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第110話 ミリア・ハイルデートはミリアである31
しおりを挟むミリアと一緒にクレハとエメレアが森に入ると、森の中は豊富な山菜や果物の宝庫であった。
「凄い! 歩けども歩けども、色んな食物があって、それに空気も美味しいし、水もとっても綺麗だね!」
クレハが辺りの森に感嘆の眼差しを向け、楽しそうに思ったことを口にする。
「しかも、どれも高品質よ。絶対美味しいわ」
と、言いながら、エメレアは森に生えてる、先端がぐるぐるとしている山菜──屈を見ている。
「エメレアのは屈ですね、お母さんも大好きでした。街に売ってる削り節とお醤油で食べるんですよね」
「あら、そうなの? 気が合いそうね。今度私もミリアのお母さんにも会ってみたいわ」
「……う、私のお母さんは24日前に亡くなりました。ごめんなさい……もう会えないです……」
目に見えて、ショボンと肩を落とすミリア。
「あっ……ごめん、ごめんなさい! ど、どうしよう、私、悲しいこと思い出させちゃった……! ごめん、ごめんね、本当にごめんなさい……!」
エメレアは本気で慌てた顔で、あたふたとしながら謝りながら、ぎゅっとミリアを抱き締める。
「え、エメレアちゃん! 傷付けようとして言ったわけじゃないんだから! 落ち着いて、一緒に謝ろ?」
わたわたと困るエメレアをクレハが必死に宥める。
「──大丈夫。分かってますから。二人共、謝らないで下さい。お母さんが生きてたら、私もクレハやエメレアに会ってほしかったですから」
エメレアの腕の中でミリアは優しく笑う。
「あー、もう何なの! 可愛い! 好きだわ!」
「エメレアちゃん、何か話がズレて来て無い!?」
「大丈夫よ! 最初から可愛いと思ってたから!」
「いや、そういう事じゃなくて……まあ、確かに凄く可愛いのは認めるけど、ミリア困ってるよ?」
エメレアに思いっきりハグをされて驚いた様子のミリアは、目を真ん丸に開けて、パチパチと瞬きをしながらピシッと固まっている。
「あ、ごめんなさい。ミリア大丈夫!?」
我を取り戻したエメレアは更にミリアに謝る。
「だ、大丈夫です。後、嬉しかったです……」
そんなミリアを見て、またエメレアはハグ衝動に駆られるが……
「はい、エメレアちゃん、ストップだよー」
と、ミリアにクレハが後ろから抱きつきながら、さっと、エメレアから遠ざけるように身体を翻す。
「う……はい……」
クレハに白い目で見られたエメレアは、瞬時に大人しくなる。
「私もね、3年前にお母さんとお父さんが死んじゃったんだ──〝3年前の魔王戦争〟で、私を魔物達から逃がす為に。だからって訳じゃないけど、ミリアの辛い気持ち、よく分かるよ」
「……そ、そうだったんですね……ごめんなさい……」
「謝らないで。それこそミリアは何も悪くないんだから──あ、えーと、それじゃあ、ミリア、案内の続き、頼んでもいいかな?」
『この話はここまで。空気を変えていこう!』とばかりに、クレハがテンションを上げて声をかける。
「あ、は、はい! じゃあ、次はこっちです!」
そしてその声で、ミリアを先頭に森を歩き出す。
「──あら、この線は何?」
それから少し歩いた所に、深さ20cmにぐらいに掘られた、森を囲む線を発見したエメレアが声を上げる。
「あ、この線の内側が、家の敷地内なんです。この敷地内に許可されてない人が無断で入ると、タケシが攻撃します」
「え……何それ、怖いわ……」
エメレアが自分の身体をブルリと震わせる。
「あ、あの、そういえば、クレハとエメレアはどうやって敷地内に入ってきたんですか? この境界線付近ならともかく、湖の辺りまで入ってこれた人は見たこと無いので……」
ミリアは思いの外、興味津々に聞いて来る。
「あ、それは私のユニークスキルの〝空間移動〟でかな……目視圏内なら移動できるから、空竜に乗って少し遠目の高い場所から移動したんだ……」
結果、不法侵入となった為、クレハは申し訳なさそうに話すが、そんな事は気にせずに、ミリアはクレハにキラキラとした視線を向けている。
「く、空間移動……て、てれぽーと……ですか……!」
「え、うん。そうだね。後は瞬間移動とか呼び方は色々あるよ?」
「わ、わっ! す、凄いですね……!」
キラキラ、キラキラ。
「見てクレハ、キラキラしてるわ!」
目をキラキラさせるミリアを見て『かわいい!』と言いながら、エメレアも目をキラキラさせ始める。
「……えーと、ミリア、瞬間移動してみる?」
眩しいぐらいの視線を向けられたクレハは、その煌めく視線に負け、ミリアに問いかける。
「す……すいません。私、そういうつもりじゃ……きょ、興味はありましたけど……あう……」
顔を真っ赤にしながらも、嘘は吐かないミリア。
そんなミリアを見て、二人は優しく微笑んでいる。
「大丈夫だよ。でも、生きてる人とかは、私が直に触れて無いとダメだから、手を繋いでもいいかな?」
と、そっとクレハはミリアに掌を差し出す。
「あ、は、はい!」
その手をミリアは優しく握り返す。
「あ、でも、ここだと少し見晴らしが悪いかな……」
流れで手を握ってしまったもの……この場所は木の生い茂る森の中、見張らしはお世辞にもよくない。
どうせなら、長い距離で〝空間移動〟を体験させてあげたいなと思ったクレハは、少し困った顔をする。
「あ、あの、じゃあ、タケシに乗って見ませんか?」
「「え?」」
またもや、クレハとエメレアの言葉がハモる。
「──タケシ! お願い!」
クレハとエメレアの困惑を余所に、ミリアは空に向けて声を放つ。
すると、直ぐに──
「ガウッ!」
──バサリ! とタケシが現れる。
「「!?」」
再び現れた〝青い竜〟に、クレハとエメレアは無意識に表情が少し強ばる
「タケシ、背中に乗せて貰ってもいい?」
と、そんなミリアのお願いに、タケシからは「ガウ」っと、二つ返事で許可が下り、その一連のやり取りを、クレハとエメレアは呆然と眺めていた──。
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