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Case200.盗作者の遺書②
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「浅村先生が・・・⁉︎」
「やっぱり知り合いだったんだね。」
「はい。昨日、お見舞いに来てくださったんですよ。」
「じゃあ、昌孝さんが何か不審な行動をしたり、いつもと違うと感じたりしたか?」
龍の質問に、海里は昨日の話を思い出した。本人から言うなと言われたが、その本人が亡くなっている以上、そして事件性がある以上、黙っていられる話ではなかった。
「実は・・・昨日お見舞いに来てくださった時、“家族に殺される”、と。」
「殺される?」
「はい。私も何度かご家族にお会いしたことがあるので、ありえないと否定したのですが、食事に毒が盛られているから気分が悪くなった、奥さんのパソコンで毒物を検索している履歴があったと仰られまして・・・冗談には思えなかったのですが、納得もできなかったんです。」
2人は考え込んだ。仮に昌孝が家族に殺されたのだとしたら、あの遺書らしき文言も納得はいく。
「昌孝さんは、君と同じ推理小説家なんだよね?」
「はい。私とは比べものにならない大ベテランですよ。私と同じ推理小説家で、歴史上の登場人物を交えた話が多いです。ご本人も歴史好きなので、ご家族にもその影響は及んでいます。」
「影響?」
「はい。お2人は戦国武将の浅井長政を知っていますか?」
「浅井?ああ、知ってるけど。」
「それなら話は早いです。先生の奥さんのお名前は市夏さん、3人の娘さんはそれぞれ梓茶さん、初音さん、江奈さんと仰るんです。」
「なるほどね。織田信長の妹・お市の漢字が入った奥さんは偶然としても、子供たちにはその三姉妹にちなんだ名前をつけたんだ。凝り性だね。」
海里は頷いた。そして同時に、昌孝は仕事熱心だと語った。
「ご家族を疑っているわけではありませんが、昔からお子さんの学校行事にも参加していなかったそうなんです。平日も休日も書斎にこもって仕事をしていると、以前市夏さんから愚痴を言われたことがあるんですよ。」
「愚痴?随分親しい間柄だったんだな。」
龍の言葉に海里は頬を掻きながら言った。
「実は・・・仲が良いから親しくなったわけではないんです。以前、私が浅村先生の作品を盗作したというデマが流れた時がありまして。それがきっかけで浅村先生やご家族と対面したんです。」
2人は驚いた。海里は苦笑する。
「その後、和解して騒動は収まったんですが、それ以来あまり関係は良好とは言えません。気まずいままだったんです。だから、昨日病院に足を運んでくださったことはとても驚いたんです。もっとも、探偵としての私に、ご家族のことを話すためでしたが。」
「ふうん。でも、盗作の件は少し気になるな。もう少し詳しく話してくれない?」
「分かりました。えっと・・・始まりは浅村先生から私の編集者さんへの電話だったんです。」
※
2年前。
「盗作?私が・・ですか?」
「ああ。浅村昌孝先生は知っているよね?」
「はい。しかし盗作と言ってもどのような・・・?私は最近、事件の話しか書いていません。」
「これだよ。」
編集者が出したのは、海里が小説探偵と呼ばれる以前に出した、フィクションの本だった。途中のページに付箋が貼ってあり、海里は手に取って捲った。
「線が引いてあるでしょ?調べたら浅村先生の本にも全く同じ表記があったんだ。歴史上の人物が出て来て・・・っていう箇所も同じだって仰ったんだ。」
「そんな・・・表記が被るのはミステリーという同じジャンルである以上、可能性としてありますし、歴史上の人物が出てくるのはそういう話を作ったからで・・・。」
「うん。元からそんな構成だったと言ったんだけど、信じてもらえなくってね。」
海里は眉を顰めた。編集者は続ける。
「終いには話全体の内容が似ている話になって丸々盗作したって話になったんだ。違うでしょ?」
「違います。この本の中にあるのは私が作った物語ですし、物語に登場する警察官は先生の小説と名前が似ていただけです。」
「だよねえ・・・。でも浅村先生が君に会いたいって仰ってるんだ。いいかい?」
「・・・・疑いを晴らすためにもお会いします。」
※
「まあその後和解したんですが、なぜ浅村先生があんなことを仰ったのか未だに分かりません。ベテランですから表記が被ることや、事件のことも知っているはずだったのに。」
「なるほどな。その本は江本が小説探偵と呼ばれる前の、フィクションの小説だったんな。」
「はい。東堂さんと出会う前です。」
「ああ、あの猟奇殺人の直前か。世間が新巻が出たと騒いでいた記憶がある。随分と懐かしい話だな。」
「ええ。色んな場所を旅してこれまでの推理小説に取り入れられていなさそうな要素を含ませましたから、盗作なんてあり得ません。」
断言する海里はどこか怒っているようにも見えた。玲央がふっと笑う。
「ごめん、ごめん。何か江本君が子供みたいで。」
「仕方ないじゃないですか。当時は結構怒っていましたし・・・。」
海里は不貞腐れた。龍も咳払いをして口を開く。
「だがその話、妙だな。江本を優秀だと認めているなら、文体や話の構成くらい知っていたはずだろう。ベテラン小説家がその辺りを知らないとは思えない。」
「そうだね。もしかしたら、浅村さんを語る誰かが彼だと偽ったのかもしれない。お互い会ったことがなかったなら、声なんて知らないだろ?」
海里は頷いた。2人は考える。
「でも今回の事件に直結しているかは謎だな。以前みたいに、江本が容疑者になるわけじゃない。」
「そうだね。昔は昔、今は今、かな。」
「ああ。でも兄貴、一応“あれ”は見せておくか?」
「うん。」
海里は首を傾げた。龍はパソコンに残されていた遺書らしきメッセージのコピー用紙を海里に見せる。
「これはまた・・・随分と不可思議なメッセージですね。」
「でしょ?被害者の自宅に狼がいる・・比喩表現だとは思うけど、それらしい人っていたりするの?」
「いえ。皆さん穏やかですよ。家政婦さんや家庭教師さんも、家族の輪に混ざっていらっしゃいました。」
「じゃあやっぱり犯人の比喩か。ちなみに被害者は睡眠薬の大量摂取によって亡くなった。このメッセージは意味が分からないが、まだ自殺の線も考えられている。」
龍の言葉を聞いて、海里は考え込んだ。確かに、昨日会った昌孝は思い詰めた表情をしていた。
しかし、そろそろ新作が出来上がると噂されていた彼が自殺するなど考えられなかったのだ。海里はそう2人に伝えた。
「そっか・・・。まあもう1度調べ直すよ。何か分かったら連絡した方がいい?一応入院中だから、負担はかけたくないんだけど。」
「知らせてくださると助かります。先生が亡くなった理由は知りたいんです。快活な方だと軽んじて話を聞いたのは私です。気になることも出てきましたし。」
「分かった。また連絡するよ。」
2人が帰ると、海里はベッドに寝転び、天井を見ながら考えをまとめ始めた。
(睡眠薬・・・他殺なら毒殺と言ったところか。殺人だとしたら、自殺に見せかけるためにその方法を選んだのか?
でもパソコンは開いていたと聞いているし、結果的に自殺らしくない亡くなり方になっている。犯人がそんな下手をするだろうか?狼というからには、かなりの狡猾さと頭脳を持ち合わせたように思える・・・。
先生のご家族は全員頭が良いという噂だが、狡猾さと言われるとピンと来ない。となると、家政婦や家庭教師?しかし仕事場にこもって顔も合わさなかった2人が、先生を殺害する理由なんてあるのだろうか。)
海里はぐしゃぐしゃと頭を掻いた。現場に赴いていない分、情報が少ないことが歯痒かった。傷に触れると、まだ少し痛む。
「困りましたね・・・。こうも不便だとは思いませんでした。」
(浅村先生・・・あの時、先生は何を思って私に相談されたんだ?レコーダーを持っている以上、信頼しているとは言い難い。でも相談はしたかった・・・。それほど思い詰めて、相談で楽になった直後に死亡。何か不自然だ。まるで・・・“それらしい死に方”を初めから用意していたかのような・・・妙な気分だ。)
「やっぱり知り合いだったんだね。」
「はい。昨日、お見舞いに来てくださったんですよ。」
「じゃあ、昌孝さんが何か不審な行動をしたり、いつもと違うと感じたりしたか?」
龍の質問に、海里は昨日の話を思い出した。本人から言うなと言われたが、その本人が亡くなっている以上、そして事件性がある以上、黙っていられる話ではなかった。
「実は・・・昨日お見舞いに来てくださった時、“家族に殺される”、と。」
「殺される?」
「はい。私も何度かご家族にお会いしたことがあるので、ありえないと否定したのですが、食事に毒が盛られているから気分が悪くなった、奥さんのパソコンで毒物を検索している履歴があったと仰られまして・・・冗談には思えなかったのですが、納得もできなかったんです。」
2人は考え込んだ。仮に昌孝が家族に殺されたのだとしたら、あの遺書らしき文言も納得はいく。
「昌孝さんは、君と同じ推理小説家なんだよね?」
「はい。私とは比べものにならない大ベテランですよ。私と同じ推理小説家で、歴史上の登場人物を交えた話が多いです。ご本人も歴史好きなので、ご家族にもその影響は及んでいます。」
「影響?」
「はい。お2人は戦国武将の浅井長政を知っていますか?」
「浅井?ああ、知ってるけど。」
「それなら話は早いです。先生の奥さんのお名前は市夏さん、3人の娘さんはそれぞれ梓茶さん、初音さん、江奈さんと仰るんです。」
「なるほどね。織田信長の妹・お市の漢字が入った奥さんは偶然としても、子供たちにはその三姉妹にちなんだ名前をつけたんだ。凝り性だね。」
海里は頷いた。そして同時に、昌孝は仕事熱心だと語った。
「ご家族を疑っているわけではありませんが、昔からお子さんの学校行事にも参加していなかったそうなんです。平日も休日も書斎にこもって仕事をしていると、以前市夏さんから愚痴を言われたことがあるんですよ。」
「愚痴?随分親しい間柄だったんだな。」
龍の言葉に海里は頬を掻きながら言った。
「実は・・・仲が良いから親しくなったわけではないんです。以前、私が浅村先生の作品を盗作したというデマが流れた時がありまして。それがきっかけで浅村先生やご家族と対面したんです。」
2人は驚いた。海里は苦笑する。
「その後、和解して騒動は収まったんですが、それ以来あまり関係は良好とは言えません。気まずいままだったんです。だから、昨日病院に足を運んでくださったことはとても驚いたんです。もっとも、探偵としての私に、ご家族のことを話すためでしたが。」
「ふうん。でも、盗作の件は少し気になるな。もう少し詳しく話してくれない?」
「分かりました。えっと・・・始まりは浅村先生から私の編集者さんへの電話だったんです。」
※
2年前。
「盗作?私が・・ですか?」
「ああ。浅村昌孝先生は知っているよね?」
「はい。しかし盗作と言ってもどのような・・・?私は最近、事件の話しか書いていません。」
「これだよ。」
編集者が出したのは、海里が小説探偵と呼ばれる以前に出した、フィクションの本だった。途中のページに付箋が貼ってあり、海里は手に取って捲った。
「線が引いてあるでしょ?調べたら浅村先生の本にも全く同じ表記があったんだ。歴史上の人物が出て来て・・・っていう箇所も同じだって仰ったんだ。」
「そんな・・・表記が被るのはミステリーという同じジャンルである以上、可能性としてありますし、歴史上の人物が出てくるのはそういう話を作ったからで・・・。」
「うん。元からそんな構成だったと言ったんだけど、信じてもらえなくってね。」
海里は眉を顰めた。編集者は続ける。
「終いには話全体の内容が似ている話になって丸々盗作したって話になったんだ。違うでしょ?」
「違います。この本の中にあるのは私が作った物語ですし、物語に登場する警察官は先生の小説と名前が似ていただけです。」
「だよねえ・・・。でも浅村先生が君に会いたいって仰ってるんだ。いいかい?」
「・・・・疑いを晴らすためにもお会いします。」
※
「まあその後和解したんですが、なぜ浅村先生があんなことを仰ったのか未だに分かりません。ベテランですから表記が被ることや、事件のことも知っているはずだったのに。」
「なるほどな。その本は江本が小説探偵と呼ばれる前の、フィクションの小説だったんな。」
「はい。東堂さんと出会う前です。」
「ああ、あの猟奇殺人の直前か。世間が新巻が出たと騒いでいた記憶がある。随分と懐かしい話だな。」
「ええ。色んな場所を旅してこれまでの推理小説に取り入れられていなさそうな要素を含ませましたから、盗作なんてあり得ません。」
断言する海里はどこか怒っているようにも見えた。玲央がふっと笑う。
「ごめん、ごめん。何か江本君が子供みたいで。」
「仕方ないじゃないですか。当時は結構怒っていましたし・・・。」
海里は不貞腐れた。龍も咳払いをして口を開く。
「だがその話、妙だな。江本を優秀だと認めているなら、文体や話の構成くらい知っていたはずだろう。ベテラン小説家がその辺りを知らないとは思えない。」
「そうだね。もしかしたら、浅村さんを語る誰かが彼だと偽ったのかもしれない。お互い会ったことがなかったなら、声なんて知らないだろ?」
海里は頷いた。2人は考える。
「でも今回の事件に直結しているかは謎だな。以前みたいに、江本が容疑者になるわけじゃない。」
「そうだね。昔は昔、今は今、かな。」
「ああ。でも兄貴、一応“あれ”は見せておくか?」
「うん。」
海里は首を傾げた。龍はパソコンに残されていた遺書らしきメッセージのコピー用紙を海里に見せる。
「これはまた・・・随分と不可思議なメッセージですね。」
「でしょ?被害者の自宅に狼がいる・・比喩表現だとは思うけど、それらしい人っていたりするの?」
「いえ。皆さん穏やかですよ。家政婦さんや家庭教師さんも、家族の輪に混ざっていらっしゃいました。」
「じゃあやっぱり犯人の比喩か。ちなみに被害者は睡眠薬の大量摂取によって亡くなった。このメッセージは意味が分からないが、まだ自殺の線も考えられている。」
龍の言葉を聞いて、海里は考え込んだ。確かに、昨日会った昌孝は思い詰めた表情をしていた。
しかし、そろそろ新作が出来上がると噂されていた彼が自殺するなど考えられなかったのだ。海里はそう2人に伝えた。
「そっか・・・。まあもう1度調べ直すよ。何か分かったら連絡した方がいい?一応入院中だから、負担はかけたくないんだけど。」
「知らせてくださると助かります。先生が亡くなった理由は知りたいんです。快活な方だと軽んじて話を聞いたのは私です。気になることも出てきましたし。」
「分かった。また連絡するよ。」
2人が帰ると、海里はベッドに寝転び、天井を見ながら考えをまとめ始めた。
(睡眠薬・・・他殺なら毒殺と言ったところか。殺人だとしたら、自殺に見せかけるためにその方法を選んだのか?
でもパソコンは開いていたと聞いているし、結果的に自殺らしくない亡くなり方になっている。犯人がそんな下手をするだろうか?狼というからには、かなりの狡猾さと頭脳を持ち合わせたように思える・・・。
先生のご家族は全員頭が良いという噂だが、狡猾さと言われるとピンと来ない。となると、家政婦や家庭教師?しかし仕事場にこもって顔も合わさなかった2人が、先生を殺害する理由なんてあるのだろうか。)
海里はぐしゃぐしゃと頭を掻いた。現場に赴いていない分、情報が少ないことが歯痒かった。傷に触れると、まだ少し痛む。
「困りましたね・・・。こうも不便だとは思いませんでした。」
(浅村先生・・・あの時、先生は何を思って私に相談されたんだ?レコーダーを持っている以上、信頼しているとは言い難い。でも相談はしたかった・・・。それほど思い詰めて、相談で楽になった直後に死亡。何か不自然だ。まるで・・・“それらしい死に方”を初めから用意していたかのような・・・妙な気分だ。)
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