小説探偵

夕凪ヨウ

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Case201.盗作者の遺書③

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「主人とはここ数年会話もあまりしていません。昔から書斎に籠りきりで、娘たちにも構わなかったので。」
「・・・そうですか。ご主人はやはりお忙しかったのですか?」
「それは・・そうだと思います。でも・・・もう少し・・・・いいえ、何でもありません。警察の方にこんなことを話すのは良くありませんね。」

 そう言って、昌孝の妻・市夏は首を振った。玲央と龍は3人の娘からも話を聞いたが、全員が“仕事一筋で家庭を顧みなかった”、と語った。

「家政婦さんと家庭教師さんは本日いらっしゃいますか?」
「ええ。もうすぐ・・・あ、来られたわ。」

 部屋に入ってきたのは、穏やかな笑みを浮かべた老婆と、眼鏡をかけた青年だった。2人は警察にお辞儀をし、椅子に腰掛ける。

「家政婦の小嶋真紀さんと家庭教師の花恵治郎さんですね?」
「はい。旦那様には大変お世話になりました。身寄りもないわたくしを家政婦として拾ってくださり、働かせて頂きました。給料など要らないと申し上げてもきちんとしてくださるお方でしたわ。」
「小嶋さんはいつ頃から家政婦として?」
「かれこれ30年になりますわね。娘さんたちは小さい頃から知っていますわ。」
「なるほど。では花恵さん。昌孝さんの印象はどうでしたか?」
「まあ・・・仕事に行き過ぎな面がおありでしたが、明朗快活な方で、一緒にいて心が和みますよ。私は現在、梓茶様のお子様を教えていますが、旦那様同様、明るく活発なお子です。」

 龍は少し迷った挙句、家族間での評判を口に出した。

「まあ、わたくしどもは決まった時間しか一緒にいませんからね。ご家族でしたら気になることがおありなのかもしれません。」
「私もそう思います。ただ最近は旦那様のお仕事も落ち着かれていたように思いますし、1年ほど前は家族との時間を大切にしたいと仰っていました。」

 治郎の言葉に龍は眉を動かした。

「・・・それは確かですか。」
「はい。」
「では、昌孝さんが食事後気分を悪くなったのは何時頃からです?」
「半年ほど前だと思いますわ。わたくしの料理が悪いのかと奥様と確認したんですが、別段そんなこともなく・・・。」
「医師の診断も病気ではないとのことでしたので、気を張り詰めすぎないよう僭越ながらご忠告しました。」
「しかしその後も変わることはなかった?」

 2人は頷いた。龍は礼を言い、外に止めてある自分の車に乗った。

「兄貴、俺だ。聞き込みは終わった。」
『結果としてどう?』
「第一印象なら、家族の方が動機はありそうだ。だが、家政婦と家庭教師の評価があまりに高くて逆に怪しい。家族を顧みない人間が、外から来た人間と仲良くなるか?」
『一概には言えないけど・・・不思議な話ではあるね。ただ今後も殺人の線で調べて。』
「何?」

 龍は驚いた。玲央は続ける。

『遺書らしきあのメッセージ、アサヒに調べてもらったよ。結論から言うと、あれは昌孝さんが書いたものじゃない。彼が亡くなってから30分~1時間後に書かれたものぁ。死亡推定時刻から考えても彼は確実に亡くなっていたから、あれは彼以外の手によって書かれたものなんだよ。』
「なるほど。だが、何のために?もし犯人があんなことを書いたなら、内部の人間を疑う。それとも、外部の人間なのか・・・?」
『どうかな。侵入した形跡がなかったから、外部の人間じゃないと思ってるんだけど。』

 その後、2人は数分議論を交わした。

『ああ、そうだ。江本君に事件の情報を伝えるって言ったろ?あれ、俺たちじゃそう何度も病院に行きにくいからさ、磯貝さんに頼んだよ。』
「磯貝に?あいつ新人だろ?江本のこと知ってるのか?」
『一応話はしたから大丈夫。彼女に後は任せて、俺たちは調査を続けよう。』
                   
         ※

 上半身を起こして本を読んでいると、病室の扉がノックされた。

「すみません。私、警視庁捜査一課の者ですが入ってもよろしいでしょうか。」
「玲央さんが仰っていた方ですか?どうぞ。」

 失礼します、という声と共に入って来たのは、若い女性だった。黒いスーツを着こなし、赤いバッチが輝いている。

「申し遅れました。私、東堂玲央警部から江本様へ情報を渡すよう使わされた、磯貝撫子と申します。」
「初めまして、江本海里です。わざわざご足労頂いてすみません。」

 撫子は丁寧にお辞儀をし、海里に大きな封筒を渡した。

「事件の資料です。コピーになって申し訳ありませんが、内容は変わりませんので。」
「ありがとうございます。拝見しますね。」

 海里は封筒を開け、資料に目を通した。

(外傷はなく、睡眠薬の大量摂取による死亡。体内から毒なども検出されはしなかった。現場での不明点はパソコンに残された“たすけて。ころされる。ここにはおおかみがいる”というメッセージ。ただこれは被害者の死亡後に犯人もしくは第三者によって書かれたもの。現在の“狼”候補としては妻や娘の3人が有力だが、家政婦や家庭教師も視野に入る・・・。
私のお見舞いに来てくださったあの日は、家族4人と家政婦・家庭教師の全員が家にいた。家政婦と家庭教師は夕食後帰宅したが、2人共合鍵を持っており、侵入は可能だった。)

「なるほど。」
「何かお分かりになりましたか?」
「まだ何とも言えませんが、普段別々に暮らしている娘さんたちがなぜ実家に帰省を?」
「確か、祖父の月命日で現在の住所が3人共遠いから、早めに来て滞在していると仰っていました。」
「娘さん3人の住所は・・・。京都、広島、岩手。確かに遠いですね。」

 海里はそこまで離れたところに住む娘たちの考えが分からなかった。長女の梓茶以外は結婚しておらず、昌孝のお金で引っ越しや転勤を繰り返しているらしい。

「梓茶さんが京都にいるのは旦那さんの仕事だと理解できますが、初音さん・江奈さんは不明ですね。」
「分かりました。では2人に話を。」
「え?ま・・待ってください!まだ怪しいと決まったわけでは、」

 海里が何か言おうとしたが、撫子は走り去って行った。海里はがっくりと肩を落とす。

「真面目な方なのは分かりましたけど、あれは度がすぎますね・・・。」
                    
         ※

「いい?磯貝さん。確かに江本君は頭がいいけど、結論は急ぎ過ぎないんだ。率先して行動してくれるのは構わないけど、ちょっと落ち着いて。ご家族は事情聴取を受けたばかりで不安になっているところだから。」
「すみません。早とちりしてしまって・・・。怪しいなら、一刻も早く解決を・・と。」
「まあそこが君の長所というか短所というか・・・真っ直ぐなのは構わないけど、周りを見た行動を心がけてね。」
「はい・・・。」

 玲央は息を吐き、資料と事情聴取の結果を見返している龍の方を見た。

「どう?」
「江本の要求は、6人全員のアリバイが強固なものか確認して欲しいとのことだ。現段階で犯人は絞れないが、次女と三女に父親からもらっていたお金の使い道を詳しく聞いて欲しい、と。」
「お金の使い道・・・?」
「ああ。レシートなどがあるなら徹底的に調べて、睡眠薬を購入していないか確認したいらしい。被害者は健康体で、もうすぐ60になる現在でも処方箋や病気の治療をした経歴はないからな。京都の企業で旦那と働いている長女よりも、引越し・転勤を繰り返している次女と三女の方が怪しいと踏んだんだろう。」
「理屈は通ってるね。さっそくやろう。」

 2人は撫子を連れて別室へ移動した。

「先ほどはすみません。初音さんと江奈さんにレシートをお見せして頂きたいのですが。」
「疑ってるの⁉︎」
「全員容疑者ですから、一から調べ直しています。誰かが特別に疑われているというわけではありません。ご協力願えますか?」
「・・・分かったわよ!」
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