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第111話 ミリア・ハイルデートはミリアである32
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「──す、凄いね! 私、こんな大きな竜の背中に乗ったの初めてだよ!」
「というか、この竜は何者なの!?」
ミリアに続き、恐る恐るにタケシの背中に乗り、空高く飛ぶクレハとエメレアは驚いた声を上げる。
「タケシは空竜です。空竜の〝変異種〟なんです」
「ヴァ、変異種!? 初めて見た!」
「く、空竜って事は、動物の〝変異種〟よね? 歴史的にみても、珍しいってレベルじゃないわよ!?」
「あ、う……ごめんなさい……」
ショボンと謝るミリア。
「あ……違うよ、ごめんね。責めてるわけじゃないの、少し驚いただけだよ。そんな事で何も怒らないから。それと私達にそんなペコペコしなくていいんだよ?」
「そうよ。それにダメな事があった時は、ダメってちゃんと言うから、その時はお互いちゃんと話して、非があった方が相手に謝るようにしましょ?」
そんなエメレアの言葉にクレハも、うんうんと頷きながら、優しい目で真っ直ぐにミリアを見ている。
「あ、は、はい! わ、分かりました!」
ミリアもコクコクと頑張って何度も頷く。
「あー、もうっ! 何か全てが可愛いわ! ミリア! 可愛い、ミリア! キャー!」
「あ、だからエメレアちゃん。そんないきなり抱きついちゃダメだってば。ミリア驚いてるよ」
──そんな二人の会話が、今の私にはとても心地がよかった。優しくて温かい感じがする。
クレハとエメレア。今日、初めて会ったばかりの筈なのに、何でこんなにも懐かしい感じがするんだろ。
……ツー……
「ちょ、ミリア! ど、どうしたの!!」
「嘘!? わわわわわ、私のせい!?」
「え……」
私は自分が泣いてるという事に、二人が私を見て驚いた反応の後に、漸く気が付いて慌てて涙を拭う。
「あれ……私、何で……また泣いてるんだろう……ごめんなさい。私、泣き虫で……お母さんが死んじゃって、お家で一人きりになってからは、もっと泣き虫になっちゃって……ちょっとした感情の変化で無意識に涙がでちゃうんです……ごめんなさい……変ですよね……気持ち悪いですよね……ごめんなさい……ごめんなさい」
溢れる涙を必死に袖で拭くが、そんな自分が情けなくて、恥ずかしくて、全然涙が止まってくれない。
「変じゃないよ! 気持ち悪くもない。大切な人が死んじゃって、悲しんだり、泣いたりしない方が変だよ。私もお父さんとお母さんが死んじゃった時、いっぱい泣いたから。そういう時は泣いていいんだよ?」
そう言って、泣いてる私の頭をクレハが優しく撫でてくれた。
「ひぐ……ミリア……頑張ったわね……ぐす……」
そして割りと本気でエメレアも泣き始める。
「……うぐ……あの……ひぐっ……あの……」
(……また、上手く言葉が続かない……)
気づくと、私は次の言葉を発する前に、勝手に身体が動いて、思いっきり二人に抱き付いていた。
──その後、私は二人に抱きつきながら、身体の中に何かつっかえていた物を全て吐き出すかのように、本当に気が済むまで、ずっと声を上げて泣き続けた。
*
──空竜の〝変異種〟の背中の上、湖の上空をゆったりと飛びながら、その少女は、まだ泣いていた。
「……うぐ……ひぐ……ぐび……ううう……うぐっ……」
パンパンに目を泣き腫らして、ぐしゃぐしゃに顔を歪ませている。
「……ひぐっ……うぐ……ううっ……うううっ……」
その少女の涙は全く止まる気配が無い。
泣き止む気配の無い、少女の背中を摩るクレハが少し困った様子で、その少女に優しく声をかける。
「──エメレアちゃん、そろそろ泣き止も? ね?」
どうしたものか……と、クレハは苦笑いで話す。
「だって……ミリアが……うぐっ……びぇぇぇ……」
大号泣である。時間としては、エメレアはミリアよりも長く泣いていた……
というか、ミリアが泣き止んだ後も、こうして現在進行形でまだ泣いている。
「エメレア、クレハ、ありがとう」
クレハと泣いてるエメレアにペコリと頭を下げ、お礼を言うミリアの顔は少し赤い。
「ミリアぁ! 頑張ったわね、寂しかったわよね!」
「……うん。でも、二人と話したら、何か胸につかえてたものが取れて、少しスッキリしました──後、こんな高い所で泣いたのは、私初めてです……」
現在3人はタケシの背中に乗り、湖の上空を飛んでいる。湖は勿論、数km先の〝ルスサルペの街〟を一望できるが、もし落ちたらと思うとゾッとする高さだ。
「あ、それ、私も……」
「あはは……というか、私はこの高さ自体が初めてかな──普通の空竜が人を乗せて飛べる高度を遥かに越えちゃってるし……そもそも〝変異種〟の背中に乗ってるって事が、未だに信じられないよ」
その間も、タケシはぐるぐるゆったりと空を旋回している。
「──ミリア、そろそろ〝空間移動〟してみる?」
「え、ほ、ほんとに、い、いいの!?」
遠慮気味な台詞だが、ミリアの目はキラキラと輝いている。
「うん、勿論! 空竜の〝変異種〟にも乗せてもらったしね。それじゃ、手を繋いでもいいかな?」
クレハの〝空間移動〟は、生きてる者に対しては直接クレハが触れる必要がある。
その為、クレハはミリアに手を伸ばす。
「あ、はい!」
きゅっと、クレハの手をミリアは握る。
「く、クレハ……わ、私も一緒にいい……?」
「いやいや、ここにエメレアちゃんだけ置いてったりなんて事しないから──はい、手繋ご?」
「あ、ありがとうっ!」
ぎゅっとエメレアはクレハ抱きつく。
でも、しっかり片手はクレハの手を握っている。
「じゃあ、飛ぶよ! と、言っても、これだと、さっきの乗った場所の対岸の湖の辺りになっちゃうかな? ミリア、それでもいいかな?」
「あ、うんっ、大丈夫です……!」
「よかった。それと着地の時に、足が少し浮くから気を付けてね──行くよ!」
クレハがそう言うと……
──ヒュン! パッ!
と、タケシの背中の上から3人が消える。
「ガウ……!?」
そう驚くのは他でもない、この大空に一匹で取り残されたタケシだ。クレハの〝瞬間移動〟を『何度見ても不思議だ』と言わんばかりの訝しげな表情で、3人の消えた自分の背中をチラりと見ている。
ちなみに余談だが……エメレアがクレハに抱きつきながら、目にも止まらぬ早さで繋いだ手が、指と指を絡ませ合う──所謂〝恋人繋ぎ〟になっていることに、ツッコミを入れる人間はこの場には誰もいなかった。
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