息を呑んだ。そこには、大木にもたれかかり、頸動脈を切られた男性の遺体があった。傷は横に一直線に引かれており、乾き切っていない血が大木と地面を濡らしていた。
「何あれ・・!自殺?」
「どうでしょう。凶器が見当たりませんから、もしかしたら・・・。」
すると、海里たちの背後からパトカーのサイレンが聞こえた。一気に車が止まり、人混みをかき分けて警察がやって来る。
「東堂さん!玲央さん!」
「江本、今日退院だったのか?」
「はい。偶々近くを通りかかって・・・。」
2人は刑事たちとバリケードテープを貼って中に入った。
「これは酷いな。頸動脈を切って失血死・・・。」
「凶器が見当たらないね。他殺かもしれない。どちらにせよ、神聖な神社でこんなことをするなんて無茶苦茶な話だけど・・・。」
「住人に話を聞くか。と言ってもここは恐らく・・・・」
龍は背後に視線を移した。刑事たちに連れられて、圭介がやって来る。彼は遺体を見てわずかに驚き、頭を掻いた。
「よりによってこの木かよ・・・。」
「神木か何か?」
「まあな。しめ縄があるだろ?神木の印なんだよ。」
確かに、遺体の上部にはしめ縄があった。最も、遺体の血液で真っ赤に染まっているが。
「出血から考えて亡くなってからそう時間は経ってない。朝の5時~6時だろう。何か怪しい人間を見たりしたか?」
「いや。俺さっきまで寝てたし。」
圭介は欠伸をしながらそう言った。すると、凶器を探していた刑事たちが何やら蔵の前で騒いでいる。
「あ、あそこは鍵がないと入れねえんだ。ちょっと行ってくる。」
「いや。その必要はないみたいだぞ。」
龍の言葉に驚き、圭介は蔵の入り口に目を止めた。刑事たちが扉を軽々と開け、中に入っていくのが見えた。圭介はギョッとする。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!刑事さん!鍵空いてたのか⁉︎」
「え?はい。」
圭介の動揺ぶりに、普段から厳重に管理されていることが窺えた。海里は遺体を見つめ、顎に手を当てる。
「東堂さん。その遺体、縛られた後などは?」
「いや、無いな。見たところ注射痕なども見当たらない。詳しいことは検死に任せるが。」
(縛られた後もなく、あんな傷を?明らかに殺す気があるのに、避けた様子はなく、目撃者もいない。こんなに無茶苦茶な犯行を神社でやった意味は何だ?しかも入り口に近い木で殺されている。叫び声すら聞こえなかったのか?)
「兄さん、帰ろうよ。今日は休まないと。」
「ですが真衣・・・。」
「江本君、妹さんと帰るんだ。体が万全でないことはもちろん、短期間に2度も入院して妹さんと過ごす時間が短いだろう。今は、兄として過ごしておいで。」
玲央の言葉に海里はハッとして頷いた。2人が頭を下げながら去っていくと、龍と玲央は遺体を見る。
「さて、ややこしい事件だな。被害者は抵抗することなく首を切られた。眠っていたのかもしれないが、痛覚がないのはおかしい。」
「うん。となると、合意の上で?いや、それもおかしいか・・・。」
「おーすごい遺体だね。」
アサヒの姉・日菜はゆっくりと神社に入ってきた。圭介は彼女に頭を下げる。
「相変わらず硬いね~。大和相手なら打ち解けてるのに。」
「従姉だと知らなかったから・・・。」
日菜は笑いながら遺体の側に屈んだ。体に触れ、滴り落ちた血を見る。
「死語硬直が始まって間もないね。早朝に亡くなったか・・・。死因は頸動脈を切られたことによる失血死・・・ん?」
「どうしたの?」
「被害者の左目がくり抜かれてる。刃物で傷つけた痕があるから、間違いない。」
「やっぱりか。何かおかしいと思ったけど。」
日菜は遺体の服を脱がし、他に外傷は見当たらないと言った。
「ご遺体解剖に回して。ちょっと気になることがあるから。」
※
「じゃあ兄の大和は病院に泊まり込んで帰ってきておらず、両親も除霊の依頼で埼玉に行ってるんだな?」
「ああ。兄さんは分からないけど、父さんと母さんは今日帰って来るはずだ。一応事件の連絡を入れたから、予定より早いと思う。」
「なるほどな。じゃあ事件解決まで神社は関係者以外立ち入り禁止にするが、構わないな?」
圭介は頷いた。龍の背後で話を聞いていた玲央がふと口を開く。
「それにしても、落ち着いているね。神道君。普通遺体を見たらトラウマになる人が多いんだけど、叫び声1つあげないなんて。」
「ん?まあ、幽霊の相手してるのに遺体を怖がってちゃ話にならないだろ。」
「一理あるけど、それにしても・・・ね。遺体を見たことあるんじゃないかい?」
「1回だけな。と言っても白骨だったけど。」
さらりと言った圭介に、2人は驚いた。彼は何でもないと言うふうに振る舞っている。
「そういえば兄貴。現場で気になっていたことがある。」
「ん?何?」
「足跡だよ。何かしらの刃物で被害者を殺したことは分かる。だが遺体の前にあった足跡は左右が少しだけ離れていた。しかし同時に、強く踏み込まれていたんだ。」
「確かに・・・妙に斜めだったね。足を真っ直ぐ揃えたのではなく、こう・・片足だけ後ろにずらして殺害したみたいだった。」
玲央の言葉に、圭介はハッとした。机にある調査資料を手に取り、現場の写真を見る。
「犯人、剣道やってるかもしれねえ。」
「剣道?」
「ああ。剣道は“すり足”って言って、足を擦りながら相手に近づくんだ。この足跡、わずかだけど前に擦れてるだろ?位置や幅から考えても、剣道をやっている可能性があると思う。」
「じゃあ何だ?日本刀で殺したっていうのか?」
「多分、だけど。」
2人は少し考えた後、圭介に礼を言って席を立った。
かくして、月山神社内で起きた殺人事件の調査が開始されたのだった。
「分かりました。ありがとうございます、大和さん。」
海里は、予定より1週間早い回復を果たし、退院の日を迎えていた。
「兄さん、これから無茶はしないでね?」
「確約できませんよ。そもそも、今回は無茶をした結果ではありませんから・・・。」
「また狙われるってこと?」
「恐らく。」
真衣は不安げな表情でそっか、と言った。海里は申し訳なく思いながら歩く。
「ん?ねえ兄さん。あそこって月山神社だよね?」
「ええ。何だか騒がしいですね。少し行ってみましょうか。」
2人は駆け足で神社の前にできている人盛りへ走った。
「何かあったんですか?」
「おうよ。あれ、見てみな兄ちゃん。」
海里は男性が指し示した方向を見て息を呑んだ。そこには、大木にもたれかかり、頸動脈を切られた男性の遺体があった。傷は横に一直線に引かれており、乾き切っていない血が大木と地面を濡らしていた。
「何あれ・・!自殺?」
「どうでしょう。凶器が見当たりませんから、もしかしたら・・・。」
すると、海里たちの背後からパトカーのサイレンが聞こえた。一気に車が止まり、人混みをかき分けて警察がやって来る。
「東堂さん!玲央さん!」
「江本、今日退院だったのか?」
「はい。偶々近くを通りかかって・・・。」
2人は刑事たちとバリケードテープを貼って中に入った。
「これは酷いな。頸動脈を切って失血死・・・。」
「凶器が見当たらないね。他殺かもしれない。どちらにせよ、神聖な神社でこんなことをするなんて無茶苦茶な話だけど・・・。」
「住人に話を聞くか。と言ってもここは恐らく・・・・」
龍は背後に視線を移した。刑事たちに連れられて、圭介がやって来る。彼は遺体を見てわずかに驚き、頭を掻いた。
「よりによってこの木かよ・・・。」
「神木か何か?」
「まあな。しめ縄があるだろ?神木の印なんだよ。」
確かに、遺体の上部にはしめ縄があった。最も、遺体の血液で真っ赤に染まっているが。
「出血から考えて亡くなってからそう時間は経ってない。朝の5時~6時だろう。何か怪しい人間を見たりしたか?」
「いや。俺さっきまで寝てたし。」
圭介は欠伸をしながらそう言った。すると、凶器を探していた刑事たちが何やら蔵の前で騒いでいる。
「あ、あそこは鍵がないと入れねえんだ。ちょっと行ってくる。」
「いや。その必要はないみたいだぞ。」
龍の言葉に驚き、圭介は蔵の入り口に目を止めた。刑事たちが扉を軽々と開け、中に入っていくのが見えた。圭介はギョッとする。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!刑事さん!鍵空いてたのか⁉︎」
「え?はい。」
圭介の動揺ぶりに、普段から厳重に管理されていることが窺えた。海里は遺体を見つめ、顎に手を当てる。
「東堂さん。その遺体、縛られた後などは?」
「いや、無いな。見たところ注射痕なども見当たらない。詳しいことは検死に任せるが。」
(縛られた後もなく、あんな傷を?明らかに殺す気があるのに、避けた様子はなく、目撃者もいない。こんなに無茶苦茶な犯行を神社でやった意味は何だ?しかも入り口に近い木で殺されている。叫び声すら聞こえなかったのか?)
「兄さん、帰ろうよ。今日は休まないと。」
「ですが真衣・・・。」
「江本君、妹さんと帰るんだ。体が万全でないことはもちろん、短期間に2度も入院して妹さんと過ごす時間が短いだろう。今は、兄として過ごしておいで。」
玲央の言葉に海里はハッとして頷いた。2人が頭を下げながら去っていくと、龍と玲央は遺体を見る。
「さて、ややこしい事件だな。被害者は抵抗することなく首を切られた。眠っていたのかもしれないが、痛覚がないのはおかしい。」
「うん。となると、合意の上で?いや、それもおかしいか・・・。」
「おーすごい遺体だね。」
アサヒの姉・日菜はゆっくりと神社に入ってきた。圭介は彼女に頭を下げる。
「相変わらず硬いね~。大和相手なら打ち解けてるのに。」
「従姉だと知らなかったから・・・。」
日菜は笑いながら遺体の側に屈んだ。体に触れ、滴り落ちた血を見る。
「死語硬直が始まって間もないね。早朝に亡くなったか・・・。死因は頸動脈を切られたことによる失血死・・・ん?」
「どうしたの?」
「被害者の左目がくり抜かれてる。刃物で傷つけた痕があるから、間違いない。」
「やっぱりか。何かおかしいと思ったけど。」
日菜は遺体の服を脱がし、他に外傷は見当たらないと言った。
「ご遺体解剖に回して。ちょっと気になることがあるから。」
※
「じゃあ兄の大和は病院に泊まり込んで帰ってきておらず、両親も除霊の依頼で埼玉に行ってるんだな?」
「ああ。兄さんは分からないけど、父さんと母さんは今日帰って来るはずだ。一応事件の連絡を入れたから、予定より早いと思う。」
「なるほどな。じゃあ事件解決まで神社は関係者以外立ち入り禁止にするが、構わないな?」
圭介は頷いた。龍の背後で話を聞いていた玲央がふと口を開く。
「それにしても、落ち着いているね。神道君。普通遺体を見たらトラウマになる人が多いんだけど、叫び声1つあげないなんて。」
「ん?まあ、幽霊の相手してるのに遺体を怖がってちゃ話にならないだろ。」
「一理あるけど、それにしても・・・ね。遺体を見たことあるんじゃないかい?」
「1回だけな。と言っても白骨だったけど。」
さらりと言った圭介に、2人は驚いた。彼は何でもないと言うふうに振る舞っている。
「そういえば兄貴。現場で気になっていたことがある。」
「ん?何?」
「足跡だよ。何かしらの刃物で被害者を殺したことは分かる。だが遺体の前にあった足跡は左右が少しだけ離れていた。しかし同時に、強く踏み込まれていたんだ。」
「確かに・・・妙に斜めだったね。足を真っ直ぐ揃えたのではなく、こう・・片足だけ後ろにずらして殺害したみたいだった。」
玲央の言葉に、圭介はハッとした。机にある調査資料を手に取り、現場の写真を見る。
「犯人、剣道やってるかもしれねえ。」
「剣道?」
「ああ。剣道は“すり足”って言って、足を擦りながら相手に近づくんだ。この足跡、わずかだけど前に擦れてるだろ?位置や幅から考えても、剣道をやっている可能性があると思う。」
「じゃあ何だ?日本刀で殺したっていうのか?」
「多分、だけど。」
2人は少し考えた後、圭介に礼を言って席を立った。
かくして、月山神社内で起きた殺人事件の調査が開始されたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。
全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。
勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。
そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。
エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。
これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。
…その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。
妹とは血の繋がりであろうか?
妹とは魂の繋がりである。
兄とは何か?
妹を護る存在である。
かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる