小説探偵

夕凪ヨウ

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Case204.死者への祈り①

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「歩行等には問題ありませんが、激しい運動は控えてください。しばらく通院はして頂きますので、異常があればその都度申し出てください。」
「分かりました。ありがとうございます、大和さん。」

 海里は、予定より1週間早い回復を果たし、退院の日を迎えていた。

「兄さん、これから無茶はしないでね?」
「確約できませんよ。そもそも、今回は無茶をした結果ではありませんから・・・。」
「また狙われるってこと?」
「恐らく。」

 真衣は不安げな表情でそっか、と言った。海里は申し訳なく思いながら歩く。

「ん?ねえ兄さん。あそこって月山神社だよね?」
「ええ。何だか騒がしいですね。少し行ってみましょうか。」

 2人は駆け足で神社の前にできている人盛りへ走った。

「何かあったんですか?」
「おうよ。あれ、見てみな兄ちゃん。」

 海里は男性が指し示した方向を見て息を呑んだ。そこには、大木にもたれかかり、頸動脈を切られた男性の遺体があった。傷は横に一直線に引かれており、乾き切っていない血が大木と地面を濡らしていた。

「何あれ・・!自殺?」
「どうでしょう。凶器が見当たりませんから、もしかしたら・・・。」

 すると、海里たちの背後からパトカーのサイレンが聞こえた。一気に車が止まり、人混みをかき分けて警察がやって来る。

「東堂さん!玲央さん!」
「江本、今日退院だったのか?」
「はい。偶々近くを通りかかって・・・。」

 2人は刑事たちとバリケードテープを貼って中に入った。

「これは酷いな。頸動脈を切って失血死・・・。」
「凶器が見当たらないね。他殺かもしれない。どちらにせよ、神聖な神社でこんなことをするなんて無茶苦茶な話だけど・・・。」
「住人に話を聞くか。と言ってもここは恐らく・・・・」

 龍は背後に視線を移した。刑事たちに連れられて、圭介がやって来る。彼は遺体を見てわずかに驚き、頭を掻いた。

「よりによってこの木かよ・・・。」
「神木か何か?」
「まあな。しめ縄があるだろ?神木の印なんだよ。」

 確かに、遺体の上部にはしめ縄があった。最も、遺体の血液で真っ赤に染まっているが。

「出血から考えて亡くなってからそう時間は経ってない。朝の5時~6時だろう。何か怪しい人間を見たりしたか?」
「いや。俺さっきまで寝てたし。」

 圭介は欠伸をしながらそう言った。すると、凶器を探していた刑事たちが何やら蔵の前で騒いでいる。

「あ、あそこは鍵がないと入れねえんだ。ちょっと行ってくる。」
「いや。その必要はないみたいだぞ。」

 龍の言葉に驚き、圭介は蔵の入り口に目を止めた。刑事たちが扉を軽々と開け、中に入っていくのが見えた。圭介はギョッとする。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!刑事さん!鍵空いてたのか⁉︎」
「え?はい。」

 圭介の動揺ぶりに、普段から厳重に管理されていることが窺えた。海里は遺体を見つめ、顎に手を当てる。

「東堂さん。その遺体、縛られた後などは?」
「いや、無いな。見たところ注射痕なども見当たらない。詳しいことは検死に任せるが。」

(縛られた後もなく、あんな傷を?明らかに殺す気があるのに、避けた様子はなく、目撃者もいない。こんなに無茶苦茶な犯行を神社でやった意味は何だ?しかも入り口に近い木で殺されている。叫び声すら聞こえなかったのか?)

「兄さん、帰ろうよ。今日は休まないと。」
「ですが真衣・・・。」
「江本君、妹さんと帰るんだ。体が万全でないことはもちろん、短期間に2度も入院して妹さんと過ごす時間が短いだろう。今は、兄として過ごしておいで。」

 玲央の言葉に海里はハッとして頷いた。2人が頭を下げながら去っていくと、龍と玲央は遺体を見る。

「さて、ややこしい事件だな。被害者は抵抗することなく首を切られた。眠っていたのかもしれないが、痛覚がないのはおかしい。」
「うん。となると、合意の上で?いや、それもおかしいか・・・。」
「おーすごい遺体だね。」

 アサヒの姉・日菜はゆっくりと神社に入ってきた。圭介は彼女に頭を下げる。

「相変わらず硬いね~。大和相手なら打ち解けてるのに。」
「従姉だと知らなかったから・・・。」

 日菜は笑いながら遺体の側に屈んだ。体に触れ、滴り落ちた血を見る。

「死語硬直が始まって間もないね。早朝に亡くなったか・・・。死因は頸動脈を切られたことによる失血死・・・ん?」
「どうしたの?」
「被害者の左目がくり抜かれてる。刃物で傷つけた痕があるから、間違いない。」
「やっぱりか。何かおかしいと思ったけど。」

 日菜は遺体の服を脱がし、他に外傷は見当たらないと言った。

「ご遺体解剖に回して。ちょっと気になることがあるから。」
                   
         ※

「じゃあ兄の大和は病院に泊まり込んで帰ってきておらず、両親も除霊の依頼で埼玉に行ってるんだな?」
「ああ。兄さんは分からないけど、父さんと母さんは今日帰って来るはずだ。一応事件の連絡を入れたから、予定より早いと思う。」
「なるほどな。じゃあ事件解決まで神社は関係者以外立ち入り禁止にするが、構わないな?」

 圭介は頷いた。龍の背後で話を聞いていた玲央がふと口を開く。

「それにしても、落ち着いているね。神道君。普通遺体を見たらトラウマになる人が多いんだけど、叫び声1つあげないなんて。」
「ん?まあ、幽霊の相手してるのに遺体を怖がってちゃ話にならないだろ。」
「一理あるけど、それにしても・・・ね。遺体を見たことあるんじゃないかい?」
「1回だけな。と言っても白骨だったけど。」

 さらりと言った圭介に、2人は驚いた。彼は何でもないと言うふうに振る舞っている。

「そういえば兄貴。現場で気になっていたことがある。」
「ん?何?」
「足跡だよ。何かしらの刃物で被害者を殺したことは分かる。だが遺体の前にあった足跡は左右が少しだけ離れていた。しかし同時に、強く踏み込まれていたんだ。」
「確かに・・・妙に斜めだったね。足を真っ直ぐ揃えたのではなく、こう・・片足だけ後ろにずらして殺害したみたいだった。」

 玲央の言葉に、圭介はハッとした。机にある調査資料を手に取り、現場の写真を見る。

「犯人、剣道やってるかもしれねえ。」
「剣道?」
「ああ。剣道は“すり足”って言って、足を擦りながら相手に近づくんだ。この足跡、わずかだけど前に擦れてるだろ?位置や幅から考えても、剣道をやっている可能性があると思う。」
「じゃあ何だ?日本刀で殺したっていうのか?」
「多分、だけど。」

 2人は少し考えた後、圭介に礼を言って席を立った。


 かくして、月山神社内で起きた殺人事件の調査が開始されたのだった。
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