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第235話 完全な誤算
しおりを挟む〝魔王信仰〟の増援、約1000名が攻めてきて数分、エルフの国〝シルフディート〟はトップ3の戦力が戦闘不能──しかも相手には〝魔王信仰〟のNo.2の〝限界超越者〟である、シリュウ・ブラックまでいる。その場の誰もが、最悪の事態の覚悟をしていた。
だが、今は少し状況が違う。
一同の視線は一人のスイセン服を着た黒髪の少年に向けられていた。
「……フォルタニア、さっきから疑問なのだけれど、一体何なのあれは……?」
「すいません。許可を貰ってないのて言えません」
呆気に取られながら「というか、家の国のトップ3が、たった一人に壊滅させられるだなんて」と、呟く女王の質問にフォルタニアは少し困った顔をしながら、今自分の返せることができる言葉で返事をする。
フォルタニアはユキマサが異世界から来てることを知っている。だがフォルタニアは例え口が裂けても、恩人であるユキマサの情報を女王の命令だろうと話す気は微塵も無かった。
「吹っ飛べ、コラァァ!!!!」
吹っ飛べと言われて、本当に人が吹っ飛ぶ所を、フォルタニアは、生まれて初めて目の当たりにした。
拳を振るえば直線上の一塊の人間がボールのように勢いよく吹き飛び、剣を振るえば噴水のように血を吹き上げて敵は倒れた──。
「チッ、何ですか……? あれは?」
驚いた様子で王女と同じ感想を述べるシリュウ。
この戦いシリュウは、自分がエルルカを止められさえすれば確実に勝てると思っていた。
……完全に誤算である。
部下の中には手練れも多くいた。それこそ近衛兵団の兵士程度ならば、例え10倍の数がいようとも決して、遅れは取らないだろうと──
そもそも、元より〝星艦〟〝雷光〟〝剣鬼〟も、相手取るつもりで来ていたのだ。その分だけ人手が浮いているまである。
「私の婚約者よ、いい男でしょ?」
シュッ!!
「うっ!!」
エルルカの長ドスがシリュウの頬をかすめ、スーっと赤い血が流れ、パラリと長い黒髪を少し切断する。
「……!! 黒髪にスイセン服を着た〝二つ名持ち〟でも無い、バカみたいに強い男……ま、まさか、あいつが……あいつが、ガリアペスト様を──!」
「ご名答よ、少しは頭が回るみたいね。先の〝魔王戦争〟で、魔王ガリアペストを倒したのは彼よ」
エルルカの言葉に、それまで落ち着いた雰囲気だったシリュウが、ギロリと殺意を込めユキマサを睨む。
エルルカに背を向け、怒り狂った様子で、ユキマサに突撃するシリュウを止められる者は、エルルカを含め、この場には誰も居なかった──。
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