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後編
81.最終決戦(3)
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「偽物の指輪を作ったのか!!」
針鼠は叫んだ。
今まで針鼠達は、女王が予め偽物の指輪と本物の指輪を入れ替えて、偽物を盗ませたのだと思っていた。だが、違っていた。最初から女王は、本物の『王家の指輪』など持っていなかったのだ。
睨む針鼠に、女王は映像の中のマリーと同じ顔をして笑った。
「本当に……俺が王位を継ぐはずだった……! なのにお前が奪った!! 母の命すらも……!」
「仕方がないじゃない。そうしないと、やられていたのはこっちなんだから。」
女王は針鼠の血に濡れた頬を片手でさすり、妖艶な笑みを浮かべる。
「レイフ……。レイフ・リー・ロエね。そう、そういえばそんな名前だった。あの女が愛おしそうにそう呼んでいた。ふふ……ふ……、これは気合をいれて呪わなければ。」
女王は、針鼠の_レイフの本名を口にすると、普通では聞き取れない発音を唱え出す。女王は鋭い杖の先を針鼠の頬に突き立てる。針鼠は怒りに打ち震えながら歯を食いしばった___
「__燃えろ!」
突如、ブオォォォオッッという轟音と共に外庭が一気に炎に包まれる。炎は魔獣達を飲み込み、針鼠を拘束していた薔薇の茎を燃やし尽くす。女王は驚いて、大量の水を出し、炎を消した。
消えた炎の向こうから姿を現したのは、女の上半身だった。上半身はカゴを頭にかぶり白く輝く体を魔法で浮かせている。
「お前のその呪い……まさか……エラ・ド・ホールか?」
女王は目を剥く。目の前の女は明らかに自分の魔法で呪われている。更に、体が部分的に無くなっている事から、顔を見なくても相手が誰だかピンときた。
「なんだ……? その魔力は……! 前に会った時はこれ程強い力を持っていなかったはずだ!! それに…」
女王はエラの周りに舞っている沢山の白い蝶達を青筋立てて睨みつけた。
「……こんな奴がいるだなんてお前達は言っていなかった!!」
「白い蝶達は強い魔法使いの味方につく。善悪関係なくね。だから、彼らは今は私の味方だわ。」
女王は血のような赤い目をカッと大きく開いた。
「結局お前達でさえ私を裏切るのね!! 誰も……、誰も信用できない!!」
「あなたはこんなよくわからない物じゃなくて、人同士で信頼関係を築くべきだったのよ。」
「___知ったような口を聞くなァァッ!!」
女王はエラの本名を叫ぶと、およそこの世の物ではないような発音を発し呪文を唱える。古代魔法でエラを呪おうとしているのだ。杖先がバチバチッと紫の光が点滅すると、紫色の霧がエラを覆い尽くした。しかし、その前に白い蝶達が光となってエラを包み込む。紫色の霧は白い蝶達の光で霧散してしまう。
「___ッ」
今度はエラが火の魔法を唱える。単純な魔法だが、規模が今までとは段違いに強大だった。女王もまた魔法をぶつけて、エラの魔法を抑える。
二人の魔力はいまやほぼ互角だった。魔法が拮抗し、押して押されてまた押し返す。
しかし、ほんのわずか。少しだけ、エラの魔法が勝った。彼女の胆力と勇気と忍耐、そして仲間を想う気持ちが魔法を後押しした。白い蝶達はエラの強さを確信すると、エラの元に集結していった。白い蝶達はエラの身体中を駆け巡り、手から杖へ、杖から女王の元へと放射されてゆく。
「グッ……あ……ああァ!! 熱いッ……ァぁ!!!」
女王の体は徐々に手先から炎に包まれてゆく。女王は苦痛に顔を歪める。
「___」
一方、エラも自分の体に異変を感じていた。左腕がなくなり、腰より下も消えていた。呪いのせいで全身からさっきよりも光を放っていた。呪いによる死がいよいよ間近に迫っているのだ。
右腕がなくなり、杖を落とす。その瞬間、エラの火の魔法は止まり、体も地面に落ちた。女王は体を焼く火を消すのに夢中でエラにすぐに攻撃してこない。
すると、白い蝶達がエラの右腕があった部分に集まり白く透明な腕を作った。エラはその腕を自由に動かす事ができる事に気づいた。
「最期まで魔法を使えって言うのね。……ええ、良いわ。死ぬまでに女王_あの女の息の根を止めてやるわ!」
エラは再び杖を取り、体を浮かせ苦悶の表情を浮かべる女王に杖を向けた。
しかし、女王の方が行動が早かった。彼女はエラ自身と魔法で向き合っても勝てないと理解した。ならばと彼女は杖の向ける先を変える。
_女王が杖を向けたのは針鼠だった。
地面で倒れている針鼠に杖をかざし、針鼠の本名と呪いの呪文を口にする。
途端。
「___ウ……あァァ……!」
針鼠はもがき苦しみ出す。
「針鼠!!」
エラは急いで針鼠の元へ体を飛ばす。エラは女王が針鼠になんの呪いをかけたのかはわからない。だが、針鼠の感情は頭の中に流れてきた。
「か、体中が痛むのね!! どうにかしないと!」
針鼠の全身から白い光が発光する。この呪いは全身を痛めつけすぐにその命を奪うもののようだ。今すぐ対処しないと針鼠まで死んでしまう。
「……ウ……あァ……イシ……何を……!」
エラは針鼠に杖を向ける。
古代魔法の呪いは、エラの呪いを含めて解く事ができない。これはエラが『魔法使いのうろ』で見つけた魔術書に記載されていた事だ。
__だが、例外はある。
エラは「レイフ・リー・ロエ」と一言呟き、呪文を唱える。呪文は古代魔法だ。
この呪文は『相手の呪いを引き受ける』魔法。
針鼠から「痛み」がエラの中に流れ込んでくる。エラは痛みで気が遠くなりそうになる。だが、歯を食いしばって耐える。
「……後ろががらあきよ。」
エラの背後で女王がゆっくりと立ち上がる。
エラは女王が今にも自分に攻撃してくるだろう事はわかっていた。だが、まだ杖を針鼠に向けたままだ。
まだ、針鼠の呪いを完全に自分に移せていない。中途半端ではやはり針鼠が死んでしまう。
女王はニタッ……と笑う。杖にありったけの魔力をこめる。そして、杖をふり、禍々しい紫色の光の玉をエラ目掛けて飛ばした___!
「……!!!!」
だが、その寸前、女王の前に一人の人間が立ちはだかった。攻撃魔法はその人間にあたり、腹と口から大量の血を吹き出す。
女王は目を見張った。
__エラを守ったのは、姫だった。
姫は女王の攻撃魔法を正面から受け腹の肉が大きく抉れた。
「そ、そんな……なんで……!」
女王は目の前の事実が受け入れきれずに頭を抱える。姫はその場で倒れる。
「……あ……あ……。」
女王はその瞬間、絶望に打ちのめされた。
女王はずっと、自分が孤独だと思っていた。周りは自分を陥れようとする悪い奴らで、一人で戦っていかなければならないんだと。
ずっと、自分の娘に苛立ちを感じていた。太っていて特段何かに優れている訳でもない。娘は彼らに自分を罵る材料を作っている。何故もっと自分の思い通りに育ってくれないのか、と。
__女王は、ようやく姫の大切さに気づいた。自分は孤独ではなかった。ずっと家族として味方でいてくれる娘がいた。彼女がいなくなれば、女王は今度こそ本当に孤独になってしまう。
「……ぁ……やだ……。」
女王は地面に横たわった姫の元へヨタヨタと歩み寄る。血がドクドクと流れていく。
「な……治れ……。」
女王は姫に杖をかざす。杖先に光がともる。
「治れ……治れ治れ治れ。」
女王は何度も何度も回復の呪文を唱える。
女王は強力な魔法使いだ。だが、いくら彼女でも使える魔法の量には限界がある。彼女はエラとの戦いで魔力をほとんど使い果たしていた。そんな中で魔法を使い続けたらどうなるか。
魔法の使いすぎは、どの魔法使いにとっても命取りだ。女王はそれがわかっていてもなお、回復魔法をやめる事はなかった。
「治れ治れ治れ治れ治れ治れ治れ治れ治れ治れェッ」
姫の体を緑色の温かい光が包み込む。姫は少しずつ呼吸を取り戻していく。血が止まり、顔に赤みを取り戻す。
女王は最後の力を振り絞り、一言「治れ」と口にする。姫を包む緑の光が徐々に小さくなっていく。女王の手から杖が落ち、そして、倒れた。
__女王は絶命した。
女王が倒れた頃、エラの寿命もまた尽きようとしていた。エラの体から眩い光が放たれ今にも消えようとしていた。
まだ『相手の呪いを引き受ける』魔法が完遂しない。針鼠は体から痛みがほとんど抜けていて、今は安らかに目を閉じている。顔色もさっきより格段によくなった。
「……あなたって……いつも子憎たらしい癖に寝顔は案外可愛いのよね…。」
エラは全身の痛みに耐えながら言った。語りかける相手は気を失っていて、聞いていない。それでも、エラは語りかけ続けた。
「あなたは……私の事を不幸な人間だと思うかしら?徐々に醜い姿に変えられて……若くして……死んでしまう……。私が……かわいそう……だと思うかしら? _私はね……。今は……そう思ってないわ。」
エラは眠る針鼠の頬を、片手で優しくなでる。優しく、愛おしそうになでた。
「叔父様と叔母様……。優しい家族に育てて……もらって幸せだった。チビや昇り藤、黒目、兄ドラさん……『白い教会』の素敵な仲間達に出会えた……。自分の事は自分でできるようになった。家事もできるようになった。死ぬまでに…大人になれた。お酒も飲めた。魔法が使えるようになった。自分の生きる意味について考えられた。自分が好きになれた。……ねえ、レイフ。私はこんなにも幸せだったのよ。今は、ありがとうって気持ちでいっぱいなの……。それに、あなたにも……ありがとう。……人生最期の時に、私に出逢ってくれてありがとう……。レイフ。……大好きよ…………………。」
エラのしわがれた声が消えいる。エラの体を強い光が包み込み消えた。エラの服が落ち、カラカラとカゴが転がった。
エラは死んだ。
針鼠は叫んだ。
今まで針鼠達は、女王が予め偽物の指輪と本物の指輪を入れ替えて、偽物を盗ませたのだと思っていた。だが、違っていた。最初から女王は、本物の『王家の指輪』など持っていなかったのだ。
睨む針鼠に、女王は映像の中のマリーと同じ顔をして笑った。
「本当に……俺が王位を継ぐはずだった……! なのにお前が奪った!! 母の命すらも……!」
「仕方がないじゃない。そうしないと、やられていたのはこっちなんだから。」
女王は針鼠の血に濡れた頬を片手でさすり、妖艶な笑みを浮かべる。
「レイフ……。レイフ・リー・ロエね。そう、そういえばそんな名前だった。あの女が愛おしそうにそう呼んでいた。ふふ……ふ……、これは気合をいれて呪わなければ。」
女王は、針鼠の_レイフの本名を口にすると、普通では聞き取れない発音を唱え出す。女王は鋭い杖の先を針鼠の頬に突き立てる。針鼠は怒りに打ち震えながら歯を食いしばった___
「__燃えろ!」
突如、ブオォォォオッッという轟音と共に外庭が一気に炎に包まれる。炎は魔獣達を飲み込み、針鼠を拘束していた薔薇の茎を燃やし尽くす。女王は驚いて、大量の水を出し、炎を消した。
消えた炎の向こうから姿を現したのは、女の上半身だった。上半身はカゴを頭にかぶり白く輝く体を魔法で浮かせている。
「お前のその呪い……まさか……エラ・ド・ホールか?」
女王は目を剥く。目の前の女は明らかに自分の魔法で呪われている。更に、体が部分的に無くなっている事から、顔を見なくても相手が誰だかピンときた。
「なんだ……? その魔力は……! 前に会った時はこれ程強い力を持っていなかったはずだ!! それに…」
女王はエラの周りに舞っている沢山の白い蝶達を青筋立てて睨みつけた。
「……こんな奴がいるだなんてお前達は言っていなかった!!」
「白い蝶達は強い魔法使いの味方につく。善悪関係なくね。だから、彼らは今は私の味方だわ。」
女王は血のような赤い目をカッと大きく開いた。
「結局お前達でさえ私を裏切るのね!! 誰も……、誰も信用できない!!」
「あなたはこんなよくわからない物じゃなくて、人同士で信頼関係を築くべきだったのよ。」
「___知ったような口を聞くなァァッ!!」
女王はエラの本名を叫ぶと、およそこの世の物ではないような発音を発し呪文を唱える。古代魔法でエラを呪おうとしているのだ。杖先がバチバチッと紫の光が点滅すると、紫色の霧がエラを覆い尽くした。しかし、その前に白い蝶達が光となってエラを包み込む。紫色の霧は白い蝶達の光で霧散してしまう。
「___ッ」
今度はエラが火の魔法を唱える。単純な魔法だが、規模が今までとは段違いに強大だった。女王もまた魔法をぶつけて、エラの魔法を抑える。
二人の魔力はいまやほぼ互角だった。魔法が拮抗し、押して押されてまた押し返す。
しかし、ほんのわずか。少しだけ、エラの魔法が勝った。彼女の胆力と勇気と忍耐、そして仲間を想う気持ちが魔法を後押しした。白い蝶達はエラの強さを確信すると、エラの元に集結していった。白い蝶達はエラの身体中を駆け巡り、手から杖へ、杖から女王の元へと放射されてゆく。
「グッ……あ……ああァ!! 熱いッ……ァぁ!!!」
女王の体は徐々に手先から炎に包まれてゆく。女王は苦痛に顔を歪める。
「___」
一方、エラも自分の体に異変を感じていた。左腕がなくなり、腰より下も消えていた。呪いのせいで全身からさっきよりも光を放っていた。呪いによる死がいよいよ間近に迫っているのだ。
右腕がなくなり、杖を落とす。その瞬間、エラの火の魔法は止まり、体も地面に落ちた。女王は体を焼く火を消すのに夢中でエラにすぐに攻撃してこない。
すると、白い蝶達がエラの右腕があった部分に集まり白く透明な腕を作った。エラはその腕を自由に動かす事ができる事に気づいた。
「最期まで魔法を使えって言うのね。……ええ、良いわ。死ぬまでに女王_あの女の息の根を止めてやるわ!」
エラは再び杖を取り、体を浮かせ苦悶の表情を浮かべる女王に杖を向けた。
しかし、女王の方が行動が早かった。彼女はエラ自身と魔法で向き合っても勝てないと理解した。ならばと彼女は杖の向ける先を変える。
_女王が杖を向けたのは針鼠だった。
地面で倒れている針鼠に杖をかざし、針鼠の本名と呪いの呪文を口にする。
途端。
「___ウ……あァァ……!」
針鼠はもがき苦しみ出す。
「針鼠!!」
エラは急いで針鼠の元へ体を飛ばす。エラは女王が針鼠になんの呪いをかけたのかはわからない。だが、針鼠の感情は頭の中に流れてきた。
「か、体中が痛むのね!! どうにかしないと!」
針鼠の全身から白い光が発光する。この呪いは全身を痛めつけすぐにその命を奪うもののようだ。今すぐ対処しないと針鼠まで死んでしまう。
「……ウ……あァ……イシ……何を……!」
エラは針鼠に杖を向ける。
古代魔法の呪いは、エラの呪いを含めて解く事ができない。これはエラが『魔法使いのうろ』で見つけた魔術書に記載されていた事だ。
__だが、例外はある。
エラは「レイフ・リー・ロエ」と一言呟き、呪文を唱える。呪文は古代魔法だ。
この呪文は『相手の呪いを引き受ける』魔法。
針鼠から「痛み」がエラの中に流れ込んでくる。エラは痛みで気が遠くなりそうになる。だが、歯を食いしばって耐える。
「……後ろががらあきよ。」
エラの背後で女王がゆっくりと立ち上がる。
エラは女王が今にも自分に攻撃してくるだろう事はわかっていた。だが、まだ杖を針鼠に向けたままだ。
まだ、針鼠の呪いを完全に自分に移せていない。中途半端ではやはり針鼠が死んでしまう。
女王はニタッ……と笑う。杖にありったけの魔力をこめる。そして、杖をふり、禍々しい紫色の光の玉をエラ目掛けて飛ばした___!
「……!!!!」
だが、その寸前、女王の前に一人の人間が立ちはだかった。攻撃魔法はその人間にあたり、腹と口から大量の血を吹き出す。
女王は目を見張った。
__エラを守ったのは、姫だった。
姫は女王の攻撃魔法を正面から受け腹の肉が大きく抉れた。
「そ、そんな……なんで……!」
女王は目の前の事実が受け入れきれずに頭を抱える。姫はその場で倒れる。
「……あ……あ……。」
女王はその瞬間、絶望に打ちのめされた。
女王はずっと、自分が孤独だと思っていた。周りは自分を陥れようとする悪い奴らで、一人で戦っていかなければならないんだと。
ずっと、自分の娘に苛立ちを感じていた。太っていて特段何かに優れている訳でもない。娘は彼らに自分を罵る材料を作っている。何故もっと自分の思い通りに育ってくれないのか、と。
__女王は、ようやく姫の大切さに気づいた。自分は孤独ではなかった。ずっと家族として味方でいてくれる娘がいた。彼女がいなくなれば、女王は今度こそ本当に孤独になってしまう。
「……ぁ……やだ……。」
女王は地面に横たわった姫の元へヨタヨタと歩み寄る。血がドクドクと流れていく。
「な……治れ……。」
女王は姫に杖をかざす。杖先に光がともる。
「治れ……治れ治れ治れ。」
女王は何度も何度も回復の呪文を唱える。
女王は強力な魔法使いだ。だが、いくら彼女でも使える魔法の量には限界がある。彼女はエラとの戦いで魔力をほとんど使い果たしていた。そんな中で魔法を使い続けたらどうなるか。
魔法の使いすぎは、どの魔法使いにとっても命取りだ。女王はそれがわかっていてもなお、回復魔法をやめる事はなかった。
「治れ治れ治れ治れ治れ治れ治れ治れ治れ治れェッ」
姫の体を緑色の温かい光が包み込む。姫は少しずつ呼吸を取り戻していく。血が止まり、顔に赤みを取り戻す。
女王は最後の力を振り絞り、一言「治れ」と口にする。姫を包む緑の光が徐々に小さくなっていく。女王の手から杖が落ち、そして、倒れた。
__女王は絶命した。
女王が倒れた頃、エラの寿命もまた尽きようとしていた。エラの体から眩い光が放たれ今にも消えようとしていた。
まだ『相手の呪いを引き受ける』魔法が完遂しない。針鼠は体から痛みがほとんど抜けていて、今は安らかに目を閉じている。顔色もさっきより格段によくなった。
「……あなたって……いつも子憎たらしい癖に寝顔は案外可愛いのよね…。」
エラは全身の痛みに耐えながら言った。語りかける相手は気を失っていて、聞いていない。それでも、エラは語りかけ続けた。
「あなたは……私の事を不幸な人間だと思うかしら?徐々に醜い姿に変えられて……若くして……死んでしまう……。私が……かわいそう……だと思うかしら? _私はね……。今は……そう思ってないわ。」
エラは眠る針鼠の頬を、片手で優しくなでる。優しく、愛おしそうになでた。
「叔父様と叔母様……。優しい家族に育てて……もらって幸せだった。チビや昇り藤、黒目、兄ドラさん……『白い教会』の素敵な仲間達に出会えた……。自分の事は自分でできるようになった。家事もできるようになった。死ぬまでに…大人になれた。お酒も飲めた。魔法が使えるようになった。自分の生きる意味について考えられた。自分が好きになれた。……ねえ、レイフ。私はこんなにも幸せだったのよ。今は、ありがとうって気持ちでいっぱいなの……。それに、あなたにも……ありがとう。……人生最期の時に、私に出逢ってくれてありがとう……。レイフ。……大好きよ…………………。」
エラのしわがれた声が消えいる。エラの体を強い光が包み込み消えた。エラの服が落ち、カラカラとカゴが転がった。
エラは死んだ。
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