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Case116.人形屋敷は呪いの渦中⑥
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話し合いの後、麟太郎たち仲村家は、一先ず近くにある親戚の家に移ることになった。美菜子のことは麟太郎も聞いたが、どうするかは妻と義母に任せると告げた。2人は悩んだが、結局この事態が落ち着いたら警察に行こうという話に落ち着いた。
「そうですか。ご家族で決められたことですから、私が口を出すことではありません」
言葉通りの意味だ。犯罪に対してどう向き合うかは、家族の問題。俺が口出ししていいことじゃない。
でも、仲村家全員がいなくなった屋敷で、俺1人残って除霊するってどうなんだ? 誰かには立ち会ってもらわねえと、そもそも屋敷に入れないし、最悪不法侵入じゃねえか。
圭介は後で麟太郎たちに聞いてみようと思いつつ、30年前に行方不明になった子供のことを思い浮かべた。一体、どこへ行ったのか。そして、なぜ巨大な日本人形も同時に消えたのか。考えれば考えるほど、最悪な答えが頭を過った。
考えすぎだと思うのに、考えずにはいられない。だけど、もし本当にそうだとしたら、何で子供はーー
思考を打ち切ったのは、甲高い女性の悲鳴だった。
圭介はギョッとしたが、気がつけば足が動いていた。彼は客間を出て板張りの廊下を走り、いくつか部屋を挟んだ今の襖を開け放つ。
「えっ・・・・」
居間の中央に、清子が倒れていた。首にナイフが突き刺さり、口から血が滴り落ちている。
奏はおばあちゃんが、と泣き叫びながら佳代子に縋りついていた。佳代子と美菜子は震え、その場から動けなくなっていた。別の襖から居間に駆けつけた麟太郎は、呆然とした瞳で清子を見つめていた。
数秒の後、我に返った圭介は、すぐさまナイフを抜かずに手拭いを取り出して止血をし、叫んだ。
「大至急救急車を呼んでください! 警察には私が連絡します!」
※
数分後、救急と警察が到着し、清子は病院に搬送された。事件は殺人未遂とされ、案の定、捜査一課の刑事たちが踏み込んできた。
「神道? お前、こんなところで何してるんだ」
「やっぱりお前らかよ・・・・。何してるんだって、別に大したことじゃねえよ。除霊の依頼。ーーガチのやつ」
最後の一言に、龍と玲央は動きを止めた。圭介は信じられないなら別に良いと告げ、小さくため息をつく。
「圭介さん」
その声が聞こえるなり、圭介はギョッとして振り返った。龍と玲央に隠れて見えなかったが、海里が共にいたのである。
「な、何で海里までいるんだよ。また協力させてくれって言ったのか?」
「先日の事件で警視庁に来ていたんです」
タイミングが悪すぎるだろ。いや、ぶっちゃけ良いのか? わからん。
「兄貴、鑑識から報告」
「ん?」
「凶器のナイフに指紋がついていた。被害者のものか犯人のものか不明だが、怪我の具合からして犯人の物の可能性が高いらしい。
で、犯行は一瞬。頸動脈にナイフを突き刺して終わり。もし抜いていたら出血多量で死んでいたはずだから、そのまま止血したのは正解だな」
「躊躇なく刺したということですか?」
海里の質問に龍は頷き、争った形跡はないため、犯人と被害者は顔見知りのはずだと続けた。
「家族が」
圭介の声に3人は揃って振り返った。彼は緊張しながら続ける。
「犯人ってことか?」
「・・・・少なくとも今のところ、外部の人間が侵入した形跡は見当たらない。金目当ての犯行にしては部屋が荒れていないし、そもそもすぐに見つかっているからリスクがある」
玲央の答えに圭介は頭を抱えた。警察に相談するべきことだと何度か言ったが、本当に警察と相対するとは思ってもいなかったからだ。
マジでどうすりゃ良いんだよ。何でこんな時に殺人未遂なんて起きるんだ? 外部の俺に罪をなすりつけることなんてできやしない。状況的にも家族の誰かが犯人でほぼ間違いなし。ああもう、除霊しに来ただけなのに、何でこんなことになってんだ。まだ解決してないことが色々あるのにーー
「あ」
「今度はどうした?」
それには答えず、圭介は勢いよく龍と玲央に近づき、彼らの肩に手を置いた。ゆったりと顔を上げて2人を見据え、圭介は口を開く。
「警察の権力、貸してくれ」
「つまりーー30年前の未解決事件の真相を探るために、事件をより深く俺たちに調べてもらって、ついでに蔵も開けてほしい・・・・ってことかい?」
「そうだ。依頼を受けた以上、除霊は絶対にやらなきゃならない。でも、そのために解決すべきことがあって、俺の力じゃ、それはできない。だから、お前らに協力してほしい。頼む!」
圭介は勢いよく両手を合わせ、頭を下げた。龍と玲央は互いの意思を確かめるように顔を見合わせ、圭介の共に懇願するような海里の視線を受け止める。
「別に良いじゃない」
悩む2人が焦ったいとでもいうかのように、背後から声をかけたのはアサヒだった。彼女は圭介を一瞥した後、言葉を続ける。
「子供が行方不明になったことが事実なら、捜査することに問題はない。この家の家長が死にかけた以上、何かあるんじゃないかと調べることは不自然じゃないわ。ーー蔵を開けることもね」
「それはそうだが、蔵を開けるには家人の許可がいるだろ。この状況で出ると思うか?」
「出してもらうしかないでしょ。そういう状況なんだから」
事もなげにそう言うと、アサヒは隣室で女刑事から事情聴取を受けている奏の元へ行った。海里たちが慌てて追いかけるが、彼女が振り返ることはない。清子には美菜子が付き添ったので、佳代子と麟太郎は家にいた。
「こんにちは、奏ちゃん」
「・・・・こんにちは。お姉さん、けいさつの人?」
「ええ。ねえ、奏ちゃん.あなた、日本人形が好きなのよね? 怖いとか、全く思わないくらい」
「うん! わたしのお友だち!」
奏が屈託のない笑顔を浮かべて言うと、アサヒはどこか蠱惑的な笑みを浮かべた.
「・・・・そう。じゃあ、もしこの家に、大人の人くらい大きな日本人形があったら、ほしい?」
「ほしい!」
迷いのない答えだった。アサヒは優しく奏の頭を撫でて立ち上がり、今度は佳代子に近づく。
「佳代子さん。蔵には何が?」
「実は・・・・私も知らないんです。私が子供の頃から、あの状態で・・・・。近づこうとすると、母が“危ないから近寄っちゃダメ”って」
「なるほど。危ないから、ですか。
では質問を変えます。そんな危ないものがある場所を、なぜ壊したりしなかったんですか? 佳代子さんも今は一児の母。奏ちゃんが近づいても、危ないこと「変わりはないでしょう?」
佳代子は頷きつつも、どこか不思議そうに首を傾げた。耐えきれず、玲央が口を挟む。
「ちょっとアサヒ。急に何の話?」
「神道さんが言ったんじゃない。30年前、この家に遊びに来た子供が行方不明になって、巨大な日本人形も同時に消えて不自然だーーって」
「おい、アサヒ!」
龍が文句を言おうとしたが、アサヒはそれを制するように1枚の紙片を見せた。圭介が人形の収納部屋で見つけた、“悪魔”と記された紙片である。駆けつけた圭介は、いつの間に取られたのかとポケットを探っていた。
「その紙、神道さんに見せていただきましたけど・・・・」
「じゃあもう1度よく見てください。この紙の空白を。
“悪魔”の2文字は、紙の左端に書かれている。もし、本当に書きたいことがこれだけなら、こんなに隅に寄っているのはおかしな話。そこまで考えたら、1つの疑問が浮かぶ。
すなわち、他の文字が書かれていたんじゃないか、という疑問が」
「「他の文字?」」
海里と圭介は、同時に素っ頓狂な声を上げた。アサヒは肩越しに圭介を見て続ける。
「あなた、この紙ちゃんと見た? 他の文字の痕跡があるでしょう」
「えっ? マジ?」
思わず素で反応すると、アサヒは開いた紙を天井の明かりに照らして透かした。その瞬間、非常に薄くはあるが、“悪魔”の前に文字が見えた。
「龍、あなたなら見えるわよね。読んで」
「えっと・・・・“悪魔の副産物は鬼門にあり”・・・・? 何だ、これ。
そもそもアサヒ、お前の言う通りなら、誰かが文字を消したってことか?」
「そうなるわね。何か、知られてはいけないことがあったんだと思うわ。鬼門って言葉は、警告には丁度いいから。ーーそうでしょう? 神道さん」
圭介はすぐさま頷き、口を開いた。
「鬼門は日本で古くから忌み嫌われる方角のこと。東西南北で言うなら北東だ」
その言葉に頷きつつ、アサヒは歩きながら続けた。
「そう。この不可思議な紙が家に、しかも人形のある部屋に落ちていた以上、何かしらの関係性があると考えるのが普通。そして、30年前に行方不明になった子供のことを知っていれば、そのことだと推測するのは無理のある話じゃない。
何より、この屋敷における鬼門、すなわち北東はーー」
アサヒは廊下に出て庭を見渡し、真っ直ぐに右手を封鎖されている蔵に向けた。
「だから気になっていたんでしょう?」
アサヒの質問に圭介は頷いた。彼女は佳代子に向き直り、改めて口を開く。
「調べる価値はある。鍵があるなら鍵、無いならペンチか何かで鎖ごと壊して蔵の中をーー」
「待ってください!」
叫んだのは麟太郎だった。アサヒは横目で彼を見る。その瞳には呆れが滲んでいた。
「あの蔵は義母さんが封鎖したいから封鎖しているんです! 義母の承諾なしに開けられません!」
「過去を知る手がかりであっても?」
「推測に過ぎないんでしょう? まるで家宅捜索じゃないですか!」
必死に叫ぶ麟太郎に対して、アサヒは決して彼を正面から見ずにつぶやいた。
「・・・・面倒くさい男ね」
この言葉には、本人よりも海里と圭介がギョッとした。特に、圭介は頭を抱えている。しかし、アサヒは気にしなかった。
「私はそんな小さい話をしていないわ」
そう言うなり、アサヒは龍と玲央の方を向いた。2人は思わず溜息をつき、龍が躊躇いがちに口を開いた。
「彼女の言いたいことは至ってシンプルです。推測かどうかは関係ない。30年前、この家に来た子供が行方不明になったーーそれだけが重要なんです。子供の生死は置いておき、1つの未解決事件として、捜査する必要はある。
それに麟太郎さん。あなたは、過去に喪われたかもしれない命に対して、本当に何も思いませんか? あの蔵を開けないことで、姿を消した子供の想いや、子供のご家族の想いを無視してしまうとは考えませんか?」
龍の言葉に、麟太郎はたじろいだ。アサヒは苦笑する。
「端的に言えばそう言うことよ。
でももっと言うなら、あの蔵を開けるかどうかを決める権利はあなたにないでしょ? あなたは、旦那だろうが婿養子。清子さんがいない今、娘で長女である佳代子さんの許可があれば十分なの。
ということで、佳代子さん、許可していただけます?」
佳代子はあんぐりと口を開けていたが、やがて、諦めたように苦笑いを浮かべた。
「・・・・わかりました。鍵を持って来ますので、少しお待ちください」
「どうも」
笑うアサヒに対して、圭介は慌てながら言った。
「強引すぎるんじゃねえの?」
「あら、あなたの望みを叶えてあげたのよ? 警察としても捜査は必要だし、別にいいでしょ」
「そうですか。ご家族で決められたことですから、私が口を出すことではありません」
言葉通りの意味だ。犯罪に対してどう向き合うかは、家族の問題。俺が口出ししていいことじゃない。
でも、仲村家全員がいなくなった屋敷で、俺1人残って除霊するってどうなんだ? 誰かには立ち会ってもらわねえと、そもそも屋敷に入れないし、最悪不法侵入じゃねえか。
圭介は後で麟太郎たちに聞いてみようと思いつつ、30年前に行方不明になった子供のことを思い浮かべた。一体、どこへ行ったのか。そして、なぜ巨大な日本人形も同時に消えたのか。考えれば考えるほど、最悪な答えが頭を過った。
考えすぎだと思うのに、考えずにはいられない。だけど、もし本当にそうだとしたら、何で子供はーー
思考を打ち切ったのは、甲高い女性の悲鳴だった。
圭介はギョッとしたが、気がつけば足が動いていた。彼は客間を出て板張りの廊下を走り、いくつか部屋を挟んだ今の襖を開け放つ。
「えっ・・・・」
居間の中央に、清子が倒れていた。首にナイフが突き刺さり、口から血が滴り落ちている。
奏はおばあちゃんが、と泣き叫びながら佳代子に縋りついていた。佳代子と美菜子は震え、その場から動けなくなっていた。別の襖から居間に駆けつけた麟太郎は、呆然とした瞳で清子を見つめていた。
数秒の後、我に返った圭介は、すぐさまナイフを抜かずに手拭いを取り出して止血をし、叫んだ。
「大至急救急車を呼んでください! 警察には私が連絡します!」
※
数分後、救急と警察が到着し、清子は病院に搬送された。事件は殺人未遂とされ、案の定、捜査一課の刑事たちが踏み込んできた。
「神道? お前、こんなところで何してるんだ」
「やっぱりお前らかよ・・・・。何してるんだって、別に大したことじゃねえよ。除霊の依頼。ーーガチのやつ」
最後の一言に、龍と玲央は動きを止めた。圭介は信じられないなら別に良いと告げ、小さくため息をつく。
「圭介さん」
その声が聞こえるなり、圭介はギョッとして振り返った。龍と玲央に隠れて見えなかったが、海里が共にいたのである。
「な、何で海里までいるんだよ。また協力させてくれって言ったのか?」
「先日の事件で警視庁に来ていたんです」
タイミングが悪すぎるだろ。いや、ぶっちゃけ良いのか? わからん。
「兄貴、鑑識から報告」
「ん?」
「凶器のナイフに指紋がついていた。被害者のものか犯人のものか不明だが、怪我の具合からして犯人の物の可能性が高いらしい。
で、犯行は一瞬。頸動脈にナイフを突き刺して終わり。もし抜いていたら出血多量で死んでいたはずだから、そのまま止血したのは正解だな」
「躊躇なく刺したということですか?」
海里の質問に龍は頷き、争った形跡はないため、犯人と被害者は顔見知りのはずだと続けた。
「家族が」
圭介の声に3人は揃って振り返った。彼は緊張しながら続ける。
「犯人ってことか?」
「・・・・少なくとも今のところ、外部の人間が侵入した形跡は見当たらない。金目当ての犯行にしては部屋が荒れていないし、そもそもすぐに見つかっているからリスクがある」
玲央の答えに圭介は頭を抱えた。警察に相談するべきことだと何度か言ったが、本当に警察と相対するとは思ってもいなかったからだ。
マジでどうすりゃ良いんだよ。何でこんな時に殺人未遂なんて起きるんだ? 外部の俺に罪をなすりつけることなんてできやしない。状況的にも家族の誰かが犯人でほぼ間違いなし。ああもう、除霊しに来ただけなのに、何でこんなことになってんだ。まだ解決してないことが色々あるのにーー
「あ」
「今度はどうした?」
それには答えず、圭介は勢いよく龍と玲央に近づき、彼らの肩に手を置いた。ゆったりと顔を上げて2人を見据え、圭介は口を開く。
「警察の権力、貸してくれ」
「つまりーー30年前の未解決事件の真相を探るために、事件をより深く俺たちに調べてもらって、ついでに蔵も開けてほしい・・・・ってことかい?」
「そうだ。依頼を受けた以上、除霊は絶対にやらなきゃならない。でも、そのために解決すべきことがあって、俺の力じゃ、それはできない。だから、お前らに協力してほしい。頼む!」
圭介は勢いよく両手を合わせ、頭を下げた。龍と玲央は互いの意思を確かめるように顔を見合わせ、圭介の共に懇願するような海里の視線を受け止める。
「別に良いじゃない」
悩む2人が焦ったいとでもいうかのように、背後から声をかけたのはアサヒだった。彼女は圭介を一瞥した後、言葉を続ける。
「子供が行方不明になったことが事実なら、捜査することに問題はない。この家の家長が死にかけた以上、何かあるんじゃないかと調べることは不自然じゃないわ。ーー蔵を開けることもね」
「それはそうだが、蔵を開けるには家人の許可がいるだろ。この状況で出ると思うか?」
「出してもらうしかないでしょ。そういう状況なんだから」
事もなげにそう言うと、アサヒは隣室で女刑事から事情聴取を受けている奏の元へ行った。海里たちが慌てて追いかけるが、彼女が振り返ることはない。清子には美菜子が付き添ったので、佳代子と麟太郎は家にいた。
「こんにちは、奏ちゃん」
「・・・・こんにちは。お姉さん、けいさつの人?」
「ええ。ねえ、奏ちゃん.あなた、日本人形が好きなのよね? 怖いとか、全く思わないくらい」
「うん! わたしのお友だち!」
奏が屈託のない笑顔を浮かべて言うと、アサヒはどこか蠱惑的な笑みを浮かべた.
「・・・・そう。じゃあ、もしこの家に、大人の人くらい大きな日本人形があったら、ほしい?」
「ほしい!」
迷いのない答えだった。アサヒは優しく奏の頭を撫でて立ち上がり、今度は佳代子に近づく。
「佳代子さん。蔵には何が?」
「実は・・・・私も知らないんです。私が子供の頃から、あの状態で・・・・。近づこうとすると、母が“危ないから近寄っちゃダメ”って」
「なるほど。危ないから、ですか。
では質問を変えます。そんな危ないものがある場所を、なぜ壊したりしなかったんですか? 佳代子さんも今は一児の母。奏ちゃんが近づいても、危ないこと「変わりはないでしょう?」
佳代子は頷きつつも、どこか不思議そうに首を傾げた。耐えきれず、玲央が口を挟む。
「ちょっとアサヒ。急に何の話?」
「神道さんが言ったんじゃない。30年前、この家に遊びに来た子供が行方不明になって、巨大な日本人形も同時に消えて不自然だーーって」
「おい、アサヒ!」
龍が文句を言おうとしたが、アサヒはそれを制するように1枚の紙片を見せた。圭介が人形の収納部屋で見つけた、“悪魔”と記された紙片である。駆けつけた圭介は、いつの間に取られたのかとポケットを探っていた。
「その紙、神道さんに見せていただきましたけど・・・・」
「じゃあもう1度よく見てください。この紙の空白を。
“悪魔”の2文字は、紙の左端に書かれている。もし、本当に書きたいことがこれだけなら、こんなに隅に寄っているのはおかしな話。そこまで考えたら、1つの疑問が浮かぶ。
すなわち、他の文字が書かれていたんじゃないか、という疑問が」
「「他の文字?」」
海里と圭介は、同時に素っ頓狂な声を上げた。アサヒは肩越しに圭介を見て続ける。
「あなた、この紙ちゃんと見た? 他の文字の痕跡があるでしょう」
「えっ? マジ?」
思わず素で反応すると、アサヒは開いた紙を天井の明かりに照らして透かした。その瞬間、非常に薄くはあるが、“悪魔”の前に文字が見えた。
「龍、あなたなら見えるわよね。読んで」
「えっと・・・・“悪魔の副産物は鬼門にあり”・・・・? 何だ、これ。
そもそもアサヒ、お前の言う通りなら、誰かが文字を消したってことか?」
「そうなるわね。何か、知られてはいけないことがあったんだと思うわ。鬼門って言葉は、警告には丁度いいから。ーーそうでしょう? 神道さん」
圭介はすぐさま頷き、口を開いた。
「鬼門は日本で古くから忌み嫌われる方角のこと。東西南北で言うなら北東だ」
その言葉に頷きつつ、アサヒは歩きながら続けた。
「そう。この不可思議な紙が家に、しかも人形のある部屋に落ちていた以上、何かしらの関係性があると考えるのが普通。そして、30年前に行方不明になった子供のことを知っていれば、そのことだと推測するのは無理のある話じゃない。
何より、この屋敷における鬼門、すなわち北東はーー」
アサヒは廊下に出て庭を見渡し、真っ直ぐに右手を封鎖されている蔵に向けた。
「だから気になっていたんでしょう?」
アサヒの質問に圭介は頷いた。彼女は佳代子に向き直り、改めて口を開く。
「調べる価値はある。鍵があるなら鍵、無いならペンチか何かで鎖ごと壊して蔵の中をーー」
「待ってください!」
叫んだのは麟太郎だった。アサヒは横目で彼を見る。その瞳には呆れが滲んでいた。
「あの蔵は義母さんが封鎖したいから封鎖しているんです! 義母の承諾なしに開けられません!」
「過去を知る手がかりであっても?」
「推測に過ぎないんでしょう? まるで家宅捜索じゃないですか!」
必死に叫ぶ麟太郎に対して、アサヒは決して彼を正面から見ずにつぶやいた。
「・・・・面倒くさい男ね」
この言葉には、本人よりも海里と圭介がギョッとした。特に、圭介は頭を抱えている。しかし、アサヒは気にしなかった。
「私はそんな小さい話をしていないわ」
そう言うなり、アサヒは龍と玲央の方を向いた。2人は思わず溜息をつき、龍が躊躇いがちに口を開いた。
「彼女の言いたいことは至ってシンプルです。推測かどうかは関係ない。30年前、この家に来た子供が行方不明になったーーそれだけが重要なんです。子供の生死は置いておき、1つの未解決事件として、捜査する必要はある。
それに麟太郎さん。あなたは、過去に喪われたかもしれない命に対して、本当に何も思いませんか? あの蔵を開けないことで、姿を消した子供の想いや、子供のご家族の想いを無視してしまうとは考えませんか?」
龍の言葉に、麟太郎はたじろいだ。アサヒは苦笑する。
「端的に言えばそう言うことよ。
でももっと言うなら、あの蔵を開けるかどうかを決める権利はあなたにないでしょ? あなたは、旦那だろうが婿養子。清子さんがいない今、娘で長女である佳代子さんの許可があれば十分なの。
ということで、佳代子さん、許可していただけます?」
佳代子はあんぐりと口を開けていたが、やがて、諦めたように苦笑いを浮かべた。
「・・・・わかりました。鍵を持って来ますので、少しお待ちください」
「どうも」
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