135 / 378
第134話 赤紙
しおりを挟む──急ぎ〝大都市エルクステン〟に戻ると、俺とクレハ、そしてフィップはギルドに向かった。
ギルドに入ると、待ち構えていたかのように、直ぐに副ギルドマスターのフォルタニアが俺達を出迎えてくれたかと思えば「ユキマサ様、クレハさん、フィップ様──ロキとレヴィニア様達がお待ちです。よろしければ一度こちらにご足労願えますか?」と、ギルドマスター室に案内された。
話からするに、ドレスのお姫様──レヴィニア達は〝大都市エルクステン〟に無事に着けたみたいだな。
コンコン、コンコン!
「失礼します、ユキマサ様方がお見えです」
フォルタニアが部屋をノックし、中に居る人達に声をかける。
(……あんま、畏まられても入りづらいな……)
そう言いつつも入らざるを得ないので、俺とクレハとフィップは、フォルタニアが開けてくれたドアからギルドマスター室に入る。
そこにいた人物は思ったよりも多い。
まず、ロキとレヴィニア、それとメイドのイルザ。
まあ、ここは当然ながら予想していた。
そして、意外だったのは〝アーデルハイト王国〟のゴスロリお姫様のアリスと、執事長のジャン。そしてギルド第8騎士隊長……というか、システィアがいた。
「意外に知った顔ぶッ──!?」
異世界に来てまだ数日だが、意外ともう知り合いができて来たな──と、感じて思ったままに口に出そうとすると、その途中でバッ! っと、俺は抱きつかれる。
「ユキマサ、さっきは本当にありがとうっ! お陰でイルザも助かったわ、全部、全部あなたのお陰よ!」
半泣きで抱きついてきたのはレヴィニアだ。
「──、どういたしまして、お前もよく頑張ったな」
俺はそんなレヴィニアの背中をポンポンと叩く。
「ユキマサ様、私からも、どうお礼を申し上げればいいか──貴方には主と私の命を救われました」
床に両膝を吐き、ベタァと頭を下げ、土下座で俺に礼を言うイルザは、一向に頭をあげる気配は無い。
「いいから頭をあげろ、レヴィニアもそろそろ離れろ」
と、俺は土下座するメイドと、抱きつくお姫様に声をかける。
「……ユキマサ君?」
……後ろから冷たい視線と声が聞こえる。今さら聞き間違えようが無い、その視線と声の主はクレハだ。
「──レヴィニア様、確認が取れました」
よく響き聞き取りやすい、心地の良い声で、この場の注目を集めたのはフォルタニアだ。左手を左耳に添え、まるで何処かと通信しているような体制だ。
そして、その通信という言葉に心当たりがある。エメレアも使っていた〝精神疎通〟だ。話の素振りからも、何処かと連絡を取っていたのだろう。
「……フォルタニア……どう……だった?」
蚊の鳴くような、小さな声だ。
レヴィニアのその声は少なからず震えている。
たった今行った手術の結果でも聞くかのようだ。
「残念ながら赤紙です。たった今入った〝イリス皇国〟からの連絡だと、レヴィニア様とイルザ様以外の、今回出立した〝イリス皇国〟の方は全員、先の戦いで亡くなりました」
赤紙──これは聞いたな。恐らくは冒険者登録をした時にした、名前を書き、血判を押した〝特殊な紙〟のことだろう。
確か、血判を押した者が亡くなると、その紙が真っ赤に染め上がるだとか……ギルドでは一種の安否確認の一環として用いているとか言っていたな。
冒険者で無くとも〝イリス皇国〟の兵士達は皆、これを登録していたのだろう。そして今確認が取れた。
(その結果──赤紙。正直レヴィニアとイルザに会った時に予想はしていたが、他は全滅か……)
その言葉を聞いたレヴィニアは、バッ──
「……イシガキ……皆っ……」
俺の胸に顔を埋め、すすりを上げ泣いてしまう。
その身体は、長く冷たい雨にでも打たれたかのように、ぶるぶると震えている。
「イシガキ殿が……」
「……」
ここで初めて口を開いたのは〝アーデルハイト王国〟の執事長のジャンだ。様子からするに知り合いなのだろう。もしかしたらそれ以上の仲かも知れない。
そしてその横ではアリスが何も言わず、いつも持っている自身の背丈の半分はあるであろう、熊のぬいぐるみのリッチに、切なげに顔を埋めている。
「残念ですが、生存者が他にいない以上、遺体の捜索は日が昇ってから明日行います。レヴィニア様、イルザさん、その方針でよろしいですね?」
フォルタニアからの報告を受け、ロキが捜索の日程を明日にと確認を取る、生存者がいれば今からでも捜索をしたかも知れないが、生存者がいない以上……
無理に夜に探すのは危険と判断しての事だろう。
まだ俺に抱きつき泣いているレヴィニアは、ゆっくりと「……ええ」と呟き、イルザは「ご迷惑をお掛けします」とロキに頭を下げる。
「──ところで、ユキマサさん、その後〝魔族アルケラ〟は、どうなったかを教えては貰えますか?」
レヴィニアとイルザに「とんでもございませんよ」と返事を返すと、ロキは視線を俺に移し、真剣な目と声音で俺に問いかけてくるのだった──。
36
お気に入りに追加
539
あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる