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第327話 言わぬが花2
しおりを挟む城壁の上には憲兵がいた。
2人ずつのペアが100m感覚で等間隔にいる。
城壁に辿り着くのは容易だった。
まあ、内側から空を駆けて飛び込んでくる何てことは、そもそも想定されて作られていないのだろう。
エメレアの一件、この事は言わない方がいいだろう。言わぬが花と言うやつだ。
特に治療術士のシュナという人物の死は受け入れがたい筈だ。
少なくとも俺の口から話す事じゃないのは確かだ。
エメレア、そんな楽しそうに笑わないでくれ。
その顔が絶望する所を俺は見たくないんだ。
死──これだけは俺でも、俺の治療魔法でも、絶対にどうする事もできない。神様にまで聞いた。
死んだ人は生き返らないって。
エメレア、どうか、どうか、本当の話を、真実を知った時、どうか無事であってくれ──
目を閉じ俺は歯軋りをする。
「と、どうしたのよ?」
「悪い、俺からは何も言えない」
「何よそれ?」
頭に〝?〟を浮かべるエメレアは、それ以上は何も追求しては来なかった。
*
壁を越え、俺は壁外へと出る。
近くの林に入り追手を撒く。
「ここまで来れば、簡単には追ってこないだろ」
エメレアを下ろすと俺は一息つく。
「それで、エメレア、お前の話は大まかには分かったけどよ? それと俺に変態って言うのは何が関係あるんだ?」
〝吟遊詩人〟の件は一度頭から忘れ、俺は当初の疑問をエメレアに投げ掛ける。
「私は兄さんと同じ、自分が損をするぐらいのお人好しの貴方に、クレハが見惚れた貴方に──万が一にも同じ道を辿って欲しくなかった」
「……?」
「兄さんは可笑しなほどに悪い噂も無い人だった。そんな兄さんを集落の皆は舐めきっていたわ」
「それは聞いた、嫌な話だよな」
「私の大嫌いな言葉。変態と犠牲──そして悪人。貴方の悪評が広がれば、報復を恐れたお人好しを餌にするようなクズが寄ってこないと思ったの、でも、そんな私の言葉には全く意味はなかった」
エメレアはここで姿勢を正す。
そして自虐的なまでに悲しい顔をする。
「浅はか、この上ないわね。むしろ私の大切な人たちを救ってくれた大恩人を無意味にバカにし、侮辱しただけ。本当にごめんなさい、今さら許してくれとは言わないわ、でもせめて、謝罪を言葉にさせて──」
丁寧に、そして震えながら頭を下げた。
「──ッ!? 調子狂うな……で、まあ、話を纏めると俺の為だったんだろ? ──〝黒い変態〟って呼んだのは、俺が変態なら人があまり近づかなくなる。そのお前の言う俺を陥れようとするような輩もな?」
まあ、変態──
しかも、ヒュドラの〝変異種〟を倒した変態だ。
確かに人を利用するような悪どい奴も近づいてはこないだろう。ああいう奴らはリスクに敏感なんだ。
「……信じてくれるの?」
「信じるもなにもそうなんだろ? こう言っちゃあれだが、子供みたいな安直な作戦だな──でも、気持ちは伝わってきたよ。ありがとうな、エメレア」
エメレアは後ろを向きゴシゴシと目を拭っている。
……泣いて……るのか?
「そうだ。それと昨日は俺の為に戦ってくれたらしいな?」
「……な、何の話っ」
プイっとそっぽを向くエメレア。
「惚けても無駄だ。全部ノアから聞いてる。ありがとうな。嬉しかった、でも、無茶はしないでくれ。お前らが傷つくことの方が俺は嫌だからな。俺なんてバカにしておけ、そんな大層な人間でもないしな」
「それは違うわ、貴方は大層な人間よ! 貴方はクレハをミリアをシスティア姉さんを救ってくれた私の大恩人なの! あまり自分を安く見積もらないで!」
ポロポロ、ポロポロとエメレアは大粒の涙を流す。
「私、私……ごめん……ごめんなさい……」
──っ……
「いいよ、別に。もう気にしてない」
俺はそう告げる。
ポンッとエメレアの頭に手を置いて。
「……鈴蛍の池──」
「?」
「この先を少し行った所よ──クレハが待ってる」
行ってあげて。庇ってくれてありがとう。と、フード付きマントを返しながらエメレアは優しく言った。
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