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後編
80.最終決戦(2)
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ダンスホールの外庭では、既に勝敗が明らかになっていた。
疲弊し、深手を負った男達の体が地面を転がる。一見すると死体のようにも見えるが、まだ息があった。魔獣は攻撃体勢を崩さないが、これ以上男達を攻撃しない。
「まだ殺さない。拷問する楽しみをとっておきたい。」
女王はほくそ笑んだ。女王は、同じように血だらけで倒れる針鼠の腕を薔薇の茎で絡め上げる。
「やっぱりお前が一番いい顔をしてるな。ふふっ……ただ魔法でいたぶっているだけではつまらない。せっかくだから何か面白い呪いをかけられないかしら?」
女王はどんな呪いをかけようか思案する。
女王はそこで、まだ相手の本名を知らない事に気がついた。古代魔法で呪うには、本名が必要なのだ。
「そういえば、お前周りから『針鼠』って呼ばれてたわね。針鼠、針鼠……ああ、聞いた事があると思ったら、あの『白い』……なんとかっていうギルドか。たしか、崖の上の処刑場で『自分は王子だ』なんてデマを言いふらしたそうじゃない。確かにエミリアの子が生きていれば丁度お前と同じ年齢……。」
女王はそこで口を閉ざした。しばらく、信じられない物を見た、という顔で針鼠を見る。
「……お前の中から、嘘の感情が流れてこない……。まさか、お前本当に……?」
女王の顔がこわばる。
「……。」
だが、次第に女王の口角が上がっていった。
「ふ、ふふ……。どうりで、お前は苦しむ顔が一番興奮すると思った。エミリアが炎に焼かれて死んだ時と同じ顔をしてるんだもの。」
「……テメェッ」
頭に血がのぼった針鼠が女王になぐりかかろうと全身に力をこめる。しかし、もがけばもがくほど薔薇の棘が肉を食い込み痛みが増す。
「でも、困った。どうしてもエミリアの子供の名前が思い出せないわ。しょうがない……。」
女王は自分の頭に杖を向ける。
杖の先から出た光が女王の頭を通り抜けた。光が空間を散漫して立体的な映像を形作った。
映像にはロウサ城と、女王の姿が映し出されていた。しかし、女王は今よりも若い。
映像の中の女王は城のどこか豪華な部屋にいた。ベッドに向かって泣きながら何事か必死に叫んでいる。
『陛下!! どうかお考え直しください!! あの子はまだ小さな子供です! 王位を継承させるなんて……! きっとエミリアがあの子を利用して権力をほしいままにしてしまいます!そうなれば私はどうなるのですか!? 私の子供は?私たち親子は牢屋にぶちこまれ、きっと酷い仕打ちを受けてしまいます!!』
ベッドに、男が出現した。男は、針鼠と同じ金髪に碧い瞳をもち、病で痩せ細った体をベッドに横たえていた。
『マリーよ。この国では男に王位を優先するのがしきたりなんだ。いくら王妃の願いでもこれだけは取り消せん。それに、エミリアは心優しい女だ。きっとあの子を良い方向に導いてくれる。お前の事も慮ってくれるはずだ。』
『王様!!』
マリーと呼ばれた若かりし日の女王は泣き崩れた。
場面が切り替わり、マリーが今度は城のどこかの廊下を歩いている。そして、誰かが話しているのを見て廊下の影に隠れる。
『_。陛下が崩御されるのと同時に……。』
『ああ。あの女、マリーとその子供を捕まえるんだ。』
『偽の令状は用意した。』
『全ては、レイフ様のために。』
その言葉を聞いた瞬間、マリーは腹の底から怒りが沸き起こった。もはや、誰かに頼っていては自分と自分の子供の身が危ない。
マリー以外の物が映像から消える。憤怒の表情を浮かべた彼女は杖を取り出し、禍々しい光を生成する。光が眩く発散し、一瞬視界が何も見えなくなる。
光は徐々に消えてゆき、マリーの手には指輪が乗っていた。『王家の指輪』だ。マリーは不敵な笑いを浮かべていた____。
疲弊し、深手を負った男達の体が地面を転がる。一見すると死体のようにも見えるが、まだ息があった。魔獣は攻撃体勢を崩さないが、これ以上男達を攻撃しない。
「まだ殺さない。拷問する楽しみをとっておきたい。」
女王はほくそ笑んだ。女王は、同じように血だらけで倒れる針鼠の腕を薔薇の茎で絡め上げる。
「やっぱりお前が一番いい顔をしてるな。ふふっ……ただ魔法でいたぶっているだけではつまらない。せっかくだから何か面白い呪いをかけられないかしら?」
女王はどんな呪いをかけようか思案する。
女王はそこで、まだ相手の本名を知らない事に気がついた。古代魔法で呪うには、本名が必要なのだ。
「そういえば、お前周りから『針鼠』って呼ばれてたわね。針鼠、針鼠……ああ、聞いた事があると思ったら、あの『白い』……なんとかっていうギルドか。たしか、崖の上の処刑場で『自分は王子だ』なんてデマを言いふらしたそうじゃない。確かにエミリアの子が生きていれば丁度お前と同じ年齢……。」
女王はそこで口を閉ざした。しばらく、信じられない物を見た、という顔で針鼠を見る。
「……お前の中から、嘘の感情が流れてこない……。まさか、お前本当に……?」
女王の顔がこわばる。
「……。」
だが、次第に女王の口角が上がっていった。
「ふ、ふふ……。どうりで、お前は苦しむ顔が一番興奮すると思った。エミリアが炎に焼かれて死んだ時と同じ顔をしてるんだもの。」
「……テメェッ」
頭に血がのぼった針鼠が女王になぐりかかろうと全身に力をこめる。しかし、もがけばもがくほど薔薇の棘が肉を食い込み痛みが増す。
「でも、困った。どうしてもエミリアの子供の名前が思い出せないわ。しょうがない……。」
女王は自分の頭に杖を向ける。
杖の先から出た光が女王の頭を通り抜けた。光が空間を散漫して立体的な映像を形作った。
映像にはロウサ城と、女王の姿が映し出されていた。しかし、女王は今よりも若い。
映像の中の女王は城のどこか豪華な部屋にいた。ベッドに向かって泣きながら何事か必死に叫んでいる。
『陛下!! どうかお考え直しください!! あの子はまだ小さな子供です! 王位を継承させるなんて……! きっとエミリアがあの子を利用して権力をほしいままにしてしまいます!そうなれば私はどうなるのですか!? 私の子供は?私たち親子は牢屋にぶちこまれ、きっと酷い仕打ちを受けてしまいます!!』
ベッドに、男が出現した。男は、針鼠と同じ金髪に碧い瞳をもち、病で痩せ細った体をベッドに横たえていた。
『マリーよ。この国では男に王位を優先するのがしきたりなんだ。いくら王妃の願いでもこれだけは取り消せん。それに、エミリアは心優しい女だ。きっとあの子を良い方向に導いてくれる。お前の事も慮ってくれるはずだ。』
『王様!!』
マリーと呼ばれた若かりし日の女王は泣き崩れた。
場面が切り替わり、マリーが今度は城のどこかの廊下を歩いている。そして、誰かが話しているのを見て廊下の影に隠れる。
『_。陛下が崩御されるのと同時に……。』
『ああ。あの女、マリーとその子供を捕まえるんだ。』
『偽の令状は用意した。』
『全ては、レイフ様のために。』
その言葉を聞いた瞬間、マリーは腹の底から怒りが沸き起こった。もはや、誰かに頼っていては自分と自分の子供の身が危ない。
マリー以外の物が映像から消える。憤怒の表情を浮かべた彼女は杖を取り出し、禍々しい光を生成する。光が眩く発散し、一瞬視界が何も見えなくなる。
光は徐々に消えてゆき、マリーの手には指輪が乗っていた。『王家の指輪』だ。マリーは不敵な笑いを浮かべていた____。
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